福岡に起業家向けシェアハウスが誕生 仕掛人が語る「スタートアップ都市・福岡」の可能性

全国から注目を集める福岡市のスタートアップシーン。開業率は平成25、26(2013、2014)年度ともに全国21大都市の中で最も高く(福岡アジア都市研究所調べ)、あらゆるメディアで福岡=スタートアップ都市という文脈で語られるようになっています。

参考記事:
日経ビジネスオンライン
「活力ある都市ランキング開業率1位、福岡市が起業しやすいワケ」
https://business.nikkei.com/atcl/report/16/012000004/012100001/

東洋経済オンライン
攻守をフル支援!福岡「起業カフェ」の挑戦
https://toyokeizai.net/articles/-/93452

こうしたムーブメントから、福岡ではスタートアッパー向けに新たなサービスも生まれています。

今年3月にオープンした、シェアハウス「Discovery Meinohama West」は、九州初となる起業家向けの共同住宅。同施設を手がけたのは、不動産投資のマッチングビジネスを行う九州レップ株式会社、代表取締役の白砂光規(しらすな・みつのり)さんです。

白砂さんは、投資家向けの不動産仲介業の他、海外ではアジアを中心とした不動産投資ビジネス、さらにカンボジアではレストラン経営や養鶏など幅広く実業に関わる、文字通りのスーパービジネスマン。

そんな白砂さんが、なぜ福岡の街で、起業家向けのシェアハウスを始めたのでしょうか? 福岡市西区の姪浜駅から徒歩8分の場所にある「Discovery Meinohama West」の広く気持ちの良いリビングにて、白砂さんご本人に直接お話を聞いてきました。

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――日本に限らず、さまざまな国、地域でビジネスを展開しているとお聞きしました。まずは白砂さんの経歴から教えていただけますか。

白砂 僕の経歴を簡単に説明すると、出身は名古屋で、慶応義塾大学を出て三井信託銀行(現:三井住友信託銀行)に入行し、そこで5年半働きました。その後は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の日本支社である日本GEに8年間在籍し、日本国内の収益不動産への投資・売却を担当。実は、日本GE時代の後半5年間は福岡支社に勤務しているんですよ。その時に「福岡の魅力」にハマってしまい、生涯の伴侶も見つけて福岡で暮らしていくことを決意します。しかし、東京への転勤が決まり、一旦上京することになりますが、3ヶ月後に退職して、さらに2ヶ月後に独立起業。しかもプライベートでは第一子誕生という、人生の大イベントが立て続けに起こったんですよね。まさにあの時は、家族全員でスタートアップしたようなものでした(笑)。

――赤ちゃんも含めてスタートアップしたわけですね(笑)。福岡で起業して、まずはどんなビジネスを手がけられたんですか?

白砂 東京の投資ファンド業界で長く働いていた経験を生かして、福岡の物件を東京の投資家や投資ファンドに紹介し、マッチングしていくサービスを始めました。これが、現在でも会社の事業の柱となっています。その他に、福岡の地の利を生かして、平成25(2013)年ぐらいからアジアを一通り見て回り、クアラルンプールをはじめ数カ国の都市で投資用物件も購入しました。そんな折、平成26(2014)年にカンボジアを訪れて、無限の可能性を感じたんです。そこで、これまでアジア各国に分散して所有していた投資物件をすべて売り払う等して、カンボジアに資源を集中させてビジネスを始めました。巧妙な詐欺にあったり、信頼して構築した現地パートナーシップがうまく機能しなかったりといろいろと痛い目にも遭いましたが(笑)。立ち上げを手伝った養鶏ビジネスは、現在ではカンボジア国内第3位の規模(年間出荷量ベース)にまで育ちました。

――すごいですね! そんな方が、どうして福岡で起業家向けのシェアハウスを始めたんでしょうか?

白砂 僕は福岡の街が気に入って移り住んだわけですから、この街にできる範囲の貢献をしたい……そういう思いがずっとありました。でも、ビジネスマンである以上、寄付や募金といった一方通行の貢献では意味がない。そこで、ビジネスとして自立した“仕組み”を作り、福岡のポテンシャルとマーケットの中でそれが発展していけばいいと考えました。その答えのひとつがシェアハウスだったんです。夢や志を共有できる人が一つの場所に集まり生活するようになると、素晴らしい刺激が受けられるコミュニティが育つ。僕が言うまでもなく福岡では今、起業機運が盛り上がっています。僕のような人間が、若い人やチャレンジしたい人にきっかけを与えて、その人たちが生んだ新たなビジネスが福岡の街に広がっていけば、素晴らしいことじゃないですか。

――なるほど。しかし、そもそも論ですが、福岡の街にそこまで惚れ込んだ理由は何なのでしょうか?

白砂 飯がうまい、海と山が近くて自然が豊か、美人な女性が多い(笑)。このあたりの定番セットはもちろんメリットに感じていますが、それ以上に僕にとって大きかったのは、一番自分らしくいられる場所だということです。東京にいると、皆が立場と身分によって自分を演じているような感覚があって、表面的な付き合い以上の関係がなかなか築けないんですよ。でも福岡では、ビジネス上でも自分をさらけ出す必要があって、TPOで自分を演じ分けるような人間は信用してもらえません。だから、このままの自分でいるしかない。正直、福岡に来たばかりの頃は戸惑いましたが、慣れると楽にいられるようになりました。いまではすっかり福岡のスタイルが身についてしまって、東京のビジネスシーンでは少し浮いてしまうこともあります(苦笑)。

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――シェアハウスの中を拝見すると、隅々までコーディネートされたリビングに、レストラン顔負けの広いキッチン、庭の緑も目に眩しくて、ついつい長居したくなるステキな空間ですね。

白砂 ありがとうございます。ここはもともと、チロリアンや千鳥饅頭で有名な株式会社千鳥饅頭総本舗の社員寮でした。日本における社員寮というものは、高度経済成長の頃からバブルまで、田舎から労働力を集めるために、都市部に大量に造られました。この建物も築35年です。現代ではニーズもなくなり、老朽化が進んで、取り壊されてマンションに建て替えられる場合がほとんどです。でも、役目を終えたら取り壊すというのは、消費社会全盛の前時代的な発想。建物が少々古くても、そこに“新しい役割”を与えれば、社会的に再生させることができます。今回のシェアハウスも、かつての社員寮に新しい役割を与えて甦らせました。1階が共用部で2階から上に部屋が並んでいるという構造自体は、社員寮だった頃のものをそのまま利用しています。建物の延床面積は200坪以上あり、部屋数は24室、2段ベッドの部屋もあるので、合計36人が入居できます。

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――リノベーションの際のコンセプトは何ですか?

白砂 共用部分には徹底的にお金をかけて、専有部は質素にすることです。部屋が充実していたら、引きこもってしまってシェアハウスのメリットがないですからね。共用部は、自分では買えないようなグレードの高いソファやテーブルを揃えて、いいモノに直に触れてインスピレーションを感じられる空間にしました。本棚の本も、選書家の方にお願いして200冊厳選していただいてます。

――白砂さんご自身、各国を飛び回っておられるそうですが、シェアハウスの運営はどのようにされているんでしょうか?

白砂 僕は2年前に、博多区諸岡に“英語漬け”シェアハウス「Discovery Hakata South」をオープンさせていて、今回は2棟目になるので、運営のノウハウはだいたいわかっています。1棟目も2棟目も各シェアハウスにはひとり、ハウスマネージャーを立てて、その人が日々の運営を担当します。と言っても、清掃は週に3回、専門の業者が入りますし、あとは基本的にそれぞれのシェアハウスコミュニティの自主性に任せていますので、ハウスマネージャーも含めた運営会社としての役割はSNSを通じた募集活動が主ですが。

――起業家向けのシェアハウスということですが、実際にはどのような方が入居されているんでしょうか?

白砂 すでに起業されている方もいますし、これから起業をしようという方もいます。たとえば元航空自衛隊のパイロットで、ご自身でもフライトスクールを開講している50代の男性。他にも、九州大学の学生で、休学しながらすでに起業して活発に活動している子や、アスリート用の食事提案ビジネスを始め、キッチンを使って料理教室を開講している人など、開始から1ヶ月ですでにユニークな入居者が集まっています。実は、入居者の紹介でプロテニスプレイヤーの藤原里華さんもつい先日まで滞在していて、とても気に入ってくれました。さらに彼女の紹介で、各国のプロスポーツ選手も見学にきています……と言った具合に、交流の機会がどんどん広がっています。僕自身も一室借りているので、入居者のひとりという立場ですが、福岡滞在時はなるべくここにいるようにして、他の入居者と交流しています。

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――起業や仕事に取り組む公共空間という意味では、シェアオフィスやビジネススクールがすでに多くありますが、生活までを共にするシェアハウスというのはユニークですね。

白砂 起業って、どう生きるかという生き方そのものだと思うんです。会社を立ち上げたら、自分の生き方がそのまま会社の動きに反映されていく。仕事で大失敗しても人生は続くし、人間関係や病気でへこんでいても、仕事は続く。そんなときに、話を聞いてくれる相手や励ましてくれる相手がいたら、必要以上に孤独にならずに済みます。シェアオフィスが空間や設備をシェアする場所だとしたら、シェアハウスは思いをシェアする場所だと思います。相互扶助的で、助け合いが自然に生まれるんです。今回の熊本・大分の震災でも、シェアハウスのメンバーでいち早く協力して支援活動をしていました。

――福岡で起業を考えている人に、何かアドバイスがあればお願いします。

白砂 福岡に限った話ではないかもしれませんが、いまの大学生や起業しようという若い人たちは、みな意識も高くて非常に優秀だと思います。ただ気になるのは、結果をすぐに出したがる、ということです。僕の時代は、20代でさまざまなことに挑戦しながら自分の能力の限界を知り、30代でこれだと決めた自分の強みに注力し、40代でようやくその果実を得る、という時間感覚でした。それが、いまの大学生は学生のうちに果実まで得たがります。明らかに結果を急いでいると思うんですよね。そんな彼らに対して、我々大人ができることと言えば「寛容」であること。アイデアと瞬発力のある若い力と、経験と寛容さがある大人の力がうまくかけ合わされれば、これからも面白いビジネスが生まれていくのではないでしょうか。特にここ福岡では、それができると思うんですよね。

 

【施設概要】
「Discovery Meinohama West」
住所 福岡市西区内浜2-12-5
アクセス 地下鉄「姪浜」駅徒歩8分
家賃 家具付個室¥40,000(2名入居部屋¥25,000)、ハウスサービス料¥20,000、水光熱費・インターネット¥10,000(定額)
契約期間 期間1ヶ月から入居可
https://www.discovery-life.com/

 

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