「Fukuoka Growth Next」が5月リニューアルオープン! 過去2年間の手応え、これからの展望とは

2017年4月、官民共働型スタートアップ支援施設として、福岡市の旧大名小学校に誕生した「Fukuoka Growth Next」(以下FGN)。福岡のスタートアップシーンのシンボルとして大きな存在感を示し、2019年5月にはリニューアルオープンを迎えます。FGNの立ち上げ当初から深く関わってきた福岡地所株式会社の代表取締役社長・榎本一郎氏に、これまでの2年間の振り返りと、今後の具体的な取り組みや展望について伺いました。

スタートアップのコミュニティ構築に注力した第1期

―FGNが誕生して2年経ち、どのような手応えを感じていますか?

榎本 この2年間で成し遂げたことをひと言で表現するなら、「スタートアップのコミュニティ構築」だと思います。今まで福岡や九州に散在していた200社ほどのスタートアップは、まだビジネスを始める前や始めたばかりで注目されずに苦労していました。それが、FGNに集まり入居したことでコミュニティができ、大きな旗を立てて国内外に発信できるようになりました。1期で卒業した企業は、東京に行かずFGNの近くに拠点を移すことが多く、卒業生ネットワークを作って後輩をサポートする側に回ってくれています。シリコンバレーではgoogleやappleから人やお金がスタートアップに流れ、自然発生的に強いコミュニティが形成された。福岡でもそのエコシステムが少しずつできている感覚があります

―そもそも御社は、なぜFGNに携わるようになったのでしょうか?

榎本 福岡地所は地域に根ざしたディベロッパーとして「福岡をもっとエキサイティングに、もっと魅力あふれる都市に」という思いで都市開発に取り組んできました。まちの魅力を高めることが、私たちのビジネスを拡大することにつながります。これから福岡をどうやって成長させるかと考えたとき、シリコンバレーや渋谷のようにIT企業やベンチャー、スタートアップなどが生まれて加速度的に成長していく勢いに乗るべきだという高島市長の描く戦略に賛同し、FGNに参加しました。

また、私自身がシリコンバレーを訪ねて、衝撃を受けたんです。現地で説明を聞くと「10年の間にトヨタの時価総額を追い越していくような企業が多数誕生して、ここから1社、そこから1社、このフロアで3人で始めて…」というような話がポンポンと出て、そのダイナミズムを福岡で起こしたいと本気で考えるようになりました。

―この2年間で御社が果たした役割を教えてください。

榎本 FGNでは約260社のスタートアップの方々を福岡市と一緒にサポートしてきました。彼らのチャレンジに対して、既存の財界各社との繋がりを持ったり資金調達のサポートをしたりと、さまざまな面で動きました。FGNが国内外で注目され、市や財界からサポートを受けることで、彼らのモチベーションが上がり、成功に近づいています。トータル2年間の具体的な実績としては、31社82億円の資金調達、123件の支援プログラムの実行、710件のイベント開催などがあります。

―御社内ではどのような体制を組んでいたのですか?

榎本 グループ会社を含め4人のスタッフが常駐し、バックアップする部署も用意し、ネットワークを駆使して力を注いできました。本業に近いところでは快適に働ける空間を作り、ファシリティのマネジメントを担当。スタッフは入居者のメンタリングをして、あらゆる面において伴走してきました。

―不動産開発を手がける御社にとって、スタートアップは全く違う業界に感じられたのでは?

榎本 スタッフは文化の違いに早く慣れようと、入居者からいろいろと教えてもらったようです。私が感じた一番のギャップはスピードですね。彼らから要望が出ると、初めは「〇か月後にはできるようにします」と応じていましたが、彼らは「今の資金繰りでは、自分たちは数か月以内に成功しないと消えてなくなるような緊張感でやっているのに、運営する福岡地所はそんなに悠長な時間軸ですか」と言われて…今までの感覚では追いつけないと強く肝に銘じました。

―FGNの運営を通じて、不動産開発の業務にも影響がありましたか?

榎本 今、私たちは福岡で最高スペックのオフィスビルを開発中なのですが、そこにはグローバルIT企業に入っていただきたいと考えています。高い家賃を払ってくれる優良企業であればいいということではなく、スタートアップやIT企業を呼び込み、空を飛ぶような加速度で成長するサポートをしたいと思ったのです。

代表取締役社長の榎本一郎さん

行政と一体化し、成長支援プログラムを強化

―5月31日にリニューアルする新しいFGNの目標を教えてください。

榎本 1期ではスタートアップ企業を集積させてコミュニティを作りました。しかし、それだけでは大成功する企業が爆発的に生まれるには至らなかった。そこで将来的にユニコーン企業(評価額1,000億円以上の未上場企業)を生み出すために、第2期の目標として評価額10億円の会社を100社作ることを目指します。そのためには、シリコンバレーや深圳、渋谷のスタートアップが得ているリソースを福岡でも得られるようにすること。そうでなければ、国境のないITの世界で彼らはハンディを背負って戦うことになります。

―具体的にはどんな施策を行うのですか?

榎本 成長支援プログラムとして導入するのが「アクセラレーションプログラム」です。数か月かけて、スタートアップで成功した先輩などから「あなたは何がしたいのか」「どうやってお金を稼ぐのか」「何で差別化するのか」など千本ノックを打たれながら、ビジネスモデルを強固にしていく。スタートアップ企業にとっては、地獄の特訓みたいなもの。これがシリコンバレーにあって、福岡にはなかったものです。

もうひとつは、エンジニアの育成プログラム。ソフトウェアエンジニアは日本でも福岡でも圧倒的に不足しています。シリコンバレーの「Galvanize(ガルバナイズ)」というインキュベーション施設を見学すると、各部屋でプログラミングやアプリ開発、データサイエンスなどの授業が行われ、必死に学ぶ人たちの姿がありました。FGNでも、ソフトウェアエンジニアの基本から少しの応用まで学べるようなレクチャーの充実を図ります。入居者に限らずオープンなレクチャーにして、福岡の中高生や大学生も「ソフトウェアエンジニアリングって楽しいね」と思ってくれるとうれしいです。

リニューアル後のFGNでは、育成プログラムの提供、 グローバルアクセラレーターとの連携、資金調達機会の創出などを行い、グローバル社会で活躍するスタートアップの輩出を目指す。
(リニューアル後のFGNでは、3つの新機軸を設け、トータルで未来のユニコーン企業誕生をサポートする)

―世界の施設を見学されている中で、FGNならではの特徴や強みは何だとお考えですか?

榎本 私はほぼ毎年シリコンバレーやシアトルなどを訪れていますし、スタッフもエストニアやフランスなどに行っています。FGNについて皆さんから言われるのは、こんなに行政と一体化した施設は他にないということ。FGNは高島市長以下、福岡市の方々が相当コミットしてハンズオンで担っており、これは世界でも例がないと思います。

―そのメリットは?

榎本 まず信用の箔付けになり、FGNの入居者ということで銀行などと話ができる。さらに大きいのは、福岡市のバックアップで実証実験ができること。スタートアップは新しいモノを生み出す過程で法律や規制に引っかかることがあり、行政からいったん止められてしまう。でも福岡市なら行政との距離がかなり近く、実証実験も応援してもらえます。

夢のある若者にスタートアップを目指してほしい

―FGNのリニューアルが、スタートアップ界隈だけでなく、一般市民の生活や福岡のまちそのものにどんな効果をもたすのか、聞かせてください。

榎本 非常に重要な視点ですね。実は、今度大学生になる私の娘がFGNを見学して、「福岡にこんな施設やサクセスルートがあるなんて知らなかった。高校生や大学生に伝わってないよ」と言われて、ショックでした。

福岡で育つ子どもがいて、さらに毎年、何万人もの若者が福岡に流入してきます。将来のはっきりした夢はなくて、でも何かで成功したいと思っている人もいるでしょう。かつて勢いのあった産業も様変わりし、現在はソフトウェアエンジニアリングを学び、ITの世界でスタートアップして上を目指すことが成功するための高速パスになっています。だけど若者はそれを知らない。FGNを通してそのキャリアパスを見せて伝えて、ソフトウェアエンジニアに関する授業を一般の人も受けられるようにして、福岡の若者にスタートアップでの成功を目指してほしいと願っています。そのためにも、若者の憧れや目標になるスター企業をFGNからはやく輩出したいですね。

―FGNには、福岡の未来への夢と希望がつまっていますね。

榎本 ぜひ多くの人にFGNに来てほしい。子どものためのプログラミング教室も開きたいと思っています。FGNがある旧大名小学校は明治6(1873)年開校で140年を超える歴史を持ち、昔の学び舎がもう一度学び舎として息を吹き返すというコンセプトは、市民の方々にも支持を得られるのではないでしょうか。

FGNの1期ではコミュニティを作り、これからの2期では未来のユニコーンを生み出そうとしています。もし3期があるならば、市民や小中高生まで裾野を広げていきたい。例えば、FGNに最新のコンピュータが並んでいて、小中高生は無料で何でも使え、ビュッフェ形式でおいしいご飯が食べられる。そこに大手IT企業のスカウトが来て、ゲームやプログラミングを自由にやる子どもたちの姿を見てスカウトして、びゅんびゅん上にあがっていく…そんな空間を実現できれば最高ですね。

 

【プロフィール】
榎本一郎(えのもと・いちろう)さん
昭和49(1974)年福岡市生まれ。ラ・サール高校、東京大学法学部卒業。平成9(1997)年、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。平成15(2003)年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院MBAを取得、福岡地所に入社。福岡リアルティ企画部長、福岡地所取締役等を経て、平成27(2015)年から現職。

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