オープンから2年で行列のできる店を作り上げた、「NO COFFEE」オーナー佐藤氏のコーヒー“外”戦略

平成27(2015)年12月27日、福岡・天神からほど近い住宅街である、平尾の一角に突如現われた長蛇の列。その先にあったのは、その日オープンを迎えたコーヒーショップ「NO COFFEE」でした。東京からの移住者であるオーナーの佐藤慎介さんは、おもちゃメーカー、アパレル企業とキャリアを積んだのちに「NO COFFEE」をオープン。移住してきたばかりの彼がなぜこれほど華々しい門出を迎えることができたのか。その裏には、コーヒーをコミュニケーションのツールとして捉え、オープン前からグッズ展開やインスタグラムを駆使して着実にファンを獲得していった背景がありました。「やるからにはしっかりと売上を立てて、存在感を示したい」という信念を、オープンからわずか2年でカタチにしたNO COFFEE。その戦略についてうかがいました。

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--今日は、NO COFFEEの経営戦略について伺いたいと思います。福岡はここ数年、コーヒーショップが次々にオープンしていますが、NO COFFEEはその中でも異端の存在だと思います。コーヒー豆やブレンドで味をとことん追求するというよりは、グッズも含めた複合カルチャーショップという印象で。このお店の構想は、すでに独立以前から固まっていたんですか?

佐藤 いや、最初はコーヒーショップをやるかどうかも未定でした。これまでおもちゃメーカー、アパレル企業と勤務してきて、PRや企画など外部とのやりとりの多い部署にいたので、独立して起業するのが楽しそうだなと思えてきたんです。アイデアを考えるのが好きだったんですよ。それで、自分が好きだった「コーヒー」を軸に展開するのはどうかと閃いて。「バリスタとしての修行を何年も積んで独立」というような専門的な技術は全くない状態だったんですが、自分らしさを出してやっていこうと決めて。

--「NO COFFEE」というネーミングも意味深ですね。コーヒーショップなのに、まるでコーヒーを否定しているような……。

佐藤 もともとは「NO COFFEE,NO LIFE」とブログなどで書いていたからなんで、特別深い意味はないんですが、一度聞いたら忘れないようなフックのある名前にはなったと思います。

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(昨年夏、グラフィティアーティストKYNE氏らの共有アトリエ「ON AIR」とのコラボレーションにて作成したマグカップ。現在は販売終了)

--神奈川出身で、社会人になってからはずっと東京にお住まいだった佐藤さんが、なぜ福岡に出店をしたんでしょうか?

佐藤 東京でやろうという考えは、もともとなかったですね。東京は個人店が少ないですよね? 個人店っぽく見せていても実際は大企業が後ろについていたりして、資金力では対抗できない。限られた予算の中で自分らしくやりたいと模索した時に、妻の地元・福岡が思い浮かんだんです。何度も訪れていたので知り合いもいたし、とても魅力的な街だと感じてて。調べてみたら家賃も圧倒的に安くて、スモールスタートにはぴったりでした。前職を辞める、有給消化中に移住して、そこから物件を探して。融資がおりるかもわからない状態だったんですけど、やると決めたのでその後はガシガシと進めていきました。

--オープン時に話題性を持たせるために、どんな工夫をしたんですか?

佐藤 とにかく最初のインパクトが大事だと思っていたので、アパレルブランド『YOSHIDAROBERTO』に別注する形で、オリジナルのミッキーマウスTシャツを作ったんです。コーヒーショップ、しかも個人店でオリジナルのミッキーマウスTシャツを作るなんて、誰も思わないじゃないですか。プロダクトにおいては、前職までに培ってきた人のつながりで、色々な方たちに協力していただけました。

--たしかにあれはインパクトがありました。インスタグラムも、オープン前から始められていましたね。

佐藤 そうです。オープン前にオリジナルアイテムをインスタで発表し、通販サイトで先行発売して。WWDやFashionsnap.comでも取り上げていただいて、たくさんの人に見ていただけました。こういうSNSを活用できる時代になったから、小さなコーヒーショップでもやっていけるだろうという確信が持てたんです。

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(オリジナルミッキーマウスTシャツをはじめ,さまざまなグッズを企画製作している)

--オープン当日は長蛇の列でしたよね。

佐藤 お客さんとしゃべりながらのんびりやろうと思っていたので、列が目に入った時は、「これってうちの列ですか?」って並んでいる人に聞いてしまったほどです(笑)。当時はまだハンドドリップもやっていましたし、しかも季節は冬。結局11時から17時までノンストップでコーヒーを入れ続けました。終わった頃には腕がガクガクでしたね。想像をはるかに超えるお客さまに来ていただいて、大変でしたけどやっぱりうれしかったです。思い描いたことが、間違ってなかったんだと思えました。

--限定メニューなどもご自身で考案されているんですか?

佐藤 スタッフみんなで考えて、味にも見た目にもこだわって作っています。例えばカフェラテひとつにしても、2層になっていた方が見栄えがいいですよね? “インスタ映え”という言葉は敢えて使いませんが(笑)、やっぱりお客さん自身が拡散したくなるような、テンションの上がる要素は必要だと思うんです。その甲斐あってか、NO COFFEEのインスタグラムアカウントが、アッという間に自分自身のアカウントのフォロワー数を抜き去って。何年もかけて積み上げてきたものを、自分が作ったお店が超えていくのは、うれしいけど何か複雑な気持ちで(笑)。でもこれで、NO COFFEEが自分から離れた独立した存在として認められたんだな、と感じましたね。

--オープンして約2年、今でもお客さまが途切れない理由は何だと思いますか?

佐藤 自分らしさとか自分の得意な部分を、ちゃんと出していけたことかなと思っています。タレントさんにオリジナルアイテムを着用してもらったり、有名アパレルブランドとコラボしたりと、何かしらのサプライズを定期的に投下して、いつ来ても発見があって楽しめるようにして。そういう発想が、「コーヒー屋らしくない」ところかもしれませんね。次はどんなアイテムを作ろうかと考えている時が、一番ワクワクするんですよ。もちろん、狙いが外れることもあります。でも自分が納得する形で作って、それでダメなら仕方ないって、諦められますから。せっかく自分でお店をやっているんだから、オープンしただけで満足ではなくて、しっかりと売上を立てて街に影響を与えられたら楽しいですよね。

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--最後に、佐藤さんの今後の展望について教えてください。

佐藤 オープンしてこの2年間は、なんとか夫婦二人三脚でやって来たんですが、最近スタッフを雇いました。これからは、僕自身が外に出て、イベント出店やプロデュース業など新しいことにチャレンジしていきたいと思って。海外に2店舗目を出すことも視野に入れてます。これからも僕なりのやり方で、「NO COFFEE」というブランドを育てていければと思いますね。

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とことん自分らしさを追求し、単なる“コーヒーショップ”ではないオンリーワンの空間をつくり出した佐藤さん。福岡のコーヒー界にとっては異端児かもしれませんが、ファッションブランドのコレクションのように定期的にコラボアイテムや限定メニューを発売し、オープン初日から若者たちの心をがっちりとつかみ続けています。「NO COFFEE」がどんな展開をして市民を楽しませてくれるのか、今後がますます楽しみですね。

 

【プロフィール】
佐藤慎介(さとう・しんすけ)さん
おもちゃメーカーに8年ほど勤めたのちにアパレル企業に転職、主に企画・PRを担当する。その後、独立を決意し、長年住んでいた東京から福岡に移住。平成27(2015)年12月27日、福岡市中央区平尾にコーヒーのあるライフスタイルを提案するショップ「NO COFFEE」をオープン。

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