テクノロジーとクリエイティブの祭典「明星和楽2016」レポ 福岡のIT企業がさらに成長する鍵は「上場」?

「テクノロジーとクリエイティブの祭典」として、最先端テクノロジーによるサービスの提供や、アーティストのライブやトークセッションなどが詰め込まれたイベント「明星和楽」。平成23(2011)年から毎年開催されており、今年も天神エリアに8つのステージを設け、街全体を盛り上げました。

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「無機質なテクノロジーではなく、クリエイティブに触発され、感性を揺さぶるもの」を生み出そうという理念を掲げており、嗜好を凝らした企業ブースが見られるのも楽しみの一つ。その一部をレポートします。

■デジタルスタンプは顧客も便利でマーケティング能力も絶大!

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今年の目玉になっていた「明星和楽デジタルスタンプラリー」は、「PlayStation®VR」や札幌ペア航空券などが当たるということで常に大盛況。5つの会場にはそれぞれスタンプラリーブースが設置されており、スマホにデジタルスタンプをタッチすると、画面上にスタンプが現れます。アプリのインストールも不要で、参加するにはQRコードを読み込んでウェブページにアクセスするのみという手軽さです。

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このデジタルスタンプラリーは、株式会社アイ・エム・ジェイが提供する「Plusone/stamp」というシステムを利用。スタンプの認証IDは500万通り以上あるため多店舗や多施設に利用できることや、デジタルならではの画面効果を演出できるのはもちろん、顧客の来店データを集めることで綿密なマーケティングを可能にします。実際にこのシステムを導入している企業は、スタンプラリーだけでなく「ポイントカード」や「クーポン」に活用しているそう。顧客がポイントカードを携帯する煩わしさから解放され、さらに企業側にも来店頻度などのデータも取得できるというメリットがあるのだとか。クーポンの使用率も正確に取得することができ、マーケティングへの応用力は計り知れません。

■インターネットの目に見えない情報群を具現化するとどうなる?

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福岡三越の入口にあるライオン広場の「Interactive Art Of Things」は、ステージ上の巨大スクリーンにゲーム画面を写しながら実況プレイを行ったり、コスチュームをまとった女性が笑顔を振りまいていたりと、和やかな雰囲気。

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広場の一角にピカピカ光る電飾を身につけた女性と、コロコロと自走する球体を発見。これらを手がけたのは、プログラマーの田中正吾さんを筆頭にした社会人やフリーランスのメンバーが集まった共同チーム。電飾のスイッチと球体のモーターは、ツイッターのつぶやきを受信し、その信号によって動くシステムになっているそうです。

「『明星和楽』というキーワードがつぶやかれるたびに、モーターが動くようにプログラムしました。この球体の動きを見れば来場者の盛り上がりが目でわかります。でもキーワードをもうちょっと反応が多いものに変えればよかったかなと思っていたところなんです。以前、テストとしてとあるドラマのタイトルをキーワードに設定した時は、放送中にものすごい情報量を受信してわかりやすかったので(笑)」(田中さん)

今回はパフォーマンス性を重視したためツイッターのつぶやきを光や動きに置き換えたそうですが、同じ技術を応用すれば、例えば天気によって色が変わるプログラムをインテリアに取り込み、朝起きてすぐにその日の天気を部屋の色で確認することなどもできるようになるそうです。まだ具体的な活用方法は模索中だそうですが、明星和楽で得た反省点やアイディアも今後の開発に活かされていくのではないでしょうか。

■オープンソースロボットがもたらす教育現場への大きな効果とは

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体長20センチの小さなボディにつぶらなグリーンの瞳が愛らしいヒューマノイドロボットの「PLEN」。このロボットの最大の特徴は、「オープンソース」で「プリンタブル」なところ。PLENを操作するプログラムは公開されており(オープンソース)、3Dプリンタで出力できる(プリンタブル)パーツは専門知識も専用工具もいらないシンプルな設計のため、世界中の誰もがPLENを組み立てられます。

同ロボットは教育現場での活躍が期待されているといいます。自分で組み立てることでロボットの構造が理解しやすくなり、ロボットの反応を見ながら試行錯誤を繰り返しつつ、楽しみながらプログラミングを学ぶことができる––––この「面白くて手応えのある」という体験が、学習意欲を向上させるにはうってつけというわけです。実際に、日本のみならず世界の小中高校のプログラミングの授業でPLENが採用される実績も増えているそうです。

PLENを発表したのは、大阪府に会社を構える「株式会社プレンプロジェクト」。福岡の明星和楽にブースを出した経緯について富田敦彦さんはこう言います。

「PLENに興味を持ってくれたり、何かできることを一緒にやろうと声をかけてくれるテクノロジー企業や個人が福岡に多かったからです。もちろん東京や大阪にもロボットやテクノロジーの開発チームはたくさんいますが、専門性の高さゆえに目指す分野が少しでも異なると一緒に何かをやるムードではなくなってしまうことがよくあります。その点、福岡にはテクノロジーに興味を持つ人も多く、専門性にこだわりすぎない懐の深さがあるため、分野にこだわらない協業ができたり、開発者が集まりやすい土壌があると感じています」

IT・テクノロジーのノウハウが蓄積されており、それに加えて他者を受け入れやすい土地柄であった点も福岡を選ぶ要素になったといいます。意欲のある開発者、スタートアップが、このように福岡を“意識”してくれているのはありがたいことですね。

■新しいクーポン体験、キャラクターをゲットしてノベルティをもらおう

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明星和楽期間中、「てんちか」の愛称で親しまれる「天神地下街」ではコラボレーションキャンペーン「明星和楽・てんちかキャラクターコレクション」を実施。専用アプリをスマホにダウンロードし、その画面を店舗の中でかざすと、VR(仮想空間)に天神地下街のマスコットキャラクター「ムッシュてんちか」が現れるというもの。さっそく参加店舗を訪れてみると、明星和楽のポップを発見。アプリを起動するとムッシュてんちかが登場し、ノベルティがもらえるクーポンまで表示されました。

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「自らキャラクターを探して、クーポンを獲得する」というのは、これまでクーポンを受け取ったときとは明らかに異なる体験でした。こうしたテクノロジーを駆使すれば、従来のキャンペーンやサービスも新しい体験として生まれ変わることができるかもしれません。

■IT企業が集まる福岡が、これから目指すべき姿とは?

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プログラムの最後はソラリアゼファ特設ステージにて行われたトークセッション「どげんかせんといかん福岡」。オンラインツールなどを開発する福岡発のIT企業ヌーラボの橋本正徳さんをモデレーターに、ふくおか証券㈱代表取締役社長の原田康平さん、野村證券㈱九州企業金融統括部長の山田平和さん、みずほ証券福岡支店企業金融部マネージャーの山本尚史さんが登壇。高島福岡市長も登壇予定でしたが、博多駅前の陥没事故対応のため、skypeで参加となりました。

このセッションのテーマは「脱スタートアップと上場」。橋本さんが冒頭に投げかけた「創業特区以降、成長してきている福岡の起業シーンをこれからいかに成長させていくか」という問いに対して、実際に上場企業への支援を行う証券会社の皆さんから、さまざまな意見交換がありました。

高島市長は「スタートアップカフェでの起業相談件数は、この場所ができる前と比べて5倍の1659件となりました。裾野が広がっていることは確かです」と手応えを口にします。

一方、ヌーラボの橋本さんは「福岡にはメガベンチャーが少なく、上場のロールモデルが身近にないことが問題」と指摘。そこから議題は、どうすれば上場企業が増えていくのかというテーマの本筋に。

実際に福岡の企業から上場についての相談を受ける立場である、みずほ証券の山本さんは「2015年度は福岡で2社が上場し、2016年度は3社が上場しました。着実に成果が出始めていると思います」とまだ少ないながらも上場する企業も生まれ始めている点に言及。また、「東京の人から“創業特区って何をやってるの?”と聞かれることが多く、福岡が大きな注目を集めているのを感じます」ともいいます。

野村證券の山田さんは、自身が福岡市のスタートアップ支援に関わる立場だったらという仮定をした上で、「世の中を変えるというモチベーションを持っている若い人と、技術や資本力を持っている事業者の組み合わせが必要」とコメント。またふくおか証券の原田さんからは「会社を作るなら上場を目指すべき。最後は志が大事」と、起業や上場を目指す人へエールがありました。

最後に高島市長が「裾野は広がったので、次の段階を目指したい。来年再来年くらいに上場できる可能性のある企業に絞って積極的に支援し、ロールモデルを作っていきましょう。僕が注目しているのは、ずばりヌーラボさんです。今後にも大変期待しています!」と締めくくり、セッション終了となりました。

明星和楽の理念は「クリエイティブに触発され、感性を揺さぶる」。つまり、理屈ではなく感性に訴えかけ、誰でも楽しめるものを見せる、体験させるイベントといえます。実際、現場では、テクノロジーに関心の高い人たちだけでなく、天神にフラっと遊びに来た人たちも巻き込む様子もありました。我々の生活に変化をもたらすテクノロジーはここから生まれる? 今後も福岡のテクノロジー業界に注目です。

 

【関連リンク】
明星和楽2016
http://2016.myojowaraku.net/

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