【女子大生スタートアップ取材ブログ vol.4】福岡の山や海、街中で行方不明がなくなるかも? 人探しができる画期的なデバイスが誕生

こんにちは、九州大学の上田りさこです。この連載は、福岡のスタートアップ事情やスタートアップ支援施設Fukuoka Growth Next周辺の面白そうな人や動きを、大学生の目線でわかりやすくお伝えするブログです!

さて、いきなりですが「防災」や「人命救助」って、それだけ聞くとなんだか縁遠く感じてしまいませんか? 今この瞬間も起こるかもしれない「災害」。でも自分のこととなると、常に意識するのは難しいですよね。震災復興ボランティアに参加している私でも、漠然と「自分は大丈夫」って気がしちゃってたり。だからこそ、防災や安全にまつわる物がもっと身近に、無意識に使っちゃうくらいになるといいなぁ〜、と思ってます。

そして、まさに「防災を身近にする」モノをつくっているスタートアップの企業に、Fukuoka Growth Nextで出会いました! 展開しているサービスは評判がよくて、2021年には株式上場も目指しているとか。さっそく訪ねてみました。

上田さん

ここはFukuoka Growth Nextの2階の奥。Fukuoka Growth Nextはもともと大名小学校だった校舎を改装してつくられているので、学校で使われていたものがそのまま残ってます。ピンクのあみに入った黄色い石鹸がなつかしい…! 今も使われてるのかな?

上田さん

鍵がかかっていたので焦っていたら、貼り紙を見つけました。ドキドキしながらインターホンを押します。

今回は、AUTHENTIC JAPAN(オーセンティック・ジャパン)株式会社さんのオフィスにおじゃまします! GPSもBluetoothも使っていない「ヒトココ」という名の最新テクノロジーを開発されているそうです。「ヒトココ」とは、電波を発信するだけのシンプルな子機と、電波を受信する受信機(親機)のセット。子機を身に着けている人の場所を、受信機がキャッチするという仕組み。例えばこんな感じです。

ヒトココの使用イメージイラスト

子どもに持たせて迷子を防いだり、認知症のお年寄りの方が行方不明にならないための見守りとして使われたりしているそうです。でも、どうしてこれを作ったの? スマホではダメなの? 創業者の久我 一総(くが・かずふさ)さんにお話を聞きました!

久我さん
(右手にヒトココの子機を持つ久我さん。ちなみに左手に持っているのは電球で、アイデアのひらめきをイメージした飾りとか。こういう小道具を見つけるのが楽しいオフィスだった)

久我さん 以前は九州松下電器(現 パナソニックコミュニケーションズ)で電話交換機の海外バイヤーをしていました。その通信技術の仕組みから着想を得て、独立を決意し、技術職の同僚と一緒に起業して開発したのがヒトココです。

上田 わぁ、そういう起業の仕方もあるんですね。

久我さん 最初は登山する人向けの捜索・人命救助サービスから始めようと思いました。GPSだと、山の中のどこって細かく特定できないんですよ。でもこれだと、数キロ先から0メートルのところまで場所を絞り込めるんです。

上田 0メートルまで?! すごすぎます。確かにGPSって、細かく反応しないことがありますよね…。私、方向音痴なのでGPSのマップ使っても、しょっちゅう迷っちゃうんです。登山向けからサービスを始めたのはどうしてですか?

久我さん 一般の人に広く使ってもらうためにも、信頼性が高く求められる人命救助の現場で、先に認めてもらいたいと思って。当時の日本山岳協会(現 日本山岳・スポーツクライミング協会)さんに「こんな装置を作ろうと思ってるんですけど」と、試作品を持って行ったんですよ。

ヒトココ受信機の試作品。
(ヒトココ受信機の試作品。方眼紙でできたカバーをかぱっと開くとこんな感じ)

上田 へ〜! 試作品ってこんな感じなんだ。いかにも図工で作ったようなカバーで、手作り感があっていいですね〜。

久我さん いいでしょ。ああしよう、こうしようとアドバイスをいただいて、何度も改良を重ねながらできたのが今の形。バッテリーも、最低一ヶ月は持つようにしました。今後は素材を変えて、子機の防水性と耐久性をさらに上げる予定です。

ヒトココの機器
(ヒトココの受信機(箱の中)と子機(手前)。左側の白い子機が、制作中の新しいデザインだそう)

上田 実物、小さい〜。手のひらより小さいサイズですね。身につけてるだけで安心するから、登山も行きたくなっちゃう!

 

◆モノだけじゃなく、人もついてくる「安心」を作る

久我さん

久我さん 実は今、このヒトココが福岡市役所の認知症高齢者見守り事業に使われています。

上田 ヒトココがあると、何が変わるんですか?

久我さん 主に、行方不明になった認知症の高齢者の捜索に役立ちます。区役所などで手続きすれば、購入費用の一部が助成されて、ヒトココを持つことができます。いざいなくなって探そうと思っても大変でしょう? そんな時に、子機を身につけてさえいれば探すことができるんです。ほかのケースにももちろん使えます。仮に災害が起きて土やがれきに埋まっていても、小さい子どもがどこかに閉じ込められてしまった時でも、厳密に場所を特定できます。建物の何階の、何番目のトイレにいるとかね。

上田 なるほどー。スマホを持たせる前の子どもに持っててほしいなぁ。

久我さん うちの子は海に行く時に、ライフジャケットに必ずヒトココをつけてます。海上保安庁にも協力を仰ぎ、海でいなくなってしまった時は海上保安庁が駆けつけてくれるサービスも目指しています。山で遭難した時にヘリが駆けつけるサービスはすでに実現できました。ヒトココさえ身につけていれば、山でも海でも行方不明になることが不可能になるんです。

上田 スマホと違って水に強いし、コンパクトだし、ライフジャケットにもつけられるんですねー。

久我さん ヒトココを家族間で使うだけでなく、行政と連携して実際に生活の中で役立つところまで持っていきます。

 

◆福岡が日本一安全に子育てできる街になる?

久我さん 使い道は、防災だけじゃないんですよ。例えば女性って、夜のバイト帰りとかちょっと不安だったりするでしょ。そういう時、電話をかけるふりしませんか?

上田 やります、やります! 何かあった時、誰かにすぐ言えるようにって思って。

久我さん あれって、周囲に注意を割いていないというサインになっちゃうから、かえって危ないんですよ。今は見守りアプリを新たに作っていて、「見守ってください」ボタンを押すと、事前登録している家族や友だち、彼氏など全員に依頼が行く。「見れるよ」って人はボタンを押して、GPS情報で歩いている軌跡を見守ることができるんです。で、お家に着いたら「無事着きました」ボタンを押せば、見守り終わり。画面にブザーボタンもあるので、何かあったらブザーを押すと、登録している人全員にすぐに通知が行って、彼女の場所がわかるという仕組み。いいでしょ?

上田 いい! めっちゃ欲しいです。うちのお父さん、ものすごい心配性なので、ずっと見てるかも(笑) 今後、こういうサービスを広めていくんですか?

久我さん そうですね。僕たちの目標は、JAFのようになることで。

上田 JAFっていうと…車にトラブルがあったら駆けつけてくれる、あのJAF?

久我さん そう。「車はJAF、人はヒトココ」という認知まで持っていくのが目標です。ヒトココというツールもアプリも広まった先に、「福岡って、なんか知らんけど子どもにとってすごいセキュリティが確立しとるよね」ってなるといいな、と思います。そうやって子育てで選ばれる街になったら、僕を育ててくれた福岡の街に恩返しができますしね。サービスを加速させるために、いま、新しいスタッフも募集しているところです。どんどん拡大していきますよ!

ヒトココで安全な外出イメージ

サービスをどんどん作られているだけじゃなくって、マシンガンのようにガンガン話される久我さんの勢いがすごかった…! この勢いで、もしかすると将来はスマホみたいに、一人一台ヒトココを持ち歩くようになっちゃうかも? まさに、身近な防災!

 

〈関連リンク〉
AUTHENTIC JAPAN株式会社「ヒトココ」
https://hitococo.com