福岡市が「防災×テクノロジー」で日本のスタンダードを作る! 新たなアイデアが集まった「防災サミット」をレポート

今年4月の熊本地震では、高島宗一郎市長を中心とした「WITH THE KYUSHU プロジェクト」で、迅速かつ的確な支援物資の提供を実現した福岡市。そんな福岡市が日本財団と連携し、“防災先進都市・福岡”を目指した新たな防災プロジェクトをスタートさせました。

その名も「防災×テック(BOUSAI×TECH)」プロジェクト。

8月24日、このプロジェクトのキックオフイベントが福岡市のレソラNTT夢天神ホールで開催されました。今回、#FUKUOKAは同イベントを取材。震災復興の最前線にいるキーパーソンが登壇したトークセッションの様子を中心にレポートします。

◆震災現場の“共通の問題”はなぜ改善されない?

まず冒頭、防災サミットへの想いを高島市長はこう語りました。

「先の熊本地震で福岡市も様々な支援を行いました。その時に感じたのは、スマートフォンやSNSが普及する今、行政だけでなく、市民、NPO、民間のみんなが一体となって力を合わせることができること。それが出来たときに大きな力になること。さらに、ICT・IOTといったテクノロジーもひとつの大きな鍵になる、ということです。過去の教訓から課題を可視化し、みんなが持つそれぞれの力を活かし、次に繋げていく、そうした有意義な会になればと期待しています」

続けて登壇したのは、日本財団理事長の尾形武寿さん。東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市の出身だという尾形さんは、熱を込めてこう語りました。

「たとえ地震や台風が来ても、そこに人がいなければ災害ではありません。災害とは、被害者がいるから災害と呼ばれるのです。防災における日本のスタンダードを作りたいと言っている高島市長に、この知見を分けてあげたい。震災は必ずやってきます。その時に何ができるか考えていきましょう」

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これを受けて行われたセッション1には、高島市長、兵庫県立大学環境人間学部准教授の木村玲欧さん、日本財団災害復興支援センター熊本支部シニアオフィサーの黒澤司さん、一般社団法人RCF代表理事の藤沢烈さんが登壇しました。

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熊本地震の避難所を多く見てきたという黒澤さん、さらに東日本大震災の復興支援に力を注ぐ藤沢さんは、避難所での“トイレ問題”について言及します。

「石巻は人口に占める高齢者の割合が30%弱なのですが、避難所の高齢者は最初35%くらいで最終的に50%まで達しました。そんななか、高齢者に対応したトイレは10%ほどしかなく非常に困られていました。避難所でのトイレ問題は深刻で、関連死の原因となっています。トイレに行きづらいと、水分を補給しなかったり、歯磨きまで控えるようになってしまい、菌が体に蔓延して肺炎に至ることもあります。」(藤沢さん)

前出・尾形さんによると、日本財団では熊本地震の避難所で折りたたみ式の簡易トイレを配布したそうです。これは数々の災害を経験したからこそできた対策だといいます。

さらに阪神淡路大震災を経験した木村さんから、避難所に関する議題も提言されました。

「避難所は、短期避難と長期避難では別々の問題が起こります。たとえば短期では、まずどこに誰がいるのかがわからない。すべての人が避難所に行くわけではないため、把握をするのもなかなか難しい。自治体では避難者名簿を作って訓練しているというが、まだ十分ではありません」

さらに、木村さんは避難所に送る救援物資について、「個人から送られてくる物資の管理は、現場では非常に難しい」とその問題点を指摘します。

ちなみに熊本地震の支援活動の際、こうした問題を認識していた高島市長は、まず福岡市で本当に必要な支援物資を集めてから現地に送るよう指示。結果、避難所ではスムーズな仕分けができたと評価されています。

藤沢さんは熊本地震を振り返り、「熊本地震と同レベルの地震は、日本列島どの地域でも起こりうると思います。被害を最小限に抑えるために、(日本全国で)地域と地域を超えた連携が必要です」と訴えます。

これを受け高島市長はこう応えます。

「日本各地の震災復興の現場は同じ問題を抱えているのに、なぜその経験が引き継がれないのか。大変な犠牲の中で生まれた教訓を引き継いでいくためには、自治体だけではなく民間の力やアイデアを取り入れることが大切」

このように話した上で、高島市長は「防災減災アプリコンテスト」「実証実験フルサポート事業」の2つを発表。コンテストでは“日本のスタンダードになる防災アプリの開発”という具体的な目標を掲げています。テクノロジーの力を使い、自治体と民間がシームレスに連携できる仕組みに、日本の防災の未来がある……そう感じさせてくれるセッションとなりました。

◆福岡から世界に役立つ防災テクノロジーを!

引き続き行われたセッション2では、ITテクノロジーのベンチャー企業を中心に災害時におけるテクノロジーの活用について語られました。

登壇したのは、スタートアップの運営サポートなどを行うMistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEOの孫泰蔵さん、アプリ開発などを手掛けるCoaido株式会社 代表取締役CEOの玄正慎さん、テクノロジーによる地域課題の解決に取り組む一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事の関治之さん、登山用地図アプリなどを開発する株式会社セフリ代表取締役の春山慶彦さんの4名です。

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孫さんはまず、この福岡市に防災のための最先端テクノロジーを研究する「防災テックラボ(仮称)」の設立を宣言します。

「日本は災害が多く、ノウハウも溜まっているはず。また、防災とテクノロジーを掛け合わせるという考え方は海外にはない。『防災テックラボ』は、ITのスタートアップが多く集まっている福岡でこそ機能する取り組みなのでは」

登壇者はそれぞれ、災害時に役立ちそうな国内外のテクノロジーを紹介。どのテクノロジーも魅力的なものでしたが、孫さんは電源の安定供給という共通の問題や追加開発の必要性を指摘した上で、このように語ります。

「実際にこれらの素晴らしいテクノロジーが開発されたとして、運用できる人がいないという問題もある。そのためには、地域にたくさんいる学生やITに詳しい人たちが、いざとなったらこのようなテクノロジーのオペレーターになれるような共助のコミュニティづくりを普段から行っておくことが重要です」

さらに玄正さんはテクノロジーの活用アイデアとして「リアルなIT防災訓練をする」ことを提案。この意見には、他の登壇者も「SNSや仮想現実などを駆使して、一般参加者も多く巻き込めるのでは」と盛り上がりました。

孫さんは「スタートアップ企業はみな社会貢献や課題解決に関心が高い。そして、人工知能などの進化によって、課題が解決できる環境になってきた」と分析。最後に「日本人はこういった面では非常に優れている。福岡市から世界に役に立つテクノロジーを出していければ」と意気込みを語りました。

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2部構成のトークセッションの後に行われたのは、80名近い参加者によるアイデアソン。14チームに分かれ、第1部で共有された課題を解決するための「災害時に役に立つアプリ」のアイデアを話し合いました。避難所生活の満足度を向上させるための「コミュニティ育成型情報誌アプリ」や、素早い避難を促すための「土砂災害カウントダウンアプリ」、避難所運営をしやすくするためのアプリやツール、避難所運営者向けの訓練支援ツールなどのアイデアが集まりました。

福岡市が掲げる「BOUSAI×TECH」というスローガンをもとに、実現に向けた協力体制があることを心強く感じることができた今回の「防災サミット」。

なお福岡市では9月1日より「防災減災アプリコンテスト」および「実証実験フルサポート事業」の募集が始まりました。日本の防災の“未来”を目指す福岡市の「BOUSAI×TECHプロジェクト」。今後の展開から目が離せません。


【関連リンク】
「防災減災アプリコンテスト」
迅速かつ的確な避難者の状況把握をテーマとした、避難者支援アプリの開発を競うコンテスト。参加申込期間は、9月1日(木)〜10月7日(金)。コンテストの日程は、平成28年10月22日(土)〜23日(日)。最優秀賞作品は、実用化に向けて福岡市と日本財団が支援を行う予定。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/bousai/bousai/bousai.html

「実証実験フルサポート」
「防災・減災」および「健康・医療・福祉」をテーマに、独自の技術やアイデアを活用した実証実験プロジェクトを全国から公募し、福岡市が実証フィールドの提供などを支援します。募集期間は、平成28年9月1日(木)~9月30日(金)。応募いただいたプロジェクトで1次審査を通過したものは、11月10日(木)に開催する「フクオカ・スタートアップ・セレクション」のピッチコンテストに登壇いただき、優秀なプロジェクトの選定・表彰します。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/kikaku/mirai/fullsupport.html

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