福岡ブロックチェーンコンソーシアム・落合氏が考える、お金の未来とブロックチェーン的思想

平成30(2018)年7月、福岡を拠点とするスタートアップの有志が集まり、ブロックチェーン研究団体「福岡ブロックチェーンコンソーシアム」が発足しました。今回インタビューしたCryptoeconomics Lab CTO 落合 渉悟さんは、同団体の発起人のひとりで、ブロックチェーンエンジニアとして開発・研究を行っています。なぜ、ブロックチェーンで福岡なのか? コンソーシアムの構想とお金の未来、落合さんが考えるブロックチェーン的思想についてお話を伺いました。

物理・神経工学・ブロックチェーン。共通項は「相転移の瞬間」

はじめに、落合さんの経歴を教えてください。

落合 九州大学で物理を専攻していました。物理現象への興味が発展して、神経工学の方へ……まぁ、漫画「攻殻機動隊」の影響なんですけど(笑)そのあと、教授から「社会と交わらないことをやっても意味がないよ」と諭されてプログラミングの世界に飛び込んで、九大在籍中にスタートアップの世界に入りました。

物理から神経工学、プログラミング、そしてスタートアップへ。

落合 はい。最初は福岡のTechnical Rockstars(テクニカルロックスターズ)っていうスタートアップで「Milkcocoa(ミルクココア)(※1)」というIoTプラットフォームの開発をしていました。九大には、休学なども含めて7年くらい在籍してたんですが、結局卒業せずに退学を選んで。でも実はこの度、ブロックチェーンで東京大学の客員研究員の席を3年間いただくことになりました。
※1:平成28(2016)年、株式会社ウフルへ事業譲渡

おめでとうございます。それだけで記事が一本書けそうです(笑)

落合 ありがとうございます(笑) 現在は、ブロックチェーン上で動かすシステム「Ethereum(イーサリアム)」や、そこから派生する技術「Plasma(プラズマ)」の研究をメインで行っているのですが、九大在籍当時から関心があったことがあります。それは、物質の相(状態)が外的要因によって変化する「相転移」の瞬間です。例えば水が氷になる瞬間、温度は1度の違いしかないのに急にパキパキって変わるじゃないですか。それを社会に置き換えるとすると、社会の相転移の瞬間っていつ起こるんだろう?と気になって。僕の中ではCtoC(※2)やブロックチェーンも、社会の相転移のきっかけになる可能性を感じるもので、そこが面白いと思っています。
※2:インターネットオークションのような一般消費者間での電子商取引。Consumer to Consumerの略

コンソーシアムが先んじてルールを示していく

「福岡ブロックチェーンコンソーシアム」の役割を教えてください。

落合 平成30(2018)年7月に立ち上げた研究団体「福岡ブロックチェーンコンソーシアム」は、福岡を拠点とするスタートアップの有志が集うプラットフォームです。ブロックチェーンは新しい技術のため、それを使おうとするスタートアップは、国の関係省庁など行政機関との連携が不可欠。もし、n個の組織とm個のブロックチェーンに携わるスタートアップがN×Mのコミュニケーションを取っていたら、膨大なコストがかかってしまう。それらが集約して繋がっていけば、圧倒的にコミュニケーションコストが下がります。また、自主規制団体としての役割を考えています。

FUKUOKA BLOCKCHAIN MEETUPの様子
(福岡ブロックチェーンコンソーシアムのキックオフイベントとして、平成30(2018)年7月27日に開催された「FUKUOKA BLOCKCHAIN MEETUP」の様子。100名以上が参加し、会場は満席)

自主規制団体ですか?

落合 ブロックチェーンは、仮想通貨の取引を記録する際に使われる技術で、国や銀行のように中央集権的な特定機関ではなくユーザー同士でシステムを分散管理するため、非中央集権的という特徴があります。中央集権と比較して運用コストがかからないこと、データの改ざんや不正が極めて困難であることが特徴なんですが、一元管理されていない分、警戒もされやすい。ブロックチェーンのような先進的な技術を現実社会に当てはめるには、国が強力な規制を最初に設けるか、逆に自主規制団体が倫理観に則ってルールを先に宣言するかの2つしかないんです。それで、「福岡ブロックチェーンコンソーシアム」は後者の方法を採ろうと考えています。何を自主規制するかは徐々に決めていく予定ですが、例えば、法律や最新の法案をよくわかっていないスタートアップが突っ走って不手際を起こさないように注視するのも、僕たちの役割ですね。

今、具体的に取り組んでいる事例はありますか?

落合 電力会社と一緒に、ブロックチェーンを活用した電力のP2P(※3)取引に取り組んでいます。再生可能エネルギーの場合、日本の従来の電力取引のように、電力会社が必ずしも中心である必要はなくて、仲介者なく個人間で取引できる日がくるでしょう。
※3:ネットワークに接続されたコンピューター端末同士が直接通信する方式のこと。Peer to Peerの略

それから、店舗でのキャッシュレス決済。手数料の負担が原因だと思うんですが、福岡って東京に比べてクレジットカードを使えるお店が少ないんですよね。そこで今ブロックチェーンを使った新しい決済方法を開発しています。この方法なら、手数料をほぼ0円にできるし、送金に20分もかかるビットコインと違って、15秒で決済が完了します。より使いやすいよう、将来的には3秒を目指して改善していく予定です。

クリエイティビティを殺さない街

「東アジア最大のコミュニティを目指す」とおっしゃってますね。福岡とアジアにこだわる理由は?

落合 僕自身がインドネシアの会社のCTOをしていたこともあって、シンガポールやマレーシアなど、ローカルのブロックチェーンコミュニティとは接触できています。福岡は、彼らと東京をつなぐこともできるし、地理的に便利なんですよね。現状ではまだ、海外のエンジニアは人口の多い東京を選んでしまいがちですけど、このコミュニティを盛り上げていくことで、「福岡の方が面白いじゃん」って感じてくれたらいいですね。質の高い会社やチームを増やして、海外のブロックチェーンエンジニアが頻繁に集まったり、実際に働けるようになるといいなと思います。

今、福岡市は「エンジニアフレンドリーシティ福岡」として、エンジニアにやさしい街になろうと取り組んでいます。落合さんが考える、エンジニアにとってやさしい街とは?

落合 福岡では様々な実証実験が行われていますが、エンジニアが持つ技術を生かせる実証実験が増えていけば、やりがいがある街になると思います。そのとき、「ここまでならやっていいよ」「この時間帯はOK」「失敗は3回まで」みたいな明確なガイダンスがあると、動きやすいですね。ボストン・ダイナミクス社(※4)のロボットを街で歩かせてもOKなくらい、クリエイティビティを殺さない街であってほしいです。
※4:四足歩行ロボット「BigDog」など、ロボットの研究開発を行う米国企業

ちなみに落合さん自身は、なぜ福岡を拠点にされているんでしょうか?

落合 営業活動が中心なら東京もいいんですけど、僕たちみたいなプログラマーで、かつ深く研究に入り込むような仕事をしている場合、集中した時間をいかに連続させられるかがとても大事で。適度にノイズが少なくて、環境が良い福岡は、僕の中での最適解でしたね。

落合渉悟さん

最後に、落合さんがブロックチェーンの先に見ている未来について、教えてください。

落合 僕はエンジニアですが、ブロックチェーンの思想的な側面にも興味を持っています。例えば、日本に住んでいるとなかなか気づきにくいですが、世界にはいつ軍事政権に転んでもおかしくない、住民が脅威にさらされている国がまだまだあります。そんな異常な状況下でも、絶対に動く匿名投票システムがあれば、民意によって権威を監視できるわけです。ブロックチェーンエンジニアは、どのような状況におかれても特定の権力に潰されず、安定して動くシステムを追求しているとも言えます。正しいと思う未来を、自分たちの手で選択できるようになる、それって素晴らしいことだと思いませんか。

 

[プロフィール]
落合 渉悟(おちあい・しょうご)
福岡ブロックチェーンコンソーシアム/Cryptoeconomics Lab CTO
平成2(1990)年生まれ・鹿児島県出身。ブロックチェーンエンジニア。平成26(2014)年、株式会社Technical Rockstarsにジョインし、IoTプラットフォーム「Milkcocoa」の開発に携わる。平成28(2016)年、インドネシアのファッションフラッシュセールサイト「VIP Plaza」にてCTOを務める。平成30(2018)年、Cryptoeconomics LabのCTOを務める傍ら、ブロックチェーン研究団体「福岡ブロックチェーンコンソーシアム」を発足。

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