孫泰蔵さんが語る未来の防災、そして福岡 「福岡の人はもっと“目線”を高く!」に込められた意味とは?

11月10日(木)にアクロス福岡イベントホールにて開催された「フクオカ・スタートアップ・セレクション」。防災先進都市を目指す福岡市として、今回は特に防災をテーマにし、スタートアップ企業から大企業まで様々な企業のマッチングが行なわれました。そのイベント内の特別講演で、スタートアップの創業支援や運営サポートを行うMistletoe(ミスルトウ)株式会社のCEO・孫泰蔵さんが、福岡での展開を考えているユニークな防災都市構想「Popup Commons(ポップアップ・コモンズ)」を発表。そのダイナミックかつ夢のある発想は、大いに会場を沸かせました。

ご自身も起業家であり、日本のスタートアップシーンの創生と育成に多大な尽力をしてきた孫さん。今なぜ福岡に着目し、これから福岡で何をやろうとしているのか。#FUKUOKA編集部独占インタビューをお届けします。


--そもそも孫さんが防災に着目したきっかけは、何だったのでしょうか?

孫 平成23(2011)年の東日本大震災と、今年の熊本地震ですね。東日本大震災は、本当にこんなことが起こるのかと、人生観に大きな影響を与える出来事でした。それまでは自分自信が起業家として事業を起こし、成長させることを目標に活動していましたが、この震災をきっかけに、自分が社会に貢献できることを考えるようになりました。それで、現在まで続く起業家支援の活動を始めたんです。

ですから熊本地震では、発生直後から福岡県八女市出身の社員を中心に、支援活動をいち早く積極的に行いました。ネットでの情報拡散による混乱を避けるために、確実な人のつながりを頼りに物資を送って、みんなで寝ずに支援活動をして。世界中の友人たちも、さまざまなテクノロジーの無償提供を申し出てくれて、自分がこの5年間で尽力してきたことが活かせる支援ができると思っていました。ところが、電気をコンセントから供給しないと動かない機器が多かったり、まだ新しすぎて現地で運用できる人がいないなどの問題で、提供されたもののほとんどを実際の災害対策に役立てることはできませんでした。ITをうまく活用すれば、はるかに効率的な復旧や支援ができるとわかっていただけに、「一体自分たちは何をしてるんだ」と忸怩たる思いでいっぱいでしたね。

--その時に感じた悔しさから、あの構想の発表へと至ったわけですね。

孫 はい、それが「Popup Commons」です。

--具体的にはどんな構想なんでしょうか? 

孫 もともとは、避難所や避難生活を明るく楽しいものにしたいという思いがありました。そこで、避難所のイメージを覆すようなポップな場所を各地に作って、それが災害時には避難所として機能する、というアイデアを思いつきました。現時点の構想では、たくさんの移動可能なコンテナを、それぞれ住居やレストランや研究施設として使い、平常時には活気のある町として機能していて、災害時にはそのコンテナが移動して、支援活動や避難生活のサポートを行う、というイメージです。私たちMistletoeが最初のモデルを作りますが、これは一企業で実現できるプロジェクトではないので、福岡市や他の全国の自治体、市民の皆さんの協力のもとに進めていければと思っています。

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--そこにはどんな人たちが集まっているんでしょうか?

孫 主に学生など、若い人たちが中心の組織になるといいなと思います。市が場所を提供し、店を構えたり住むことの維持費を安くできれば、そこで専門学校生が実験的でとんがったお店を持つこともできますし、我々が推進しようとしている防災とテクノロジーを組み合わせた“防災テック”の研究室やスタートアップの拠点にして、開発に没頭することもできます。アーティストが集まってくれば、外からも注目されるクールな場所になるでしょう。災害対策といっても、平常時の時間の方がはるかに長いですから、平常時から地域再生の拠点となるような場所にしたいですね。防災って本来、体力があって使命感に燃えている若者こそもっとも適した仕事だと思うんですよ。若い力をうまく活用して、平常時にも災害時にも魅力的な場所にできたらと思います。

--機能性に優れた小さな街を作るイメージですね。ただ「移動可能」という性質上、どこにでも作れるものだと思います。なぜ福岡を最初の拠点に選んだのでしょうか?

孫 簡単に言うと「福岡だからこそできる」と思ったからです。日本のITの拠点は、まだまだ東京に一極集中しているのが現状です。しかしこれからはIoTなど、ITがWebブラウザ内に留まらずに外の世界に飛び出して、街の風景を変えていく時代です。その中で、いろんな法律の規制に直面することになります。たとえばドローンによる救援物資の運搬は航空法、街中をスケートのように移動できるパーソナルモビリティは道路交通法など、さまざまな規制と戦わなければサービスを始められません。本当にイノベーティブなものは、必ず法律などエッジに突き当たるんです。そういう意味で言うと、人が多く規制が厳しい東京は、イノベーションを起こすには最悪の街なんですよ。

--なるほど。

孫 アメリカのネバダ州には、ドローンを使った最先端のスタートアップがいます。タホ湖で釣りをしているボートに、ドローンが宅配ピザをそっと届けてくれる、そのサービスの商用化一歩手前まで来ているんですが、なんでそんなことができるのか。理由はシンプルで、ネバダ州は人間より狸や鹿の方が多いくらいの田舎なので、落下事故にもうるさくないんですよ(笑)。むしろ住民たちは早くサービスが実現してほしいと願っているので、州法の改正も進みます。またネバダには空軍基地があって、無人偵察機の研究開発を行っている大学やエンジニアもたくさんいるんです。そういう環境だから、イノベーティブなスタートアップが生まれるんです。AirbnbもUberも、もともと日本では生まれえなかったサービスですが、そういうものが今の世界に大きなインパクトを与えているんです。

--周辺環境やエンジニアの存在も大きいんですね。

孫 そうそう、規制が緩いからってただの田舎じゃダメで、若者が集まる大学など研究機関がなかったら、イノベーションは生まれません。福岡は大学が多く、九州中から若者が集まっていますし、創業特区でもあるので規制緩和しやすく、エッジの立ったスタートアップが生まれる可能性が、東京よりはるかにあると思いますよ。

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--スタートアップ都市としての福岡の現状を、どうご覧になっていますか?

孫 大きく期待していますが、まだまだ発展途上で、世界に誇れるようにはなっていないのが現状だと思います。一番の課題は「目線の低さ」でしょうか。

--目線の低さ、ですか。

孫 僕は、福岡のIT・デジタル業界で働いている人とシリコンバレーで働いている人の素質や能力に大きな違いがあるとは思ってないんですよ。ただ、決定的に違うのが、シリコンバレーの子たちは最初から「世界を見てビジネスを発想している」ってことです。彼らは、自分たちがやろうとしていることが世界に貢献できるかどうかを、最初から見ているんです。世界のどこに課題があり、自分たちの持っている技術がどう使えるかを、毎日考えています。でも福岡の場合、まずは日本で成功し、それから世界へという発想です。これは、福岡に限ったことではなくて、東京でもそういう人は多いですね。日本語を話す人に囲まれ、日本語のメディアだけから毎日情報を得ていれば、自然と国内を中心に考えてしまうのは仕方のないことなんですが。

--どうしたら目線を高く持つことができるんでしょうか?

孫 目線の高い人たちに囲まれた環境を作ることだと思います。何か新しいサービスをやろうとしても、相談してみたら多くの人から「無理じゃない?」と言われる。それを繰り返していくと、ほとんどの人が、心が折れて萎えてしまって、結局やらないことになりますよね。もし朝起きてから寝るまで、ネガティブなことを一切言わない人にしか会わなければ、自分の発想もモチベーションも全然違うものになるはずです。Popup Commonsにも、誰もかれもが集まればいいのではなくて、このアイデアを本気で気に入り、前向きに行動していく人だけが来ればいいと思います。そういう人たちが何百人かだけ集まって、アイデアをやりとりしたりビジネスを発想し続ければ、福岡にもシリコンバレーのような環境ができる可能性は十分にあると思いますよ。


わかりやすい言葉で、ご自身の使命感と、新構想への熱い思いを語っていただいた孫さん。“もっと目線を高く!”という、福岡で働く人たちへの、愛のあるエールもいただくことができました。若いエネルギーとアイデアが集うPopup Commons、福岡から始まる今後の展開が楽しみです。

 

【プロフィール】
孫泰蔵(そん・たいぞう)
昭和47(1972)年、福岡県生まれ。東京大学在学中の平成8(1996)年、Yahoo! JAPANの立ち上げに参画し、コンテンツ制作、サービス運営をサポートするインディゴ株式会社を設立、代表取締役に就任。平成10(1998)年、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社の前身となる、オンセール株式会社の設立に参画、代表取締役に就任。平成21(2009)年、スタートアップ・アクセラレータMOVIDA JAPAN株式会社を設立、代表取締役CEOに就任。平成25(2013)年、Mistletoe株式会社を設立し、起業家の育成、ベンチャー企業への投資、スタートアップ・エコシステムの形成・発展に向け活動を開始。

 

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