平均年齢27歳、社長は24歳。ECコンサル会社Pearが、いま考えていること

ECにおけるコンサルティングを自動化し、サイト改善のための施策立案から実行までを効率的に行う株式会社Pear。代表取締役CEOである島井尚輝さんは、平成29(2017)年の会社設立からわずか1年半で、20代を中心とした社員数25名の組織を作り上げました。ご自身も現在24歳。その若さで挑戦する姿に影響されて起業を目指す人もいるほどに、福岡の学生を中心に活動が注目されています。
それなりのコストがかかるコンサルティングサービス。なかなか売上が上がらず困っているECサイト運営者に、低単価で提供できれば社会に貢献できるのではないかという想いから、Pearの挑戦は始まりました。島井さんに、会社を興すまでの道のりやビジネスの展望について伺いました。

起業に必要なヒト・モノ・カネは、福岡でも揃う

――Pearを立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか?

島井 学生時代、九州工業大学の情報工学部でITやプログラミングの勉強をしていました。大学2年の冬、高校時代の同級生と偶然会い、飲みに行ったんです。そこで将来の話になった時に、すごく先を行ってて、自分もやりたいことをやろう!と決意して、憧れだった「社長」になるため起業を目指すことにしました。
早速独学で勉強を始め、とにかく早くビジネス経験を積みたかったので、大学内で活動していたプログラミング団体にも入りました。その団体では、学園祭に特化したナビゲーションアプリのプロジェクトに参加し、Web開発や大学への営業を経験しました。アプリはユーザー数約2万人、加盟大学70校の規模になったので、資金調達を目指して、意気込んで東京のVC(ベンチャーキャピタル)を訪ねました。しかし、技術力や行動力は評価されたものの、市場規模からしてこれ以上の拡大は見込めないと言われて。数多くのスタートアップを見てきた東京のVCが言うのだから間違いないだろうと判断し、アプリはすっぱりクローズしました。

――潔いですね。

島井 その後、企業のWebサイトを作るフリーランスとして活動して稼いだ資金を元手に、今度はスキルをもつ学生クリエイターと、仕事の発注先を探す企業をマッチングさせるプラットフォームを作りました。結果的に短命で終わってしまいましたが、この経緯で、現在Pearの取締役CSOである吉田と出会いました。彼は長年ECのコンサルティングや立ち上げ支援をやっていたため、ある時、私が作ったECショップを見てもらったんです。すると、改善点など指摘事項がたくさん挙がって。独学で運営した時と、コンサルをつけた時とではこうも違うのかと感動し、ECビジネスへの興味が湧きました。
ただ、コンサルをつけるには費用が月20万円ほどかかります。私みたいな学生や、ECサイト運営に苦戦する小規模事業者が払える金額ではありません。でも、そうした人たちにこそ私が体験したあの感動を味わってほしい。吉田ともこの想いが一致し、それなら一緒にやろうと開発したのがECコンサルサービス「OMNI-CORE(オムニコア)」です。

――会社設立ではなく、サービスから入ったんですね。

島井 はい。オムニコアは、システムを利用してコンサルティングを行う新ジャンルのサービスです。平成29年8月にβ版をローンチした後、投資家との出会いや上場を目指す他社にも刺激され、3社から合計3,500万円の資金を得て会社を設立しました。

――すごいスピード感で会社設立に漕ぎ着け、ここまで進んで来られたように思います。

島井 周囲にいる方がいろんなタイミングでサポートしてくださったお陰です。幸い、私の親も新規事業の立ち上げをしており、IT企業の経営をしている親戚もいたので、会社の作り方などを色々聞くことができました。ただ、いきなり方法論から聞いたので、「起業するにはまだ早い。それよりもマインドセットをしっかりしなさい」とアドバイスされ、「人を動かす」(デール・カーネギー著)や「夢をかなえるゾウ」(水野 敬也著)などを薦められて読みました。やろうという意気込みだけで始めても続かない。メンタル面でのインプットもしっかりできたからこそ、今こうして続けられているのかなと思います。

2019Pear03.jpg
(Pearの企業ビジョンは「世の中のネガティブをポジティブに」。そしてオムニコアは「ECで"届けたいモノ"の可能性を最大化する」をミッションとし、誰もがECにチャレンジできるポジティブな世界を目指している。)

――起業するなら東京で、と思いがちですが、なぜ福岡だったのでしょうか?

島井  スタートアップに必要な3要素―ヒト・モノ・カネ は、福岡でも十分揃えられます。まずはヒト。私が思う福岡の起業シーンにおける特徴は、まだまだプレイヤーが少ないこと。そのため周りからの注目度が高く、ちょっと頑張って頭一つ抜け出ると取材が来ていろんなメディアに載るので、採用広報にとても効果的です。
次にカネ。VCは東京に集中していますが、福岡にいても、スタートアップ支援施設Fukuoka Growth Nextなどで行われるイベントで会えたりします。そのチャンスをしっかり掴んでアピールし、また東京で話しましょうという流れを作ることができれば、資金調達につながります。現在7社いる当社の外部株主のうち、4社とはこうした流れでご縁をいただきました。
最後にモノです。開発面で比較すると、物価や家賃などのコストが東京に比べて安いので、福岡の方が集中・安定して開発しやすいように感じます。
東京と福岡、どちらもメリット・デメリットはありますが、私の場合は自ら立ち上げたクリエイター集団とのつながりやリソースを活用するためにも、福岡でやることを選びました。ただ福岡は、ヤフーやメルカリ、ラインなどメガベンチャーが進出してきているため、人材の確保は今よりも工夫をしていく必要がありますね。

――特にエンジニア人材は争奪戦でしょうね。Pearは20代が中心の会社ですが、若いチームへのこだわりという点では何かあるのでしょうか?

島井 特にこだわっているわけではありません。スタートアップは変化が激しく、今日話した事業計画が明日変わったりする。そのスピード感について来られることが重要です。

島井尚輝さん

先輩起業家として、若い世代の道しるべを作りたい

――自社サービス「オムニコア」についてもう少し詳しく教えてください。

島井 オムニコアは、ECサイトをGoogle Analyticsなどの解析ツールと連携させて、アクセス数やコンバージョンレート(CVR(購入率))などを自動解析し、改善のためのアドバイスをする仕組みです。通常、人によるコンサルは月20万円ほどかかりますが、オムニコアを使えばデータ分析や分析結果のレポーティング作業などが自動化され、月10万円ほどで提供できます。

――どういう情報を分析するんですか?

島井 ECの売上げを構成する「アクセス数×CVR×客単価」。これら3つの指標を見て、一番低い項目を上げるための施策案を出します。例えば、ECサイト立ち上げ直後であれば、まずはアクセス数を増やすための施策を提示します。アクセス数がある程度出てきたら、CVRを算出し、状況に応じて画像を増やしましょうとか、説明文を追加しましょうといった施策を出します。その他、離脱が多く発生しているページを見つけて改善を呼びかけたり、客単価を上げるための価格の見直しをアドバイスしたりもします。
将来的には、ヒット商品をトップページに表示させて広告を出しましょうとか、在庫が溜まってきたのでクーポンを出しましょう、などと提案するところまで自動化したいですね。

――ターゲットはどんな方たちなんでしょうか?

島井 現在、国内におけるEC店舗数は200万店を超えていますが、売上が確保できているのは上位5%の層だと言われています。つまり95%の層は何らかの課題を抱えているということ。Pearとして貢献したいのは、この95%に入る小規模のEC事業者層です。そのために、今後1〜2年かけて、オムニコアを使った月額1万円のフルオートコンサルティングサービスを導入したいと考えています。

月額1万円であれば、地域の特産品を打ち出したい行政やハンドメイド品を販売する主婦層にも活用していただけるのではないかと思っています。

――Pearとしての今後の展開を教えてください。

島井 短期的には、東京に拠点を作り、私が東京に行かずとも営業できる体制にしたいと思っています。現在は私を含め3人の役員が営業・人事・ファイナンス・マーケティングなどを一手に担うマルチタスクになっているので、それぞれの業務を切り分けて責任者を立てられるよう採用にも注力していきたいですね。
長期的には、中国や韓国などに照準を合わせて海外展開することも検討したいです。また、スタートアップの世界では、時価総額1,000億を超えて初めて、世の中を変えるサービスになりうると言われます。1,000億円のユニコーン企業になって、将来的には上場を目指したいですね。

――島井さんご自身として、ここ福岡でどういう存在でありたいですか?

島井 これまで、福岡のスタートアップシーンは注目されてはいるものの、目立ったプレイヤーや実績が少ないという現状がありました。でも最近、10代や20代で起業する人が増えています。話を聞くと、私の影響を受けているケースもあって、これは素直に嬉しいです。起業したいと思う若い世代がたくさん出てくるように、Pearとして成功事例を作り、先輩起業家として活躍していきたいと思っています。

 

[プロフィール]
島井 尚輝(しまい・なおき)さん
平成6(1994)年生まれ。九州工業大学情報工学部卒業。在学中に、学園祭情報配信サービス「学フェス」のWeb開発とマーケティングを2年間経験した後、学生クリエイターのクラウドソーシング「HorseTail(ホーステイル)」を創設。フリーランスとしてのWebサイト制作・運用を経て、平成29(2017)年8月に株式会社Pearを設立。

アクセスランキング