「福岡はラーメン鎖国状態」と語るラーメンマニアに、その真意を聞いてみた 

福岡グルメの代名詞「博多ラーメン(豚骨ラーメン)」。白濁した濃厚なスープにからむ極細麺、そして替え玉という独自のスタイル。その人気は今や国内のみならず、ニューヨーク、ロンドンなど海外でも多くの“ファン”を持つほどです。

福岡県出身で東京都在住の会社員・坂本二郎さんは、知る人ぞ知るラーメンマニア。日本全国47都道府県のラーメンを食べ歩き、徹底して“食べる側目線”に立って綴るラーメンブログ『拉麺本位』は、平成20(2008)年に「Yahoo! JAPANラーメンブログ王決定戦」で「おもしろラーメンブログ賞」を受賞。平成27年より、グルメキュレーションマガジン『メシコレ』でも連載を開始。現在も、福岡と東京の2拠点を中心に、ラーメンの魅力を発信中です。

そんな坂本さんに、福岡のラーメンについて語っていただきました!


■ラーメンマニアが明かす、豚骨王国の実態とは?

――まずは全国のラーメンを食べ歩いている坂本さんにとって、福岡人のラーメンに対するスタンスについてお伺いしたいのですが。

坂本 もちろん福岡の方はラーメンについて愛情やこだわりを持っているわけですが、反面、非常に閉鎖的で保守的でもあります。いわば福岡って、ラーメンに関しては“鎖国”状態だと思うんです。

――さ、さ、鎖国!!(絶句) 

坂本 落ち着いてください(苦笑)。福岡では、よく「豚骨」と「非豚骨」というジャンルの分け方をされるのですが、どこか福岡市民は、豚骨ラーメン以外はラーメンと認めない風潮があります(一口に豚骨ラーメンと言っても様々な種類がありますが)。だから福岡に他のジャンルのラーメンが入り込めない。

――でも、それは福岡のラーメンのレベルが高いからでは?

坂本 もちろん福岡の(既存の)ラーメンは美味しいです。それにしたって、です。シェアの約8割が豚骨ラーメンという状況は、他の地域では考えられません。いわば豚骨ラーメン一人勝ち状態で、ラーメンに限っては、あまりにも偏り過ぎている印象は否めません。

――なるほど……そもそも、一体なぜ福岡はラーメンに関して “鎖国”状態になってしまったのでしょうか?

坂本 まず、地元愛が強すぎるということは無関係ではないでしょうね。ホント、福岡って福岡大好きな人が多いですから。「自分が食べ慣れている味が一番」、「俺はこれが好きだからこれでいいんだ」という基本スタンスがあって、そこがラーメンに関して保守的な空気を醸成してしまっていると見ています。

――福岡人と言えば、来るもの拒まずのオープンマインドが特徴なのに……。他にも理由はございますか?

坂本 他のジャンルのラーメンが進出できない要因としては“価格”も大きな壁になっていますよね。東京だと一杯700~800円は当たり前だし、1000円超えてしまう場合も珍しくない。でも博多ラーメンって安いじゃないですか。替え玉しても600円ぐらいで済んでしまう。その価格帯でなおかつレベルの高い福岡で、外から来て成功するのって、まぁ難しいですよね。ただ、みなさんご存知のように、キャナルシティ博多にある「ラーメンスタジアム」には、全国でも知られているような有名店が入れ替わり立ち代わりやってきていますよね。で、ラーメンスタジアム自体はとても賑わっている。だけど、こういったちょっと高めのラーメンは、福岡市民にとっては、あくまでも「特別な日」の外食扱いですし、決して普段使いの店にはならない。要は、地元に根付かないんです。

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■本場の豚骨ラーメンは、意外にもあっさり?

――そんな坂本さんはどんなラーメンが好きなんですか?

坂本 もちろん豚骨ですよ(即答)

――えっ、そうなんですね(笑)。なんか安心しました。

坂本 とはいえ僕は“邪道”なんですけどね。

――邪道というと?

坂本 福岡人が引くほどの濃厚系が大好きなんですよ。「濃厚民族」って自称するほどに(笑)。そもそも博多ラーメンというと、一般的に“こってり”したイメージを持つ人が多いと思いますが、実は、福岡の豚骨ラーメンは意外にあっさりしているし、そちらの方が多数派です。博多ラーメンのルーツは久留米なんですが、久留米も古いお店はあっさり系ですよね。福岡市民で僕みたいな「濃厚民族」は少数派です。僕のイチオシの店に地元っ子を案内すると「濃すぎて食えんばい」「あそこは濃いけん、好かん」と言われちゃうくらいですから。

――ちなみに、坂本さんがお好きな福岡のラーメン屋ってどちらになりますか?

坂本 そうですね、僕が豚骨系でオススメするのは、「魁龍 博多本店」です。“どトンコツ”というキャッチコピー通りに、とにかく骨臭さと骨の含有量がハンパない。ほかには、骨粉のザラザラ感も感じさせる「博多一双」も期待を裏切らない味です。非豚骨では、醤油ラーメン・塩ラーメンの店「中華そば かなで」は、豚骨一辺倒の福岡ではかなり健闘しているお店で、僕自身も好きなお店のひとつです。

坂本さんが愛してやまない「魁龍 博多本店」の“どトンコツ”な一杯
坂本さんが愛してやまない「魁龍 博多本店」の“どトンコツ”な一杯

――そもそものお話、ラーメンの食べ歩きをするようになった明確なきっかけってございますでしょうか。

坂本 ありますよ。あれは平成13(2001)年のこと、出張で東京に来た時に、新宿の某行列のできる有名店で食べたことがすべての始まりです。地元の福岡で食べていたラーメンとは180度違った魚介醤油味でした。ええ、かなりの衝撃を受けました。正直言って、「すごく美味しい」と感じたわけではありませんでしたが、「こういうラーメンもあるんだ、面白い」と思ったんですね。福岡に帰ってからも食べ歩きをするようになったのはそれからです。

――「すごく美味しいわけでないけど面白い」がきっかけになったんですね。それはそれで面白いお話です。

坂本 そこなんですよ! 僕が、福岡の人が損をしているなぁと思うのが、あまりに多様性を排除している結果、ラーメンが持つ本当の面白さを知ることができていない点。たしかに豚骨は最高に美味しいラーメンですが、それだけで満足している状況が本当に惜しい。だって日本中には、ホントに面白いラーメンがいっぱいあるんですよ。ラーメンの一大消費地である東京はもちろんですが、京都、大阪、さらにお隣の北九州市にも、まだまだ面白いラーメンがたくさんある。もっとも中にはまずいのもありますけど、そういう多様性を受け入れる土壌があれば、福岡のラーメンってもっと上のレベルを目指すことができると思うんですよね。

――さらに発展するためには、“ラーメン鎖国”を解くしかないと。

坂本 ええ。福岡は人口でも神戸を抜いて、今や日本五大都市の仲間入りを果たしています。しかも「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されている、非常にポテンシャルが高い都市です。であれば、ラーメンだって、もっと柔軟に色々なスタイルを取り入れていいですよね。もちろん、昔から同じ味をずっと守っているような古いお店もあっていい。いや、むしろそういう店はずっと残っていてほしいと思います。ただ、他の選択肢がもう少し増えてもいいじゃないですか。いろんなラーメンが福岡に上陸してほしいですし、福岡の人達にいろんなラーメンを楽しんでほしい。たとえばですが、煮干しラーメンのように、豚骨ラーメンと差別化を図った、全く違うジャンルのラーメンなら、受け入れられる余地はあると思います。僕は、福岡市民のラーメン観を、ぶち壊してくれるような、“ラーメン維新”を待ち望んでいます!

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【プロフィール】
坂本二郎(オゴポコ)
福岡県出身。平成13年、東京出張中に出会ったラーメンに衝撃を受け、地元・福岡でも、食べ歩きを開始。平成17年から始めたブログ『拉麺本位』は「Yahoo! JAPANラーメンブログ王決定戦」で「おもしろラーメンブログ賞」を受賞。平成21年には全国47都道府県制覇後も、福岡と東京の2拠点を中心に、ラーメンの魅力を発信中。「福岡のラーメンが、もっと面白くなってほしい」という思いから、あくまでも食べる側の視点でのラーメン情報を発信中。平成27年より、グルメキュレーションマガジン『メシコレ』でも連載を開始。自称“濃厚民族”と称するほどの濃厚豚骨好き。

【関連リンク】
ブログ「拉麺本位」
http://ramen-standard.seesaa.net/
食通の厳選グルメキュレーションマガジン「メシコレ」
https://mecicolle.gnavi.co.jp/curator/ogopoco/

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