「福岡のクリエイティブの底力を示したい」 クリエイティブコミュニティのキーマンが語った10年目の決意

福岡のIT・クリエイティブコミュニティの中心人物の一人、山田ヤスヒロさん(通称・やいぶさん)。親しみやすいキャラクター、歯に衣着せぬ率直な物言い、コミュニティ愛に溢れた行動力で、人望を集めています。

そんなやいぶさんが代表を務めるデザイン会社「ブランコ株式会社」は、平成28(2016)年4月で設立10周年。ウェブデザイン、グラフィックデザインから、クライアント企業のブランディングまでを手掛け、成長を続けてきました。

昨年3月には自社メディア「SWINGS(https://bulan.co/swings/)」を立ち上げ、ほぼ毎日クリエイティブなニュースを配信。今年はスタッフの増員と事業所拡大も予定しており、着実に“福岡クリエイティブ界隈”での存在感を増してきています。

今回は、福岡のIT・クリエイティブコミュニティと深く関わり、盛り立ててきたやいぶさんに、会社のこと、ご自身のこと、そしてこれからの福岡のことをお伺いしました。

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――創業10周年おめでとうございます。まずは、会社を立ち上げた経緯を聞かせてもらえますか?

やいぶ はい。ブランコ株式会社は、平成18(2006)年4月に僕がひとりで立ち上げた会社です。そもそも僕は、インテリアデザイナーでキャリアをスタートさせたのですが、その後、どういうわけか、建設会社の現場監督や、父親の建築関係の会社で、リフォームの営業マンをすることになったんですね。最終的に “後継ぎ”というポジションで仕事を続けていたのですが、元々やっていたデザイナーで食って行きたくて、仕事の傍ら、趣味でコツコツとウェブサイトを作ったりしていました。結局10年間、建築業界で仕事を続けましたが、デザイン業界に戻りたいという気持ちを抑えきれず、何のあてもないまま独立することにしたんです。

――そんな経緯があったんですね。

やいぶ ええ。今考えると、インテリアデザイナーや現場監督、営業マンという職業も、すごく今の仕事に生きていると感じることが多いので、人生って面白いなって思いますよ。ただ、独立してからはしばらく大変でした。当初のオフィスは自宅の一室で、初年度の年収はたった97万円(笑)。食うのも困る状況でした。仕事があまりないから時間を持て余して、それで福岡のIT・クリエイティブコミュニティにも関わるようになったんです。

――営業活動も必要ですしね。

やいぶ ただ、初めての場所で名刺を配って愛想を振りまくのは、もともと性に合わないんですよ(苦笑)。だから単に飲み会などで親睦を深めるだけじゃなく、勉強会に参加したり、自分でも勉強会を主催したりして、実りある活動を増やしていきました。株式会社ヌーラボの橋本正徳さん、特定非営利活動法人AIP村上純志さんや、市江竜太さんといった、福岡のIT・クリエイティブコミュニティを作ってきた人たちとは、みんなその頃に知り合いましたね。ここから、テクノロジーとクリエイティブを掛け合わせた街中のフェス「明星和楽」や、毎年恒例となったクリエイティブコミュニティ大忘年会も生まれていったんです。

――なるほど。それで、仕事の方もコミュニティ界隈から広がっていったんですか?

やいぶ いや、仕事はまた別ですね。そこは“付き合い”だけでは広がりません。僕は、コミュニティ界隈ではちゃらちゃらしたキャラですが、デザインに対してはすごくストイックな方だと思いますし、ユーザーのためになるクリエイティブ、かつ美しくてクールなものを徹底的に追求したいと思っています。

――そうした深い探究心、さらに仕事の実績から依頼も増えていったということでしょうか。

やいぶ そうだと思っています。おかげで、取り立てて営業しなくても、仕事をいただけることが多くなってきました。いまでは、仕事のうち6〜7割が東京のクライアントで、三菱地所さんをはじめ、多くのナショナルクライアントともお付き合いさせてもらっています。

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――そういう意味では10年間、順風満帆に規模を拡大してきたわけですね。

やいぶ いやいや、そうでもないんです。実は一度、ブランコは危機的状況に陥って、空中分解しかかってるんですよ(苦笑)。

――そ、そうなんですか!? それはまたなぜ?

やいぶ いまから3年ぐらい前ですが、僕が(社外の)コミュニティ活動に力を注ぎすぎて、会社内のコミュニケーションが滞るようになり、スタッフもどんどん抜けてしまったことがありました。その頃は、僕もまだデザイナーとして現場の最前線にいたので、行き詰まったら「俺がやる!」と言って引き取るケースも多く、そのスタンドプレーっぷりにスタッフの心が離れていってしまったんですよね。そんな時、株式会社グルーヴノーツの最首英裕さんから言われたことで、とても印象に残ったことがあって。

――それはどんなことですか?

やいぶ 「福岡の人は、“福岡のために”と言う人が多いからすごいよね。東京の人は、“東京のために”と言う人はいないんですよ。でも、自分の会社が大きくなることで、結果的に東京のためになっているんです」という言葉です。僕は痛烈な皮肉と受けとりました(ご本人にはそんな意図はなかったようですが)。

――“自分の会社の成長よりも福岡のために一生懸命になるなんて…”と聞こえたわけですね。

やいぶ その言葉で目が覚めて、「福岡をよくしたいなら、まず自分の会社をよくして、地域の中で突き抜けた存在にならないと」と考え直したんです。幸い、その頃に優秀なスタッフたちが入ってきてくれて、僕もこれまでの少数精鋭スタイルから大きく意識を転換。僕が直接手を動かすことを徐々に減らしていき、クリエイティブディレクション、アートディレクションと品質管理に徹底して、組織力で仕事を回していくようにシフトしたんです。現在は、「世界一素晴らしいクリエイティブを生みだすデザインファームになる」という目標に向かって邁進しています。

――大きな目標を掲げられてるんですね。ところで、ブランコさんといえばウェブメディア「SWINGS」を運営し、しっかりと取材した質の高い記事を、ほぼ毎日アップしています。デザイン会社が、メディアを運営する目的は何なのでしょうか。

やいぶ 「SWINGS」の読者ターゲットは、福岡に住む学生やクリエイター、クリエイターの卵たちです。僕はこれまで、優秀な学生が就職活動で東京に出ていってしまうことをすごく悔しく感じていたんです。福岡にも質の高い仕事をしているクリエイターやクリエイティブオフィスは多いのに、それを知らないまま、漠然と東京を目指してしまう。その前に、福岡のクリエイティブをもっと知ってもらう必要があると考え、「つくる」というテーマでメディアを立ち上げたんです。若い世代が福岡のよさに気づいて、福岡で育っていくことが、将来的には福岡のクリエイティビティの底上げにも繋がるはずです。県外からいい人材を呼び込むことも重要ですが、そもそもの話として流出してしまう人を止めなければ、穴の空いたコップに水を注ぐようなものじゃないですか。

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――おっしゃる通りだと思います。

やいぶ メディア運営は、その点を変えたかったのがひとつ。それからもうひとつの目的は、自前のメディアを持つことで、いろんな実験ができるということです。例えば、記事の書き方や見出しの位置ひとつとっても、サイトのアクセス数や回遊率に反映されます。そういったデータを分析していけば、次にクライアントにサイト提案をするときの説得材料として使えます。それに、自社メディアを持っていること自体が会社の宣伝にもなる。記事を通じて「うちはこういう視点で物事を見ている、こういう姿勢でデザインを捉えている」ことを社内外に示すことは、信用やブランド力の向上にもなるわけです。メディアの運営は、費用対効果が計りにくいものですが、実感としては大きなメリットがあると感じています。

――お話を伺っていると、やいぶさんには一貫して、福岡のコミュニティに貢献したい、福岡をよくしたいという強い思いがありますよね。その気持ちはどこから来るんでしょうか?

やいぶ 「地域に貢献」なんていうと政治家みたいですが、その思いはたしかにあります。ただ、“滅私奉公”的な気持ちはまったくないんです。むしろ、僕はすごく自分本位な人間。自分が幸せでいるためには、まず家族を幸せにしないといけない。次にスタッフ。そのためには、いい仕事をして、会社を成長させないといけない…そんなふうに、自分本位をどこまでも突き詰めた結果、福岡をよくしたいという意識になっていったということです。

――なるほど。自分から始まる輪を拡大させていったら、福岡の街にまでたどり着いた、と。

やいぶ ええ。Mr.Childrenの「彩り」という曲の歌詞に、好きな一節があります。

《僕のした単純作業が この世界を回り回って まだ出会ったこともない人の笑い声を作ってゆく。(中略)なんてことのない作業が 回り回り回り回って 今僕の目の前の人の笑い顔を作ってゆく》

クリエイティブな仕事の価値って、こういうことだと思うんですよ。僕が家族を笑顔にし、スタッフを笑顔にできれば、福岡を笑顔にできると。

――素晴らしいですね。ではそんな福岡の、現状の課題をどう感じていますか?

やいぶ この10年で、福岡のコミュニティは大きく育ちましたし、明星和楽も数千人規模を集客できるイベントになって、いい盛り上がりを見せていると思います。ただ、まだまだ足りません。目立つ成功例が少ないし、みんなが憧れるスターのような存在も、もっと必要です。福岡は「スタートアップ都市宣言」以降、行政が旗を振って盛り上げていますが、本来は民間からもっと突き上げていかないといけません。民間で次々にサービスが起こって、それに行政が追随するぐらいの方が、街は面白くなる。例えばアメリカだったら、ニューヨークは“金融とサービスの街”、シリコンバレーは“テクノロジーの街”、ポートランドは“DIYとコーヒーの街”というように、それぞれ(民間から)自発的に生まれてきたサービスが街のカラーとして定着し、街自体のブランディングにも繋がっているじゃないですか。

――ええ、確かに。

やいぶ 福岡はそれができる可能性がある都市だと思っています。日本はあらゆる分野が東京に一極集中し、過密な状態ですが、これは福岡にとってはチャンスでもあります。東京はいい都市だと思いますが、クリエイティブを生みだすのに最良の環境かというと、そうじゃないんじゃないかなって疑問もあります。それに気づき、福岡に軸足を移す人も増えてきました。福岡はいま、日本で唯一「クリエイティブ都市」としてのブランディングに成功できる可能性に満ちているわけです。日本全国どこの仕事でも、「質の高いクリエイティブが必要なら福岡に発注しよう」という流れを作っていきたいし、そのために僕らも先陣を切って、頑張っていこうと思っています。圧倒的なクリエイティブの高さを、福岡全体で示していきたいですね。

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――期待しています! ちなみに5月20日(金)には、ブランコさんの創業10周年パーティーがあるそうですね。

やいぶ そうなんです。僕がどうもかしこまった形が苦手でして、今回はクラブを貸し切って開催することとなりました。気軽に楽しめる、誰でも参加可能なイベントですので、ブランコを知らない人もぜひお越しください。

 

【プロフィール】
山田ヤスヒロ(やまだ・やすひろ)さん
ブランコ株式会社代表取締役CEO/CCO、アートディレクター、二級建築士。昭和48(1973)年福岡市生まれ。インテリアデザイナー、現場監督、建築営業マンを経て、2006年にデザイン事務所ブランコ株式会社を設立。企業ブランディングを軸に、ウェブデザイン、グラフィックデザインを強みに事業拡大し、現在は売上1億円、社員数18名。また、福岡IT・クリエイティブコミュニティの中心人物の1人として、毎年春に行う大花見と年末の大忘年会を主催している。

【関連リンク】
ブランコ株式会社
https://bulan.co/

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