地方で「PR上手」になるには? 域外への情報発信を進めるPR TIMES×福岡市の取り組み

地方で日々生まれるたくさんの面白いビジネスやアイデア、集まってくる人材。こうした情報を域外に発信していくには、どうしたらよいのか。福岡市だけでなく全国の地域が抱える課題の解決に向けて、新たにヒントとなるような動きが生まれました。去る9月15日、福岡市とプレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESがスタートアップ支援に関する連携協定を結んだのです。

(写真)協定書を持つPR TIMESの山口代表、福岡市の高島市長

「福岡市のスタートアップ企業のPR分野の成長支援や情報発信・収集を図る」ことを目的に締結されたという協定の背景や、オンライン記者クラブ「POST」などの施策を通してどのような未来を描いていくのか、担当者にお話を伺いました。

かつてと違い、企業は自力で情報発信できる時代へ

(画像)PR TIMESのウェブサイト

本題に入る前に、まずPR TIMESについての紹介を。同社は平成19(2007)年4月から、報道機関向けの発表資料(プレスリリース)の配信サービス「PR TIMES」をスタート、あわせて同社のウェブサイト及びパートナーメディアに掲載するサービスを提供してきました。利用企業数は平成30(2018)年10月に2万6,000社を突破、国内上場企業の34%が利用しています。

かつては企業の情報発信——いわゆる「広報」や「PR」といった施策には、メディアへ独自にアプローチしたり、記者会見を開く必要がありました。しかしプレスリリースがオンライン化し、誰でもアクセスできるようになったことで、企業が自力で情報を発信するハードルが下がり、メディアも面白い話題のタネを見つけやすくなりました。

今回お話を伺ったのは、同社取締役・経営企画本部長の三島映拓(みしま・あきひろ)さんと、マーケティング本部グループマネージャーの小暮桃子(こぐれ・ももこ)さん。

——まず、今回福岡市との連携協定を結ぶことになったきっかけから教えてください。

三島 大きなきっかけとなったのは、平成30年4月に当社が行ったITスタートアップニュースメディア「THE BRIDGE」の事業譲受です。福岡市のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」に拠点を持つ「THE BRIDGE」は、福岡市が支援しているクリエイティブとテクノロジーの祭典「明星和楽」にも平成23(2011)年の第一回開催時からメディアパートナーとして関わっていました。

我々としても、地方やスタートアップの情報を汲み上げることは長年の課題と考えていましたし、福岡市にはWebサービス系のスタートアップが集まっていながら情報発信に苦戦している企業が少なくありませんでした。そこで福岡市とタッグを組んで、地域情報の流通を促す具体的な施策を始めることになったんです。

地方の情報発信が広がるルートがない

(写真)PR TIMESの三島映拓さん

——地方からの情報発信の課題は、どこにあるとお考えですか。

三島 地方の情報が流れるルートです。地方企業の多くは情報をメディアに載せてほしいと思っても、アプローチ先が地方紙や地方のテレビ局に終始してしまっている現状があります。そこで取り上げられたとしても、全国に情報が広がるルートがない。また、メディアや記者も東京に集中していますから、メディア側もなかなか地方の情報を吸い上げることができないんです。

小暮 情報発信の手段としてプレスリリースの存在が認知されていないというのも課題です。事実、「PR TIMES」を活用いただいている企業も都内が圧倒的な数を占めています。地方に支社はあっても、広報機能は東京本社というケースも多く、地方の企業にプレスリリースのご説明をすると「えっ、そんなサービスがあるんですか?」と驚かれる方もいらっしゃいます。

「行動者」こそ情報発信が必要である

——では、スタートアップの情報発信という視点では、どんな課題があるのでしょうか。

小暮 事業を始めたばかりの企業は、情報発信に割くお金や手間が足りないという点は否めないと思います。当社では会社設立24カ月目までのスタートアップに、設立毎月1回プレスリリースを無料で配信できる「PR TIMES スタートアップチャレンジ」というサービスを提供しています。

三島 スタートアップは際立ったサービスを提供する企業が多いだけに、予算の都合で情報が世に出ないのは誰にとってもマイナスです。「PR TIMES」は、世の中に出るどんな小さな情報も集まるような場にしたいという思いがあります。

当社は昨年、「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」というミッションを掲げましたが、ここで言う「行動者」とは何も大企業や有名企業に限らず、生まれたばかりのスタートアップや地方でレストランを経営している人も含まれます。私たち自身、ずっとこの「行動者」の情報に価値があると考えてきました。

PR力は、新たなターゲットの気づきにつながる

(写真)PR TIMESの小暮桃子さん

——御社では2年ほど前から地方銀行との連携を進めているとうかがいました。取り組みの中で見えてきたものはありますか。

小暮 平成29(2017)年5月の京都銀行との業務提携を皮切りに、地域情報を流通させるための枠組みづくりに取り組んできました。地銀には、地方企業へ融資を行う際に企業の強みや将来性を精査するための情報が集まってくるんです。そうした情報をもとに企業をご紹介いただき、PRを支援しています。私が担当したケースでは、京都のとあるコーヒー店がプレスリリースによるPRを始めたところ「新たな顧客ターゲットの存在を認知できた」という声をいただきました。

当初、お店では「コーヒー好き」やそうしたターゲット層をもつメディアを想定したPRに取り組んでいましたが、幅広いプレスリリースによって主婦系のメディアからも取材があり「主婦が休憩がてらに立ち寄りたいカフェ」として紹介されました。お店の方は「こんなメディアを読んでいる人にも、うちのお店は魅力的に映るのか」と驚きました。

三島 「もっとお金や手間がかかると思っていたけれど、やり方を知らないだけだった」というケースは、少なくありません。PRは地方でもできるんです。とはいえ、プレスリリースの存在自体を知らない方々には、導入のハードルが高いので、まずは地方で信頼の厚い地銀と連携することで、そこからプレスリリースの存在を少しずつ浸透させています。この先は、ECなど域内だけでなく域外に顧客を持つ企業にアプローチして、域外への情報発信の重要性に気づいてもらう必要があると感じています。

地方の「PR下手」を払拭するための取り組みをスタート

——今回の福岡市との連携協定の締結により、具体的にどのような取り組みが始まるのでしょうか。

三島 現在考えているのは、ジャーナリスト、メディア関係者からなるオンライン記者クラブ「POST」との連携やオンライン記者発表会の活用です。「POST」はスタートアップやメディア、ブロガーが参加するオンライン上のメディア・ネットワークで、ここには企業と発信者をマッチングするプレスデスクが置かれています。企業は情報を発信できるし、メディアは取材先の発掘ができます。「POST」なら、東京のメディアと地方企業をつなぐ役割を担えると思います。オンライン上で関係をつくる場として活用してもらいながら、両者がコミュニケーションを取ることで情報の精度を上げていくところまで持っていけたら理想的です。

小暮 プレスリリースのレベルを上げるために、勉強会の開催も定期的に行います。12月5日には「Fukuoka Growth Next」でセミナーを開催する予定です。プレスリリースの作成はプロに頼むこともできますが、やはりサービスの作り手自身が自分の言葉で発信する方が確実にその熱量が伝わりますから、ぜひPR力をつけていただきたいと思っています。そうして「福岡市はスタートアップが元気で、PRも上手いよね」と言われる地域にしていきたいですね。

身の回りの「当たり前」を疑うことで、地方の話題のタネを掘り起こす

——今回の連携協定の締結は福岡市、ひいては全国に「地方からの情報発信」という視点でどのようなインパクトをもたらせられるでしょうか?

三島 企業が情報を発信すべき大切なステークホルダーは消費者やメディアだけではありません。それは時には株主だったり、社員だったり、社員の家族だったりします。「行動者」の規模は違えど、何か新しいものを作ったり、新しいサービスを始めたなら、きっとそうしてスタートラインに立った事実を大事な人に伝えたいと思うはずです。

今回の連携協定は、地方においてもそうした企業と消費者、社員、投資家というあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションが重要であることを改めて考えるきっかけになると思いますし、福岡市でそうした流れが生まれることで「うちの地域でもチャレンジしてみようか」と思う自治体も出てくるかもしれません。そのためにも、地方にもたくさんの話題のタネが転がっていることに気づいてもらう必要があると思います。

——PRそのものに苦手意識を持つ地方の企業は少なくないと思います。そうした人たちが自分たちの価値に目を向け、発信する癖をつけるにはどうすれば良いのでしょうか?

三島 一度身の回りの「当たり前」を疑ってみてほしいんです。単に新商品を開発したという事実だけでなく、どこかから資金調達をしたことだったり、優秀な人材を採用したことだったり、情報にはいろいろな形があります。もしかしたら、地元では当たり前だと思っていた習慣が、他の地域からするととても物珍しいものかもしれません

小暮 情報を受け取る人の姿を常に想像してもらうことで、新たな価値に気づくこともあると思います。福岡市でPRの面白さを学んだ人がどんどん広がってコミュニティができ、また新しい動きが生まれたらいいですね。

 

【関連イベント】
「今さら聞けない 広報の考え方から実例のお話し」
日時:12月5日(水) 19:00~21:00
場所:Fukuoka Growth Next 1F スタートアップカフェイベントスペース
ゲスト:五十川 慈氏(株式会社ヌーラボ広報 兼 コミュニティマネージャー)、千田 英史氏(PR TIMES, Inc.エクスペリエンスデザイングループ ディレクター)、小暮 桃子氏(PR TIMES, Inc. マーケティング本部 営業戦略グループ ユニットマネージャー)
URL:https://growth-next.com/event/13250

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