“ド”ローカルから世界へ羽ばたく福岡発コンテンツ ヒットの背景にはエンタメ向きな市民性があった? KOO-KI 代表取締役 木綿達史さんに聞く

昨年(平成25(2013)年)に、東京オリンピック招致VTR『Tomorrow begins ~未来(あした)がはじまる~』で一躍全国に名を知らしめた空気株式会社(KOO-KI)。“面白い”映像作品で知られるクリエイター集団KOO-KIは福岡市に拠点を置く会社です。22人ほどの小規模な会社が、日本全国はもちろん、世界でも高評価のコンテンツを生み出せる理由とは?
今年9月から代表取締役に就任したばかりの木綿達史(もめん たつし)さんにお聞きしました。


――KOO-KIは、九州・福岡市という地方都市にあるにも関わらず、カンヌ国際広告賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を得ています。海外向けの作品の場合、日本向けと表現手法を変えているのでしょうか?

木綿 海外向けの作品の場合には、思考が異なるので、たとえば日本のダジャレなど日本の流行・文化に依拠したものは、海外では通用しないというのはあります。海外の人の方が、メタファー(暗喩表現)が得意なようなので、セリフや字幕テロップを使用しないで、ノンバーバル(非言語)な方が海外で受ける、というのはありますね。ただ、僕個人の感覚では、そういう技術的なことよりも、一番大事な“根っこ”の部分が面白ければ、海外でも通用するのではと思います。変にグローバルを意識するのではなく、まずローカルで面白いものを作り、それが世界に行く方が自然でいいのではないかと。テレビ西日本で放映された連続ドラマ『めんたいぴりり』も、福岡市の明太子屋のお話ですが、アジア2カ国で放映されています。“ド”ローカルでも普遍的な面白さ・グっとくる所さえつかめれば、広告にしろ、オリジナルコンテンツにしろ、世界へも通用するのではないかと感じています。

――1997年のKOO-KI 設立当初は社員数5名ほどで始めたそうですね。

木綿 現会長の江口カンをはじめ、設立メンバーが福岡市で活動していたのが、KOO-KIのそもそもの始まりですね。18年前は、ちょうどモーショングラフィックス(従来のグラフィックデザインに、動きや音を加えたもの)の出始めで、パソコンで映像を制作できるようになった初期の段階。なので、そういうものを作っているだけでちょっと目立っていて、福岡にいながらにして、東京の仕事を取れたんですよね。結果として『あれって福岡の会社が作っているんだ?』と、逆にトピックになり、10年目を過ぎたあたりから、東京に出ようかな、という意識はなくなっていました。

木綿さん

――KOO-KIは、福岡市にある九州芸術工科大学(現・九州大学)を卒業した江口カンさんと共に立ち上げられましたが、江口さんとの関係についてお聞かせ下さい。

木綿 当時の九州芸術工科大学は、理系と美術系の両方をやっているという全国でも類を見ない、変わった人が多い大学でした(笑)。理系の発想でアートをするというインタラクティブなはしりだったかもしれません。設立者の江口はまさに『江口=KOO-KI』、当社の広告塔だった人物で、僕自身も『江口チルドレン』と言うほど、江口の影響を受けています。僕も江口と18年も一緒にいると感化されてきました(笑)。典型的な九州人タイプというか、とくに江口がそうなのですが、福岡市には『祭りが好き、飲み会が好き』といった『人を楽しませる』ことが好きな人、いわばエンタメ向きな人が多く、面白い人が活躍できる土壌があるような感じを受けます。

KOO-KIの社員数は、現在は22人ほどですが、30人前後までは増やしていくつもりだそうです。江口さんも福岡県出身で、社内の3/4は九州出身者が占めるのだとか。実は石川県出身の木綿さんは、大学進学の際に福岡市に住み始めてから、今年で23年目。

――近年、福岡市には移住者が増加していますが、木綿さんのように学生時代を福岡市で過ごした方や、もともと出身が九州で地元に帰って就職した方など、何かしら福岡市にゆかりがある方も多いようです。現在、仕事を持って働いている人の場合には、今の仕事を捨てて、いきなり知らない環境に移住となるとハードルが高く、なかなか移住に踏み切れない人もいそうですが?

木綿 そこにあえて行くような人、面白そうだからと縁もゆかりもない土地にも飛び込める人が、福岡市には集まって来るのではないでしょうか。移住というハードルを超えて来るような人達だからこそ、結果的に福岡市には面白い人が多いのかもしれませんね(笑)。一歩踏み込めない人に対しては、たとえ、その場所に居続けたとしても何かはアクシデントが起こるのだから、思い切って飛び出して福岡に住んでみては、と思います。

福岡市には、KOO-KIのように、クリエイティブで思う存分力を発揮できる場所・面白い人が活躍できる風土があります。少しでも興味を持たれた方は「福岡クリエイティブキャンプ」のような制度も上手に利用してみてはいかがでしょうか。


[プロフィール]
代表取締役社長 木綿 達史(もめん・たつし) さん
1973年、石川県生まれ。1997年、九州芸術工科大学(現・九州大学)画像設計学科中退。同年、江口カンさん(映像作家、現・代表取締役会長)とともに空気モーショングラフィックス(現・KOO-KI)を設立。2014年9月1日より、代表取締役社長に就任。主な作品に、NTTドコモCM「ドコモ甲子園」、『平井堅/切手のないおくりもの Music VIDEO』、任天堂『スーパーマリオブラザーズ20th Aniverssary 店頭VP』(BDA WORLD GOLD 2006銀賞)、TEDx Fukuoka『夫婦喧嘩を一瞬で回避する方法』など。

 

[関連リンク]
KOO-KI / 空気株式会社
http://www.koo-ki.co.jp/
東京オリンピック招致VTR『Tomorrow begins ~未来(あした)がはじまる~』を企画・制作したことで一躍名を知らしめる。2008年、『NIKEiD [escort]』が、カンヌ国際広告祭で銅賞。2009年、『LOVE DISTANCE』が同広告祭で金賞を受賞。熊本県の双和食品工業CM『餃子の王国』は、地方にも関わらずハイクオリティが話題に。江口カンさん監督のTVドラマ「めんたいぴりり」(TNC)。

ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ2014
http://fcc.city.fukuoka.lg.jp