LAで話題の「ROW DTLA」に出店した、福岡の文具メーカー「HIGHTIDE」。帰国後に語った、世界展開への手応え

耳の早い人なら既にチェック済みかもしれない、米ロサンゼルスの最新スポット「ROW DTLA(ロウ・ディーティーエルエー)」。アメリカンアパレルの工場跡地を再開発した複合施設で、アディダスなど世界企業が入居するオフィスや100を超えるテナントが軒を連ねています。そして今夏、ここに30坪オーバーの直営店「HIGHTIDE STORE DTLA」をオープンさせたのが、福岡発の文具メーカー「HIGHTIDE(ハイタイド)」です。

日本全国に1,500店舗以上の卸先を持ち、最近ではアジアをはじめ海外にも370社以上に卸先を広げているハイタイド。現在主力となっているオリジナルブランド「penco(ペンコ)」のイメージソースはアメリカ西海岸にあり、本場ロサンゼルスへの出店を足がかりに、本格的に世界展開を広げていくとのこと。今回は、オープニングを終えてLAから帰国したハイタイドの若き社長・竹野潤介さん(左)と、商品企画を担う永田悠宇さん(右)にインタビュー。ラフな着こなしがよく似合うTシャツ姿で、LAで感じてきたことを語っていただきました。

アメリカへの憧れ、そのさらに先へ

--初の海外直営店出店、おめでとうございます。ハイタイドは、長くアメリカ西海岸の雰囲気をまとう商品開発をしてきましたね。LAへの出店は、西海岸のカルチャーが福岡を経由して逆輸入されるようで、興味深く感じました。

竹野 ありがとうございます。ハイタイドはもともと、手帳の製作から始まったメーカーですが、先代である創業者が西海岸カルチャーに強く影響を受けた人で。創業してすぐに立ち上げたブランド「penco」は、アメリカに行った際に偶然見つけた、当時のアメリカを体現するような一本のペンをイメージの原型にしたものです。ハイタイド(=満潮)という名前の由来の通り、サーフィンも好きで、糸島のサーフスポットに店を作ったりもしました。(「wax store surf side」。現在は閉店)。そんな代表は今後を見据えて、「ハイタイドがこれからも永く愛されるブランドになるように」と、若い世代に経営を託しました。私が代表になって、現在3年目。“アメリカへの憧れ”からさらに一歩抜け出たものづくりで、世界中の人に愛される事業をしていきたいと思っています。だからこのタイミングでアメリカ出店を果たせたことは、とても意義深いと感じています。

--「ROW DTLA」とはどんなエリアなんでしょうか?

永田 元は工場があった場所ですからLAの外れで、商業地区ではないし、人が集まるような場所でもなかったようです。でも、現地でニューヨークから来た人も言ってましたが、ニューヨークでいうダンボやブルックリンのように、中心地から離れた場所で、若い人たちやアーティストが自分たちで街を広げていく例がアメリカには多くあるんですね。「ROW DTLA」のマネージャーもまだ30代で、一度あるプロジェクトを成功させた経験から、出資が集まり、今回のような大規模プロジェクトも任せられるようになったとか。これには、とても刺激を受けましたね。みんな若くて、才気煥発で、勢いがあって。可能性がどんどん広がっていくエリアだと感じました。

商品企画を担う永田悠宇さん

--注目のエリアに出店することになった経緯を教えてください。

竹野 近年、僕らは海外に呼ばれることが増えてきて、海外での売上推移も前期比145%にまで成長しています。海外のバイヤーが日本に来た時に僕らのブランドを見つけて、うちの国でも出店してみないか?とオファーをいただくんです。アジア圏でのポップアップショップの展開はすでに何度も経験しましたし、MoMA(ニューヨーク近代美術館)とも取引があって、バイヤーチームの数名がいつも僕らの動向を気にかけてくれてるんです。そんな流れの中で、ROW DTLAがテナントを決める際に、日本のブックストアや雑貨、カフェを展開する店舗の出店を希望されていて、僕らに声をかけていただきました。

HIGHTIDE ROWDTLAのinstagram。中の様子が紹介されている。
(「The Japanese know good design.(日本人はいいデザインをわかっている)」と紹介された、ROW DTLAの公式インスタグラム)

--LA店のテーマは「街の文具屋さん」とのことですが、ここにはどんな意味が込められているんでしょうか?

竹野 文房具の魅力って、気軽に買えて、持っているだけで自分の気持ちを上げてくれるところだと思うんです。学校の帰りに文房具屋に寄って、カラフルなペンを買ったり、そこで友達と話したり。それを持って学校に行くのが、いつもより少しだけ楽しみになったり。アイテムを通じてコミュニケーションや楽しさが生まれるのが、いいなと。そのワクワクを伝えられる空間にしたいと考えました。学生さんがカバンの中から取り出したアイテムが、使い込んだハイタイド製のものだった時の喜び。それが今でも僕らの原動力ですからね。

--海外でも評価されている強みを、どのように分析していますか?

永田 開発のテーマとして昔から変わらないのは、「奇をてらわず、飽きずに、長く使えるもの」を作ることです。そこに、新鮮さを加えていく。デザインはシンプルにし、カラーバリエーションを増やして、シリーズで揃えたくなるようにすることが多いですね。カラー展開を豊富にすると、自分の「好き」が見つけやすくなりますから。あとは、気軽に買えるように価格帯を抑えることも大事です。

竹野 今回は出店の前に、アメリカに視察に行きました。その時に感じたのが、アメリカの文房具は高級品か極端に安いものかの二極化が進んでいて、丁度いい品質と価格帯の商品がないこと。すでに商品数2,500種以上を持っている僕らなら、その需要をうまく満たせるんじゃないかと考えて、出店を引き受けました。

HIGHTIDE ROWDTLAの内観

福岡にいるから、自分たちらしくいられる

--なぜ品質と価格のバランスを程よく維持できるのでしょう?

竹野 もちろん、設計の段階からコスト計算はしっかりしています。それに加えて、工場をはじめ、二次加工を担うパートナーさんたちの協力が大きいですね。技術力や、前のめりに手伝ってくれる心意気に、いつも助けられています。特に、福岡の本社の近くにある製造パートナーさんは、細かい仕様変更や試作品作りにも根気よく付き合ってくれて、別注品など小ロットでの生産加工にも応じていただいてます。LA出店時にも、福岡の店舗設計のパートナーさんが、「社員旅行を兼ねて」現地まで自費で付いてきてくれて、内装の仕上げをしてくれたんです。アメリカは車椅子基準で全ての建築物が設計されているので、審査が厳しくて、現地での仕様変更を余儀なくされて困ったんですが、そのパートナーさんが現地のホームセンターまで材料を買いに走ってくれて、オープンに間に合うようにきっちり仕上げてくれて。僕らも感動したし、現地のお客さんもその空間の仕上げの丁寧さには驚いていましたね。こんな風に、僕らの夢を自分たちのことのように喜んでくれて、一緒に乗っかって協力してくれるのは、福岡特有の人間関係の近さなのかもしれませんね。

--竹野さんは出身が関西で、福岡にはゆかりがないと聞きましたが、福岡で事業を続けていくことにこだわっていますか?

竹野 ええ。福岡は首都圏よりもリラックスしているけど、カルチャーがあって、敏感な人たちが多くいます。しかも、横のつながりが強い。福岡に来た当初は、「全員友達なの?」って驚きましたから(笑)。自分のペースを守り、過度に力まずに、ちゃんと仕事としても成立させられるというのは、福岡ならではだと思います。だから、拠点を福岡から動かす気はないですね。ここにいた方が、ハイタイドらしい価値を作っていける気がするんです。

社長の竹野潤介さん

--では、今後の展望を聞かせていただけますか。

竹野 LA店に関しては、九州をはじめとした日本の文房具や雑貨を販売したり、自社商品のアメリカ全土への卸をするなど、アメリカ展開の拠点として位置付けています。出店と同時に、アメリカ法人も設立しました。情報感度の高い人たちからは、すでにいい反応をいただいています。でも、僕らは日常具としての文具という魅力を忘れずにいたい。だから、ハイセンスな人ばかりを相手にするのではなく、市井の人々にいかに受け入れてもらえるかを考えて、アメリカ展開を進めていきたいと思います。

永田 あとは、アジアをはじめとする海外の他地域への展開も考えています。台湾や中国、韓国などはもともと高く評価していただいてますし、福岡にいることの地の利を生かして積極的に展開できたらなと思います。

竹野 僕らの信念である、「心が満たされるモノづくり」はこれからも変わりません。その中で、日本人のフィルターを通した、気の利いた要素を加えていきたいですね。会社としての基礎体力はついてきたので、あとはやりたいことを大きくやっていきたい。僕らなりのこだわりを見せながら、新しいカルチャーを作っていきたいと思っています。

HIGHTIDE STORE DTLAの外観
(7月5日に行われた「HIGHTIDE STORE DTLA」オープニングイベントの様子)

 

[関連リンク]
公式インスタグラム
HIGHTIDE https://www.instagram.com/hightide_japan/
HIGHTIDE STORE DTLA https://www.instagram.com/hightidestore_dtla/

アクセスランキング