福岡愛こじらせインタビュー 「BOND小柳編集長、この街の弱点ってなんですか?」

“現実に、福岡は今、すごく人気がある。福岡にかかわった人は、皆、口を揃えて「福岡は最高だ!」と言ってくれる。しかし。なんかモヤモヤする”

福岡発のフリーペーパー『BOND』(No.15)にて、そんな複雑な思いを綴ったのは小柳俊郎さん。メディアプロモーションの「プロ」であり、BOND編集長を務める人物です。

『「福岡は元気だ」って何なのか。』と題された当該コラムで小柳さんは、そのモヤモヤについて、こうも綴っています。

“なぜか漠然と不安になる。まるで、本当は実力がないのに、外見と雰囲気で一気に売れてきちゃった「急上昇タレント」のマネージャーをしているような不安”(同誌より一部抜粋)

福岡は“実力”以上に持て囃されているのではないか。本当に福岡は「元気」なのか––––小柳さんは、そのような不安を吐露します。

そこで今回、#fukuokaは愛あるゆえの厳しい視点を持って小柳さんに直撃。福岡愛をこじらせながら、この街の弱点についてとことん聞いてきました!


◆あえて福岡を批判的に見てみたけれども……

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『BOND』(N0.15)に掲載された小柳さんのコラム

--まず“福岡人気”に関してモヤモヤしたとろこがあると書いた小柳さんのコラム、大変面白い視点だと思いました。

小柳 ありがとうございます。「BOND」というメディアの編集長として街を眺めていると、ずっとモヤっとする部分はあったんですよ。特にここ最近は妙に元気だし、全国的にも注目を集めることがある。そうすると、変な喩えですけど「急にブレイクしたぽっと出のアイドルのマネージャー」をしている気分になるんです。

--件のコラムにもそう書かれてましたね。

小柳 ええ。福岡はすごいって言われてるけど、本当に実力が伴ってるのか……いつか実力のなさがバレて、人気がなくなるんじゃないかという不安ですね。

--福岡愛溢れるあまりに、メディアの“中の人”として、「福岡はちょっと浮かれてるんじゃないか」とついつい言いたくなったという感じでしょうか?

小柳 う〜ん、まぁそうですね。でも、あの時はそういう気持ちはあったんですけど、現時点でいうと、また別の見方になってたりするんですよねぇ。

--と申しますと?

小柳 結局、福岡の人って究極の「褒めて伸びるタイプ」なんですよ。あの記事ではチクリと言ってますけど、ああいうこと書いても福岡の人には効果ないだろうし、そもそも意味がないのかなと。

--たしかに福岡の方は、福岡のことが大好きで、街のことを褒めると喜びますよね。それがいいことなのか悪いことなのかは別として。

小柳 ええ。

--仮に悪く作用したと考えると、「慣れ合い」みたいなことになったりはしないでしょうか。

小柳 慣れ合い、ですか……。

--褒めて伸びることを当たり前に受け入れすぎてしまうと、褒められないこと、もっと言うと批判的な意見に耳を貸さなくなって、結果として慣れ合いが生じ、街の発展の妨げになったりとか……考えすぎでしょうか?

小柳 う〜ん、言っている意味はわかるんだけど、だったらお互いにもっと厳しい目で、批判的精神を持って接しようなんて文化が福岡にはまるとも思えないんですよ。批判されて、謙虚に受け止めて物事が改善していくという「好例」を福岡で見たことなんて一度もないですから。そもそも、慣れ合いが街をダメにするかというと、必ずしもそうではないと思いますね。特に福岡の場合、なんか仲間同士で慣れ合っているのにうまくいくことがたくさんある。そうそう、慣れ合ってるのにうまくいっているケースが多いことに、最近気づき始めて、一概に「福岡のここ(褒め合い文化)がヘンだよ」って言えなくなってきているというか。それ、別にいいんじゃないのって本気で思うようになっているんですよね。

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--なるほど。ちなみに福岡はいろいろなコミュニティがありますよね。そこでは、小柳さんの仰る“慣れ合ってるのにうまく行っている”の成功例がいくつもあると思います。ただ、その一方でたまに耳にするのは、慣れ合うどころか意外と別のコミュニティとの関わりがないという点です。

小柳 うんうん。それぞれが「みんなで福岡を盛り上げたい」って言っている割には、結構分断されていて、それでいてあんまり積極的に関わろうともしなかったりね。たしかに、異業種交流会とかに顔を出すと初めて会う方に「小柳さん、福岡で面白いことやりましょう!」って死ぬほど握手とかされたり、名刺交換とかするけど、実際になにかを起こすことはほぼありませんね(苦笑)。それに、第三者的に見ると、「A」というコミュニティと「B」というコミュニティを繋げたら面白そうだとか思うこともあるけど、その一方でそれぞれ中にいる人の話を聞いてみると、“食い合わせ”が悪そうだから無理だよなと気付かされたり。そういう“もどかしさ”はありますよ。それを問題だと言えば、問題だとは思う……だけどねぇ。

--だけど?

小柳 みんな仲良くしようぜっていうのは簡単だけど、みんなが一緒になったら本当に良いものができるかっていうと、俺はできないんじゃないかと思っていて。それってただの「茶番」だと思うんですよね。

--それこそ“慣れ合い”であると。

小柳 そう。しかも、いい方に作用しない“慣れ合い”。

◆福岡が好きすぎて、何が悪いって話です

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--コラムで書かれていた“人気のわりに実力が伴っていないかも”という不安については、今どう思われてますか?

小柳 そこもね、じゃあ、なんで不安があったかというと「福岡はこういう街だ」と言い切れないところに、あったと思うんですよ。もちろんスタートアップとかゲームとか、IT・デジタルとかグルメとか、それぞれに魅力はあるけど、大きく掲げる「看板」みたいなものはない。都市として、なんとなく魅力があるだけ。

--その「なんとなく」が不安の源だったと。

小柳 そう。都市としての“目玉”がないわけですから。でもね、むしろ今の時代、そういうところが福岡の魅力の本質じゃないかと思うわけですよ。今、めちゃくちゃシームレス(=継ぎ目のない)になっているじゃないですか。お店ひとつとっても、既存のお店と違う新たな価値を提供する店が人気だったりしますよね。たとえば昔ながらの本屋や喫茶店は衰退しつつあるけど、それをシームレスにしてBOOK CAFEみたいな業態は人気があるみたいに……ってあんまりいい喩えじゃないかもしれませんが(苦笑)。

--いえいえ、よくわかります。

小柳 結局、「何屋であるか」ということが重要なのではなく、利用者にとって心地よいものであればいいわけです。街も同じ。福岡ってなんの街やねんって、言われても、僕だってわからんもん(苦笑)。全然、決められない。でも、あえていうならやっぱり「シームレスシティ」なんですよね。これといった目玉はないんだけど、どこか心地よくて、自分がその街に暮らして、自分の居場所を見つけられたら、どんな都市より可能性を感じられる。そんな街が、今の福岡だと思います。

--なるほど。

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小柳 結局、福岡の資産は「人」だと思うんですよ。ビジネスの世界でも本当にナイスな奴が多い。なんでこうなるかというと、ダメな奴が淘汰されるエコシステムが働いてるから。やっぱり東京なんかと比べると狭い世界なので、たとえばインチキしたり、嘘をついたり、取引先に(お金を)ふっかけてみたりする経営者は、すぐ底が割れる。そうなると、福岡では生きていけなくなるから、結果としてみんなめちゃくちゃまっすぐにビジネスをするんです。人を騙したりとか、嘘をつく人間が上に上がれないような土壌があるというか。いわゆる村社会みたいなものですが、これだけの規模感の都市でこのシステムがポジティブに作用してるのって、すごく貴重なことだと思います。

--実際に福岡の企業の経営者のみなさん、本当に「いい人」が多いですよね。

小柳 東京とか外からくる人はみんなそう言いますよ。でね、これから「福岡的なビジネスシステム」って、時代にどんどんマッチしていきますよ。

--どういう意味でしょうか?

小柳 ここ数年、「シェアリングエコノミー」という言葉をよく耳にすると思うのですが、要はソーシャルメディアの発達により可能になったモノ、お金、サービス等の交換・共有により成り立つ経済のこと。これって、突き詰めれば「ナイスな奴の世界」にならざるをえないんですよね。たとえば僕は、東京に行くと配車サービスの「UBER(ウーバー)」を利用するんですが、ドライバーも利用者も互いに評価するようになっていて、ダメなドライバーは淘汰されるし、僕自身も客として「ナイスな客」じゃないと、サービスが利用できなくなるわけですよ。Airbnb (エアビーアンドビー)なんかも同じですね。誰でも利用できると思ってたら大間違いで、部屋を汚くするようなダメなユーザーはアカウントを剥奪されてしまう。

--サービスの提供者と利用者、互いの信用があってはじめて成り立つシステムですね。

小柳 シェアの世界って自由そうでいて、そういうところではキッチリ、相互評価の世界。今後、どんどんそういう世界がひろがっていくと、ナイスな人がたくさんいる福岡のような街は、自動的に時代にマッチしていきます。そう考えると、福岡ってなおさらこれからよくなっていくと思うんですよね。

--モヤモヤな思いはあるけど、未来は明るいと?

小柳 基本、そうですよ。だってね、繰り返しになっちゃうけど、ここに暮らす街の人が、この街のことを好きで何が悪いって話ですよ。褒められて喜んでいて、ちょっと浮かれるなって……いいんです、浮かれて。だって、普通の都市だったら、自分の街をいかに愛せるか行政の人が努力しているわけじゃないですか。どうやったら、この街に居続けてくれるかと。もっと愛してくれよと、すっごく悩みながら施策を考えているわけで。

--福岡の場合、行政がそんなことしなくても、自然と市民は自分の街を愛してくれてますもんね。

小柳 それって素晴らしいことだし、街を発展させるという意味においても、スタートラインがすごく高い位置にあると思うんですよ。だからすごく有利。街はどんどん発展していってて、なんとなく自分がついていけないから、モヤモヤしたりとか、それじゃダメだとかネガティブに考えてるのって、本当にもったいないことだと思うんですよ。うん、今はそれが僕の本音かな。

--福岡の人は自分の街が好きすぎると批判されても気にしちゃいけない?

小柳 全然気にする必要ないんじゃないですか。会社に置き換えても、愛社精神ある企業の方が絶対に「戦える」じゃないですか。で、他の会社の社員が、「あそこの社員は、自社のこと好きすぎて気持ち悪い」とか言っても、本心としては羨ましいと思うんですよ。だったらね、よその人からなに言われてもね、堂々と言ってやればいんです。「俺は福岡が好きだ」って。

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【プロフィール】
小柳俊郎(こやなぎ・としろう)
昭和44(1969)年生まれ。福岡県大牟田市出身。 株式会社BBDO J WEST メディア局局長/フリーペーパー「BOND」編集長。同志社大学卒業後、アミューズメントパークの運営会社にてイベント・宣伝・PR等の企画運営に携わり、平成15(2003)年に、BBDO J WEST入社。大手企業等、多数の企業のメディアプロモーションを手がける。

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