コシがなくてなにが悪い!“うどんライター”が語る博多うどんの魅力

ここ数年、にわかに脚光を浴びている博多うどん。とはいえ、博多うどん店がさほど県外に進出していないこともあり、日本全国を見渡すと“博多うどん未体験者”は結構いるのが現状です。

そんななか、博多うどんを激推ししてくれる方がいます。

井上こんさん――全国津々浦々のうどんを食べ歩き、年間400食を実食。サイト「うどん手帖」でも、うどんの魅力を発信している東京在住の“うどんライター”さんです。今年7月には、“うどん自主リレー”と銘打って、単身来福。なんと1泊2日で13杯(!!)のうどんを完食したそうです。

そこで今回は、そんな井上さんに博多うどんの魅力についてお聞きしました!


――そもそも、井上さんが“うどんライター”となったきっかけから教えてください。

井上 もともとうどんを食べることは好きで、子どもの頃からよくおやつ代わりに食べたり、高校の文化祭でクラスの出し物を決める際、クレープやたこ焼きという意見が大多数の中、強引にうどん屋に決めたこともありました。食べるだけでなく粉レベルから勉強するになったのは、ここ1、2年のことで、出張で福岡に行った際に現地でうどんを食べて「福岡のうどんの素晴らしさ」を知ったことが、きっかけです。それから福岡や東京都内などを中心に食べ歩きしたうどんをTwitterなどSNSにアップするようになったら、「うどんを食べまくっている面白いヤツがいるぞ」と一部でおもしろがられるようになり、仕事が舞い込むようになりました。

――年間400食ものうどんを召し上がっている井上さんですが、なぜ博多うどんに魅力を感じているのか、博多うどんを“応援”しているのか教えてください。

井上 私自身、福岡生まれなので福岡には愛着があったんです。福岡にいたのは3歳まででしたが、母が山口出身なので、西日本のやわらかいうどんを食べて育ったから、麺は“やわやわ”で、ダシを重視するスタイルのうどんに馴染んではいました。

また、うどんに限らず、福岡には美味しい食べ物がたくさんあるので、福岡の食文化が全国に普及したらいいなという思いがあるんです。で、私の場合はうどんに目がないということもあり、こういう活動をしているというわけです。

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――福岡のうどんをきっかけに、もっと福岡の食文化が広まればいいということですね。

井上 はい。それからもうひとつ、うどん業界における“讃岐うどんが独り勝ち状態”には、ちょっと思うところがあって……。

――どういう意味でしょうか?

井上 美味しいうどんと言うと、麺にコシがあって、シコシコしている讃岐うどんタイプをイメージする方が多いと思うのですが、それほど讃岐うどんは「スタンダード」になっているじゃないですか。

――たしかに東京で聞くと、そうイメージしている方がほとんどかもしれませんね。

井上 それってちょっとおかしいなと思って。もちろん、讃岐うどんが美味しいのは間違いないですけど、うどんって全国各地にそれぞれの味があって、とても多様性に溢れた食べ物。にも関わらず、讃岐うどんが基準になりすぎて、それとは違う系統のうどんは“邪道”とされがちです。

――はい、仰っている意味はわかります。福岡の方からすれば、いまいちピンとこないかもしれませんが、東京だと間違いなくそういう傾向はあります。

井上 そういう状況だから、特に博多うどんのような“やわやわ”うどんは肩身が狭い思いを強いられているんです。「どうせ讃岐うどんの麺を長い時間茹でただけでしょ」 「(やわらかいうどんで有名な)伊勢うどんの一歩手前みたいなものでしょ」と、“茹で時間が違うだけだろう”という誤解も多い。全然違いますよ! そもそも小麦の種類や産地ごとにタンパク質やデンプン質の量が違うんです! 博多うどん特有のもっちりとした食感は、九州産の小麦を使っているからこそ出せる特徴なんですよ!

――な、なるほど。タンパク質とかデンプン質のことまで考えてうどんなんて食べたことなかったです…。

井上 で、私が声を大にして言いたいのは、福岡のうどんそのものに多様性があるということ。「博多うどん=福岡のうどん」って思われてますけど、それだけではありません。これまで福岡県内で30軒ほど回りましたが、筑後地方には昔から地域に根差してきた筑後うどんがありますし、ここ近年は北九州で生まれた豊前うどんなども勢いがありますし、そもそも〇〇うどんと称さない独自の店も多く、本当に幅が広い。たしかに博多うどんは福岡のうどん文化の源流ですが、ほかにも新旧さまざまな個性があり、福岡のうどんシーン自体が進化しているということです。

――そうなんですか! というか詳しすぎますよ(苦笑)。

井上 正直、コンプレックスの裏返しなんですよね…。生まれは福岡ですけど、実際は福岡で育っていないから、自分のなかでの福岡性を「取り戻したい」んです。生粋の福岡っ子と話すと、ああ、この人は本物の福岡の人だ…と、羨ましい思いになる。私の場合、なんだかんだ大人になるまで福岡のうどんを知らずに生きてきたので、地元の人に負けないように誰よりも食べて、誰よりも勉強したいって思っています。

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――アツい思いがあるんですね。しかし、東京では福岡のうどんのお店をあまり見かけないから大変ですよね。

井上 だから福岡に行って食べるしかないんですよ(苦笑)。仰るように、東京で福岡風のうどんを食べられるお店は多くありません。それは多くの在京福岡人が感じていることだと思います。とはいえ、もしかしたらその状況は変わるかもしれません。実はここ最近、「イチカバチカ」や「二◯加屋長介(にわかやちょうすけ)」など“うどん居酒屋”と呼ばれる新ジャンルのお店が、続々と都内に進出してきているんです。こういったお店なら、福岡の名物やお酒など、福岡の食文化をまるごと楽しめ、最後にうどんで〆ることができる。もう至福の時間が過ごせます。福岡出身者はもちろんですが、東京の人だって充分楽しめると思いますよ。

――それは楽しみです。ちなみに今年7月には福岡に来て、12日の滞在中に13軒ものお店をハシゴしたそうですね。

井上 ええ。誰に頼まれたわけでもなく(笑)。私、大食漢でもないんですけど、うどんだけはいくらでも食べられるんですよ。とはいえ、13杯は結構、きましたけどね。全て食べきった翌日の朝、ホテルで起きて鏡を見たら、二重瞼が一重になってて、自分でも唖然としました。

――明らかに食べ過ぎですからね…そんなに食べてうどんが嫌いになったりは?

井上 むしろ嫌いになりたいです。先日も沖縄旅行に行き、現地の沖縄料理屋に入ってもメニューの中に「うどん」の三文字を探してしまった。そしてソーキそばには目もくれず、うどんをオーダー…ちなみに、讃岐風うどんでしたけど(笑)。ホント、うどんの呪縛から開放されたい気持ちもあり、このまま溺れていたい気持ちもあり、複雑です。

――女心、ですね。

井上 違うと思います(即答)。やっぱり私、小麦の誘惑やうどんの呪縛には、もっともっと積極的にハマっていきたいんですよ。なので、来週にでも福岡に行って、前回記録した「1泊2日13杯」を上回る、「1泊2日15杯」の新記録に挑戦したいと思います。

――それは正式なチャレンジ宣言と受け止めてもよろしいでしょうか?

井上 はい、結構です。15杯食べたら、こちらで報告させてください。もし完遂できれば、ですが。


インタビューの最後に、どういうわけだか1泊2日で15杯の福岡うどんを食べきることを宣言した井上さん。果たして彼女はどんなお店を選ぶのでしょうか。そして、15杯という途方もないうどんをたった2日で食べ切れるのでしょうか。渾身の“福岡うどんチャレンジ”は来週公開予定です。お楽しみに!

 

【プロフィール】
井上こん 1986年福岡生まれ。 明治大学農学部を中退後、フリーライターの道へ。雑誌やウェブメディアで執筆。自ら“うどん狂い”と称し、食べるうどんは年間400食にもおよぶ。サイト「うどん手帖」で、うどん情報を発信中。

【関連リンク】
「うどん手帖」
http://koninoue.com/

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