ゲーム都市福岡は、eスポーツ先進都市になれるか。格闘ゲームの祭典EVOを誘致したキーマンに聞く

平成31(2019)年2月15日から3日間にわたって、福岡国際センターで開催された「EVO Japan 2019」。世界最大規模の対戦格闘ゲームの祭典「EVO(Evolution Championship Series)」の日本版として、連日熱き戦いが繰り広げられ、平成30(2018)年の東京大会を上回る、のべ動員数13,000人の大盛況で幕を閉じました。

この大会を福岡に誘致したチームの中心は、福岡市の「ゲーム・映像」係長を務め、福岡アジア都市研究所の調整係長としても活躍している中島賢一さん。ゲームやITといった自身の強みを生かして民間企業と行政の綿密な連携を図り、福岡に新しいモノゴトを生み出す仕掛け人の一人でもあります。(以前の紹介記事はこちら https://www.city.fukuoka.lg.jp/hash/news/archives/170

そんな中島さんは、昨年(平成30年)より「福岡eスポーツ協会」を立ち上げ、会長に就任。その成果の一つが、EVO Japan 2019の開催でした。eスポーツが徐々に裾野を広げている理由とは? また、eスポーツを取り巻く偏見や誤解とは? 福岡から日本のeスポーツの認識を変える活動を続ける中島さんに、お話を聞きました。

中島 賢一さん

 スポーツの語源は「気晴らし」

--オリンピックの競技種目として検討され始めた頃から、eスポーツという言葉をよく耳にするようになりました。しかし、まだ一般に広く理解はされていないと感じます。まずは、「eスポーツとは何か」から、教えていただけますか?

中島 はい。eスポーツはエレクトロニック・スポーツの略で、PCや家庭用ゲーム機、アーケードゲーム機などで行う競技のことです。操作能力はもちろん、高度な戦術や心理戦も必要になってくる、新しいスポーツとして注目されています。

--でもゲームをスポーツと呼ぶことには、抵抗を感じる人も多いんじゃないでしょうか。

中島 スポーツの語源は、ラテン語の「deportare(デポルターレ)」といって、「気晴らし」を意味する言葉なんです。日常を離れて、リフレッシュして楽しむこと、それがスポーツ。そして、フェアに競い合うために、ルールが設定されているわけです。だから、オリンピック競技の種目にあるようなものだけではなくて、鬼ごっこもスポーツ、ゲームもスポーツです。日本では昭和58(1983)年に家庭用ゲーム機の「ファミコン(ファミリーコンピュータ)」が登場してお茶の間にゲームが浸透したこともあり、日本人にとってゲームは国民的スポーツと言えるかもしれませんね。

--なるほど。ただ、運動競技じゃないものをスポーツと呼べるんでしょうか?

中島 スポーツの語源が「気晴らし」だということから考えると、身体を酷使するかどうかは関係ないと思いますよ。例えばモータースポーツは、ほとんど身体を動かさないですし。最近は将棋やチェスを、マインドスポーツと呼んだりもします。それにゲーマーもコントローラを駆使するから、身体は結構使うんです。正確なコントロールのために、筋トレしているゲーマーも多いですから。

--ゲームを奨励する理由はなんですか?

中島 他のスポーツと一緒で、日常を忘れて楽しめる「気晴らし」がひとつでも増えれば、生活は豊かになると思うんです。身体を動かすのが苦手な人でも、ゲームが得意なら対戦ができるし、そこで盛り上がることもできる。街中にもっとプレイを楽しめる場所が増えれば、友人同士で空いた時間に気軽に楽しむこともできるし、親子のレクリエーションにもなる。男女の別もなく、地域や人種も超えて、同じフィールドで競い合うことができるスポーツなんて、そんなに多くないですからね。10歳の子供と70歳のおじいさんが互角に戦えるのは、eスポーツのすごいところだと思います。

--なんだか夢が広がってきました。eスポーツの良さはわかったんですが、行政がeスポーツを支援する理由はどこにあるんでしょうか?

中島 そこが大事ですよね。大きくは、産業振興と地域活性です。eスポーツも、他のスポーツと同様にプロプレイヤーがいて、観戦者がいて、それらをサポートするメーカーや会場の運営者がいます。そこで、ひとつの大きな産業を形成するわけです。

福岡市は、平成18(2016)年に「福岡ゲーム都市宣言」をして産学官連携でゲーム産業の振興に積極的に取り組んでいますが、日本全体で見るとeスポーツは後進国です。世界にはすでに、賞金総額100億円を超える大会もあるんですよ。競技人口は世界で2億人を超えていて、競技人口が多ければスポンサーも集まるし、選手との契約金も大きくなります。これは、育てるべき立派な産業だと思います。先日開催されたEVO Japan 2019でも、その熱気は伝わったんじゃないでしょうか。

EVO JAPAN 2019会場外観
(EVO Japan 2019の福岡への誘致にあたって、中島さんは本国アメリカから来たEVOの主催者にプレゼン。「日本の国技・大相撲が九州で唯一行われるこの場所こそ、会場にふさわしい」と説得し、開催の運びとなったとか)

見たいのは、人間たちの熱いドラマ

-EVO Japan 2019では、会場の盛り上がりに驚きました。eスポーツを観戦する面白さとは、何でしょうか?

中島 「人がゲームをしているのを見て、何が面白いのか」とよく言われるんですが、それは野球やサッカーでも同じです。例えば福岡ソフトバンクホークス戦を見るとき、配球の妙とか、選手の表情なんかは、テレビで見た方がよっぽどわかりやすい。でもみんな、ヤフオクドームまで観戦に行くわけですよね。そこには、ひいきのチームをみんなで応援することの楽しさや会場の一体感があるし、奇跡的なプレーが起こった時の胸をざわつかせるような感動があります。それが、観戦の面白さですよね。今回のEVO Japan 2019でも、「鉄拳7」部門で、無名だったパキスタンの選手が圧倒的な強さで優勝し、会場をどよめかせていました。

--感動的なシーンでした。

中島 スポーツって、競技の内容はもちろんですが、それにひたむきに取り組む人間の姿にこそ感動があると思うんです。例えば、去年の大会で苦汁をなめた選手がいたとして、彼が1年間かけて経験を積んでリベンジマッチに挑む。そして一撃必殺の技を繰り出す。その時の選手の表情は、見るものを感動させます。会場で見ていたら、人間ドラマに思わず涙してしまうことだってありますよ。

 「鉄拳7」部門で優勝したArslan Ash選手
(世界ランキング1位や昨年度大会優勝者など、強豪ぞろいの韓国選手たちを次々に破って優勝した、パキスタンの新生Arslan Ash(通称アッシュ)選手。150万円の賞金を手に、涙ぐむシーンも。)

--eスポーツの魅力を実感できる、とてもいい大会でした。中島さんが会長を務める福岡eスポーツ協会では、今後どんな活動をしていく予定ですか?

中島 この会はもともと、ゲーム好きの有志で集まって立ち上げたものです。昔からゲームが好きだった人はよくわかると思うんですが、ゲーム好きって何かと肩身が狭い。頭が悪くなると言われて親に取り上げられたり、オタクだとからかわれたり。だから、ゲームを堂々とやれる環境を作りたかったんです。そのためには、文化的な価値や、経済的な価値をもたらす活動にしないといけない。単なるゲーム好きのサークルではなくて、ビジネスにして裾野を広げていくことを目標にしています。だから、あえて固い名前にして、行政などゲームにマイナスイメージを持ちがちな組織ともきちんと交渉できる組織体制を作ったんです。こういう組織があると、「何か一緒にやりましょう」と相談があることも多いですし。これからもイベントを主催したり、市民の関心度を高めるような活動をするなどして、長年ゲームが晒されてきた“偏見”をなくすような活動にできればいいなと思っています。

--そう捉えるとこれは、市民の多様性を広げる活動の1つなのかもしれませんね。

中島 キング牧師ではないですが、「I have a dream(私には夢があります)」です。子どもとお母さんが街中で気軽に、eスポーツを楽しんだり。企業が、実業団のようにeスポーツチームを抱えたり。タレントのように、憧れのeスポーツ選手が数多く出てきたり。そんな光景が広がる世の中になったら、ますます楽しいと思いませんか?

 


[プロフィール]
中島 賢一(なかしま・けんいち)
民間IT企業を経て、福岡県に入庁。福岡県にてITやコンテンツ産業振興を活発に行い、ソフトウェア産業の中核拠点の福岡県Rubyコンテンツ産業振興センターを立ち上げる。平成25(2013)年4月より福岡市に移籍。ゲーム・映像係長や創業支援係長として、ゲーム、映像などのクリエイティブ分野やスタートアップ企業のビジネス支援に奔走。その後、公益財団法人福岡アジア都市研究所にて都市政策をベースとした研究事業のコーディネーターとして活動。平成30(2018)年には、福岡eスポーツ協会を発足させ、会長に就任。プライベートでは、10年にわたってトレーディングカードゲームのイベントを開催し、子どもたちからデュエルマスター(カードゲーム「デュエル・マスターズ」を極めた人)と称されている。

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