ヌーラボ橋本正徳代表・年頭所感 「よく働き、よりよく遊べ(Work Hard,Play Harder)」

福岡のIT・クリエイティブシーンのキーマンとして、長年にわたってコミュニティの発展に寄与し続けてきた株式会社ヌーラボ代表取締役・橋本正徳さん。テクノロジーとクリエイティブのフェスティバル「明星和楽」の立ち上げにも参加し、天神の街を使った大規模なイベントも開催しています。また、プロジェクト管理ツール「backlog(バックログ)」や作図ツール「Cacoo(カクー)」といった自社サービスも好調で、同社ならびに橋本さんご自身、今後ますますのご活躍が期待されています。

そこで#FUKUOKAでは本年最初のインタビュー企画として、橋本さんに昨年までの自社と福岡のITシーンについて振り返っていただきながら、平成29(2017)年の展望について、お聞きしました。


--まずは、昨年までの福岡のIT・スタートアップシーンを振り返ってみて、感想を聞かせてください。

橋本 平成28(2016)年は、福岡のシーンに大きな動きがあったと思います。株式会社ベガコーポレーションと株式会社ホープが東証マザーズに上場し、スタートアップで1億円を超える調達もいくつかありました。僕らが「明星和楽」を始めたのが平成23(2011)年、市長や孫泰蔵さんなどに「スタートアップ都市宣言」をしていただいたのがその翌年。その頃くらいから始まった『スタートアップ都市福岡』という雰囲気作りから芽が出て、実を結び始めているようで嬉しいですね。もちろん、明星和楽のおかげでそうなったわけではなく、それぞれが頑張ってきた結果だと思いますが。

--橋本さんが個人的に注目しているスタートアップはありますか?

橋本 IoTスタートアップの株式会社スカイディスクと、ソフト開発の株式会社Qurate(キュレイト)ですね。スカイディスクの橋本司さんとはもう10年以上の付き合いですし、IoTブームに乗って、新しい動きを次々と見せています。またQurateはプロダクトの評判が高いですし、福岡にいながらさまざまな国籍の人を迎え入れた組織づくりには、僕も刺激を受けています。

--橋本さんは、他社のサービスを見るときに何を重要視しているんでしょうか?

橋本 作っているモノやサービスの質や新しさですね。僕自身、モノを作るのが好きだし、モノづくり集団を組織するのが好きで、明星和楽も始めました。明星和楽は、スタートアップイベントの側面が強く思われているかもしれませんが、本来は「クリエイティブとテクノロジーの祭典」なんです。世の中に足りないものを自分たちの手で作って補完したり、問題解決の手段としてテクノロジーを使うのが素晴らしいことだと思うし、スタートアップに僕が期待しているのもその点です。だから、イグジットありきの成長戦略とかには、違和感があるんですよ。

--創業時点で株式売却(IPO)とM&A(バイアウト)を想定しているのは、ちょっと違うじゃないかと?

橋本 だって、イグジットで数億円を手に入れたところで、「お金」は昔からあるものだし、自分が全く知らない発見とか喜びはそんなにないでしょ? あっても札束の風呂に入れるぐらいで(笑)。福岡のスタートアップシーンが活況なのはいいんですが、あんまりビジネス寄りになりすぎないようにしていただきたいなと、個人的には思ってます。「どこどこが何億円調達した」みたいなことがニュースになりやすいけど、それよりも作っているものの中身をちゃんと見てほしいなと。

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--なるほど。ではそんな中で、ヌーラボは近年どのように事業を展開してきたんでしょうか?

橋本 僕らはもともと受託事業から始まっていますが、平成18(2006)年にプロジェクト管理ツールの「backlog」をリリースして、その後も「Cacoo」や「Typetalk(タイプトーク)」など、少しずつ自社サービスの割合を増やしていきました。平成25(2013)年には受託を全てやめて自社サービスに一本化して。僕らのサービスは、お客さんと一緒に育てていくという意識があるので、ユーザーの声をこまめに伺ってメンテナンスをし、少しずつ支持を広げていきました。昨年にはリリース以来10年ぶりに「backlog」のUIを一新し、今の時代の感覚に合わせた使いやすいものに仕上げています。

--今年はどのように展開していく予定ですか?

橋本 海外展開をより積極的に推し進めていこうと思っています。現在僕らの拠点は、国内が福岡本社と東京、京都、海外ではニューヨークとシンガポールにありますが、海外拠点を強化して、現地のサポート体制を整えていきます。福岡本社も昨年3月に大名に移転し、ビル1棟まるまる使えるようになりました。自社サービスのみの体制でも3年維持することができて、自信もついてきたので、「もう一歩大人にならないといけないな」と覚悟を決めた、というのが正直なところです。今後は資金調達のため上場も視野に入れてさらなる成長を図っていきたいです。

--最近、特に関心があるのはどんなことですか?

橋本 教育に興味が出てきましたね。自分も40代に入って、大学生や高校生の子どもがいるからかもしれません。福岡をもっと面白くし、街を育てていくには、もっと教育が必要だと思うようになりました。と言っても、「人が人を育てる」というのは、僕には少しおこがましく思えるんですよね。それよりも、「体験が人を育てる」じゃないかと。僕らにできることは、体験や機会をたくさん与えて、自由に遊べる環境を作ることだと思います。そうすれば、子どもたちが自分で力を身につけていくだろうと思っています。

--それは子どもだけでなく、すべての人にも言えることですね。

橋本 ええ。うちの求人ページに、「よく働き、よりよく遊べ(Work Hard,Play Harder)」というキャッチコピーを載せているんですが、それが僕の基本姿勢です。懸命に遊んで得た体験や技術は、仕事で必ず役に立つし、人生を豊かにすることができます。だから、エクスペリエンス(経験)が大事。用意された選択肢の中から遊ぶのではなくて、自発的に見つけて、とことん遊ぶこと。うちの息子によく言ってます。「ゲームで遊ぶのはいいけど、ゲームに遊ばれるな」って。

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朗らかで親しみやすいお人柄ながら、自社サービスの追求には余念がない橋本さん。まさに、「よく働き、よりよく遊べ」を自ら実践している一人なのかもしれません。さて今年は、福岡のIT・クリエイティブシーンにどんな動きが起こるのでしょうか。勢いを増す福岡の企業から、今年も目が離せません。

 

【プロフィール】
橋本正徳(はしもと・まさのり)さん
昭和51(1976)年生まれ、福岡市出身。高校卒業後に上京し、飲食業や劇団主催、クラブミュージックなどに携わる。平成10(1998)年、福岡に戻り、父親の家業である建築業界で働き、平成13(2001)年にプログラマーに転身。派遣プログラマーとして働いていたが、「もっと自分たちのソフトウェアを使ってくれる人と対話をしながらものづくりをしたい」と考え、平成16(2004)年に福岡にて3人の仲間とともに株式会社ヌーラボを設立。代表取締役に就任。平成23(2011)年に、テクノロジーとクリエイティブの祭典「明星和楽」を立ち上げる。福岡のクリエイティブコミュニティのキーマンの一人。

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