福岡・六本松の蔦屋書店の売れ筋商品から考える、福岡市民の消費傾向とは?

福岡市内の中でも大型の再開発地区として話題になった六本松エリア。その中心地となった複合施設・六本松421には、九州初出店の蔦屋書店が入っています。地域によって品揃えを変えている蔦屋書店において、福岡の六本松店は売れ筋商品に他店とは違う傾向があるとか。消費地・福岡の特徴を探るため、「六本松蔦屋書店」の館長であり、ご自身も福岡出身の南原尚幸さんにお話を伺いました。

福岡らしいGOOD LOCALな店づくり

--オープンして1年半、六本松蔦屋書店はすっかり六本松エリアのアイコンとして定着した印象があります。

南原 お陰様で、20代〜40代の女性を中心に、老若男女問わず幅広い世代に足を運んでいただいています。客層は当初の予測通りでしたが、来店客数が想定の1.5倍と非常に多いのは嬉しい誤算でしたね。六本松は少し郊外のエリアになりますが、平成29(2017)年9月のオープンから平成31(2019)年3月末までの累計で699万人、月平均で38万人の来店客数があり、福岡の中心部と比較しても引けを取らない数字です。地下鉄六本松駅の乗降人数も、六本松421開業前と比べると格段に増えていて、住みたい街としての人気も上がっているそうです。「街づくり」も蔦屋書店が掲げるテーマの1つなので、六本松エリアの再開発プロジェクトに貢献できているとすれば嬉しいですね。

--蔦屋書店は全国にありますが、他とは違う六本松店独自の特徴というと、どんなところでしょうか?

南原 当店で大事にしているコンセプトが2つあります。1つは「マイスタンダード」。我々なりに意訳すると「究極の普段使い」ですね。自分のスタンダードとなるようなちょっと上質なものを提案し、お店そのものも居心地のいい普段使いの場所となれることを目指しています。

もう1つが「GOOD LOCAL」。当店を運営する株式会社九州TSUTAYAは「GOOD LOCAL GOOD TSUTAYA」の理念を掲げていて、地域をより元気にし、住みたい!と思ってもらえるように、新しいライフスタイルや毎日を幸せにする環境づくりをご提案しています。私たちは、その「GOOD LOCAL」に当たる部分に、福岡でしかできないことをしよう、自分たちならではの強みを出そう、という意気込みでやっています。「他の蔦屋書店に負けたくない!」というライバル意識もちょっとあります(笑)

居心地のいい空間設計などは代官山蔦屋書店からのデザインノウハウを受け継ぎながら、福岡らしさや九州TSUTAYAらしさを出そうと九州のメンバーで手作りしている、というのが六本松店の特色だと思います。

--福岡らしさというと、どんなところに反映されているんでしょうか?

南原 他店と明確に違うのは、蔦屋書店の特徴でもあるコンシェルジュの選び方ですね。六本松店には、旅・食・ファッション・音楽・子育ての5分野に精通したコンシェルジュがそれぞれいますが、5人とも私の知り合いやその知り合いです。福岡って、横のつながりがすごく強いんですよね。それが、店舗スタッフにも反映されています。

--他の蔦屋書店はそうではないんですか?

南原 例えば代官山蔦屋書店では、新聞広告を出して公募しました。ここ六本松店では、同世代のコンシェルジュが多く、他のメンバーも繋がっていたりして、関係性が見える人たちばかり。例えば旅のコンシェルジュの森卓也さんは、私の中学の同級生で部活も一緒で。世界を3周しているほどの旅マニアです。ファッション・雑貨のコンシェルジュを担当していただいている吉嗣直恭さんも昔からの顔なじみ。こんな形で、福岡を知り尽くしている地元の人間が、“福岡らしさ”と今のトレンドを組み合わせながら発信しています。

売れ筋商品に見る、福岡市民の地元愛

--他の地域と比較して、福岡の中でも特に売れている商品や、特徴的な消費傾向などはありますか?

南原 「究極の普段使い」という当店のコンセプトらしく、日々の暮らしで使うアイテムはよく動いています。例えば、この「白雪ふきん」なんかは安定した人気があって、これまでに7,000枚以上売れています。台所で使うふきんが売れ筋なんて、「究極の普段使い」を象徴するようですよね(笑)

白雪ふきん

南原 他には、来店客の7割が女性ということもあって、アクセサリーや小物類も人気です。高級品というよりは、手頃な価格だけど旬のものが選ばれている傾向にありますね。

--本屋さんでふきんが売れているというのは、面白いですね。書籍の方はどうですか?

南原 うちは書店と名がついてはいますが、大きくはライフスタイルショップと捉えていて、本だけで売上を作るというより本も含めた生活提案として考えています。実際、店の一画を「吉嗣商店GENERAL STORE」というコンセプトゾーンにして、洋服や雑貨をセレクトしています。ふきんもその一つなんですよ。もちろん、本もお客様にとって新しい出会いや発見に繋がるような選書をしているんですが、これまでで一番売れた書籍は雑誌「BRUTUS」の福岡特集ですね。うちの店舗だけでも1,200冊売れましたから。福岡の人って、福岡の旅行本やガイド本も買うんですよ。「本当に福岡が好きなんだな」って感じますね。

--南原さんが思う、福岡の街の魅力や「福岡らしさ」ってなんですか?

南原 僕は3年間ほど東京の本部で音楽レンタル部門のMD(マーチャンダイザー)をやっていた時期もありましたが、東京に比べるとみんなのんびりしていますよね。いい意味でガツガツしていない。本部で商品計画を立てていた頃、全国の店舗に一括して指示をしても、その意図が地元に全然伝わっていなかったりするのも感じていて。やっぱりローカルスタッフのやり方で、その地域に合う形にカスタマイズして丁寧に伝えたい、というこだわりはあります。その方が、反応がありますから。そんな思いもあって、福岡に戻ってから、九州商品部を提案して立ち上げました。自分たちでも楽しみながら、地元の人たちに向けてやっていこうと。

--地元に密着したイベントなんかも多く開催されていますね?

南原 ええ。イベントは月に50回ほど開催しています。ライブやアートレセプション、シニア向けイベント、週末の朝ヨガ、コンシェルジュトークなど、地元で活動している方を中心にした企画を実施しています。調べたら、これまでに累計900回を超えていました。オープン当初は、こんなにバリエーション多くできるとは思ってなかったですね。他にも、音楽コンシェルジュ・松尾宗能さんが切り盛りする「毎日がレコード市」では、全国のレコードショップがセレクトした選りすぐりの中古レコードを月替わりで展開しています。このイベントから、レコード好きのコミュニティが形成し始めていて。地元のコミュニティとして成立して、それが商売としても成り立つのが、消費地・福岡の一つの特徴でもあるように思います。

スピーカーの前に立つ南原さん
(南原さんが特にこだわったアナログレコードの品揃え。特別にチューニングを施されたスピーカーシステムで視聴もできます)

古きと新しきを交錯させて新しい循環を生み出したい

--六本松は歴史のある街ですが、蔦屋さんは新しく来た、いわば「新参者」。もともとある地元のお店と、どんな関係を築いていくのが理想なんでしょうか?

南原 昨年、当店の1周年記念企画として地元の方にもご協力いただき「六本松今昔写真展〜ロッポンマツメモリーズ」という写真展を開催しました。これがとても好評で。九州大学が六本松にあった時代から、現在に続く街と人の移り変わりや、時代ごとの魅力を切り取った写真を展示して、昔と今の六本松を繋げていくという企画です。

六本松4丁目地区は、ここ数年で大型施設の開業が続き、街も通りも人も様変わりしました。ある時、ご実家が九大生の下宿先をしていたという地元住民の方とお話する機会があって。古きを知っているだけに、愛着がある街が新しく生まれ変わることに葛藤があったとおっしゃっていたんです。確かに地元の人たちからしたら、大型施設ができることに複雑な思いがありますよね。でも、私たちも文化を発信する場所とすべくこの地にお邪魔しているので、地元の方たちともいい接点を作りたいと常に思っていて。そこで、昔からいる人にも、新しく入ってきた人にも、記憶と記録の接点を持っていただけるように、地元の方々と一緒にこの企画をさせていただきました。

企画展「ロッポンマツメモリーズ」の様子
(企画展「ロッポンマツメモリーズ」は、昔を懐かしむ地元の人で賑わった。九州大学に入学した頃の鮎川誠さん(シーナ&ロケッツ)の写真も)

--地元のメーカーの商品も積極的に扱っていると聞きました。

南原 博多で260年を超える歴史を持つタケシゲ醤油様と共同で、当店のオープン時にノベルティとして「ニワカそうす」という看板商品を配ったんです。オリジナルのメッセージカードを入れて。そうしたら、美味しいと評判になって、オープン後も継続的に仕入れることにしました。歴史と確かな品質がありながら、若い人になかなか届いていなかった商品が、うちのチャネルを通じて新しい人に届けられるのは、僕らとしても嬉しいです。さまざまな商品やイベントで魅力に触れて、街に出てさらにその魅力を深掘りしてもらえたら理想的かなと思っています。

ニワカそうす
(「白雪ふきん」と同様に定番商品になりつつある、ニワカそうす。ニワカものでもプロの味付けができる、万能調味料です)

--今後、六本松蔦屋書店として展開していきたいことはありますか?

南原 もっともっと地元に密着できるようなことを継続してやっていきたいと思っています。蔦屋書店のベースとなるクリエイティブは東京本部がやっていますが、そこの枠からいい意味ではみ出して、地元だからこそのクリエイティブを加えて独自色を出していきたい。いずれは福岡発の企画として、例えば「吉嗣商店」を他の蔦屋書店にも導入するなど、ここだけで終わらせないような形に発展させたいと思っています。福岡発カルチャーが全国展開できれば面白いですね。

 

[プロフィール]
南原尚幸(なんばら・ひさゆき)さん
昭和49(1974)年生まれ、福岡県福岡市出身。西南学院大学卒業後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)に入社。九州で8年間音楽バイヤーを担当したのち、東京本部で音楽MDを3年経験し、平成25(2013)年地元福岡へ戻る。九州商品部で地域への独自企画などを行い、平成29(2017)年9月に六本松蔦屋書店オープンと同時に館長に就任。ブランキージェットシティが大好きで,彼らにあこがれ仕事中でも常にエンジニアブーツを履きこなすナイスガイ。

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