年間50社を誘致する、福岡市役所熱血セールスマンの営業トーク

地方都市の経済に大きな影響を与える、企業誘致。それは昨今の地方創生ブームが巻き起こるずっと前から自治体の“頼みの綱”と考えられていた地域活性手段のひとつですが、実際に首都圏の企業が拠点を地方へと移すケースは稀で、誘致活動に苦労している自治体も少なくありません。

そんな中、福岡市では2年連続年間50社を超える企業誘致を実現させているのをご存知でしょうか。「グローバル創業・雇用創出特区」や国内外での積極的な誘致活動の結果、平成26年度は、情報関連産業やデジタルコンテンツ、アジアビジネスなどの「成長分野」の起業と本社機能のある企業誘致は、52社を数えました。

他の自治体が苦戦する中、なぜ福岡市の企業誘致は成功しているのか――今回は、その立役者のひとりである福岡市東京事務所・シティセールス担当主査の執行謙一さんに話をお聞きしました。

福岡市がクリエイティブ産業の企業誘致に力を入れる理由

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――福岡市の立地企業数は現在進行形で順調に伸びているとのことですが、この盛り上がりはいつごろから始まったものなのでしょうか?

執行 4年前の平成23(2011)年から顕著になってきました。東日本大震災をきっかけに、都心の企業がリスク分散の必要性を改めて痛感されたことが大きな要因だと考えられます。当時は外資系企業をはじめ、緊急避難的に経営層を地方に移された企業も多かったのですが、実際に一部の拠点を福岡市に移していただいた企業からは「特にビジネスに支障はなかった」「拠点を移したところで、コントロールができなくなることはなかった」という声が上がっているんです。

――そうは言っても東京の企業が、本社を丸ごと地方に移すことはハードルが高いのでは?

執行 そうですね。これまで福岡市に進出された企業は、開発部門など東京の機能の一部を移管するケースがほとんどでした。しかし、最近は、本社機能を移していただくケースも出てきており、我々もそこに注力していきたいと考えています。

――福岡市では、特にクリエイティブ産業をはじめとしたジャンルの企業誘致に力を入れていますが、その分野にこだわる理由は一体何なのでしょうか?

執行 あまり知られていないのですが、福岡市はそもそも工業系の企業(工場)の誘致を進めるには困難な事情があるんです。というのも、福岡市は全国の政令指定都市の中で唯一一級河川がなく、水資源の課題を抱えた地域なんです。工場は大量の水を使いますから、進出するには難しい。そうした前提もあって、市としては早い段階から、ITをはじめとするクリエイティブ産業の振興・集積を進めてきました。クリエイティブ産業は必ずしも東京に拠点を構える必要のない産業で、優秀な人材が多く求められる分野ですから。

また、福岡に本拠地・拠点を置きながら成長を続けるIT・クリエイティブ企業が多く、その活躍のおかげで、福岡は全国的にも「アツい地域」として注目を集めていると思います。企業誘致が地元の産業振興につながって、一緒になって福岡を盛り上げていきたいです。

年間400件の企業を訪問する“福岡市の営業マン”

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――執行さんの普段のお仕事についてお聞かせください。どのように企業にアプローチしているのですか?

執行 企業からお問い合わせをいただくケースもあれば、こちらから「ぜひ一度お話を伺わせてください」とアプローチさせていただくケースも多々あります。また、都内のいろんなイベントに参加して一人でも多くの人に顔を覚えてもらうよう心がけています。おかげさまでそういった繋がりからお問い合わせをいただくケースも増えてきました。

――年間でどれくらいの企業や人に会いに行くのですか?

執行 企業訪問等はおよそ300~400件、年間で1000人以上の方にはお会いしていると思います。お忙しい中で会っていただけるのは本当にありがたいです。私もせっかく東京にいるので、ひとりでも多くの方とお会いし、福岡市を知っていただきたい、繋がっていただきたいと常日頃から考えているんです。何かあった時に気軽に相談してくださる方は徐々に増えていると実感していて、新しいことにチャレンジするときに「福岡市さんとコラボレーションできないかな?」といったお声掛けをいただくことも多くなっています。

「ビジネス視点」と「生活視点」 二つの視点から繰り広げる営業トーク

――では、執行さんが具体的にどのように福岡市を売り込んでいるのか、その営業トークについてもお聞かせいただけますか?

執行 訪問先の企業の業態によってもお話しする内容は変わってきますが、まず全ての企業にとってポジティブな要素として挙げられるのが、福岡市の人口にまつわるファクトです。福岡市は、人口の伸び率が高く、また特に若者が増えている(http://facts.city.fukuoka.lg.jp/data/population/)という珍しい地域でもあるので、そこに可能性を感じてくださる企業は非常に多い。ですから、この人口の話は必ず盛り込みます。

――若い人が多いということは、他地域と比べて労働力の確保や人材の育成という点でもアドバンテージがあるということですもんね。他にビジネス視点では、どのようなところが福岡市のアピールポイントになりますか?

執行 オフィスの賃料等のコストが東京に比べ圧倒的に安い(http://facts.city.fukuoka.lg.jp/data/commercial-rent/)こと、地震など大規模災害のリスクが極めて低いこと、福岡空港の利便性(http://facts.city.fukuoka.lg.jp/data/time-from-airport/)などが挙げられます。また、やはりアジアに近い(http://facts.city.fukuoka.lg.jp/data/position/)ということは大きなポイントだと思います。アジアの企業とコラボレーションしたり、アジア圏をターゲットとした商材やサービスを扱う企業にとっては、ストレスのない距離で行き来することができるのは、コストだけでなく、スタッフの負担を軽減することにもつながります。

――なるほど。他には福岡市のどのような要素が、営業トークに登場するのですか?

執行 ビジネス的な視点のほか、実際に福岡市で暮らすうえでの魅力も分りやすくお伝えするようにしています。例えば家賃。「福岡市の家賃の平均値は……」では、いまいちピンときませんよね。私は、実際に福岡で住んでいた家を例に出してお話するんです。例えば、職場のある天神から一駅、歩いても10分の薬院エリアにある2LDKのマンションに住んでいたときの家賃は月7万円でしたよ、と。こんな具体例のほうが、福岡市が、生活コストが安く暮らしやすい地域であることをお分かりいただけると思います。従業員の生活に直結するようなこういった点は必ずアピールするようにしているんです。

――執行さんの営業トークをお聞きしていると、福岡に一度行ってみたくなる人も多いのではないでしょうか?

執行 そんな感想をいただけてうれしいです。というのも、私はこの営業活動を通して、まずは一社でも多くの企業に、一度福岡市に行っていただくことを最初の目標にしています。福岡市って、データで見るよりも行ってみることで活力や可能性を感じていただける街だと思うんです。行かれる際には、リクエストに合わせたビジネストリップを組み立ててご案内することも可能です。ちゃんとした視察でなくて旅行感覚でも構いません。事前にお知らせいただければ美味しいお店も紹介します!

――ビジネスのしやすさだけでなく、生活環境の良さも知ることができるツアーになりそうですね。

執行 クリエイティブ産業は、特に従業員のオン・オフが仕事の質に直結すると考えています。だからこそ、福岡の“総合力”を知っていただきたい。一度行けば、きっとその力をお分かりいただけると思いますよ。

――福岡に興味がある企業はどのようにコンタクトすればよろしいでしょうか。

執行 はい。電話でもメールでも結構ですので、お気軽にご連絡ください!すぐにお伺いします!!
TEL 03-3261-9712 e-mail tokyooffice.GAPB@city.fukuoka.lg.jp

 

[プロフィール]
執行謙一(しぎょう・けんいち)さん
福岡市東京事務所・シティセールス担当主査。高校までを福岡で過ごし、関東の大学に進学後、酒類メーカーを経て福岡市役所に入庁。平成24年4月より福岡市東京事務所に所属し、主に首都圏企業の福岡への企業誘致に携わる。

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