平屋フリークのイラストレーターが実践する、憧れの福岡⇔東京二拠点フラットハウス生活!

軽快なタッチのイラストで、数々の雑誌や広告に彩りを添えてきたイラストレーターのアラタ・クールハンドさん。平成21(2009)年には『FLAT HOUSE LIFE』を発刊、翌年には雑誌『FLAT HOUSE style』を創刊し、米軍ハウスをはじめとした平屋住まいの魅力を独自の視点と熱量で伝えて、一部の読者から熱狂的な支持を得ています。

そんなアラタさん、実は2年前から、福岡市のとある海辺の町にフラットハウスを借り、現在は東京と福岡の二拠点生活をしているとか。はたしてアラタさんはどんなライフスタイルを送っているのでしょうか? 福岡市内の噂の住まいに伺って、ズバリ聞いてきました。

――天井が高くて壁や調度品にも一つひとつ味があって、素敵なお住まいですね。米軍ハウス、噂では聞いていましたが初めて中に入りました。

アラタ ありがとうございます〜。なかなかいいでしょう? 現代の画一的な住宅と比べたら、格段に個性的ですよね。「米軍ハウス」はもともと、終戦後日本に駐留する米軍兵士とその家族のために建てられた民間の簡易供給住宅ですが、思いのほかよくできているんです。60年代後半以降に駐在兵士が引き上げていってからは、広さと家賃の安さ、洋風な雰囲気に惹かれて日本人のクリエイターたちが住み始めました。僕自身は、幼少期に山口県の外国人向けフラットハウスに住んでいたことが平屋好きの原体験になっています。

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――アラタさんは今、東京と福岡の両方にフラットハウスをお持ちなんですよね? どんな生活をしているんですか?

アラタ 持つといっても両方とも借家ですけどね(笑)。一昨年の夏から東京都下と福岡に家を借りて、二拠点で生活しています。仕事は自宅で完結できるのでほぼ支障はありません。1年のうちざっくり1/3が東京、2/3が福岡で、関東ですべき仕事は予めまとめておいてから帰省するという感じですね。福岡の家は海に囲まれているせいかスギ花粉が少ないため、春はほぼこっちにいます(笑)。まあ、会社員という枠から考えると想像しづらい生活スタイルかもしれませんね。

――その自由さ、うらやましいです。どういう経緯でいまのライフスタイルになったんでしょう?

アラタ 4年前の原発の一件以降、東京から離れて暮らしたいという思いはありました。でも仕事のことや両親・友人のこともあるしなかなか行動に移せない。そうやって思い悩んでいるうちに当時住んでいたハウスの取り壊しが決まり、立ち退きを余儀なくされたんです。それで地方暮らしが現実味を帯びてきました。ちょうど九州旅行中に福岡で空き家のハウスを見つけ、同時に好きなだけ手を加えていいという都下の文化住宅の話も舞い込んで来て。これなら東京にも拠点を残しつつ移住できそうだなと。結果、同時に2箇所に引っ越しすることになったというわけなんです。

――なるほど。東京に拠点を残しながら、よりよい環境を求めて福岡にも家を借りる……理想的な生活に思えますけど、お金の面はどうされているのでしょうか? もしや、本の印税がバンバン入ってくるとか……。

アラタ いやいや、そんなことはないですよ、それなりに大変です(笑)。2棟とも家賃が低いので成立しています。僕が好む平屋は築半世紀以上経っているため、自分でもかなり手を入れなければならず、その分初期費用はかかりますが、家賃は安価です。福岡は特に安いですね。空港や天神などの繁華街からクルマで30〜40分ほどの好立地なのに、まだまだいい平屋物件が残ってるんですよ。東京だと都心から1時間以上でも競争率が高くなかなか借りられないのに。僕の勝手な試算だけれど、福岡で派手に飲み歩いたりせずに普通に暮らすのであれば、夫婦やカップルでも月12〜13万円で生活していけるんじゃないかなあ。

――そもそも福岡を選んだのは、何かゆかりでも?

アラタ それがまったくないんです。ただ、福岡には米軍ハウスが残っているというのは前から聞いていて気になっていましたし、九州にも興味はありました。福岡R不動産のスタッフに僕の本の愛読者がいたので、彼にいろいろと協力してもらいこの家を借りられることになったという経緯です。僕、思うんですよ、クリエイティブな仕事をしている人間はもっとイレギュラーな暮らしをすべきだと。感性を鋭敏に保つためには、公務員や大企業のサラリーマンのように日々同じところに通って同じ町に帰るような暮らしをすべきではないと。そのために知らない土地に身を置くことはとても簡単で有効な手段だと思うんです。出版界ではいまだ「本が売れない」と嘆かれていますが、それはやっぱり作り手側にも大きく問題がある。画一的なビル型マンションに住んで、これまた似たような箱型ビルに通勤し、顧客とビルで打ち合わせをし、終わればまたビルの中で酒を飲む。そんな“ビルからビルの生活”を送っている人たちの脳から、人々を魅了するような企画や秀でたアイデアが生まれるとは到底思えない。僕らにはココロの“ざわつき”や“ざらつき”こそが大事。地面や緑との接点が近い平屋での生活もそういうことで、土地勘のない新天地に移るのもそんなに恐いことじゃなかったんです。むしろワクワクしましたよ。

――それは大事な視点ですね。では実際に福岡で暮らし始めて、どうですか?

アラタ 最高ですよ〜。何がいいって、まず人がいい。技術やセンスを持ちつつもキャリアにあぐらをかくようなこともなく、社交的で実直な人が多いと感じます。言葉にも裏がなくストレート。東京の生活で染み込んでしまった物事を疑ってかかるクセ、そんな自分にハッとし恥ずかしくなることもしばしばありましたね。また、パワフル過ぎないところもいいかな(笑)。街にチェーン店が少なく、個人店舗の方が目立つところも高ポイント。首都圏からやって来た大企業が仕掛けたというのでない、自然な賑わいがある。古い建物も多いし、“対東京”や“アンチ東京”というような「東京意識」の空気もなく、まったく別の豊かな文化圏を築いているように見えてとても刺激的です。その上食べ物はおいしく安いし、女性もチャーミング。福岡の女性は、イベントやパーティなどで、目が合うと微笑みかけてくれたりすることもしばしば。「ここは欧米か!?」と(笑)。関東では出会いにくい現象ですが、こちらでは極自然な振る舞いなんでしょうね。

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――楽しそうですね! では逆に不満点はありますか?

アラタ ほとんどないんですけど、まあ敢えていうならフリーマーケットが少ないことかな(笑)。首都圏では週末ともなれば素人のフリマがあちこちで催されていて、そこで面白いモノを発掘したり人と交流したりするのが楽しみだったもので。でも不満があれば自分で行動して変えればいいんですよね。ここではそれができる。福岡には人を紹介しあう文化が強くあるので、興味のある人を集めて一緒に何かを立ち上げやすい環境だと思います。僕もこちらに来てすぐに福岡の面白い人たちと知り合うことができ、すでにいくつかのプロジェクトに関わりました。こっちに来たからには、本業だけでなくまったく新しい仕事にもチャレンジしたいと思っています。自分のできることを増やしながら再発見しつつ、その上で楽しく暮らしていけたらいいなと。

――では、これから移住や二拠点生活を考えている人に、ひと言メッセージをお願いします。

アラタ 「私にはムリ」と決めてかからないことですね。できない理由ばかりを挙げずに、「したいか・したくないか」で動くと良いと思います。これまでの概念を一旦捨て、自らのルーティンを脱ぎ捨てることから始めてほしい。ほら、地方の人は気軽に東京や大阪と故郷を往き来しているじゃないですか。僕らもそんなふうに、もっと気軽に他の土地へ動くべきです。旅行をして「ここに住んでみたいなあ」と思ったらその気持ちに素直に従えばいいんですよ。来てみれば判りますが、仕事は選ばなければ地方にもたくさんありますし、自分でつくり出せる気風や人的バックアップもあります。一回しかない人生をずっと同じ地で過ごすことは、たくさんの出会いや好機を自ら断っていることに等しい。東京では人が多すぎて逆に会えなかったような人たちとも知り合えるし、そこにしか吹いていない“新しい風”にあたることができると思います。

 

[プロフィール]
アラタ・クールハンド
イラストレーター、文筆家。東京都出身。ロゴタイプの制作、パッケージデザイン、広告、音楽ヴィジュアルなど手描きのグラフィックを中心に、企画や執筆、講演等幅広く活動。2009年に、東京都下周辺の古い平屋ばかりを紹介した『FLAT HOUSE LIFE』を発刊。翌年には判型を拡大し、一冊に平屋一軒というよりマニアックな『FLAT HOUSE style』シリーズを自費創刊。14年には自宅に店舗を兼ねた物件で暮らす人々を紹介する『HOME SHOP style』を発刊するなど、編集者としても手腕を発揮。東京都下と福岡のフラットハウスで二拠点生活を送りながら多彩な活動を展開している。

 

[連載コラム]
・月刊誌『シティ情報Fukuoka』《REVIVAL journal/再評価通信》
・季刊誌『たまら・び』《Subliminal Notes/無意識雑記帳》

 

[関連リンク]
オフィシャルブログ/『LET HIM RUN WILD』
http://arata-coolhand.cocolog-nifty.com/coolhand/

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