福岡発のアプリ「にしてつバスナビ」は“よそ者”視点が生んだ作品だった

福岡市内を移動するうえで欠かせないのが、市内を縦横無尽に走るバスの存在。中でも、国内最大級の規模で路線バスを運行する西日本鉄道の「西鉄バス」は、多くの市民に利用されています。

天神・博多間の100円バスは何となく乗るけど、バスもバス停もたくさんあって「どれに乗ればいいかわからない!」なんて声も。そんな西鉄バスを上手に乗りこなすために作られたアプリがあるのをご存知でしょうか? 

発案したのは、長野から福岡に移住してきたシステムエンジニアで「株式会社からくりもの」代表の岡本豊さん。岡本さんは、どうしてこのアプリを作ったのか。そもそもどうして、ここ福岡にやってきたのか。お話をお伺いました。

この街なら、よそ者の僕もやっていけると思ったんです

――どういった経緯で起業家になられたのでしょうか?

岡本 僕自身は26歳まで長野にいたのですが、現地の高等専門学校(高専)に通っていた頃から起業したいという想いがありました。高専2年生のころ、ボランティア団体を立ち上げて活動していたのですが、ありがたいことに何度かメディアにも取り上げられて、北は北海道、南は沖縄まで団体に参加したいというメンバーが集まっていました。平成12(2000)年ごろの話なのですが、当時は今のようにSNSもありませんから、遠くの仲間たちと情報共有や議事録を共有する手段がほとんどない。今でも、ボランティアや非営利活動を行っている団体は、日々の煩雑な作業に追われて本当にやりたいことができないということが往々にしてあり、そうした現状を変えるため、将来は起業して情報共有できるツールを作ろうと考えるようになったんです。

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――そこで、起業の地として考えられたのが福岡だったと。なぜ福岡だったのでしょう?

岡本 僕自身、ITを生活のメインに置いていない人たちの暮らしを、ITの力で便利にしたかったという想いがありましたから、東京や大阪など、あまりにも都会ではターゲットが合致しません。それに、アパレル業界でもなんでも、新しく日本でビジネス参入するときに福岡でまずテストをして、全国に展開するといいます。そんな話を聞いて、よそから来た人やモノを受け入れてくれるような土壌があるのではないかと思ったんです。

――実際にいらっしゃって、いかがでしたか?

岡本 正にその通りでした。僕が福岡にやってきた当時、福岡の大名・天神エリアでは「#大名なう」というハッシュタグを使ったTwitterでの街おこしをやっていたんです。これは、エリア内にある街の人たちがハッシュタグと一緒に自分のお店や情報を発信するというプロジェクトだったのですが、意外にも、地元の定食屋さんがメニューを淡々と呟いたりして、かなりたくさんの人が積極的に参加していました。そんな様子をみて、福岡には「何か新しい取り組みがあるなら、自分も参加してみよう」という心意気があることに気づき、こんな街ならよそ者の僕も仕事ができるはずだと確信したんです。実は、僕自身、福岡での初めての食事は「#大名なう」で見つけたお店で、お店に着くなり「『大名なう』を見て、ようやくお店に来ることができました」とハッシュタグをつけてつぶやいたら、店主の方が僕に声をかけてくれたんです。そこで、店主に僕が福岡に来たばかりだという話や、福岡でITの仕事をしたいといった話をすると、早速、地元の業界の人が集まるイベントを紹介してくれました。すごいスピード感ですよね(笑)。福岡には、新しいものを受け入れてみんなで楽しもうという心意気に加えて、こんな風に横のつながりを最大限に活かそうという習慣がある。西鉄バスのアプリ「にしてつバスナビ」も、そんな横のつながりから誕生したんですよ。

人と人とのつながりから生まれた「にしてつバスナビ」

――「にしてつバスナビ」、誕生の経緯についてもお聞かせください。

岡本 まず夏の社内合宿で、僕が「バスのアプリを作りたい」と提案したのがきっかけでした。というのも、僕も福岡に来た当初はバスの多さに驚きましたし、便利にも感じていたのですが、路線数が多いが故に「本当にこのバスで合っているのか?」「乗り継ぎはどうすればいいのか?」と、なかなか乗りこなすことができなかった。それからずっと、バスのための乗り換えアプリが欲しいと思っていたんです。

――地元の人はもう慣れてしまっているから、そんな複雑さも当たり前になってしまっているのかもしません。正に“よそから来た人”の視点ですよね。

岡本 それはいろんな人に言われました。福岡の人はもう頭の中に路線図が入っているから、必要ないんですよね(笑)。はじめは「バスをさがす 福岡」というアプリ名で、平成24(2012)年8月に作成、その年の11月にリリースしました。西鉄さん非公式のアプリでしたが、西鉄さんの中でも「こんなアプリがあるらしい」とちょっとした話題になったようです。ただ、まだアプリは不完全で、ブラッシュアップする必要があった。そのために路線の情報提供をお願いできないかと思っていたけど、いかんせん西鉄さんは規模が大きく、歴史もある大企業。どうアプローチすればいいかわかりません。そんな時に、福岡で知り合った印刷会社の方がつないでくださって、なんと直接、ご相談に行くことができたんです。正直、「こんなアプリは認められない!」なんて言われるんじゃないかとビクビクしながら担当の方に会いに行ったのですが、実際に話をしたら西鉄さんもアプリを好意的にとらえていただけて、結果、西鉄の公式アプリとして「にしてつバスナビ」という名前で再リリースすることになりました。西鉄さんにつないでくださった方をはじめ、応援してくれた方がいたからこそ、こうしてたくさんの方に使っていただけるアプリにまで成長したんだと思います。

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――福岡で仕事をするなら、人とのつながりがとても大切になってくるのですね。

岡本 そうだと思います。僕も、これから福岡で仕事がしたいと思っている若い人たちには、とにかく福岡に来てみて、イベントや人が集まる場所にどんどん出かけて、自分がやりたいこと、得意なことをアピールしてほしいです。そして、手を貸してくれる人には思い切り頼っていいと思う。相手に直接、恩返しすることは難しいかもしれませんが、次に自分が誰かの手助けをしてあげることで、まわりまわって最初に手を差し伸べてくれた人にも恩を返すことができているかもしれません。現に僕も、福岡に来て3ヶ月後には人を紹介される側から自分が紹介する側になっていましたしね。福岡のビジネスはそんな風に人の縁がつながってどんどん成長しているし、これからも成長していくんだと思います。

 

[プロフィール]
岡本豊(おかもと・ゆたか)さん
1983年にシンガポールで生まれ、6歳から長野県長野市で育つ。長野高専を卒業後、県内のシステム会社でエンジニアとして経験を積み、平成22(2010)年2月に福岡に移住。同年4月からフリーランスの屋号として「からくりもの」を名乗り、平成24(2012)年4月にクリエイター仲間とともに「株式会社からくりもの」を設立。現在、同社代表取締役を務める。

 

[関連リンク]
株式会社からくりもの
https://karakurimono.biz/

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