“福岡の人は地元愛が強い”とはよく言われる話ですが、福岡から離れた土地でその思いを加速させる福岡人は日本中(というより世界中?)に点在しています。今も世界のどこかで福岡出身者が、福岡について思いを馳せているかも……。
そんな福岡人の“地元愛”が可視化されたアツいイベントが、去る11月22日、東京・渋谷で開催されました。
「リトルフクオカ」と題するこのイベントは、東京近郊で活躍する福岡人が集う交流会。昨年誕生し、以降、3ヶ月に1度のペースで定期開催されており、今回で6回目を迎えました。毎回の参加者の平均年齢はおよそ25〜35歳。働き盛りのこの時期、バリバリと東京で仕事に奔走する彼・彼女らが、なぜ上京してもなお福岡人で集まろうとするのか————まずイベントスタート前に、運営事務局の國武宣道さんと執行謙一さんに話を聞きました。
--そもそも「リトルフクオカ」はどのような経緯で開催に至ったのですか?
國武 はじめは東京でウェブ周りの仕事をしている在京県人で「軽く飲もう」と10人くらいでもつ鍋屋に集まったのがはじまりだったんです。そしたら、すごく意気投合してしまって、「もっと東京にこうして福岡の人が集まれる場所があればいいのにね」っていう話になりました。
執行 「じゃあ次は50人くらい集めてみようか」と周りの人に声をかけてみたら、なんとあっという間に募集枠が埋まってしまったんです。本当にビックリしましたよ。みんなそういうのを待ってたんでしょうね。
國武 参加する度に感じるんですが、福岡の人って潜在的に福岡人同士で繋がりたいと思っていると思うんです。自分と東京の人、それから自分と福岡の人って、それぞれ距離感が違う。福岡の人って懐に入りやすいというか、(福岡人である)僕にとっては一緒にいると安心する。それは他の福岡の人も似たような感覚があると思います。
執行 意図はしていなかったのですが、参加者から聞いた話によると意気投合してここからビジネスが生まれたり、Uターンを考えていた人がここでの出会いをきっかけに“帰福”したっていうケースもあります。それに、「上京して一週間、とても不安だったのですがこんな機会があって安心できました」という参加者もいました。そんな声を聞くと、うれしいですよね。今回も楽しい会になると思います。
午後8時。会場には続々と参加者が集いはじめ、乾杯の音頭と共に各所で「はじめまして」「久しぶり!」「元気やった?」という声が。
今回はどんな福岡人がやってきているのでしょうか?取材班が「こんばんは!」と近くの男性に声をかけてみると、なんとランサーズ株式会社・取締役COOの足立和久さんでした。
--リトルフクオカに来られたのは初めてですか?
足立 何度か参加していますよ。今は東京と福岡の二拠点で仕事をしているんですが、福岡支社のメンバーになってくれる人をずっと探していたんです。で、現メンバーの2人は実はここで知り合ったんですよ。今日も来ているので紹介させてください!
写真左の女性 はじめまして、ランサーズのもりぐちひろこです!
--足立さんとここで知り合ったのがきっかけで、転職されたとお聞きしました。
もりぐち そうなんです。東京で暮らしながらも、地元の福岡にいずれ帰りたいと思っていたのでUターンイベントなどに足を運んでいたんです。たまたま、私が行ったイベントで足立さんの講演があり、すごく興味深いお話をされていて。それで「ランサーズの福岡支社ができるなら、働けたらいいな」と思っていたんです。そしたら、その後たまたまリトルフクオカに誘われて来てみたら、足立さんも参加してるじゃないですか!そこでお話して、あれよあれよと…まさかここでUターンの夢が実現するとは思いませんでした。
リトルフクオカでUターン実現とは驚きです。ただの飲み会だと思っていましたが(←失礼)、そういうわけでもないんですね!
続いて声をかけてみたのは、日本デザイン株式会社代表取締役の大塚剛さん。実はリトルフクオカのロゴは日本デザインの方々が考えたものなのだそう。
--リトルフクオカのロゴ、かわいいですし、ほとばしる福岡愛を感じます!大塚さんも地元愛が深すぎた人生を送ってこられたのでしょうか?
大塚 いやー、そんなことないんですよ。18歳で上京して、30代になるまで福岡に帰ってみたいと思うことってなかったですしね。でも1〜2年ほど前からでしょうか、デザインの力で福岡と東京を繋げる仕事ができないかと思うようになったんです。その頃は「なんとなくやってみたいな」とぼんやりした夢だったのですが、リトルフクオカで異業種の人とコミュニケーションをとることで、なんとなくやりたいことの形も見えてきた気がします。今は福岡にサテライトオフィスをつくりたいと思っているんですよ。
もともとはウェブ周りの仕事をする人の集いとしてスタートしたというこのリトルフクオカですが、いまや様々な職種の人が集うようになっているようです。こちらの中村俊文さんは日本銀行金融市場局で金融政策に携わっていらっしゃるんだとか。
--「日銀で金融政策」って、もうそれ聞いただけで背筋が伸びてきそうです。でも、具体的にどんな仕事をされているんでしょうか?
中村 簡単に言うと、金利の上げ下げをすることで日本の経済をいかに豊かにしていくか、という仕事をしています。一見お堅い仕事なのですが、でもだからこそ、ここリトルフクオカで出会った人の「生の声」が大切なのです。私たち日銀は東京の景気だけを良くしても意味がない。例えば僕の地元である福岡で、新しく起業した友達がどうすれば楽しく仕事ができるのか。彼らに少しでも届いて欲しいと願いながら、日々の金融調節をしています。東京では、そうした地方で頑張っている人やいずれUターンしたいと考えている市民のリアルな声はなかなか聞けませんから、こうした場で話を聞くことが、ある意味では明日の金融調節に生かされているんですよ。
「福岡には元気な女性が多い」とよく言われますが、会場には女性の参加者も多く見受けられました。松尾志織さんは三菱東京UFJ銀行で働いている、福岡女性のひとりです。
松尾 東京に来てまだ1年半ほどで、以前は関西に8年いました。福岡を離れてからは10年くらいになります。いずれ福岡に帰りたいと考えてはいたのですが、せっかく帰るなら何もスキルのない状態で帰るのではなく、「私だからできること」を探して帰りたいと思っていました。私のスキルが福岡に戻ってどうやっていかされるかなんとも見えない部分もありますし、具体的な帰福プランというのはまだないんです。でも、こういう場所に来ると、普段の仕事では会うことができない人がたくさんいる。自然と「もしかしたらこんなチャレンジもできるかもしれない」という気持ちにさせてくれます。
こちらは博報堂の左達也さん。
左さんは博報堂生活者アカデミーという、人間起点のイノベーションを学ぶ教育機関で、「発想体質」を身につけるプログラムを企画・プロデュースする仕事をされています。福岡市の「発想環境」に注目して、現地で創造的ビジネス思考ワークショップも開催しているのだとか。
左 もともとオープンマインドな人が多く、産官学の垣根が低い福岡は、何か新しいことが生まれるのに良い環境だと思っています。また都市設計上、街がコンパクトで複数の機能を持ち、街区も短いので偶発的に異業種が出会いやすいんですよね。東京は、街ごとが最適化されすぎていて、特にオフィス街は単機能で、高層ビルのオフィスでは同じビル内ですら上層階と低層階の人が出会うことはほとんどない等、人が偶発的に出会うことが少なくなっています。リトルフクオカにこんなに多種多様なバックグラウンドを持つ人が集まっているのも、福岡の異業種との偶発性的な交流を潜在的に求めているからなんじゃないでしょうか。
毎回参加者の半分が初参加というこのリトルフクオカ。BuzzFeed Japanの創刊編集長の古田大輔さんも、今回はじめて参加したのだとか。
古田 以前リトルフクオカの更に“リトル”な、メディア部会というものに一度参加しました。これは福岡出身者で、かつメディア関係で仕事をしている人がただ集まって飲むというシンプルな会で、僕も誘われて足を運んでみたんです。メディアの仕事をしていると、いろんな業種の人と会話をするチャンスがありますが、初めて出会う人と話をする時に互いに共通点がないと、なかなか会話って火がつかないじゃないですか。でも、ここでは「土地」っていう必ず盛り上がれる話題がある。それってすごくいいことだと思うんです。
多くの出会い、そして繋がりの機会を提供するリトルフクオカ。ある運営事務局スタッフは、「イベントというよりも、リトルフクオカという“コミュニティ”を作りたいと思っています」と話します。「コミュニティって、ただそこにあることが重要というか、主催者が意図をもって誘導しすぎると、参加者は居心地が悪くなると思うんです。ただみんながこうして集まれる場所をつくることが、運営事務局の考えのベースとなっているんです」
リトルフクオカの参加資格は、福岡出身者だけでなく、住んだことのある人、今後福岡とつながって何かをしたい人など「福岡への強い思いを持っている」こと。そこに集まる人達と繋がることで、新しいアクションを起こしていきたいという思いがある方を歓迎しているそうです。今後も2〜3ヶ月に1度、イベントが開催される予定で、次回は福岡の「ふく」にちなんで2月9日(木)。「楽しそうだな」「行ってみたいな」と思った東京近郊に住む方は、気軽にのぞいてみてはいかがでしょうか?
【関連リンク】
リトルフクオカ
(HP)http://littlefukuoka.jp/
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