シリコンバレーと京都に共通する部分とその違いは?

現在32歳の洛西一周(らくさい いっしゅう)さんが、WEBサービスの開発・提供を行うNOTA Inc.をシリコンバレーに設立したのは7年前のこと。14歳からプログラミングを独学で学び始め、高校時代にはソフトを開発し、大学在学時にそのソフトを販売します。大学院卒業後、25歳でシリコンバレーに進出。27歳の時に京都支社を設け、以来京都とシリコンバレーを行き来するなど、文字通り世界を股にかけて活躍されています。

シリコンバレーと京都――一見まったく違う両都市ですが、ビジネスをする上で何か共通点はあるのでしょうか。洛西さんに話を伺いました。

――そもそも、なぜアメリカでビジネスを始めようと思ったのでしょうか。

洛西 一言で言えば、学生時代からシリコンバレーで挑戦してみたいという気持ちが強かったからです。大学院の修士過程修了後、すぐに現地に向かいました。現地にツテがあったわけでも、知り合いがいたわけでもなかったのですが、とりあえず現地に行かなければと思ったんですよね。幸い、英語を少し話せるので、現地の人と仲良くなることから始めようと思いました。

――つまり「ゼロ」からのスタートだったわけですね。

洛西 ええ。ただ、不安はそこまでなかったし、実際、そこまで苦労せずに済んだんです。周りには協力的な人が非常に多くて、いろいろな方を紹介してくれました。結局、渡米して数ヶ月で会社を設立。それと同時進行でソフトの開発作業も始め、写真スライドショーサービスの「PhotoPeach」や、スクリーンショット共有ツールの「Gyazo」などを作りました。これらは、リリース当初、全然売れなくて困りました。あまりにも売れなかったので、2年後にシリコンバレーにスタッフを残したまま拠点を京都に移すことに……まぁ、事実上の“撤退”ですね。しかし、その後、「Gyazo」や、日本国内のほとんどの図書館の蔵書を検索できるサイト「カーリル」がヒットすることになるんですが。「Gyazo」に関しては、現在世界で800万人以上のユーザーが利用しているんですよ。

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――シリコンバレーから“撤退”する際、拠点を京都に選んだ理由はなんですか。

洛西 私自身、高校の途中から京都の学校に転校し、大学時代を含めると5年くらい住んでいて、とても馴染みのある街だったというのが最大の理由です。また、仲間が京都にいることも拠点を選んだ後押しとなりました。大学時代、地域のNPOや、学生のコミュニティ活動によく参加していましたので、そこで仲良くなった人たちとは連絡を取り続けていたんですね。その彼らが、帰国時に、ビジネス面でいろいろとサポートしてくれました。

――実際に京都でビジネスをやってみて、シリコンバレーと共通する部分などはありましたか。

洛西 良い意味で組織に所属している人が少なく、横のつながりで協力しあってビジネスが進められる点ですね。もちろんその背景には違いがあります。シリコンバレーには、世界各地から優秀な人材が集まり、「新しいものを創っていこう」という雰囲気があります。京都の場合は、昔からの文化が根強く、「街を守っていこう」という考えがビジネス界にもある。ただ、みんなで街を盛り上げようという意識は同じ。例えば京都には伝統工芸の職人さんがたくさんいますが、彼らはいまで言うフリーランスのような形態に近く、一つの仕事をそれぞれの職種が協働して分担して行っています。それが今の京都のIT業界にも受け継がれている面があると思います。京都では、異分野の人達が自然と集まるような環境があります。だから横のつながりが強く、ビジネスがやりやすいんだと思います。

――京都の意外な一面ですね!

洛西 京都では、今、新しい事業を興しやすい環境が整ってきています。例えば、私が入居している「京都リサーチパーク町家スタジオ」という町屋を改修したオフィスの1階には、起業支援と地域交流を目的としたスペースがあります。ここではビジネスに関するイベントや交流会などが頻繁に開かれており、木曜日には一般の方やフリーランスの方にも開放しています。また、京都には数多くの大学があり、研究室から「こういったことを事業化できないか」といった相談を受けることも多く、最先端のプロジェクトを仕事にできる機会があります。京都は、いままでにない新しいことを始めるスタートアップ企業にとって、かなりチャンスがある都市だと思います。

 

[プロフィール]
洛西一周(らくさい・いっしゅう)さん
昭和57年生まれ。平成17年同志社大学卒業、平成19年慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。同年、渡米しシリコンバレーにてNOTA Inc.を設立。これまで手掛けたサービスには、スクラップブックソフト「紙」、画像共有サービス「Gyazo」、図書館の蔵書検索サイト「カーリル」などがある。平成26年、大手インターネット広告代理店オプト、大手ファンド会社YJキャピタルなどから総額200万ドルの出資を受ける。

 

[関連リンク]
NOTA Inc. https://notainc.com/

 

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