カルチャー系移住者インタビューvol.3 ミュージシャン・福島康之さん 「豊かで何が悪い!」 ポジティブな音楽都市・福岡への期待

東京のカルチャーシーンを彩ったキーマンたちの、福岡移住を追いかける当シリーズ。第3回目に紹介するのは、バンド「バンバンバザール」のリーダー、福島康之さんです。

ライブにこだわった音楽活動を20数年にわたって続け、現在でも全国で年間150本のライブをこなす「バンバンバザール」。福島康之さんは、平成26(2014)年にライブもできるフリースペース「LIV LABO(リブラボ)」を福岡・大名の地にオープンし、平成28(2016)年には、家族を伴って神奈川県茅ヶ崎市から福岡市へと移住してきました。生まれは東京・高田馬場、その後も関東を拠点に活動を続けてきた福島さんが、福岡へと拠点を移した理由とは? そして今、福岡で音楽を続けることの意味とは? 福島さんに思いの丈を語っていただきました。

--まずは、福島さんがプロミュージシャンになった経緯から、教えてもらえますか?

福島 はい。初めは、プロになろうという気持ちはなかったんです。僕はラグタイムとか、カリプソと呼ばれるアコースティックな音楽が好きで、二十歳ぐらいからギターを持って歌い始めました。大学は卒業したけど、就職は嫌でそのままモラトリアムを続けたくて、そこからバンドを本格的に始めて、路上でライブばかりしてました。それを見たブルース系ギタリストの吾妻光良(あづまみつよし)さんが、「レコードを作ろう」と声をかけてくれたんです。当時は「イカ天(いかすバンド天国)」なんかのバンドブームだったので、僕らみたいなアコースティックは全然いなくて、珍しかったんでしょうね。それでCDを作ったり、いろんな先輩ミュージシャンと共演したりしているうちに、全国ツアーをするようになって。47都道府県はすべて制覇して、秘境と言われるような温泉もほとんど行きましたね(笑)。今でも毎週末はどこかの都市にツアーに行っていて、旅暮らしを続けてます。

--では、福岡にもよくいらっしゃってたんですか?

福島 ええ。九州は全般的に人懐っこいし、中でも福岡の人はリアクションがいいから、行くのが楽しみだったんですよ。ライブを楽しもうという前のめりな姿勢があって、「人が音楽的だな」と感じましたね。ツアーに行くたびにいろんな人と仲良くなって、今ではバンドの相方である黒川(ベースの黒川修さん)も、福岡のライブを見に来てくれたことがきっかけで知り合ったんですよ。彼は北九州出身で、僕と福岡との縁を繋いでくれた存在でもあります。

--そうなんですね。でも、故郷である東京を出て移住するというのは、よほどの決意だと思います。何かきっかけがあったんですか?

福島 んー、直接のきっかけはないんですけど、「東京じゃなくてもいいかな」という思いは、10年くらい前から持ってました。むしろ、東京に居続ける理由がなくなったというか……。僕が生まれ育った昭和40年代の東京の原風景は、それ以後の開発でどんどんなくなってしまったし、親兄弟もそこにはいないので実家と呼べるものはもうなくて。ツアー暮らしをするようになって、そもそも家にいないことも多いし、北海道とかで開放的な気持ちになってから東京の家に戻ると、「なんて空気が汚いところに住んでんだろ」って思ったりとか。それで茅ヶ崎の海沿いに引っ越したんですが、それもだんだん物足りなくなってきて。僕は街っ子なので、やっぱり街と人と文化があるところに住みたいなと思ったんですよ。

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--それで、移住してきたわけですか?

福島 いや、その前にLIV LABOを開いたんです。福岡在住のミュージシャンと意気投合して、音楽だけでない文化発信拠点を作りたいと考えて。僕らの音楽活動って、自分たちでレーベルを作ったり、「勝手にウッドストック」とか「勝手にニューポート」っていうフェスを自主企画したりして、メジャーとはあまり関係ない世界でずっと続けてきたんですよ。それで、小さな規模でも自分たちなりの考えやカルチャーというものを発信していけば、ついてきてくれる人がいるということがわかったんです。そもそも、音楽自体が人とコミュニケーションをとるものでしょ? 曲を書いたり演奏したりするだけじゃなくて、フェスをやるとか場所を持つとか、お客さんとの接点を作る方法はたくさんあるし、僕自身もそういった活動を全部ひっくるめて自分の音楽活動だと思ってるんです。

--それは、東京ではできなかったことなんですか?

福島 音楽と違う部分でのコストがかかりすぎるんですよね。レコーディングでもライブでも、ある一定のクオリティを出すためには必ず時間がかかるのに、スタジオを長く押さえるだけで大変で。LIV LABOのような規模の店を東京に持ったら、維持費だけで相当かかるんですよ。そうすると、どんどんバンドに出てもらって、バンドにはチケットのノルマを課さないといけない。でも駆け出しのバンドは、チケットをさばいたりするより、音楽に専念しないといけないはずなんです。僕らは路上で始めたから、元手もかからずに音楽ができたし、いい演奏ができればお金も入ってきて、それでクオリティも上げられた。そうやって自分を研いでいくことができたから、ラッキーだったんですけどね。今の東京は、下積みをするには家賃も高いし、路上で稼ぐことも難しい。力のあるプロジェクトに引っ張ってもらうか、成り上がるかしないと、音楽を長く続けていけない気がするんですよ。後は、僕のように旅暮らしをするとかね(笑)

--なるほど。それで実際に福岡に移住されて、今どう感じていますか?

福島 よく言われることですけど、食べ物が美味しいですよね。九州の人って、毎日こんなに新鮮でいい物を食べているから、エネルギーが高い元気な人が多いんじゃないかなって、本気で思います。僕も旅暮らしが長くて、疲れているところもあったので、こっちにきて元気になってきたと思いますよ。でも逆に言うと飢餓感がないというか、こっちの人は穏やかでマイペースな人が多くて、ハングリーさに少し欠けるかもしれないと思うことはありますね。

--難しいですね。豊かで満たされている場所よりも、ストレスフルな環境の方が、時にとんがった表現が生まれてくることもあるという……。

福島 そうそう。僕も東京の厳しい環境で、仕方なく尖っていってしまったということだと思います。ただ、だからと言ってストレスフルな方がいいということにはならないですよね。きちんと豊かな生活を送りつつ、新しい表現をしていける方法を模索するのは、僕のこれからのテーマでもあります。「豊かで何が悪い!」という、異常にポジティブなエネルギーを発するカルチャーとか、きっと面白いんじゃないですかね?

--確かにそうですね。

福島 福岡は音楽好きで、感性の高い人がたくさんいますよね。無料イベントも多いし。中洲ジャズなんてすごい熱気で、街中でおばちゃん達が踊ったりしてますからね。クリエイトする側と楽しむ側の垣根が低いのは、新しい表現が生まれる可能性があるってことだと思います。そんな福岡の良さを、もっと伝えていきたいですね。アメリカの地方都市って、シアトルのように独自の音楽シーンがあったり、SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)のようなイベントがあったりと、NYやLAとは違うカルチャーを形成してる街ってたくさんありますよね。日本だったらそれは福岡がふさわしいと思うし、その可能性は十分にあると思いますよ。来るべき時に備えて、いいタイミングで芽を出せるように、僕自身もアンテナを張って準備していきたいですね。

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ステージ上では熱演するミュージシャンであり、一方でバンド全体を運営する経営者でもある福島さん。メジャーの力に頼らず、自分たちの手で活動を広め、自らの生業を立てていくインディーズ音楽家の先駆者でもあります。今回のインタビューでは、路上と全国のライブハウスで鍛えた鋭い感性で、福岡への期待を語ってくれました。いよいよ拠点を福岡に据えた福島さんが、今後福岡の音楽シーンをどのようにかき乱してくれるのか、期待しましょう。

 

【プロフィール】
福島康之(ふくしま・やすゆき)さん
昭和43(1968)年東京都新宿区生まれ。バンド「バンバンバザール」リーダー、ボーカル兼ギター。バンバンバザールは平成2(1990)年に結成。ストリートでの演奏がきっかけでギタリスト吾妻光良氏に見いだされ、1stアルバム「リサイクル」でデビュー。ジャズやジャイブ、ブルース、カントリーなどルーツの香りのする音楽性で、これまでに通算14枚のアルバムを発表。他に、自主レーベル「HOME WORK」の運営、アーティストのプロデュースや客演など多数。平成26(2014)年には、福岡・大名に「LIV LABO」をオープンさせ、現在は福岡を拠点に精力的な活動を続けている。

【関連リンク】
LIV LABO
http://livlabo.wixsite.com/livlabo/contact

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