IBM主催のイノベーション創出プログラム 「イノベート・ハブ九州」がスタート! IBM技術者が福岡に寄せる期待とは?

かつては製造業の集積地として栄え、現在ではIT・クリエイティブ業界が活況を呈するなど、エンジニアが活躍できる土壌がある九州。先日行われたシリコンバレー研修プログラムイベントでは、「福岡の技術者は(世界と比べて)“コスパ”が高い」という話題が出るなど、注目が高まっています。

そんな中、福岡を中心とした新しい試みがまたひとつ誕生しました。平成28(2016)年6月より立ち上がった、ハッカソン(プログラマーが技術とアイデアを競う開発イベント)を起点とするイノベーション創出プログラム「イノベート・ハブ九州」です。

このプログラムを主催するのは、日本アイ・ビー・エム株式会社。グローバル企業であるIBMが、日本の中でも、特に福岡に着目している理由とは何なのでしょうか? 8月6日、福岡・天神にて開催された「イノベート・ハブ九州」によるハッカソンイベント「イノベート・ハック九州」に伺い、日本アイ・ビー・エム株式会社で技術アドバイザーを務める佐々木敦守さん(写真中央)と宇藤岬さん(写真右)、アドバイザーの中でもスタートアップを担当する森住祐介さん(写真左)に、お話をお聞きしました。

――まずは、「イノベート・ハブ九州」設立のきっかけと、経緯を教えてください。

佐々木 IBMと九州との関係が始まったのは、半世紀以上前に遡ります。昭和30(1955)年当時にIBM創設者の長男トーマス・J・ワトソン・ジュニアが九州に視察に来たことに始まり、日本アイ・ビー・エムでも昭和57(1982)年から産官学を巻き込んだ「九州フォーラム」を30年以上にわたって開催し、定期的な情報交換の場がありました。また、最近では、日本アイ・ビー・エムのマーティン・イェッター前社長が、(自身の出身国である)ドイツと比べて日本は企業や資源が東京に一極集中していることを課題視して、平成24(2012)年に西日本支社を立ち上げ、日本の各地域への展開を広げていったこともあり、当社と福岡や九州との関係は、近年さらに深まってきています。

森住 そんな状況下で、当社が長期的な関係を持つクライアントから、イノベーションの必要性を迫られるようになりました。とはいえ、一社単独では破壊的なイノベーションを生むことは難しく、自社だけでなく、他社や大学などの研究機関、スタートアップも巻き込んだオープンイノベーションに活路を見出した。そこで、産官学の垣根が低く、スタートアップシーンも活況である福岡を中心に、九州からイノベーションを生み出す仕組みを整えよう――そのようにして生まれたのが、「イノベート・ハブ九州」です。

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――プログラムの概要と目標を教えてください。

宇藤 このプログラムは、「HACK(発掘)段階」、「BUILD(構築)段階」、「GROW(発展)段階」という3つのフェーズを用意し、2017年末まで続きます。「HACK(発掘)段階」では、ハッカソンを通じて優れたアイデアを発掘し、「BUILD(構築)段階」ではIBMやパートナー企業の支援のもとに、アイデアの事業化を進めていきます。そして「GROW(発展)段階」では、海外展開をはじめとする事業拡大を図っていきます。

森住 特徴としては、ゼンリンやソフトバンク、西日本新聞など九州の名だたる企業が参加し、自社が持つ貴重なデータやAPI(外部からソフトウェアのプログラムを呼び出すための機能や規約)を提供してもらっています。各社ともに、自社のリソースを活用して新しいサービスを生み出すイノベーションを、本気で求めていることの証だと思います。

――具体的には、どんな分野のアイデアを募っているんでしょうか。

宇藤 今回のハッカソンでは、「まち・くらし」「観光・エンターテインメント・スポーツ」「ヘルスケア」「ロボティクス」の4つをテーマとしています。ここに、ゼンリンの地図データや、西日本新聞の紙面や写真データなどが提供され、それらを自由に活用して新しいアイデアを生み出して競い合う、ということです。

佐々木 当社側でも、IBMのクラウド開発環境である「IBM Bluemix」や、IBMがコグニティブ・システムと称する人工知能技術を使った「IBM Watson」などを提供し、これらを活用してもらうことができます。私たち3人が、技術アドバイザーとして、参加者に対する技術的なアドバイスを行い、事業化へとつなげるサポートをしていきます。

――そして本日開催している「イノベート・ハック九州」が、発掘段階にあたる最初のイベントというわけですね。説明会会場を拝見しましたが、参加者がとても多いですね!

佐々木 おかげさまで、今日の「イノベート・ハック九州」には90組に参加していただきました。本会場には250名、東京のサテライト会場に50名、Ustreamによる参加が200名と、総勢500名というハッカソンイベントとしては異例の参加者数だと思います。参加者の意欲もとても高く、属性としては一般企業の若手の方が多いのが印象的でした。スタートアップに身を置いている技術者だけでなく、一般企業でもオープンイノベーションに関心が高いようですね。

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――福岡のスタートアップシーンを、どのようにご覧になっていますか?

佐々木 福岡はアジアに近く、歴史的にも人の流動があるためか、オープンな気質の人が多いと感じますね。新しいものを積極的に取り入れて、失敗を恐れないのは、アジャイルな開発手法(市場・顧客の要求に迅速に対応する開発手法)が要求される時代には適していると感じます。

森住 福岡のスタートアップであるテラスマイル株式会社や株式会社セフリはともに、日本IBMが立ち上げたインキュベーション(育成)・プログラム「IBM BlueHub」の第1期生です。テラスマイル株式会社は農業系スタートアップで、株式会社セフリは山登りアプリ「YAMAP」を提供しています。両方とも九州の自然環境を生かした、東京では生まれにくいスタートアップですね。このように、地域の特性を生かしたサービスがもっと生まれてくると、存在感が出てくると思います。

――福岡のスタートアップシーンが今後さらに発展していくためには、どうすればよいとお考えですか?

森住 福岡市は、グローバル創業特区に指定されて以降、行政の支援体制も整い、スタートアップしやすい環境にありますね。そこに、大学など研究機関の充実や、もともとの人の気質も相まって、追い風が吹いていると思います。実際に、当社のグローバルチームからも、日本の中でも福岡のシーンに注目しておくように言われています。しかし、まだまだ現状としては、東京と比べるとスタートアップの母体数自体が少ないですし、そこからスケールしていく例も多くありません。今回のプログラムのように、業種をまたいだ大企業との連携やIBMが培ってきた技術をうまく活用して、ユニークなアイデアが生まれてほしいと思っています。

佐々木 一緒にシーンを盛り上げていきましょう!

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「イノベート・ハック九州」では、8月10日までに提出されたアイデアシートをもとに、ハッカソンへの参加資格が決まり、8月27・28日の2日間にわたってハッカソンが開催されます。2日目の最後には審査と結果発表が行われ、それを受けて9月6日は「デモデー」と題し、審査を通過したチームによるピッチ(短時間プレゼンテーション)が行われ、事業化が検討されます。デモデー参加チームの他にも、将来性のあるアイデアは積極的に事業化を検討するとのこと。九州を中心とした大規模なハッカソンイベントからどんなイノベーションが生まれるか、ご注目ください。

 

 

【関連情報】
イノベート・ハック九州
http://innovatehub.jp/hack/

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