日本初の夜間無人スーパーが話題!「トライアル」がIT・AIで挑む物流情報革命とは

福岡市に本社を置き、全国で総合ディスカウントストアを展開するトライアルカンパニー。平成30(2018)年12月には、全国で初めて夜間レジ要員ゼロでの営業を目指す新型店を大野城市にオープンしました。テクノロジーで流通小売業界にイノベーションを起こすべく、最先端のIT技術を駆使した試みに果敢にチャレンジしている同社。ITの責任者として指揮を執る株式会社トライアルホールディングス取締役・副会長グループCIOの西川晋二氏に、新店の特徴やここに至るまでの背景、今後の展望などを伺いました。

独自の最先端技術を導入して、店舗をデジタル化

―御社は「テクノロジーで流通を変える」と掲げ、新しいスタイルの店やサービスを展開しています。私たち消費者にとって、どんなメリットがあるのでしょうか?

西川 私たちの根底にある課題意識は、買い物におけるお客様のストレスをいかに減らすか、ということにあります。買い物するときに生じる不便や手間、わからないといったフリクション(摩擦)をなくし、欲しいものがラクに手に入り、しかも安い。そういう状態を提供できなければ、お客様にわざわざ来店いただけなくなる。その課題解決のために、積極的にテクノロジーを使うというのが、我々の考え方です。

―なるほど。昨年12月にオープンされた「トライアルQuick大野城店」(福岡県大野城市)は、全国的に話題になっています。店の特徴について教えてください。

西川 私たちはリアル店舗のデジタルシフトを進めており、大野城店には今、我々が持っているデジタルの武器をほぼ全て投入しています。24時間営業で夜間無人というのは、日本初の試みです(アルコール・たばこ販売時の年齢確認のみ人が対応)。同店にはプリペイド式の会員カードがあり、お客様がチャージして使うことで、キャッシュレスの便利さを享受いただけます。さらに、スマートフォンの「トライアルお買い物アプリ」をダウンロードすれば、クーポンやお得な情報が届くだけでなく、スマホで商品バーコードの読み取りから決済まで行うことが可能です。

また店内の「スマートレジカート」というタブレット付きのカートでも、会員カードをスキャンすることで、カート内で商品を決済することができます。

スマートレジカートのタブレット画面
(カートにはバーコードリーダーが備え付けられ(赤い点灯部分)、カートに入れる際にスキャンすることで、後で取り出さずにそのまま決済可能。オススメのクーポンなども画面に表示される)

―店内では、サイネージ広告をたくさん見かけました。

西川 はい、こちらもオリジナルです。従来のサイネージはメーカーが作ったCMで、マスメディアと同じものを流すことが多い。しかし我々は、お客様に対して最適な場所で効果的に訴求できるように、自分たちで作ったコンテンツを流しています。実は、興味深い調査結果があります。お客様の7~8割は、買う商品を来店前に決めているのではなく、「店舗内で決めている」という事実です。ですから、店で買い物をしている最中に、先ほどお話したカートやスマホ、サイネージなどで魅力ある情報を見ていただければ、購買行動につながりやすいわけです。

―確かに、何を買うか迷っているときにお得な情報が表示されれば、決め手になりそうです。

西川 もうひとつの工夫として、大野城店では全ての商品に電子棚札を導入しています。価格を変更するとき、人が棚札を一つひとつ変えるのはかなり労力がかかる。我々は「エブリデー・ロー・プライス」を打ち出しており、価格を変える場面が多様にあるため、システムでサッと変えられるのは大きなメリットです。また、青果には産地を表示する義務があり、棚札に産地名を表示したり、「産地は商品に表示」と表示したりと状況に応じて変更するのにも大変便利です。

さらに、店内にはAIカメラを約200台設置しています。在庫を自動管理するとともに、お客様の動きなどを分析して、商品補充や品ぞろえ、配置などに生かしています。

大野城店の精肉コーナーに設置されている電子棚札
(電子化することで値札の付け替えが不要になり、大幅な省力化を実現。日に合わせて細かく売値の調整をすることも可能)

―ご家族連れや高齢者でもスマートレジカートを使いこなされている姿に驚きました。便利だけでなく、お得というのがミソですね。

西川 3年ほど前から、田川や飯塚、新宮などの店舗で電子クーポンの仕組みを導入していました。そこでわかったのは、ご高齢の方でも電子機器を利用していただけるということ。最初は多少戸惑われるかもしれませんが、一度やってみてお得とわかったら使ってくださいます。

平成30年2月にオープンした「スーパーセンタートライアルアイランドシティ店」(福岡市東区)でもカートで決済までできるようにしたところ、ご高齢の方でもリピートされていますし、子どもさんにも大好評です。土日のピーク時などはカートが出払ってしまい、戻ってくるのを待ってくださる方もいるほどです。

―オープンして数か月経ちましたが、手応えはいかがですか?

西川 さまざまな改善を積み上げています。価格やシステムのレイアウトから、サイネージで流す内容や品ぞろえまで、データや数字をもとに修正していくというのが基本姿勢。どんどん変化させながら、良くしている過程です。同じようなタイプの店をこれから積極的に増やしていきたいですね。

テクノロジーの開発力を生かして小売業に参入

―そもそもトライアルは1軒のリサイクルショップから始まったそうですね。

西川 経営創業者の永田の先代が昭和49(1974)年、福岡市にリサイクルショップ「あさひ屋」をオープンしたのが始まりです。パソコン販売とともにソフトウェアの開発を手がけ、そのうちソフトウェアが主な収入源に。日本の小売市場の発展を見込んで、事業にITを生かすという発想で小売業への参入を決めました。

小売業に関してはアメリカへ勉強に行き、世界最大手のウォールマートのやり方を取り入れています。今もウォールマートのCEOは「ウォールマートはテクノロジーカンパニー」と明言していて、我々にとって非常に大事な先生です。平成4(1992)年にディスカウントストア「トライアル1号店」をオープンし、日常使うものが豊富にそろい、ワンストップで買い物できる便利なスーパーセンターを中心として、現在、全国に234店舗を展開しています。

―西川さんはどのような経緯で入社されたのでしょうか?

西川 私は福岡の九州芸術工科大学(現・九州大学)に通っているとき、「あさひ屋」でアルバイトをしていました。だから、永田とは40年来の付き合いになります。

ただ、入社したのは平成14(2002)年です。私は大学を卒業後、松下電器産業(現・Panasonic)に就職して、昭和62(1987)年から6年間は米Panasonic シリコンバレー支社に出向しました。トライアルがアメリカに研修に来た際は、プライベートでサポートしたりして、ずっとつながっていて。その後、松下を退職して、平成8(1996)年にベンチャービジネスを立ち上げ、6年後に会社を売却。そしてトライアルグループのシステム子会社の責任者としてジョインし、ITの責任者として戦略を立て実行する役割を担ってきました。

―海外の状況をよくご存じの西川さんから見て、日本における小売・流通へのAIやIT導入についてどのように感じていますか?

西川 アメリカの方がずっと進んでいて、日本はこれからという段階。今はどの業界でもIT化が鍵になる認識はありますが、あとはどれだけ実行するか。我々は前例のないことでもどんどんトライしていくつもりです。

例えば、当社の研究開発部門は福岡市東区の本社にあり、中国拠点を合わせると、日本人と中国人で合計300人ほどが在籍しています。福岡は中国へのアクセスが良く、リビングコストが安くて住みやすい。中国から来た人が「東京で働くのは大変そうだけど、福岡ならOK」という話はよく聞きます。世界から技術を取り込んで、世界に通用するシステムの構築を目指しています。

―今後の展開について聞かせてください。

西川 ITやAI活用を進めることで流通小売業界にイノベーションを起こす。それが我々のミッションです。そのために、ITやAIを活用したシステム自体の販売や、カートやカメラなどの研究開発と販売を進めていきます。出店ということで言えば、海外への進出はあまり考えていません。小売を展開するのは、その国の人たちがやった方がいいと考えているので、むしろ流通や小売をサポートする我々のシステムを活用していただきたい。店舗にこれだけ多くのカメラを導入したり、スマートレジカートの積極的な導入などは、世界に先駆けて私たちが推し進めているもの。これらの強みを持って、お客様がストレスなく買い物できる環境を提供していければと思っています。

 

【プロフィール】
西川晋二(にしかわ・しんじ)さん
長崎県出身、九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)卒業。昭和57(1982)年、松下電器産業(現Panasonic)入社。昭和62(1987)年に米国Panasonic シリコンバレー支社出向を経て、平成5(1993)年Panasonic帰任。平成8(1996)年トレーサーテクノロジージャパン設立、代表取締役就任。平成14(2002)年トライアルカンパニーに入社。ティー・アール・イー代表取締役、トライアルカンパニーグループCIOなどを歴任。平成28(2016)年7月より現職。

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