Web人賞受賞! AI活用のハードルを下げた画期的な「機械学習」ツール、開発の舞台裏

毎年、Web界で優れた功績を残した企業や人が表彰される、公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会主催の「Webグランプリ」。第5回(平成29年度)の「Web人」部門で、福岡市の株式会社グルーヴノーツ「チームMAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)の皆さん」が「Web人賞」を受賞されました。「MAGELLAN BLOCKS」とは、「機械学習」を誰もが気軽に利用できるようになるツール。人工知能(AI)を活用したマーケティングのハードルを下げた点が評価されました。平成30年4月からは、ソフトバンク株式会社での提供も開始されるとのこと。今回は、同社の代表取締役社長・最首英裕(さいしゅ・えいひろ)さんにインタビュー。「MAGELLAN BLOCKS」開発の経緯や思い、同社の特異なビジネススタイルをざっくばらんに語っていただきました。

―まずは「Web人賞」受賞、おめでとうございます。

最首 ありがとうございます。本来は人を対象とする賞ですが、僕らは「チームMAGELLAN BLOCKSの皆さん(株式会社グルーヴノーツ)」として表彰いただきました。実は最初、経営者の名前で受賞の案内をもらいましたが、経営者だけでやっているわけではないのでいったんはお断りしました。すると審査委員会で協議され、チームでの受賞となりました。僕も会長の佐々木も、会社や事業は社員全員のチームあってのことだと意識していますので。

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(Webグランプリ贈賞式に出席した最首さんと代表取締役会長の佐々木久美子さん(右))

―なるほど。「MAGELLAN BLOCKS」について教えてください。

最首 「MAGELLAN BLOCKS」(以下、マゼラン)は、専門知識がなくても機械学習を活用できるようにしたクラウドサービスです。最初にエンジニア向けのβ版「MAGELLAN」をリリースしたのが平成26(2014)年12月。その後、機械学習の機能を組み込もうという社員の提案で開発を進め、平成29(2017)年1月に現マゼランをリリースしました。今は、大手を中心に小売や金融、電力など60社以上に採用され、引き合いは300社を超えています。

―マゼランを活用すると、具体的にどんなことができるのでしょうか。

最首 ユーザー独自の学習ができる機能と、学習不要ですぐに使える機能約70種類が「ブロック」という形になっていて、それらを自由に組み合わせることで、お客様のニーズに合わせたさまざまな機能を作り上げることができます。機械学習を活用し、プログラミングの知識が全くない人でも直感的に使えるようにしたことが、今回の受賞の評価点でもありました。

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(マゼランブロックスの基本画面。左のリストから任意のブロックを組み合わせるだけで、必要な処理をさせることができる)

―そもそも機械学習とは何でしょうか。

最首 機械学習は、過去の出来事や、人間が仕分けした画像などを与えると、コンピュータがどこに特徴があるのかを見つけ出し、その結果未経験のことにも答えが出せる仕組みです。例えばホームセンターのグッデイさんでは、マゼランを使って商品の売れ行きを予測したり、お花の状態を見分けることなどに活用されています。こうした作業は、これまでベテランの社員が行わなければならなかったのですが、コンピュータがベテランの経験を学習したおかげで、経験の浅い社員を助けることができるようになりました。こうした機械学習を応用していくと、店舗内の監視カメラ画像から、人の数を計測したり、どんな表情をしているのかを読み取ったりといったことも可能になります。実際、来店者数の把握や、不審者の発見などに取り組んでいる会社も出てきています。他に音声を扱う機能などもあるので、会話した内容の文字起こしや翻訳、音声による在庫照会、接客ロボットなども実現できます。実際、ソフトバンクが提供しているPepperとマゼランを連携し、接客に活用した事例もあります。

―そんな未来のようなサービスが、すでに実現しているんですね。そもそもなぜマゼランを開発されたのでしょうか。

最首 マクロでみると、先進国は今、かつてない人口減少に直面しています。労働に対する付加価値を上げ、効率よく仕事をしなければ、これまでと同じ社会水準やサービスを維持できません。そのような時代の要請に対して、ちょうどコンピュータの機械学習が進化し始めた。しかしまだ粗削りで難しく、専門家でないと扱えない。そこで僕たちは最先端技術を誰でも使えるようにしようと、マゼランの開発に乗り出しました。こうした社会的課題を解決するためには、“誰もが”使えること、つまり民主化された機械学習が必要だと考えたからです。

―社会課題の解決自体が御社のミッションであると。

最首 そうです。僕たちが大切にしている2つのことがあります。ひとつは、市場ではなく社会の課題を解決するものであること。もうひとつは、解決策ではなく議論を提供すること。社会は複雑にできていますから、目の前の課題を解決することが、本質的な問題解決にならないことが往々にしてあります。ベンダーという他者が解決策を提示するのではなく、当事者の中にある解決策を引き出していく。そのために、マゼランを通して相手の知的活動を刺激し、議論が生まれることを僕たちは求めています。マゼランはあくまで道具であり、マゼランに何をさせるかは、その人次第ですから。

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―最首さんは関東の方で、福岡には縁がありませんね。なぜビジネスの拠点を東京から福岡に移したのでしょうか。

最首 東京は人が多いから、すぐに人脈が広がって、周りから持ち上げられたりもして、自分も価値のある仕事ができていると勘違いしやすい。一方福岡はノイズが少なく、冷静に仕事のために時間を使いたい人にとってはとてもいい環境だと思います。また、東京にいると東京を通して日本を見てしまいますが、福岡にいると客観的に日本全体を見られます。ビジネスが東京に一極集中しているというのも、大勢の人が共有している幻想ではないかとも思うのです。都市はフラットであり、どこかが中心でどこかが周辺ではない。そして自身が根っことする都市に合ったビジネスモデルを意識しなければならない。人員の規模をビジネスに転換するようなビジネスモデルは、福岡では成り立たない。そのため、属人的なサービスモデルや受託仕事からは離れ、ユーザー自身が取り組めるマゼランに注力しているんです。

―スタッフも少数精鋭という印象があります。

最首 うちの採用戦略は、「できるだけ人を採らないようにすること」なんです。今は40人ですが、本当に優秀な社員ばかりです。給与も東京のトップエンジニアと遜色ありません。人の流動性という観点で言うと、東京の場合、人はより条件の良い方へと転職していく傾向があります。なので社員がいつ辞めるかわからない前提で会社を経営しなきゃいけない。その点福岡の人は家族的な絆をベースに仕事をしたいと思っている人が多い。だからこそ、ちゃんと人を採用すればとても信頼できる仲間を作れるので、やりやすいです。また社内だけでなく外部にもマゼランを有効活用できる人を増やすために、この1月からは「OPEN AI LAB」という体験プログラムも始めました。業種の垣根を越えて人が集まれるのも福岡の特徴で、ともに学び経験を共有し合うことでユニークなものが生まれてくるのではないかと期待しています。

―オフィスに隣接した学童保育「TECH PARK(テックパーク)」を作っているのも御社のユニークな取り組みの一つですね。

最首 ここも子育てや、子どもの教育という社会課題の解決のために作りました。と同時に、優秀な社員を、家族も含めて大切にしていきたいという気持ちのあらわれでもあります。僕たちにとって、テックパークは世の中の課題を見る窓のような存在です。子どもを取り巻く教育、親の悩みから、地域や社会のことが見えてくる。新しい視座を与えてくれて、好循環が生まれていると思います。僕自身も、テックパークの子どもたちと接する時間を持っていて、子どもたちからは「ひろちゃん」と呼ばれてます(笑)

―最後に、今後の展望を聞かせてください。

最首 「ベターな道を選択しない」こと。常にベストな道だけを選び続けているかを考えながら進んでいきたいです。当然ながら、自社開発のマゼランとテックパークに、今後も注力していきます。マゼランに関しては、期待に近いものができつつあるので、さらに使いやすくしていきたい。日本で機械学習を業務に使っている人は、まだ数パーセント。マーケットはこれから急拡大します。そして世界を見渡せばさらに需要があります。限りない可能性が広がっていると思いますね。

 

【プロフィール】
最首 英裕 (さいしゅ・えいひろ)さん
昭和36(1961)年大阪生まれ、関東育ち。早稲田大学第一文学部卒業後、株式会社エイ・エス・ティ(現ITフロンティア)に入社。米国ベンチャー企業の日本代表を経て、平成元(1998)年、株式会社イーシー・ワン設立。平成22(2010)年に福岡に活動の拠点を移し、平成24(2012)年、株式会社グルーヴノーツの代表取締役社長に就任。趣味は、カイトサーフィン。

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