飛梅会(とびうめかい)は、歌舞伎公演で芝居の見せ場や役者の決めぜりふに合わせて、「音羽屋!」、「八代目!」などと屋号や代数を声掛けする「大向う(おおむこう)」の団体で、博多座を中心にボランティアとして活動しています。
「大向う」は、江戸時代の芝居小屋で、客席一番後方の席から声がよく掛かったことが始まりと言われており、常連客の粋な所作として定着しました。かつては芝居を見て拍手をする習慣がなく、掛け声が拍手の役割を担っていました。
「舞台から最も遠い場所」、「声をかける人々」、「掛け声そのもの」、これらを総称して呼ばれる言葉といわれています(呼称については諸説あり)。
飛梅会は、歌舞伎の基礎知識や見どころを伝える講座の開催などを通じて、伝統的な歌舞伎の楽しみ方を広める活動を続けています。毎年開催される二月花形歌舞伎と六月博多座大歌舞伎では、舞台と観客が一体となって作品を楽しめるよう、温かみのある掛け声で劇場を盛り上げています。
大向うは、三階最後列の上手(客席から見て舞台の右側)と下手(客席から見て舞台の左側)などに分かれて声掛けを行うのが基本とされています。
単に大きな声を出せばいいというものではなく、芝居の流れの中で的確に「間(ま)」をとらえることが重要であるほか、例えば、老婆が登場する場面と鬼が登場する場面では声の調子を変えるなど、役柄に応じた声掛けを行うことも大切だと紹介されました。それらを参考に、高島市長が実際に声掛けを体験しました。
市長
これまで歌舞伎を観るたびに大向うの声は耳にしていましたが、姿は見えず、それでも「ここが見どころ」という絶妙なタイミングで掛けられる声に、いつもすごいなと思っていました。私自身もイベントなどで「高島屋!」と声を掛けていただいたことがあり、どんな方々なのか気になっていたところ、ボランティアで活動されていると知って大変驚きました。
飛梅会
市長の屋号を英語風にもじった「メイヤー!」のような、シャレの効いた掛け声もあります。遊び心があるのも、大向うの魅力の一つです。技術はプロ級を常に求められるのに、実際は完全なアマチュアなんですよ。
市長
もし声を掛ける人がいなくなったら、歌舞伎はどこか物足りなくなると思います。やはり声があることで、観客みんなで盛り上がれる。その存在をもっと知ってもらってもいいのではないでしょうか?
飛梅会
大向うは、「声は際立てつつも、姿は表に出ない、影の存在」です。
役者さんのため、そしてお客さんにもっと楽しんでもらうために声を掛けることを何より大事にしています。歌舞伎を盛り上げたい、博多座を支えたいという同じ思いの仲間が集まって活動しています。
飛梅会
歌舞伎は「間の芸能」と言われるほど間合いが重要で、演目や役者ごとの微妙な違いを見極め、その一瞬に声を入れることが大向うの役割です。
市長
声を出すのは少し恥ずかしいと思う人も多いと思うのですが、舞台での存在感と、今日の慎ましい皆さんの雰囲気とのギャップがとても印象的ですね。声を出す時、緊張しませんか?
飛梅会
緊張します。一瞬の「間」を外さないことが何より大切で、役者さんのセリフにかぶれば台無しになる。特に場内が静まり返った「ここぞ」という瞬間は、強い緊張感の中で声を掛けています。
市長
後で振り返って「あれは失敗だったな」と思うエピソードなどはありますか?
飛梅会
ありますね。昼夜続けて公演があると、似た場面で思わず別の演目の役者の屋号を掛けてしまうことがあります。恥ずかしくなりますが、先輩からは「間違っていないような顔をしなさい。動揺するとお客さんに伝わるよ」と言われたこともあります。
飛梅会
タイミングを逃して掛け損なうこともあります。声を掛けられず、役者さんを待たせてしまった時は、本当に申し訳ない気持ちになります。
市長
役者さんが「待つ」ということは、大向うが掛かることを前提に次の動きを意識してて、まさに舞台を一緒に作っているということですね。
飛梅会
そう感じていただけたら、これ以上嬉しいことはありません。

数々のエピソードに耳を傾ける市長
市長
初めて観る演目で、全体の構成や見せ場が分からない舞台の場合、どのように「間」を研究されているのですか?
飛梅会
新作歌舞伎以外では完全に初めてという演目は少ないですね。歌舞伎は役者や演出によって細かな違いはありますが、長唄などの伴奏や、附(つ)け打ち(拍子木で演技を強調する歌舞伎の効果音)は共通しているため、私たちは役者の動きだけでなく、演奏者の手元や附けを打とうとする瞬間の動きなども「間」の手がかりとして見ています。そうした過去の経験や共通点を生かしながら、回数を重ねて少しずつ精度を高めていきます。
市長
大向うをかけるタイミングは、登場時、花道、引っ込み(退場時)などでしょうか?
飛梅会
花道で主要な役者が客席に向き直る場面や、舞台から引っ込む瞬間などは、声を掛けやすいですね。一方で、踊りや世話物は音のきっかけをつかむのが難しい演目と言われています。
市長
大向うの団体は現在、どれくらい存在しているのですか?
飛梅会
全国には現在、劇場や松竹、俳優協会から「公認」されている大向うは6団体あります。東京に3団体、名古屋に1団体、京都・大阪で1団体、そして博多が最も新しい6番目の団体です。
市長
掛け声もひとつの文化として、華を添える存在として続いていってほしいと願いますね。
飛梅会
大向うは長い歴史を持ちながら、これまで二代目・三代目と受け継がれてきた例はほとんどありません。
せっかく、蓄積した知識や技術を次の世代にスムーズに引き継げる「システム」を考えなければいけないのではと思っています。
博多座が開場した当初は、お客さんが大向うの掛け声に戸惑われることもありましたが、歌舞伎を支える影の存在として、その文化を知っていただけたらと思います。
市長
観客との掛け合いで舞台が変わる、あうんの呼吸の世界は想像以上に深くて、今後、大向うの掛け声に注目して観劇するという、楽しみの幅が広がりますね。博多座にも大向うが増え、歌舞伎がさらに盛り上がっていくといいなと思います。
飛梅会
博多座の歌舞伎を支える影の存在として、これからも歌舞伎を盛り上げていきます。
市長
今日は、ありがとうございました。
「大向う」について博多座の動画で詳しく紹介しています。
