リンクトブレイン清水氏に聞く これからの福岡のゲーム産業で重宝される人とは

去る10月17日に、満を持して福岡で初開催されたコンピューターエンターテインメント開発者向けカンファレンス「KYUSHU CEDEC 2015」。レベルファイブやサイバーコネクトツーといった名だたるゲーム会社をはじめ、いま福岡のゲーム業界を語る上で欠かすことのできないキーパーソンらが会場の各所に登場する中、午後のセッションに登壇したのが株式会社リンクトブレイン取締役の清水弘一さんです。

同社はゲーム業界特化型のヒューマンリソースサービス、そして受託開発サービスを提供する企業で、今年7月には福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センター内に「リンクトブレイン福岡クリエイティブセンター」を開設。清水さんご自身も福岡と東京の2拠点生活を送りながら、事業開発担当として企業とのアライアンス構築や福岡での産学官連携モデル化の構築に尽力する人物でもあります。

今回はそんな清水さんに、福岡のゲーム業界がここまで盛り上がりを見せている理由と、福岡が日本のゲーム界のフロンティアとして邁進するためにいま必要なことは何かを伺いました。

 

■福岡のゲーム業界人はこだわりが強すぎる!

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――リンクトブレインはそもそも東京の企業とお聞きしましたが、どういった経緯で福岡に拠点を置くことになったのでしょうか?

清水 私が初めて仕事で福岡にやってきたのは、平成24(2012)年3月のことでした。飯塚市で毎年開催されているスマートフォンアプリの開発コンテスト「e-ZUKA スマートフォンアプリコンテスト」に特別協力という形で参画させてもらったのが始まりです。

――その時に、福岡に一目惚れ……と?

清水 いいえ(笑)。実は、その時は自分がいずれ福岡で仕事をするだろうというイメージはぜんぜん浮かんでいませんでした。正直な話、福岡のゲーム産業は盛り上がっているけれど、「まぁ、東京以外の地域でこれくらい盛り上がってるなら、がんばってるんだろうなぁ」といった程度にしか思っていなかったんですよ。

――では、そこから福岡に拠点を置くまでの3年の間にどのような心境の変化があったのでしょう?

清水 私も、初めて福岡で仕事をしてからちょくちょくこちらには来ていたのですが、ここ1~2年で福岡のゲーム業界の人や、業界を目指す若者に出会って、徐々に印象が変わっていったんです。というのも、彼らって、熱意といいますか、こだわりが半端じゃないんですよ。例えば東京や大阪にいる業界を目指す学生に「どこに就職したいの?」と聞くと、よく名前を聞くようなモバイルゲーム会社の名前を数社挙げて「とりあえず、このどれかに入れればいい」って言うんです。でも、福岡の学生さんは違う。同じ質問をしても「どうしても○○社に入りたいんです」「○○社の××というゲームが作りたいんです」と、ピンポイントで言ってくる。

――それくらい「この会社で仕事をしたい」「このゲームを作りたい」というこだわりが強いということなんですね。

清水 そうなんです。私たちはゲーム業界における人材にまつわる仕事をしていますから、その熱意の大切さは身にしみています。それに、個々の会社の人も“ゲーム職人”としての並々ならぬこだわりを持っている。最近では全国的に見てもモバイル系のゲームが流行っていますが、福岡のゲーム会社の中にはそうしたトレンドに流されることなく、最新のテクノロジーを駆使してハイクオリティなコンシューマーゲームを作ることにこだわる企業も少なくありません。しっかりとしたコンセプトと世界観を持ったモノづくりをきちんとやっているから、モノづくりに対するマインドセットができ上がっているんです。これは、福岡のゲーム業界がここまで大きく成長した理由のひとつと思いますよ。


■行政の後押しで加速する福岡のクリエイティブ産業

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――福岡のゲーム業界の「熱」を清水さんご自身が実感されて、ここ福岡に拠点を作るという判断をされたわけですね。

清水 そうですね。それに、こちらに来て行政の力の入れ方もすごいと思いました。自治体の人が移転や拠点の設置を考えている企業にこんなにコミットしてくるエリアはないと思いますよ。これは東京からやってきた私の視点ですが、地方創生の動きが全国的に広まってきてからというもの、各地の自治体では助成金を出して一生懸命企業を誘致したり新しいビジネスを興してもらおうとしていますが、「お金を出してくれるなら、移転しようかな」という企業が増えたとしても地域の経済圏って盛り上がらないと思うんです。それよりも、「僕たち私たちの企業は、その地域にどんなことで貢献できるだろうか」と思う前のめりな企業がやってこないと意味がない。その点、福岡の行政の人って“その気”にさせてくれるんですよね。福岡のクリエイティブ産業が加速する背景には、そうした行政と企業の間にある良い距離感がカギなんだと思います。

――行政の取り組みといいますと、清水さんは福岡市役所が運営している「スタートアップカフェ」の開店当初からコンシェルジュとして関わっていらっしゃいますよね。1年ほどコンシェルジュをされて、いかがですか?

清水 相談件数も確かに増えているのですが、それ以上に相談者が持ちかけてくる相談内容のレベルが徐々に上がってきていると感じます。

――相談内容のレベル、ですか?

清水 そうです。開店当初は「なんとなくこういうことがやりたい」という漠然としたアイディアを持ってこられる方がほとんどでした。もちろんそれは悪いことではないのですが、今では「資金調達はどうすればいいですか?」といった相談や、販促など、もっと何ステップも先の相談をする方が増えましたね。

――それはどうしてなのでしょうか?

清水 おそらく、スタートアップカフェがアイディアの具体化から実際のサービス化までをノンストップで行えるからだと思います。つまり、次のプロセスへのリードタイムがとても短いんです。そういうスピード感でやっているから、相談者のレベルもどんどん上がっているのではないでしょうか。

 

■いま、福岡のゲーム業界に必要とされている人材とは

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――では最後に、福岡のゲーム業界の今後についてお聞きします。全国的に見ると、ゲーム業界は技術力のある人が慢性的に不足していると聞きますが、いま福岡に求められているのもそうした技術者たちなのでしょうか?

清水 確かにそう思いますが、やはり企画力のある人間も必要だと思います。というのも、先ほどお話しした通り、福岡は昔ながらのコンシューマーゲームを作り続けている企業が多いわけですから、ベースとして求められている人材は変わっていないはずなんです。

――そのベースというのが、おもしろいゲームを作る力、つまり企画力ということなんですね。

清水 そうですね。もちろん、テクノロジーは大きく変わっていますから、制作のためのツールや言語を扱えるに越したことはありません。それに、企画を思いつくだけではなく、そのアイディアを具現化するためのテクノロジーを理解して、開発者といっしょになってゲームを作れる人こそ重宝されます。技術以上に、気持ちまでもものづくりにとことんこだわりを持つ“職人”である人――そうした人こそ、いま福岡に求められている人材だと思いますよ。


【プロフィール】
清水弘一(しみず・こういち)さん
株式会社リンクトブレイン取締役。今年2015年7月には福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センター内に「リンクトブレイン福岡クリエイティブセンター」を開設し、福岡での一括受託体制を構築し事業活動を本格的に開始。若年層から熟年層へ幅広く人材育成事業化を推進している。


【関連リンク】
株式会社リンクトブレイン
https://linkedbrain.jp/

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