“ファッションを数値化する”とは? ZOZOテクノロジーズの研究部門「ZOZO研究所」の福岡拠点に潜入

日本最大級のファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営する、株式会社ZOZO。ツケ払いや送料を自由に決められる施策(現在は一律200円)などユニークな試みを続けてきたZOZOグループを、技術面で支えるプロフェッショナル組織が、株式会社ZOZOテクノロジーズです。

そして、同社の研究部門として、2018年に立ち上がったのがZOZO研究所。拠点は青山と福岡にあり、福岡拠点ではZOZOが持つファッションに関する情報資産から「ファッションを数値化する」ことを目指し研究に取り組んでいます。今回は、福岡出身でZOZOテクノロジーズの執行役員、ZOZO研究所福岡のリーダーも務める大久保貴之氏に、研究内容から今後のビジョンまで、お話を伺いました。

ミッションは「ファッションを数値化する」こと

「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」をグループ全体の企業理念に掲げるZOZOグループ。その中で、ZOZO研究所の役割を教えてください。

大久保 私たちは自社サービスを介して蓄積される膨大なファッションに関するビッグデータを保有しています。ZOZO研究所では、その情報資産を活用し「ファッションを数値化する」様々な研究を行い、ZOZOグループおよび社会の成長に貢献することを目指しています。具体的には、ファッションに関する情報をもとに、その背後にある法則や理論を明らかにする研究に取り組んでいて新しい技術やサービスを提案したり、既存のサービス内で困っていることや必要とされるものを研究したりしています。研究の成果は、ZOZOTOWNをはじめとするZOZOグループの事業に随時還元していくのはもちろんのこと、研究で得られる知見は社会にとっても有益なものになると考えています。

集積したビッグデータとは、具体的にどんな内容を指すのでしょうか?

大久保 ZOZOグループの主力サービスである「ZOZOTOWN」の取扱ブランド数は7,100を超えています。常時65万点以上の商品アイテムが並び、1日平均3,100点以上の新着商品を掲載しています。

さらにファッションコーディネートアプリ「WEAR」では、1,000万以上のコーディネートデータ(コーディネート画像、着用アイテム、タグ情報など)が、着用しスマートフォンで撮影することで全身を採寸できる「ZOZOSUIT」では人体の計測データが集まります。その他にも私たちZOZOグループではファッションに関する様々な事業に取り組んでおり、それぞれから生み出されるデータが価値のある資産だと考えています。

—ZOZOグループ全体から情報が集まってくるわけですね。

大久保 はい。これらの情報資産は質の高い「関係データ」でもあります。単体で見ると単なるデータに過ぎませんが、それぞれのデータの関係が重要な意味を持ちます。「ZOZOTOWN」の購買データと「WEAR」のコーディネートに関する情報を紐付けたり、「ZOZOSUIT」の体型データと一人ひとりに合ったコーディネートをお届けする「おまかせ定期便」を組み合わせたりすることで、データを活かすことが可能です。いわゆるビッグデータを持っている企業は多数ありますが、ファッションに特化した高品質な情報をここまで持っている企業は、世界においても他にないのではないでしょうか。

今のファッションの傾向はもちろん、購入者のライフステージの変化に伴うファッションの変化など、時間軸に沿ったデータもありますので、アパレル以外の分野にも活用できる資産だと思います。

では、研究所での具体的な研究内容を教えてください。

大久保 一般的にイメージがつきやすい推薦エンジンや検索エンジンに関する研究のほか、情報を整理し理解することにも取り組んでいます。例えば、ファッションの世界には「フェミニン」「モード」「ガーリー」といった、スタイルごとの呼び名がありますが、「フェミニン」が具体的にどんなアイテムを組み合わせて構成されるのかは、個人の感覚によって違います。そこを定量化するのも、私たちの役割です。購買データとコーディネートデータを分析していくと、フェミニンを好むお客様に対して、その人にぴったりのアイテムをおすすめとして表示することができるようになります。コーディネートを自動生成することもできますし、同じ傾向のコーディネート例を参考に見せることもできます。このように、個人の感覚に頼りがちで曖昧な好き嫌いを定量化していくことも、「ファッションを数値化する」の意味です。購買履歴による提案や、同ブランド内の他の商品を提案するといった従来の提案だけでなく、スタイル自体の提案をこちらからしていけるようになるんです。

福岡オフィスのオープニングパーティ
(平成30(2018)年7月2日に開設された福岡オフィス。そのオープンを記念して同月27日開かれたオープニングパーティでは、福岡のIT界隈や大学、行政関係者など、200人を超えるゲストが集まり、新たな門出を祝福)

研究者が育つ土壌を福岡に作りたい

大久保さんがこの分野に携わることになった経緯を教えてください。

大久保 私はもともと、九州工業大学を卒業後に株式会社カラクルというベンチャー企業を立ち上げて、代表をしていました。機械学習のアルゴリズムの研究開発や、情報処理技術のコンサルなどを行う会社です。平成29(2017)年に株式会社スタートトゥデイ(現株式会社ZOZO)にM&Aをされたことがきっかけです。

—ZOZOテクノロジーズが福岡に拠点を持つメリットは? 

大久保 株式会社カラクルは、福岡で立ち上げ活動してきた会社で、ここ福岡拠点の最初のメンバーもその流れで加わった人が多くいます。アカデミックにも強く、情報処理の技術にも長けたメンバーがすでに福岡に多くいたので、この資産を活かさない手はないなと。あとは、福岡のITコミュニティに自分も長く関わっていて、そこに育てられてきた気持ちも強く、福岡に貢献や恩返しをしたいという思いがあって、福岡をベースに活動できるようにしました。また、人材の確保という点も大きいですね。現在、福岡研究所には16名が在籍していますが、3年後には50名以上、5年後には100名以上を目指しています。今後は大学だけではなく高専や研究機関とも一緒に共同研究を取り組んでいきたいと考えていて、そのために西日本やアジアから広く人を集めて、展開していきたいと思っています。

大久保貴之さん

「求む天才」と銘打った求人広告も話題になりましたね。天才は現れましたか?

大久保 具体的なことはまだお伝えできないのですが……(笑) あれは平成30年の春に出した採用広告で、福岡に限らず東京も含めた募集でしたが、実際に今までリーチできなかった優秀な人に会う機会が増えたと感じています。天才と呼ばれるような人たちは、研究に没頭していて普通の採用活動では繋がることが難しいのかもしれません。今回の募集を見た「天才」の友人たちなどが「ZOZOが人材募集しているよ! 年収1億円だって!」と勧めて、応募してきてくれるケースが目立ちました。一般の人にまで話題になると、こういう効果があるのかと実感しましたね。 

優秀な人材を福岡で採用していくための、今後の展望についてもお聞かせください。

大久保 優秀な研究者や開発者が育ち働ける環境を積極的に作っていきたいです。私も経験がありますが、大学で研究を続けて博士号を取る道に進むと、領域を絞れば絞るほどマッチする企業がいなくなってしまって、将来どうするかが不安になっていくんですよね。このまま大学で研究を続けるのか。もちろん、社会が必要とする実践的な内容を研究している研究室も多くありますが、それをきちんと社会に還元できるチャンスが少なかったり、経済的な都合などから諦めざるを得なかったり。昨年発表した「社会人ドクター制度」では、そういう人をZOZO研究所の所員として迎え入れて、一緒に研究し、その研究の内容で博士号を取ってもらうというようなことができないかと考えています。これは地方都市だけでなく国内でもまだ少ない取り組みですので、ぜひ福岡からその例を作っていきたいと思います。

研究とビジネスを両輪で回していく、ということですね。

大久保 そうです。私たち企業側がビジネス×研究開発の体制を整えることで、現在共同研究を行っている大学を含めて、福岡に研究者が育つ環境を作っていけるといいなと思っています。適切な資金を元に社会に役立つ実践的な研究を進めていけるようになれば、持続的な研究開発が可能になります。それは、個々のエンジニアや属する企業にとっての財産になるだけでなく、街の価値を高めることにも繋がるのではないでしょうか。福岡では、エンジニアフレンドリーシティの取り組みなど、エンジニアが働きやすい環境づくりが進んでいます。研究者やエンジニアが安心して活躍できる環境を作れば、私たち企業にとっても、街や社会にとっても、よりよい発展が望めるのではないでしょうか。

福岡オフィス内観

 

【プロフィール】
大久保 貴之(おおくぼ・たかし)
昭和58(1983)年福岡県生まれ、九州工業大学 大学院 生命体工学研究科にて博士号を取得し、卒業後博士研究員を務める。後に機械学習やアルゴリズムの研究を行う会社、株式会社カラクルを創業し、平成29(2017)年に株式会社スタートトゥデイ(現株式会社ZOZO)にM&A。平成30(2018)年、株式会社ZOZOテクノロジーズの執行役員に就任。同年に福岡オフィスを開設。

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