雑誌「BRUTUS」が丸ごと一冊福岡を特集。編集長曰く「福岡は正解がたくさんある街」

雑誌好きの福岡市民の皆さん、大ニュースです。雑誌「BRUTUS(ブルータス)」が、福岡の街をまるまる一冊大特集。7月2日より全国の書店に並んでいます。BRUTUSと言えば、昭和55(1980)年の創刊以来、時代の空気を鮮やかに切り取り、数々のトレンドを生み出してきた、雑誌カルチャーを牽引する存在。そして東京以外の国内都市を特集するのは、なんと今回が初めてなのだとか。なぜ今、福岡? BRUTUSが考えた「福岡の正解」って? #FUKUOKA編集部は、東京・銀座にある株式会社マガジンハウスBRUTUS編集部を訪問。編集長・西田善太さんが、刷り上がったばかりの本誌を手元に、その真意を語ってくれました。

BRUTUSのバックナンバーがずらり

—「福岡の正解」、楽しく読ませていただきました。まず情報量に圧倒されますし、すでに知っているスポットでも、BRUTUS流のひねった企画で紹介されていて、新鮮に感じました。東京以外の国内の一都市を特集するのは、創刊以来初めてだそうですが、どんな経緯で福岡を特集することになったんですか?

西田 僕らは平成20(2008)年に「愛する地方都市」という特集を作っています。これは、東京で活躍する地方出身のクリエイターが、地元のために“一肌脱ぐ”という企画。当時の「アンチ東京、クールローカル」という文脈を意識して編集したんですが、今はその見立ても変わってきて、しばらく日本の都市の特集が作れていなかったんです。そんな中、今年の3月に「東京らしさ。」という特集を作って、手応えを感じました。今やるには難しいと思っていた東京の特集で、ひとつの考えを示せたかなと。

—東京特集の何が難しいと感じていたんでしょう?

西田 ほら、「東京っぽい」という言葉って、揶揄するときに使われがちでしょ? お金をつぎ込んで、大きなビルを建てて、流行りの店をバンバン誘致して、人気がなくなったら立ち退いてもらって……。そんな街づくりを疑問視する声は、東京に住んでいる人たちからも聞こえてくるわけです。住んでいる僕らも含めて、東京の街に自信をなくしてしまって、胸を張って「東京はいい街だ」って言いにくい空気がありますよね。

—そうかもしれません。

西田 でも逆に、「東京らしい」って言葉は、東京にしか言えないこと。だから「東京らしさ」とは何かを考える特集にしたんですよ。この中に、ムッシュかまやつさんの大事なメッセージを置いて。要約すると、「最先端とかカッコいいとかが大事なんじゃなくて、普段食べているものがちょっとだけ美味しくて、映画と本があれば、それが豊かさなんじゃないか」と。そういう答えがひとつ、示せたんですね。それで、月に2冊出していくラインナップの中で、そろそろ都市の特集をしたいとなった時に、福岡でいこう、と。

2018年3月に発売されたBRUTUS。「東京らしさ。」を特集した。

—福岡には、かまやつさんがいう豊かさがあるんじゃないか、ということですか?

西田 そう言い切れるわけではないけど、福岡って、「これを見に行こう!」と見るべきものがはっきり決まっているデスティネーション型の街ではないですよね。大きく突出したものがなくて、“ちょっといい”がたくさんある。東京には“ハレ”の場はたくさんあるけど、“ケ”であるところの日常の質が高いのが福岡だと思うんです。都市として唯一の正解ではなくて、たくさんの正解がある街。雑誌というフォーマットで一冊にまとめるには、適した街だと感じましたね。

 

都市を編集する、BRUTUS的手法

—タイトル「福岡の正解」は、どのように決まったんでしょうか?

西田 今回の担当編集者である総研(外部編集者の伊藤総研さん)が、最初から考えていたアイデアです。彼は福岡出身で、もう7年ほど、東京と福岡の二拠点生活を続けています。「いつか福岡特集を作るのが夢だ」と常々言っていたので、福岡特集も彼がいなければ成り立ちませんでした。「〇〇の正解」というのは、「〇〇の答え」と同じように、みんなで一緒に考えようという企画です。「恋の、答え。」「お金の、答え。」という特集の中に、ズバリその答えが書いてあるわけじゃない。同じように「福岡の正解」も、何が正解かを一緒に考えてみようよ、という特集です。これは、正解がたくさんある福岡だからできたことです。

—今回は、地元の編集者やライターを起用して編集チームを組んだと聞きました。

西田 通常、都市の特集を作る時は、先発隊が入ってロケハンをしながら、地元で情報を持っている人とどんどん繋がって、拾えそうなものをかき集めてきます。それから編集部で精査して、実際に取材に行く。そこでまた、当てが外れたりもっといい場所に出会ったりして、修正していく。それを繰り返して作るんです。現地の、今の情報を掴んでいるかが大事。例えば、以前福岡に住んだことがある友人からオススメの店を聞いて行ってみたとしても、地元の人に聞いたら全然違うってことがあるでしょ? それだと正解にならないですから。今回は総研がいたから、彼が地元のチームを組織するということで、彼に一任しました。

—西田さんご自身は、視察で福岡にいらして、どんなことを感じましたか?

西田 流れている時間の感覚が、少し違うというのかな。早い遅いではなくて、質が違う。例えば、福岡の店に行くと、物欲が発動しちゃうんですよ(笑)。薬院の「eel(イール)」という家具屋でいい机を見つけて、東京に帰ってからも何度も店と連絡を取って、買う寸前までいって。結局、長すぎて自宅に入らないから断念したんですけど。東京の店で同じようなものを見ても、そうはならなかった。旅のお土産が欲しいってことかな?とも思ったけど、とはいえ普通、旅先で家具は買わないですよね(笑)。店とその店主に魅せられて、ついつい買ってしまうという、不思議な魅力がある店が多い気がします。そういう個人店は中心地である天神から離れたところにある場合が多いけど、天神もまた「ビッグバン」と銘打って、変化しようとしている。そのダイナミズムが、今の福岡の面白さなのかもしれないですね。

福岡の魅力を語る編集長・西田さん

「こんなの正解じゃない」でもいいんです

—制作の過程で気づいたことはありますか?

西田 福岡はいい素材に溢れているなって、改めて思いましたね。もしかしたら、福岡の人はそれに気づいていないのかもしれない。でもBRUTUSの視点で組み合わせたら、記事にできるし、エンターテインメントにもなるんです。例えば、うどんとラーメンの対決企画なんて、それ自体無意味なんだけど(笑)、互角の勝負ができる店が実際にあるわけですし、企画次第でいくらでも遊べるんですよね。宿泊のページも、変わったゲストハウスばかり載せてます。これは前提として、福岡のホテル不足の問題があり、時期によっては普通のビジネスホテルがとんでもなく高騰したりする現状があって。それを崩すという意味で、いまの正解を示した企画になっています。

—この号を、福岡の人たちにはどんな風に楽しんでほしいですか?

西田 これが現時点でBRUTUSが考えた「福岡の正解」ですけど、福岡の皆さんがどう思うか、ぜひ聞いてみたいですね。「こんなの正解じゃない」と思ってくれて、全然構わないんです。印刷された紙の雑誌って、出す時はいつも100点の状態。後から直すことができないから、完璧に作り込んだ状態で出すんです。でも、ネットの世界は、みんなの書き込みで完成に近づけていく、ということができますよね。この雑誌を手元に、みんなでああだこうだ言う時点で、この雑誌は60点になっている。そこから答え合わせをして、残りの40点をそれぞれが足していく。そんなことができるんですよ。まだ福岡に行ったことがない人は、これを読んで行きたくなってくれたら嬉しい。地元の人は答え合わせをして、自分なりの「大正解」をシェアしてくれたら、雑誌の先の広がりを作れて、面白いですね。

編集長・西田さん

 

【プロフィール】
西田善太(にしだ・ぜんた)さん
昭和38(1963)年生まれ。早稲田大学卒業後、昭和62(1987)年に株式会社博報堂に入社し、コピーライターとなる。平成3(1991)年、株式会社マガジンハウスに入社。BRUTUS、GINZA編集部、Casa BRUTUS副編集長を経て、平成19(2007)年12月よりBRUTUS編集長を務める。

 

【関連イベント】
BRUTUS特集「福岡の正解」出版記念 「出張BRUTUS in 六本松 蔦屋書店」
日時:7月7日(土) 17:00~
出演者:西田善太編集長、伊藤総研氏
会場:六本松蔦屋書店アートスペース
https://store.tsite.jp/ropponmatsu/event/shop/2702-2008400623.html

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