お堅い話をやわらか〜く 福岡フィンテック事情ひもとき鼎談@うどん屋

一昨年頃より、世間を騒がせるバズワードとして認知され始めた「フィンテック(FinTech)」。 「ファイナンス(Finance)」と「テクノロジー(Technology)」を掛け合わせた造語で、あらゆる最新技術を駆使した金融サービスを指します。

ここ福岡では、レガシー企業が早くからフィンテックの取り組みを続けてきました。平成28(2016)年からは、福岡銀行と西日本新聞、さらにクラウドソーシングサービスを運営する株式会社ランサーズの3社での連携強化が決定。今回は、このプロジェクトを取り仕切る各社のお三方にお集まりいただき、福岡のフィンテック事情と市民生活の変化……という若干かためのテーマで鼎談を実施。少しでも柔らかいお話になるように、やわやわな博多うどんをすすりながら語っていただきました!

参加者:(写真左から)
・ランサーズ福岡支社長 谷脇良也さん
・福岡銀行営業戦略部iBank事業室室長、iBankマーケティング代表取締役社長 永吉健一さん
・西日本新聞社社長室デジタルプロジェクト担当部長、西日本新聞メディアラボ代表取締役社長 吉村康祐さん  

 

――今日は、ただでさえかたくなりがちな金融・フィンテック分野についての鼎談ということで、柔らかい博多うどんの代名詞的存在・因幡うどんの渡辺通店でうどんをすすりながらお話いただくことになりました。まずは、冷めないうちに、うどんをどうぞ。

谷脇 うまそうですね〜。ネギをたっぷり入れて、と。

永吉 今日はうどんが食べられると聞いて、朝から何も食べてないんですよ。

吉村 (スマホでパシャリ)……よし。

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――ではまず、フィンテックという言葉の説明からしていただけますか?

永吉 はい。フィンテックとは、金融を意味する「ファイナンス(Finance)」と、技術を意味する「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語で、アメリカでは10年ほど前から使われ始めたキーワードですが、日本での認知は近年ようやく始まったばかりです。インターネットの普及により、ネット上での決済やオンラインバンキングはもはや当たり前になってきましたし、クラウドファンディングという仕組みもフィンテックの一つです。またスマートフォンを誰もが持つようになって、家計管理アプリや「Apple Pay(アップルペイ)」のようなスマートフォン決済など、金融やお金にまつわるサービスと個人との関係が、より身近になりました。個人だけじゃなく法人でも、財務処理や決算仕訳といった分野にテクノロジーが入り、よりスピーディーで便利になってきています。これらの総称を、フィンテックと呼んでいます。

――福岡ではどんな取り組みがあるのですか?

永吉 福岡銀行はふくおかフィナンシャルグループとして3年半ほど前から準備を進め、スマートフォンを軸にしたフィンテックサービス「iBank(アイバンク)」を立ち上げました。その背景には、銀行自体のビジネスモデル改革と関係があります。少子高齢化が進み、「人数×金利差」で利益を出す銀行のビジネスモデルは先細りですし、若年層の銀行の窓口利用が減っていることもあり、「お客さま起点での構造改革」が急務だったんです。

吉村 その点は、私たち新聞社も一緒です。若い人が紙の新聞に触れる機会は減り、スマートフォンの接触時間は増えています。使う側の意識が変わっていく中で、生活者とどうコミュニケーションしていくか。レガシー企業こそ、テクノロジーを利用した破壊的イノベーションが必要なんです。

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――なるほど。「iBank」では、具体的にどんなサービスを展開しているんでしょうか。

永吉 「お客さま起点」がテーマなので、まずは実際にターゲットとなるユーザーを集めたテストを徹底的に行いました。そして、家計のやりくりに苦心している主婦の方の課題をヒアリングし、そこから「Wallet+(ウォレットプラス)」というアプリを作り、平成28(2016)年7月にリリースしました。これは、個人の口座の収支管理や預金サービスを利用できるアプリです。福岡銀行の口座と紐づけることでお金にまつわるあらゆる動きを管理できます。また、お金に関する情報をさまざまな切り口から発信するメディア「mymo(マイモ)」の運営も始まりました。

――銀行がメディアをつくるってすごいですね。でも、何のために作ったんですか?

永吉 「Wallet+」を作る過程で、お金のアプリってすでにたくさんあるけど、機能面に特化したものが多いと気付いたんです。必要だから立ち上げる類のアプリではあるんですけど、それだけでなく、もっとワクワクと楽しい気持ちで、日常的にアクセスしたくなる要素が必要だと思って。そこで、ユーザーの生活に密着した情報が載っているメディアとして作ったのが「mymo」です。

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――ユーザーの生活に密着した情報……というと、うどんに関する記事なんかもあるんでしょうか?

永吉 ええ、ありますよ! 福岡特有のスタイル「うどん居酒屋」を紹介した記事は、人気がありましたね。

――あるんですか!! しかし、うどんの記事とお金のアプリである「ウォレットプラス」が、どう関係あるんでしょうか?

永吉 うどんの記事は「mymoアンテナ」という多様な記事を扱うコーナーなんで、直接的な関連は薄いです。ですが、他に「●●円で叶うこと」というコーナーがあって……お金を貯めるのって、本来は何か目的があってすることですよね。何か買いたいものがあるとか、旅行に行きたいとか。例えば「mymo」の海外旅行のコンテンツを読んで、「ここに行きたい!」と思ったとします。そのコンテンツをお気に入りに登録し、そこから「目的預金を作成」と選ぶことで、「Wallet+」の中で貯蓄口座が開設できて、目標額に向かって預金していくことができるんです。預金名も自由につけられるので、例えば「目指せ!クルーズ船旅行!」として、意識しながら夢に向かって預金することができます。

――アプリ内のコンテンツが連動して、お金を貯めようという気持ちを喚起させるという狙いがあるということですね! それはユニークなサービスです。

谷脇 この「mymo」のコンテンツ作成をお手伝いするという形で、当社ランサーズと西日本新聞メディアラボが協力した、今回の連携体制ができあがりました。当社は日本最大級のクラウドソーシングサービス「ランサーズ」を運営しています。「ランサーズ」を通して個人と企業を直接結ぶ新しい働き方を促進しており、西日本新聞社とは、地方での働き方支援を目的とした地域クラウドソーシング「九州お仕事モール」で平成26(2014)年よりすでに連携しています。今回も、福岡の第一地場メディアでありコンテンツ制作のプロである西日本新聞と連携して、「mymo」での質の高いコンテンツ作りを支援していきます。

吉村 Web上の小さな記事一つにしても、コンテンツの真偽が問われる時代ですからね。新聞社ならではの信頼性や安心感、さらにスピード感を提供していきたいと思っています。

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――では最後に、福岡でのフィンテックの展開、並びに「iBank」の現時点での課題と展望を教えてください。

永吉 お金に関するサービスは心理的なハードルが高くて、ベンチャー企業の新しいサービスに委ねるには抵抗感がある人もいます。信用や安心が、とても大事な世界なんです。だから「iBank」では、銀行主導のサービスで安心感があることを伝え、まずはどんなサービスかを知っていただくことに注力しています。「Wallet+」はリリース以来4ヶ月で28,000ユーザーを獲得し、アクティブ率(ユーザーのアプリ利用率)もFacebookやtwitterなどコミュニケーション系メガアプリに匹敵する高さを実現しています。今後も、「お客さま起点」をテーマに、ユーザーにとって必要で使いやすいサービスの充実を図っていきたいと思います。最終的には、これらフィンテックを活用して、お金と生活との関係性がより身近になっていくといいなと思っています。

――本日はありがとうございました。

永吉・吉村・谷脇 ごちそうさまでした!

 

市民生活とは縁遠い話に思えた「金融」や「フィンテック」も、やわらかい博多うどんをすすりながらお話を聞いてみれば、私たちの毎日を便利に変えるサービスだということがわかりました。今回のような地場のレガシー企業も含むサービス連携は、業界間の垣根が低い福岡らしいとも言えます。テクノロジーやスマートフォンを媒介にして、私たちがもっとお金と自由に向き合える生活が、ここ福岡から始まるのかもしれません。

(取材協力:因幡うどん渡辺通店)

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