サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)ジャパンナイトの仕掛け人が語る、2018年の楽しみ方&見どころ

ソニーやパナソニックといった大企業も出展し、日本でも年々注目度が高まっているサウス・バイ・サウスウエスト(以下、SXSW)。音楽や映画、テクノロジーなどを含む総合イベントとして、毎年3月にアメリカ合衆国テキサス州のオースティンで開催されています。

もともとは音楽祭としてスタートしたSXSW。ですが、ツイッターが世界に広まるきっかけがここから生まれたように、近年はITベンチャーがアイデアやサービスを披露し真価を問うインタラクティブ部門も注目されています。その根底に流れているのは、アメリカの「インディー・スピリット」。自宅のガレージで始めた小さな一歩が、やがては世界を大きく変える、そんな可能性に満ちたイベントの熱気に触れたいと、世界中から多くの人がやってきます。

中でも、毎回高い人気を誇るのが、日本のインディーバンドが多数出演する「Japan Nite(ジャパンナイト)」。23年も続く、SXSWの目玉コンテンツの一つです。3月9日から始まる今年のSXSWの見所は? ジャパンナイトで注目すべきバンドは? SXSW日本事務局のセールスとプロモーション担当であり、ジャパンナイトのコ・プロデューサーでもあるオードリー木村さんに聞きました。

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——SXSWの公式イベントであるジャパンナイトは、もう23年も続いていると聞きました。そもそもどのようにして、SXSWに日本人出演枠ができたのでしょうか?

オードリー 発端は、SXSWが始まる前からニューヨークで行われていた「ニューミュージックセミナー(NMS)」にあります。これはインディーズ音楽のセミナーで、その中で麻田浩さん(現SXSW ASIA代表の音楽プロデューサー)が「サイコナイト」という日本のミュージシャンのショーケースを主催していました。少年ナイフやピチカートファイブ、ボアダムズなどが出演していて、ピチカートファイブはここへの出演をきっかけにアメリカで大成功を収めたんですよ。当時はまだSXSWも始まったばかりで、SXSWの3人のファウンダーたちもNMSに来ていて、SXSWでもサイコナイトをやらないかと相談がありました。ちょうどNMSが開催されなくなるタイミングだったこともあり、サイコナイトを「ジャパンナイト」と変えて、SXSWで継続することになりました。最初に出演したバンドは、当時私が運営していたレーベルに所属していたロリータ18号です。

——オードリーさんは、ご自身でレーベルも持っているんですか?

オードリー はい。BENTENレーベルっていう、ガールズバンド専門のレーベルです。私はもともと外資系の銀行に勤めていて音楽業界の人間ではないんですけど、麻田さんが設立した洋楽プロモーター事務所「Tom’s Cabin」の仕事を手伝っていました。麻田さんが「レーベルのプロデューサーになったらどう?」と言ってくれて、ブルックリンのガールズバンドであるLUNACHICKS(ルナチックス)やThe Flamenco A Go GoというガレージロックバンドのCDを出し始めたんです。そのうちロリータ18号と出会って、レコーディングのため世界最安値のスタジオを探していたら、麻田さんから「オースティンが安い」と聞いて。合宿みたいにスタジオオーナーの家にメンバー泊まり込みでレコーディングをしているうちに、地元のライブハウスにも呼ばれるようになって。あれよあれよという間に人気になり、SXSWに出演することになりました。

——ジャパンナイトの1回目、ロリータ18号らが出演したのは、平成8(1996)年ですね。当時のSXSWは、どんな雰囲気だったんですか?

オードリー 当然今より規模も小さかったし、ほとんどアメリカ人しかいない印象でしたね。最近だとイギリスや韓国も始めていますけど、当時インターナショナルなショーケースがあったのは、日本だけでした。その頃、日本のインディーバンドをアメリカで見られる機会なんてまずなかったので、お客さんの期待も高くて、いつも満員でしたね。ジャパンナイト20周年記念の記事では、「SXSWの最初のインターナショナル・クライアントは日本で、SXSWをインターナショナルなフェスにしたのはジャパンナイトだ」と書かれていたほど。今でもジャパンナイトは、他の国のショウケースに比べて圧倒的に外国人が多いです。韓国のショーケースは95%が韓国人のオーディエンスですが、ジャパンナイトでの日本人のお客さんはスタッフと関係者くらいですからね。

——SXSWが、他の音楽フェスや展示会と違うのは、どんな点でしょう?

オードリー インディー・スピリットですね。それは、オースティンという町の風土に依るところが大きいと思います。テキサス州にはダラスやヒューストンといった都会がありますが、オースティンはそういうビジネスの中心とは対極にある、ヒッピーの天国みたいなところ。大学生の町で、当時のフラワームーブメントとか西海岸の雰囲気が残っているような場所です。例えばテキサス州出身のジャニス・ジョプリンも、ヒューストンでは肌が合わずにオースティンで人気が出ました。こだわりのライブハウスができて、ミュージシャンが集まるようになり、インディーズカルチャーが生まれ育っていく土壌がありました。今のSXSWはインタラクティブ部門がベンチャーの登竜門として注目されていますけど、それも音楽と同じ、インディー・スピリットだと思います。DIYで始めて、それが世界を変えうるかもしれないっていう、チャレンジ精神ですね。

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——過去、SXSWに出演した日本人アーティストはどんな人がいるんでしょう?

オードリー Perfumeにスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)、水曜日のカンパネラ、PUFFY、Petty Booka……ジャパンナイトに限れば、ラブサイケデリコ、氣志團、OKAMOTO'Sなんかも出てますね。福岡のバンドだったら、ナンバーガールの人気がすごかったです。特にアメリカ人が目を付けたのが、ギターの田渕ひさ子ちゃん。アメリカの人ってギターが好きだし、オースティンはスティーヴィー・レイ・ヴォーンとかゲイリー・クラーク・ジュニアっていう有名なギタリストも多く輩出してる町です。日本は個性的な若手のギタリストってあんまりいませんけど、ひさ子ちゃんは自分のプレイスタイルがあったから、ウケたんでしょうね。

——オードリーさんは、どんな基準で出演バンドを選んでいるんですか?

オードリー 「SXSWに出たほうがいい!」って思うバンドに、出てもらうようにしてます。それが基準ですが、それじゃあ答えになってないでしょうか(笑) 日本で売れるバンドは、日本でしっかり活動して売れていく方がいいですし、すでに海外に出て有名になっている人たちは、わざわざSXSWに出る必要はないかもしれません。出てほしいのは、日本で売れていなくてもオリジナルの音楽スタイルがあって、ポップで、ライブで魅了できるバンドです。

——ではお客さんにウケがいいのは、どんな音楽なんでしょう?

オードリー ジャンルは関係なく、スタイルや個性があること。いくら上手くても、真似ごとっぽいものはウケません。日本でのキャリアや知名度も関係ないですね。ある意味で、純粋に音楽だけで勝負できる、貴重な場所と言えるのかもしれません。評判になれば、そのままアメリカツアーに出たり、他のフェスへの出演も決まったり、ヨーロッパに招待されたりと動きがとても早く、世界への切符を手にすることができます。

——今年、オードリーさんが特に注目しているバンドは?

オードリー ドミコっていう2人組には注目してます。

あと福岡のAttractions(アトラクションズ)も気になります。去年、デビューライブを見たときはまだ固まっていませんでしたが、1年経ったら別物になってました。新しいし、ダンスやディスコの要素が入って懐かしくもあるし、それをうまくポップに昇華してると思います。

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(デビュー曲「Knock Away」が配信開始と同時にApple Musicの「NEW ARTIST」に選出され、Spotifyでは配信開始2ヶ月で20万回再生を記録した、福岡出身の注目バンド「Attractions」。ジャパンナイトは3月16日に登場)

去年ジャパンナイトに出たANALOGIXも大ウケでしたし、ナンバーガールがいたり椎名林檎さんがいたりと、福岡からはユニークなアーティストが出てくる印象が強いですね。めんたいロックの時代もあったわけですし。ちなみに、「めんたいロック」って言葉の名付け親は、麻田浩さんなんですよ。

——それは知りませんでした! 

オードリー 実はそうなんです。麻田さんは80年代にゴダイゴやルースターズのブッキングを担当していたので、同時代のシーナ&ザ・ロケッツやARB、 THE MODSなんかの福岡出身のロックバンドをまとめて“めんたいロック”って呼んだんです。わかりやすい呼称ですけど、当時はバンド側が「そんなのダサい」って嫌がってたみたい。今ではめんたいロックといえば福岡のブランドで、悪い感じは微塵もないですよね。実際にめんたいロックのバンドは、骨太で実力派揃いです。

——ちなみにSXSWに客として遊びに行くなら、どんな楽しみ方がオススメですか?

オードリー 未知との出会いが一番楽しいから、あまり事前に決めないで、飛び入りでもたくさん見たらいいと思いますよ。日本の人は、自分が知っているバンドを見たがりますけど、アンノウン・アーティストと出会うことこそがSXSWの醍醐味だと思います。日本では絶対見れないような、ブルースやカントリーといったアメリカらしい音楽をやっているインディー・ミュージシャンにも、素晴らしい人はたくさんいますしね。おすすめのライブハウスは、「アントンズ」と「コンチネンタル」。ザ・テキサスって感じの雰囲気を味わえると思います。それから今年は、インディー・スピリットを体現する90年代オルタナシーンの最重要プロデューサーであり、伝説のエンジニアでもあるスティーヴ・アルビニと、ピクシーズのベーシストであるキム・ディールの対話というセッションがあるので、注目しています。メジャーの商業主義を徹底的に否定する、歯に衣着せぬ発言でも有名なアルビニが今の音楽シーンについて何を語るのか、その場で確かめたいですね。

——音楽以外で注目しているものはありますか?

オードリー SXSW Filmのオープニングパーティが、ロバート・ロドリゲス監督の映画工房「トラブルメーカースタジオ」で開催されるので、これは絶対に行こうと思っています。木城ゆきと氏の漫画「銃夢」を原作にしたSFアクション映画「ALITA:BATTLE ANGEL」の実際のセットでのパーティーで、映画は今夏全米公開予定です。また今年は「News & Journalism」のセッションが100以上あるので、ジャーナリズムの本場アメリカの空気感をライブで感じるために、どれでもいいから参加しようと思っています。フェイクニュースの対策とメディアの変遷、ジャーナリズムの未来について話し合われる予定です。

——最後にあらためて、オードリーさんが感じているSXSWの魅力を教えてください。

オードリー 大企業からスタートアップ、そして個人までが未来への姿勢と取り組みを見せて、世界中から来ている感度の高い人たちと意見交換をする場がSXSWだと思います。平成19(2007)年にツイッターがSXSWの会場入り口にモニターを出して、リアルタイムでツイートをし、SXSWで初めてリツイートされ、自分たちのサービスのとてつもない可能性に気づいたのも、SXSWの参加者の感度の高さがあったからだと思います。物事や人間の本質的な魅力を面白がったり、隠れた可能性を引き出してくれる感性の人たちが集まってきているので、さまざまなマジックや奇跡が起きる。仙台のスタートアップが生んだ「GODJ(持ち運びができるDJ機材セット)」は出展した際に、向かいのブースがヘッドフォンで有名なモンスター社で、そこに気に入られて全米での販売に繋がったり。そんなミラクルがオーガニックに起こるのがSXSWの魅力です。大事なことは “Be There” と”Be Open and Enjoy Yourself”、そして “Talk to and Listen to others”。きっと人生を変える体験ができますよ。

 

【プロフィール】
オードリー木村(おーどりーきむら)さん
SXSW Japan Rep、Japan Nite CoProducer。平成7(1995)年に、ガールズバンドだけを集めたインディーズレーベル「BENTENレーベル」を立ち上げ、ロリータ18号をはじめとしたユニークなバンドを多く輩出。SXSWには開始当初より参加し、ジャパンナイトの企画を担当。SXSW初期に日本から出演したバンドのほぼ全ては、BENTENレーベル所属。現在でも新人アーティストの発掘に余念がない。

 

【SXSW Japan Nite出演バンドリスト(降順)】

  • 2018年(第23回) ドミコ、Attractions、神野美香、RUDE-α、PRANKROOM、Anna Takeuchi(予定)
  • 2017年(第22回) CHAI、Tokyo Chaotic!、Srv.Vinci、ANGLOGIX、花と散ルラン、RiRi、Walkings
  • 2016年(第21回) ED WOO、パンナコッタ、The fin.、Tempalay、Rei、Jungles from R.V.B.、Alexandros、YOSHIKI
  • 2015年(第20回) moumoon、つしまみれ、Pirates Canoe、The fin.、QUORUM、侍ダイナマイツ、魔法少女になり隊
  • 2014年(第19回) HAPPY、Mothercoat、Mayu Wakisaka、Jungles!(R.B.V.)、Starmarie、Sentimental City Romance
  • 2013年(第18回) Kao=S、Charan-po-rantan、Jake stone garage、Chihiro Yamazaki+Route 14 Band、Pirates Canoe、FOUR MINUTES TIL MIDNIGHT、JOSY
  • 2012年(第17回) Saito Johnny、NOKIES!、Kao=S、ZZZ’s、Vampillia、The Rubies、Akabane Vulgars on Strong Bypass
  • 2011年(第16回) MO'SOME TONEBENDER、ロリ-タ18号、Hystoic Vein、ズクナシ、white white sisters、oh sunshine
  • 2010年(第15回) チャットモンチー、OKAMOTO’S、Red Bacteria Vacuum、Dolly、Omodaka、JinnyOops!、Riddim Saunter
  • 2009年(第14回) FLiP、Dirty Old Men、HONEY SAC、Sparta Locals、GRAPEVINE、detroit7、Stereopony、SpecialThanks、The Emeralds、SA、Asakusa Jinta、quaff
  • 2008年(第13回) detroit7、avengers in Sci-Fi、ketchup mania、Petty Booka、quartz-head 02、Sodopp
  • 2007年(第12回) HY、The Emeralds、The 50回転ズ、GO!GO!7188、Pistol Valve、オレスカバンドin Sci-Fi、Sodopp
  • 2006年(第11回) 内里美香、大野敬正、うめ吉、大島保克、国本武春、VASALLO CRAB 75、The Rodeo Carburettor、PE'Z、ELLEGARDEN、つしまみれ、THE EMERALDS
  • 2005年(第10回) Titan Go King’s、I-Dep、The Emeralds、Noodls、The Pillows、The Hot Shots、Suns Owl、ZANZO、Petty Booka、ボニーピンク
  • 2004年(第9回) 氣志團、Fuzzy Control、ZANZO、The Emeralds、Response、ROMZ Records Crew、つしまみれ、こけしドール、NOODLES、Petty Booka、BLEACH
  • 2003年(第8回) CONDOR44、Core Of Soul、Invisibleman's Deathbed、Minor League、Papaya Paranoia、Petty Booka
  • 2002年(第7回) BONKIN'CLAPPER、THE SOULSBERRY、UNDERSTATEMENTS、FOE、NANANINE、FANTASY'S CORE、Petty Booka、THE JERRY LEE PHANTOM、THE SALINGER、BLEACH
  • 2001年(第6回) ラブサイケデリコ、BLEACH、HEART BAZAAR、PLAYGUES、THE JERRY LEE PHANTOM、DR. STRANGELOVE
  • 2000年(第5回) MUMMY THE PEEPSHOW、DR.STRANGELOVE、ナンバーガール、SPOOZYS、ロリ-タ18号、オリジナルラブ
  • 1999年(第4回) EX-GIRL、MISSIL GIRL STALK、NICOTINE、ナンバーガール
  • 1998年(第3回) 天国ジャック、ザ・コケッシーズ、ONTJ、バルボラ、COCCO
  • 1997年(第2回) HUSKING BEE、ロリ-タ18号、COCCO、PUGS、THE MAD CAPSULE MARKETS
  • 1996年(第1回) ロリ-タ18号、PUGS

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