福岡のITコミュニティを支えてきた人物が語る、 「福岡スタートアップ2.0」時代の幕開け

創業特区に指定されて以降、目覚ましい進化を遂げる福岡のスタートアップシーン。そのシーンを支えてきた人物の一人が、特定非営利活動法人AIPの事務局長・村上純志さんです。

平成28(2016)年には、マッチングをテーマとする株式会社サイノウを設立。平成29(2017)年1月には、地方新聞45紙と共同通信社が設けた「地域再生大賞」でAIPの取り組みが奨励賞を受賞するなど、ここにきて活動を加速させている村上純志さん。現在の視点で、ご自身の活動と福岡のコミュニティを振り返り、これからについても語っていただきました。

--まずは、地域再生大賞の奨励賞受賞、おめでとうございます。

村上 ありがとうございます。僕らが一番驚きました。

--「地域づくりへのITの活用」が評価されての受賞ということですが、どんな活動が評価されたんでしょうか?

村上 平成27(2015)年にAIPで運用を開始した、「LOCAL GOOD FUKUOKA」という試みです。ネットとリアルの2つの場を持つプロジェクトで、ネット上では、地域住民の声を集めて見える化し、地図上にマッピングしたり、クラウドファンディングなどで活動に必要な資金を集めることができます。また、リアルな場としては、それぞれが持ち寄ったテーマに対して、アイデアや意見などを前向きに話し合う場「LOCAL GOOD STATION」を毎月第一火曜日に開催しています。ここでは、買い物難民の問題や若者の就労支援、伝統工芸である博多織など、福祉からカルチャーまであらゆるテーマが上がっています。

--「LOCAL GOOD FUKUOKA」をはじめたきっかけはなんでしょう?

AIPはもともと、高度IT人材の育成のために福岡県と大手IT企業で創設したNPOです。約10年前に、知識だけではなく「知識(教育)×経験(ビジネス)×人間性(コミュニティ支援)」の3つを事業の核とした活動に変わり、「経験(ビジネス)」の部分として、地域やコミュニティとITを掛け合わせた取り組みを長く続けています。平成20(2008)年にスタートした「天神・大名WiFi化協議会」や、Twitterの「#daimyo」を使った「大名なう」プロジェクトなどでは、リアルとバーチャルの融合というテーマで一定の成果を出すことができました。そして、行政だけに頼るのではなく、より身近なことに自分ゴトとして取り組んでいける仕組みとして「LOCAL GOOD FUKUOKA」が生まれました。

--なるほど。この「LOCAL GOOD FUKUOKA」や、これまでのAIPの取り組みを通じて、村上さんが感じていることを教えてもらえますか。

村上 始めた当初は地味な活動だったとしても、続けることに意味があるということですね。「大名なう」の時は、しばらくはこのハッシュタグを使ってくれる人もいなかったんですが、大名で約50年続いている食堂「青木食堂」の三代目がこの試みを気に入ってくれて、積極的に周りを巻き込んでくれたことで、3ヶ月後には参加店舗数が150店にまで膨れ上がり、各店舗の売り上げにも貢献できるほどの影響力を持つようになりました。この活動は総務省が発行している「平成22年版情報通信白書」にも掲載いただきました。

「LOCAL GOOD STATION」というリアルな場で感じたことは、地域の取り組みって、ともすると地味になりがちで、オシャレだったり楽しかったりといったことも必要なので、それまで関わりの無かった人も巻き込める活動にするのが大事だということでした。これは取り組んでいる方自身も目からウロコのようで、良いキッカケになっているのではないかと思っています。

また、「LOCAL GOOD FUKUOKA」の取り組み自体は続ける必要があると思うのですが、コミュニティに一度入ったら抜けられないのではなく、自分の役割が済んだら抜けても良いという雰囲気作りや声がけはするべきではないかと最近は考えるようになりました。これもコミュニティのメンバーから気づかせてもらった大事なことですね。

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--それは、明星和楽の運営など、福岡のITコミュニティ活動に長年尽力してきた村上さんらしい意見ですね。

村上 そうかもしれません。地域活動とITやスタートアップって、あまり関係がないと思われがちなんですが、例えばこれからIoTが発展していくことで、より活動しやすく、解決しやすくなることはたくさんあると思います。僕自身、その両方をまたいで活動してきたので、双方のニーズをつなげることができるんじゃないかと。技術ファーストではなく、あくまで今や将来を見越したニーズファーストで、ITの活用を人の暮らしの中に役立てていきたいですね。

--現状の福岡のITシーンやスタートアップシーンを、どう見ていますか?

村上 これまでが第一期だとしたら、ついに「福岡スタートアップ2.0」の時代に入った、と言えるんじゃないかと勝手に言ってみたりしてます(笑)。やはり高島市長の存在は大きくて、福岡が注目を集めているのは各方面から感じますし、僕がアンバサダーコンシェルジュの一人として関わっているスタートアップカフェも、まずは“スタートアップ”という言葉の認知を広げるという意味で一定の役割を果たせたと思います。このタイミングで、旧大名小学校にスタートアップ関連施設が集まるのは象徴的で、ここからさらにシーンの成長が加速して、IT人材も育っていくんじゃないでしょうか。

--第一期で実現できなかったことや、やり残した課題は何だとお考えですか?

村上 順序や時間が必要だと思いますので、第一期でできなかったということではないと思います。IT系の企業で言うと、昨年株式会社ホープさんや株式会社ベガコーポレーションさんといった、福岡から新規上場する企業も出てきました。それに、株式会社ヌーラボさんなどは、東京やシリコンバレーの企業と比較してもなかなかないような海外展開を成功させている福岡の企業なのですが、そういう存在にもっと多くの人が気づくことも大事だと思っています。そのために、僕たちも「オレオカ」というWebメディアを運営しています。今後は福岡だけじゃなく、もっと広い地域の企業さんやクリエイターさんなどを対象として本格的に取り組んでいきたいと考えています。

--ご自身の今後の活動についても教えてください。

村上 今年は、シーン全体もそうですが、しっかりと自分のことに注力して取り組んでいきたいと思っています。シーン全体が成長していく中で、自分も成長しなければだんだんとついていけなくなると思ってまして。今までは面白いという気持ちだけで地域に取り組んできたのですが、お金も動かせるように、きちんと自分のビジネスを確立した上で、さらに取り組んでいけたらと考えて設立したのがサイノウという会社です。お金は重要で、お金があるからこそできる活動もあると思っていますので。これまで、コミュニティ活動やNPO、行政やさまざまな企業との連携を通じて培ってきたものを生かして、人や法人格の無意識の中にある意識的な才能を、コンテクストを大事にしながら見出し、引き出していく手伝いができればと考えています。

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【プロフィール】
村上純志(むらかみ・じゅんじ)さん
NPO法人AIP理事長、株式会社サイノウ代表取締役CEO。デジタルハリウッド福岡校でシステム管理とプログラミングを学び、その後福岡のシステム開発企業に就職。平成20(2008)年に、AIPが運営を行っているフリースペース「AIP Cafe」に通い始め、ITコミュニティと出会う。平成23(2011)年から、テクノロジーとクリエイティブの祭典「明星和楽」に運営メンバーとして参加。平成25(2013)年には福岡市の「Startup Cafe」に立ち上げから参画し、アンバサダーコンシェルジュを担う。平成28(2016)年、株式会社サイノウを設立。平成29(2017)年には福岡市の「Fukuoka Growth Next」に立ち上げから参画し、コミュニティマネージャーを担う。福岡のITコミュニティのコアメンバーの一人として、コミュニティを楽しんでいる。

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