「ユマニチュード」はフランスの体育学の専門家イヴ・ジネストさんとロゼット・マレスコッティさんの40年以上におよぶ病院、施設や家庭での経験から生まれたケアの技法です。これは「あなたのことを大切に思っています」ということを相手が理解できるように伝えるための技術と、その技術を使うときに考えておくべき考え方(これを「ケアの哲学」と呼びます)とでできています。「ユマニチュード」とは「人間らしくある」ことを意味するフランス語の造語です。
※日本ユマニチュード学会 優しさを伝えるケア技法 ユマニチュードより引用
福岡市では認知症の人が認知症とともに、住み慣れた地域で安心して自分らしく暮らせるまち「認知症フレンドリーシティ」を目指し、ユマニチュードの普及・促進を行っています。
令和3年度には、市政だよりにてユマニチュードに関する連載を行いました。このページでは、市政だよりに掲載した連載を紹介します。
介護をしている人の優しい気持ちを相手に受け取ってもらうには、こつがあります。
「見る」「話す」などのコミュニケーションの技術を連載で紹介します。
認知症の方は、視野の外から声をかけても自分に向けられていることに気がつきません。
「私がここにいますよ」と伝えるために、まず正面から近づいて相手の視線をとらえます。
「見る」ことで相手に届くメッセージがあります。正面から見ることで正直さを、水平に見ることで平等であることを、近く・長く見ることで親密さを伝えることができます。
認知症になると、情報を脳で分析して理解するまでに時間がかかるようになります。
何か質問した時には、 3 秒くらい返事を待ちましょう。待つことも、とても 大切 な介護の技術です。
介護するときはついつい無言で、てきぱきと作業を進めがちですが、「あなたのことを大切に思っている」と伝えるためには、
たくさん話しかけることがとても有効です。
触れ方で、相手に届くメッセージがあります。そんなつもりがなくても、つかんでしまうと「この人は私の自由を奪っている」と相手に感じさせてしまいます。触れるときには下から支えて、触れている面積をできるだけ広くするようにしましょう。
1日20分立つ時間をつくれば、生涯「立つ力」を保ち、寝たきりを予防できます。歯磨きや着替えは立って行う、食卓まで歩くなど、
少しずつ立つ時間をつくって合計20分間をめざします。
会いに行くときは必ずノックをしてください。「私がこれから会いに行きますよ」と音で予告をすることが、良い時間を共に過ごす幕開けになります。「あなたの空間と時間を尊重しています」と伝えるための技術です。障子でも、ふすまでも同じです。ノックをしたら、返事を待ちましょう。
介護をするときには、いきなり用件を切り出さないようにしましょう。まずは「あなたを大切に思っている」ことを伝えて、良い関係を結びます。そうすることで、用件を受け入れてもらいやすくなります。
介護をするときには、私たちの言動に矛盾がないようにしなければなりません。「あなたのことを大切に思っている」と伝わるように瞳を見ながら、話しながら、触れましょう。
ケアが終わった後は、それがとても心地よかったことを相手の記憶に残します。細かい内容は覚えていなくても「楽しかった」という感情が残れば、次のケアをより受け入れてもらいやすくなります。
誰かと良い時間を過ごすと「また会いたい」という気持ちが生まれますが、これは介護においても同じです。「また会おうね」という次回の約束をすることで、次のケアを受け入れてもらいやすくなります。
介護で大切なのは、何でもやってあげるのではなく、ご本人ができることは自分でやってもらうことです。「持っている力を奪わない」ことも介護の大切な技術です。
認知症の人が現実とかけ離れたことをするとき、本人にとってはそれが真実なのです。そんなときには、思い切って相手の世界に入り込んでみると安心してもらえます。
何度も同じことを尋ねるときには、実は不安な気持ちを質問で表現しているかもしれません。そんなときには質問と関連がある、別の楽しいことを提案してみることも解決策になります。
ご本人のうれしかった出来事、仕事の功績などの「良い思い出」は、不安になったときの特効薬です。困ったときにはそのことについて語り合うことで、ご本人の気持ちが落ち着き、安心します。
認知症の人は、一度にたくさんのことを言われると混乱してしまいます。何かをお願いするときには、ひとつずつ頼むと落ち着いて取り組んでもらえます。
不安な気持ちがさまざまな症状を引き起こすことが認知症の特徴です。本人が自信をもってできることを提案することで不安な気持ちを解消させることができます。
年齢を重ねると味覚が変化して、これまでの味付けでは物足りなく感じるようになります。 そんなときには、香辛料や薬味を使うことで食欲を取り戻すことができます。
認知症の人がどこかへ行ってしまおうとするときには、今いる場所に不安を感じていることが多いです。「ここにいて大丈夫だ」と本人が安心できる、好きなことや興味のあることを提案してみてください。これも重要な介護の技術です。
介護を受け入れてもらえないときには、押し問答せずに、一旦相手の嫌だという気持ちを受け止めましょう。タイミングをずらして、この連載でご紹介した本人が安心できるような工夫や、自信を持ってできることを提案するなどの技術を使ってもう一度試してみてください。
家族に「大好き」というのは照れますが、思い切って伝えてみてください。認知症が進行しても最後まで働いている「感情」に働きかけることで、本人はきっと介護を受け入れてくれ、共に良い時間が過ごせます。
介護をするときは、一人で頑張り過ぎないでください。周囲に助けを求めることも、大切な「技術」です。
ユマニチュードを実践して、相手に理解してもらえるよう優しさを伝えていきましょう。