福岡=サン・セバスチャン!? トランジット中村代表が語る、東京にはない福岡の食の魅力とは?

日本初上陸のレストランやカフェを90店舗運営し、40か所を超えるシェアオフィス、ホテルのプロデュースなど、話題のスポットの先には彼らがいる、というほどの存在感を示している株式会社トランジットジェネラルオフィス。代表の中村貞裕さんは、東京出身ながら福岡の魅力に吸い寄せられた一人です。

福岡・西中洲の水上公園に平成28(2016)年にオープンした、シドニー発のオールデイカジュアルダイニング「bills(ビルズ)福岡」の運営や、福岡のうどん居酒屋「二◯加屋長介」の東京進出。そして平成31(2019)年春には、次なるプロデュースワークとして、西日本鉄道株式会社の観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」が運行を開始します。この列車、なんとピザ釜を乗せて走る世界初の列車なのだとか。世界の食を知るトランジットジェネラルオフィスが、福岡・筑後を走るこの列車で表現したいこととは? 中村さん(写真左)と、プロデューサーの甲斐政博さん(右)にお話を聞いてきました。

 

福岡は、“ハシゴ”が当たり前の街

―まずは今回のプロジェクト発足の経緯について、聞かせてください。

中村 西鉄さんの方から、今回の観光列車でブランディングを手伝ってほしいとお声かけいただいたのがきっかけです。僕らはJR東日本と一緒に、移動するレストラン列車「東北エモーション」をやったり、列車という制約の中でのプロデュースもすでに経験していて。そのノウハウを大好きな福岡で還元して、いいものを作れるならと思い、引き受けさせていただきました。

―中村さんは東京出身ですが、最近は福岡のプロジェクトを積極的に手掛けられていますね。福岡とはゆかりがあるんでしょうか?

中村 僕は以前、伊勢丹に勤めていた関係で、福岡の百貨店・岩田屋と交流があって、よく行き来してました。トランジットを作ってからは、イベントに呼ばれたり、雑誌の企画に加わったりと、さらに交流が深まって、福岡のことが大好きになっちゃったんです。福岡は人が良いからすぐに仲良くなれるし、ご飯も美味しいし、肌にあったんですよね。

―なるほど。世界のカフェや食シーンを見ている中村さんにとって、福岡の面白さって何なのでしょう? 

中村 例えば、ハシゴ文化。福岡はひとつの店で食べきるんじゃなくて、最初は餃子をちょっとつまみ、次に話題の店で何品か食べて、合間に屋台を挟んで、最後はうどんで〆る、なんてことができますよね。店に連れてってくれる人もそれを勧めてくるし、店側もそれでOK。ハシゴすること自体があたりまえという雰囲気があって、すごくいいですよね。でも東京だと、名店と呼ばれるような店で一品だけ頼んで帰るとか、しにくいんです(笑)。よっぽどな常連さんじゃないと、怒られちゃう。福岡は、楽しんで食べることを街が許容している感じがあるんですよ。おしゃれな女性が一人で飲んでる光景も、福岡ならよく見かけますよね。これって、東京よりもむしろ、スペインとかに近いんじゃないかな。僕はいつも、福岡に来ると美食の聖地として知られるスペイン北部のサン・セバスチャンのわいわいとした雰囲気を思い出すんです。人が優しくて、食べ歩きが楽しくて、こちらが「帰る」っていうまでどこまででも付き合ってくれる、みたいな。

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―福岡市がモデルとしているシリコンバレーやポートランドではなく、サン・セバスチャンに似ているという意見は初めて聞きました。

中村 僕は東京出身だし、東京を拠点に仕事をしているので、東京が好きですし、輝き続けてほしいと思ってます。東京のライバルは、例えばニューヨーク。銀座が五番街で、中目黒あたりがブルックリン。ニューヨークにあるものが東京にあればいいし、東京にあるものがニューヨークにあればいい。その時に、まだない部分を埋めていくのが、僕の仕事だという考えで、これまでやってきました。でも、福岡に同じものを求めるかといえば、そうじゃない。福岡はコンパクトな東京ではないし、そこを目指さないほうがいい。むしろ美食の街サン・セバスチャンみたいなイメージを、みんなが思い描けたら楽しいですよね。せっかく「うどんで〆る」みたいなオリジナルの文化があるんですから。

―他の地域から店を連れてくるときは、どんな風にローカライズしていくんでしょうか?

中村 基本的には、味も内装も店のサイズも、極力同じものを持ってくるようにしています。世界観をそのまま引き継ぎたいので。内装のデザイナーも、同じ人にやってもらうことが多いです。でもうちで立ち上げるオリジナルの店舗の場合は、なるべく地域の人を巻き込んで作るようにしています。東京目線での都会的なものと、地域のものをうまく融合させるのが、僕らの手法ですね。

―今回の「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」にも、福岡らしさが盛り込まれているんですか?

甲斐 ええ、そうですね。今回のコンセプトはシンプルに、「LOCAL to TRAIN」。筑後を中心とした地域の魅力あるものを、この列車にどんどん載せていくことがテーマです。八女の竹を使った竹細工や、城島瓦といった沿線地域の伝統ある民工芸品を使います。TINパネル(化粧パネル)のデザインは、福岡を拠点としながら、陶芸を中心に国内外のデザインワークやアートプロジェクトで活躍されている鹿児島睦さん。メイン料理は、「旬の野菜」を使ったピザが評判のレストラン「エンボカ」の今井正さんが監修し、車内にピザ釜があるんですよ。アミューズと前菜は、福岡への移住後、全国へ出向いて各地の食材を使った料理会を開催している人気料理家の渡辺康啓さんに監修してもらいます。

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(メインディッシュは、大木町産のアスパラと八女市産のたけのこを使用した、ハーフ&ハーフの野菜ピザ)

―楽しみな布陣ですね。このプロジェクトを通じて、どんなことを実現したいと思っていますか?

中村 僕らがやってきたのは、「ライフスタイルに影響を与えるような文化やカルチャーを根付かせること」です。昔ブルックリンで見たシェアオフィスのスタイルや働き方が素敵だなと思って、東京でシェアオフィスを展開したり、東京には「うどんで〆る」っていう文化はないけど、すごくいいなと思ったんで「二◯加屋長介」を東京に持ってきたり。だから今回の列車も、福岡の人たちの生活の中に受け入れられて、単なる交通手段というだけではないロマンを感じるようなものにできたらなと思ってます。ほら、素敵な列車って、沿線の人たちも思わず手を振りたくなるでしょ? そんな存在になれたら嬉しいですね。

 

【関連リンク】
「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」概要
運行時間:
(ランチ)11:30頃西鉄福岡(天神)駅発〜大牟田駅着(所要時間約2時間)
(ディナー)17:00頃大牟田駅発〜西鉄福岡(天神)駅着(所要時間約2時間)
運行日:金土日祝
運行開始:平成31(2019)年春
https://www.railkitchen.jp

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