起業家の聖地を訪問し、手に入れたものとは? Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA海外研修座談会

スタートアップの本場、米サンフランシスコとシリコンバレーに息づく起業家精神を体感し、福岡市のスタートアップ環境にグローバルな変革をもたらすべく行われた海外研修プログラム「Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA」。平成28(2016)年10月より事前研修(計4回)がスタートし、11月~1月に参加者を3つのグループに分けてサンフランシスコ・シリコンバレーに派遣しました。そして、平成29(2017)年2月25日(土)、ももち浜SRPホールにて行われた市民報告会の後、現地派遣研修に参加した4名の参加者に集まっていただき座談会を開催。自らの意思でこの研修に参加してきた彼らが、現地で何を学び感じてきたのか。その生の声をお届けします。

《参加者》

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武藤孝幸さん
大学生向けの就職活動支援サービスを展開。帰国直後から、新規事業もスタート。今回の視察を機に結成された団体「FUK」の代表を務める。A日程(平成28年11月14〜18日)で参加。

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伊藤孝明さん
遠洋漁業船団の運営に携わりながら、デザインを勉強。漁業とデザインを掛け合わせ、「魚のブランディング」をテーマに活動中。A日程(平成28年11月14〜18日)で参加。

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松尾圭輔さん
プロフェッショナル心理カウンセラー。自身のネットワークを拡大することを目的に参加し、帰国後は海外スタートアップと連携しての活動を開始。A日程(平成28年11月14〜18日)で参加。

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末藤和佳子さん
ソフトウェア開発企業でデザイン・ブランディングを担当。デザイン思考を開発プロセスに取り入れるための、休暇をとって現地訪問を決意。B日程(平成28年12月6〜10日)で参加。

 

◆「ここで働きたい!」働く人の意欲を高める環境づくり

――そもそも皆さんは、どんな目的でこの研修に参加したんでしょうか?

武藤 私は1年前に自分でも起業し、起業家の聖地を一度体感してみたいという思いがきっかけです。みんなはどう?

松尾 私は、まだ起業する前の段階ですが、自分が考えているサービスがスタートアップの本場でどう評価されるのか、自分自身を試したいという気持ちがあって。

伊藤 僕も似ていて、家業である漁業と自分が新しく学んだデザインをどう結び付けていったらいいか、そのヒントを見つけたくて参加したという感じですね。

末藤 私の場合は少し皆さんと違って、自分で事業をしているわけではなく、会社員なんですよね。ソフトウェア開発企業でUXデザインを担当しているんですが、モノづくりをプロダクトベースではなくデザイン先行で発想していく方法に興味がありました。それで、本場のやり方を知りたくなって、行こうと思いました。

――福岡市での事前研修では、どんなことを学んだんですか?

松尾 概要説明の時に、「エレベーターピッチ」という言葉を初めて知りました。自分が会いたかった投資家に、たまたまエレベーターの中で居合わせた時に、自分のビジネスアイデアを売り込むというものです。エレベーターから降りるまでの約30秒くらいで、自分のビジネスバリューを相手に伝えるのがピッチの醍醐味です。シリコンバレーでは、実際にそれで投資が決まることもあるとか。そのスピード感にワクワクしたし、それをモノにしたいなって思って。

末藤 うん、わかる。とにかく決断のスピードが早いよね。ワークショップでも、二人一組になって相手の課題をヒアリングし、その課題を解決するビジネスモデルとプロトタイプを3時間でぎゅっと作り上げたり。時間を区切って、集中して進める大切さを学びましたね。

――意識の高い方が集まっているわけですから、活気がありそうですね。

武藤 でも、事前研修の段階ではまだ参加者同士の交流は少なくて、みんな大人の対応だったよね(笑)。細かいところにまでは踏み込まない感じで。それが、現地に行ってから雰囲気がガラッと変わって。

伊藤 そうそう! 僕はアメリカに住んでいた経験があるので、自分を表現してなんぼという姿勢は身についているんですが、日本人は苦手な人が多いでしょ!? でも、現地の風を浴びて2〜3日ぐらいしたら、どんどんヒートアップしてきたよね。

武藤 ホテルとかバスの中とかで、徐々に参加者同士の交流が深まっていったからね。もっと早く自分の殻を破れればよかった。

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――5日間の滞在中は、何をしたんでしょう?

末藤 行った日程によって多少違うんですが、大きくはまず、初日から今回の研修の運営元であるbtrax(ビートラックス)のオフィスに行って説明を受け、その後は企業訪問。交流会もありましたし、英語でのピッチやワークショップも体験しました。最初の企業訪問から、もう驚きの連続で。フードイベント事業のOff the Grid(オフザグリッド)や、オンライン教育サービスのUdemy(ユーデミー)などを訪問したんですが、オフィスがとにかくかっこいいんですよ。

伊藤 天井が高くて、キッチンも広くて、ショールームで仕事してるみたいだったよね。

武藤 自然とコミュニティを作りやすい空間になってるんですよね。なるほど、「コワーキング」ってこういう意味かと。

松尾 ビジネス用SNSを展開するLinkedIn(リンクトイン)にも行ったんですが、会社とは思えないような居心地のいい空間で驚きました。ここで長く働いてもらうようにと、社員満足を高めるために社員のリクエストを聞いて設備を整えているとおっしゃってて。社員も、この会社で働いていることを誇りに思っている様子で、羨ましかったですね。社員に投資することで、会社の成長に貢献するという考え方が徹底されているのだなと。

末藤 そうそう。こんな組織が理想的だなと思いました。

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◆現地で感じた熱気を忘れず、スケールの大きなビジネスを

――ピッチやワークショップの様子も教えてください。

松尾 シリコンバレーにあるVC(ベンチャーキャピタル)のDraper Nexus(ドレイパー・ネクサス)北村充崇マネージングディレクターに、自分たちのビジネスアイデアを聞いてもらえる機会があったんですよ。

武藤 話をするのに1時間100万と言われている、あの北村さんに!

松尾 そうそう! すごく参考になる、細かなフィードバックをいただけました。

末藤 私もどうしても北村さんにプレゼンをしたくて、前日のパーティーをこっそり切り上げて、ホテルで急遽新しいアイデア提案をまとめたりしてね。

伊藤 僕はbtraxのCEOブランドン・ヒルさんにピッチ大会で指摘してもらえました。日本から考えていった「魚の鮮度基準を図るポータブルデバイスを作る」というビジネスアイデアを説明したんですが、ある程度必要な人に行き渡ったら、それ以上の発展はないかもなと自分でも思っていたんです。それを、ブランドンさんにズバリ指摘されて。「君は魚をブランディングしたいのか、その装置を開発したいのか、どっちなの?」と聞かれて、「ブランディングです」と答えたのですが、おかげで迷いが払拭できました。

末藤 みんな遠慮せずに、ビシバシと厳しくフィードバックしてくれますよね。

武藤 福岡で話すと「そんなのできるわけない」と言われてしまうアイデアでも、向こうだと逆に「スケールが小さい」「もっと大きな視点で考えろ」と言われるんです。そのバランスを自分の中で取っていくのが、難しかった!

松尾 そうなんです! 私は、自分は変わり者でユニークな存在だという妙な自信があったんですが、向こうに行ったら、もっとみんな個性的で、主張もはっきりしている。私のはるか上を行く“変人”がいっぱいいるなぁと(笑)。

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――やりたかったけどできなかったことはありますか?

武藤 訪問予定だった会社に行けなかったりとかはありましたけど、大したことではないかな。

伊藤 運営のbtraxのスタイルがいかにもアメリカって感じなんですよ。「GoogleとFacebookとスタンフォード大学、どれに行きたい? 今から多数決で決めよう」なんてノリで。

末藤 そういう名だたる企業や組織が、ノリで決められるぐらい近くに集まってるってこと自体がすごいよね。

――ズバリ、行ってよかったですか?

一同 イエス!

武藤 この福岡市の研修プログラムでは、個人で行ったとしたらとてもできない貴重な体験をさせてもらいました。

伊藤 btraxの皆さんや、現地の弁護士の先生などいろんな方と繋がりもできたし。

末藤 デザイナーとして参加して、世界の潮流を知って、とても勉強になりました。一人で悶々と考えていたことを、共通言語で話せる人たちに出会えて、現地のコミュニティにも加わることができて。自分のこれからを考える上でとてもプラスになったし、明るい未来を感じました。

武藤 それに、この仲間との出会いも大きいよね。

伊藤 うん。福岡にいながら、アツい思いを持っている人たちと横のつながりができたからね。

武藤 「ここで感じた高揚感も、飛行機に乗って24時間経てば忘れてしまう」と言われて、24時間以内に何かしなきゃマズいって思ったんですよね。それで帰りの飛行機の中で、みんなに手紙を書いたんです。「このメンバーで情報共有や勉強会をしていく団体を作りませんか」と。「FUK」と名付けて、私が代表として、今も活動を続けているんですよ。

伊藤 シリコンバレーの空気感を共有しながら、お互い刺激を受けて、自分のことを進めていきたいよね。

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――現地で学んだことを、今後どう活かしていこうと思っていますか?

武藤 私の場合は、早速一つ新規事業を立ち上げました。向こうで自分が経験したワークシートなどを活用して、それを学生にも教えています。留学プログラムも考えていますし、大学生のうちからグローバルに目を向けられる人材を、自分でも育てていきたいと思います。

松尾 私は、「自殺をなくす」ことをテーマに活動しているんですが、この研修で、それを実際にビジネスとして成立させているスタートアップの存在を知ることができました。私がシリコンバレーでピッチをしたアイディアとほとんど同じビジネスモデルだとわかり、すぐにCEOにメールを送りました。今はその会社の日本法人の設立に向けて動いています。このチャンスを確実にものにしたいですね。

末藤 私の場合は、会社の業務として作っているアプリやサービスに対する考え方を、今回現地で学んだことを活かして変えていきたいと思っています。日本でデザイナーが果たせる役割を、もっと広げていきたいですね。

伊藤 僕も同感です。日本でいうデザイナーは、一部分を設計するスペシャリストですが、アメリカの場合はもっとビジネス全体の設計者なんだなと気づきました。家業としてやってきた漁業と、デザインの力を掛け合わせて、水産資源の保護や海のゴミ問題など、社会的課題を解決していきたいです。海って世界中繋がってるので、最初からグローバルなんです。現地のスピード感とオープンマインドを忘れずに、スケールの大きい挑戦をしていきたいですね。

 

興奮冷めやらぬ様子で、前のめり気味に話してくれた4名の研修参加者の皆さん。その表情からは、現地視察がいかに充実し、自分に好影響を与えたかが伺い知れました。彼らの行動力が、福岡市のスタートアップシーンにさらなる活況をもたらしてくれるのは、間違いなさそうです。

 

【関連リンク】
Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA
https://www.fukuokastartup.com/

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