現在位置:福岡市ホームの中の市政全般の中の国際交流・国際貢献の中の留学生支援の中の福岡市留学生サポートパッケージの中のグローバルコミュニティFUKUOKAからグローバル コミュニティ FUKUOKA 報告書(基調講演2)
更新日: 2018年12月19日

グローバル コミュニティ FUKUOKA 報告書(基調講演2)

基調講演
「企業から見たグローバル人材の今」

畑野 吉雄氏
株式会社 中央電機計器製作所 会長
大阪


1.はじめに

 只今ご紹介いただきました株式会社中央電機計器製作所の畑野です。本日は私の体験に基づいたお話をさせていただきます。大企業の皆さまが多数いらっしゃるところで失礼ではありますが、中小企業こそが日本の下支えをしているのです。中小企業も今やグローバルの時代と言われ、たくさんのグローバル人材を採用しています。その事例の一つとして話を聞いていただきたいと思います。

中央電機計器製作所・畑野会長の基調講演の様子

2.日本の企業の現状

 日本の企業の99.7%は中小企業です。また、日本の労働者の76%は中小企業で働いています。これだけ多くの中小企業があるわけですから、中小企業が元気にならないと、日本の景気は元気になりません。

 中小企業も海外へ進出しており、弊社は現在、タイに事務所を開設しています。以前は中国の上海にも事務所を持っていました。今や大企業だけではなく、多くの中小企業がグローバル人材を求めているのです。

 日本のGDP(国内総生産)の50%は大企業が担っていますが、これは逆にいうと、残りの50%は中小企業が担っているということです。つまり、日本のものづくりにおいては、中小企業の力が必要だということです。また、大企業の利益率は平均で約4%と言われていますが、一方、中小企業には利益率が10%以上というところが数多くあります。

 元気な中小企業には、オンリーワン製品やオンリーワン技術を持つ会社がたくさんあります。当然、世界にも進出しており、マーケットは世界中にある、そういった会社です。


3.世界の情勢

 2003年当時、世界のGDP(国内総生産)に占める先進国の割合は約80%で、新興国は約20%でした。しかし、2015年の予測では、新興国の割合が38.8%となり、世界のGDPの約40%を担うまでになってきています。今後、ASEANの経済自由化で6億人が自由に行き来できるようになり、経済の流れは大幅に変わっていきます。アジア圏は、インドや中国まで含めると、30億人を抱える大市場です。つまり、全世界の約半数の市場がアジアにあるということです。インドシナ半島には東西回廊と南北回廊があり、これから鉄道建設も始まるため、物流の動脈が大幅に変わります。今まで2週間かかっていたものが3日で行けるような時代が、この地域・エリアに生まれます。

 ASEAN加盟国は、その多くが国民の平均年齢が20歳代の国々です。これらの国はどんどん経済発展を続けており、当然、これから先もまだまだ発展していきます。一方、日本は、国民の平均年齢が46歳で、国民の3分の1は65歳以上と言われています。日本の18歳人口はどんどん減少しており、平成26(2014)年度は118万人と、ピーク時の約半分です。今後もさらに減少することが予想されています。


4.中小企業家同友会

 現在私は、大阪府中小企業家同友会で顧問をしています。過去には8年間、代表理事も務めさせていただきました。大阪府中小企業家同友会では「良い会社をつくる」「良い経営者になる」「中小企業を取り巻く経営環境を改善する」という3つの目標を掲げています。

 中小企業家同友会には全国協議会というものがあり、4万4000社が加盟しています。私はそこで企業連携推進連絡会の代表を務めています。現在、タイ周辺に進出している日系企業と共に、タイの中小企業をメインにコラボレーションしていこうという動きをつくっています。

 私はいろいろな大学で講義を担当させていただいていますが、よく学生から「良い会社とはどんな会社ですか?」と質問されます。良い会社に最低限必要なのは、常に利益を出していることです。自己資本比率が25%以上あることも良い会社の条件で、自己資本比率が高ければ高いほど良い会社だと言えます。また、無借金経営であることも良い会社の条件のひとつで、仮に借金があっても、現預金がそれ以上あればもちろん良いわけです。

 得意先企業が10社以上あることも良い会社の条件です。弊社にも得意先企業が10社以上ありますが、今や大企業も倒産する時代ですから、リスク分散という意味でも、得意先企業を10社以上持つことを推奨しています。金融機関が積極的に低金利で資金を貸し出す企業ということも良い会社の条件です。

 経営者は、得意先や仕入れ先など、いろいろなところから信頼されることはもちろんですが、社員からも信頼され、慕われることが非常に大事です。ワンマン経営であれ何であれ、人間的な要素が大きなウェイトを占めます。

 また、地域貢献活動や、若者の教育に携わることも大事です。


5.株式会社中央電器計器製作所

 弊社は昭和5年創業で,資本金は1,000万円,社員数は52名,そのうち大卒が42名,院卒が6名という会社です。海外の展示会にも出店していますし,海外からも多くの来客があります。シカゴのデボール大学からは,MBAの学生と教授が,毎年二十数名で弊社を訪れます。
 弊社では様々なシステム開発を行っています。航空機分野では,ホンダのビジネスジェットをはじめ,ボーイング787MRJ(Mitsubishi Regional Jet)の試験システムの開発を行っています。その他,自動車や電力,鉄道,新幹線,半導体関係に至るまで,様々な分野でシステム開発を行っています。
 弊社で最近増えているのは医療機器関係で,MRIのコントロールシステムの開発を行っています。世界の大きな病院では,ほぼ100%の割合で弊社が開発したMRIのコントロールシステムが使われています。実際は医療機器メーカーの名前で出ており弊社の名前は出ていませんが,20年以上にわたり,医療機器の重要な部分を弊社は作り続けています。
 弊社には,メインの取引先が10社以上あります。全て一部上場企業ですが,1社を除き,ダイレクトに口座を設けて取引させていただいています。


6.人財は毎年採用

 企業の皆さまに申し上げたいのは,中小企業でも人材は毎年採用しなければダメだということです。定期採用は絶対に大事です。忙しくなっても人を採用していなかったら仕事はできません。大きな仕事が入ってきても,人が足りないという理由で断るようでは,その会社はもう伸びません。人の教育には5年は必要です。しかし,採用さえしていれば,たとえ教育に5年かかったとしても,社員のレベルはどんどんと上がっていくので,次第に仕事もできるようになっていきます。また,定期採用をすることで大学とのパイプもつながります。

 

7.行動力と人間力

 能力の差はあまり意識する必要はありません。人生は能力で決まるのではなく「行動力」で決まります。動けば動くほど,知り合いが増え,人脈が広がります。行動力で培われた人脈によって,自分の将来にこれまでとは全く違った展望が開けてきます。
 「人間力」も大事です。素直に,そして謙虚になることで,人間的に伸びる要素が高まります。そして,努力をすることです。普通の人は2回か,せいぜい3回の努力ですぐに諦めます。私もそれに近いのですが,努力家と呼ばれる人たちはなかなか諦めません。5回も6回も,10回もやる。天才と呼ばれる人たちは成功するまで続けます。ノーベル物理学賞を受賞した日本人の方も「ずっと続けてきたからこそこのような賞をもらえた」と仰っています。


8.友達づきあいが将来へとつながる

 学生時代に友達を増やすことも大事です。人前に出るのが嫌な人,人と話すのが苦手な人,友達付き合いが下手で,数人しか友達がいないという人もたくさんいると思います。しかし,それではダメです。自分の人生を大きく広げるためにも,学生時代に友達を100人つくれと私はいろいろなところで言っています。友達を100人つくるためには,自分から積極的に声を掛けていって,ネットワークを広げる努力をする必要があります。ネットワークができれば,将来どこへ行っても人脈が助けてくれます。友達付き合いが自分の将来へとつながっていきます。ところが,利害関係が出来た社会人になって声を掛けても,学生時代に声も掛けてこなかった奴がなぜ今ごろ自分に声を掛けてきたのか,何か裏があるのではないかとうがった見方をされてしまいます。私は世界中の人たちとハグをすることでコラボレーションをしていますが,人間関係は自らの行動から生まれます。友達が増えれば増えるほど周りからいろいろな情報が入ってきて,今まで気づいていなかった自分の能力に気づかされることがあります。
 


9.インターンシップ

 弊社は小さな会社ですが,大阪大学や神戸大学の院生をはじめ,広島大学,岡山理科大学,関西大学,関西学院大学,同志社大学,立命館大学など,良い大学から優秀な人材が毎年入社を希望して集まってきます。
 最初に採用した大阪大学と神戸大学の院生は中国からの留学生です。インターンシップも15年間受け入れており,今ではラオスやサウジアラビアといった国からの留学生もインターンシップに来るようになりました。
 ユニークなところでは,入省して2年目の経済産業省1種のキャリアの方がインターンシップに来ます。何をしに来るのかというと,私のかばん持ちです。私のパソコンが入っているかばんを持ち,私が行くところにはどこへでもついてきます。大阪府中小企業家同友会が開催する夜間の勉強会に参加することがありますが,それにも勉強会が終わるまでついて来てくれます。国内出張があれば出張にもついてきます。
 


10.留学生の採用

  弊社が初めて採用した外国人はアメリカ人でしたが,外国人を採用することについては非常に抵抗がありました。当時は,まだ弊社も海外展開をしておらず,外国人を採用して何ができるのか,採用して本当に効果が出るのかどうかについても全く分かりませんでした。しかし,実際に外国人を採用してみて,日本人でも外国人でも同じ人間だということがよく分かりました。
 2度目に留学生を採用したのは8年ほど前で,3名の中国人留学生を採用しました。ここから弊社は変わりました。当時,弊社は中国へ売り込みをかけていましたが,中国人留学生の採用をきっかけにして,ほぼ毎月中国へ出張するようになりました。
 現在,弊社で働いている外国人は中国人を入れて5人ですが,弊社は,世界中のいろいろな国から来客があるので,グローバルな社員がいることが非常に大きな支えになっています。 
 

 

11.前向きな留学生

 留学生は非常に前向きです。日本で成功したい,日本と母国との懸け橋になるために帰国して起業したいというように積極的な人がとても多いので,適性テストをするとびっくりするような良い成績を取ります。適性テストの点だけで見たら,弊社に入社する日本人学生は皆,留学生に負けてしまいます。
 一時期,弊社は留学生ばかりを採用していた時期がありました。当時,私は社長でしたが,幹部社員から「社長,このままいくと,我が社は外国人に乗っ取られてしまいます。日本人をもっと増やしてください」と言われてしまい,仕方がないので日本人には採用試験で下駄を履かせることにして,それから日本人を採用できるようになりました。それ位,レベルが高い留学生がたくさんいます。
 留学生は日本の社会に馴染もうと努力をしています。日本語もそうです。日本語は,語学学校で学んだだけでは日本語の微妙なニュアンスまで習得できません。私の家内が弊社の総務部長をしておりますが,総務部長がお母さんの役割をして,留学生に厳しく日本語教育をしています。そのおけげで,今では,中国人でも日本人と全く同じ,あるいはそれ以上に日本語が上手で,きれいな日本語を使います。
 


12.大事なのは人間的関わり

 私は,弊社に入社した留学生に対し「私が日本のお父さん,総務部長が日本のお母さんだから,みんな本当の親子のように何でも相談してほしい」と宣言しています。弊社では,年に数回,自宅で若手社員を集めたワインパーティを開催していますが,そこにも留学生には参加してもらいます。そういうことを続けていると,母の日や父の日にちょっとしたプレゼントがあります。こちらが忘れていても,彼らは集団でプレゼントをくれるので,大変嬉しく思います。
 留学生からの相談は,恋愛相談から結婚相談まで,全ての相談に私は乗っています。だからこそ,留学生たちも結婚生活がうまくいっているのだと思います。また,留学生の親御さんたちが来日された際には,私は親御さんたちと食事に行くようにしています。仕事で留学生の出身地を訪れた際も,できる限り親御さんたちとお会いして話をするようにしています。人間的な関わりは本当に大事なことだと思っています。 

 

13.社会人になる不安

  社会人になる不安は,留学生も常に感じています。しかし,何も心配は要りません。社会人になる不安は,留学生であろうが,日本人であろうが,みんな同じように感じていることだからです。
 日本の会社に入ってやっていけるのかどうかとどうしても心配だったら,インターンシップを受けて,日本の会社がどういう会社なのか自分の目で見て,自分で確かめてみることが大事です。
 


14.大事なのは行動すること

 先々週,私はラスベガスに行ってきました。ラスベガスのホテルから空港へ行こうとしたら,タクシー乗り場には長蛇の列ができていました。タクシーは現れず,これ以上待っても,下手をしたら1時間はかかるかもしれないと思い,目の前にとまっていたホテルのリムジンが使えないかとホテルマンに交渉しました。すると,思いがけずリムジンを使えることになったので,近くにいたアメリカ人に対し,みんなでリムジンをシェアしようと私から提案し,最終的には8人で割り勘して乗ることになりました。リムジンで隣に座ったアメリカ人と話をしていたところ,日本人かと聞いてきたので,日本人だと答えると,そのアメリカは日本語で話してくれました。10日前まで娘の結婚式で日本に行っていたことや,パナソニックで日本人に英語を教えているので日本語は彼の奥さんの方が上手だということなど,いろいろと話してくれました。私もパナソニックの代表取締役副会長の松下正幸さんのことはよく知っているという話をすると,「おお,すごい」ということになり,名刺交換をして,最後には「遊びに来いよ」と言われて別れました。
 私は飛行機で隣に座った人とも友達になります。この写真は双日の常務さんで,今でもお付き合いをさせていただいています。
 このように,自分が友達になろうと思えばどこででも友達になれます。大事なことは,常に「行動」することです。
 


15.一期一会

 「一期一会」という言葉もあるように,私は,出会った人とはどこででも必ずハグをするようにしています。

(
パワーポイントの画面を指しながら)

 こちらは,10年以上前に私が初めてハグをしたロシア人です。
 こちらはポーランドの日系の社長と,そこで働いている事務員さんたちです。ハグをした後の皆の笑顔を見て下さい。素晴らしいでしょう。
 こちらは,ポーランドを訪れた際に立ち寄ったお土産屋です。笑顔が素晴らしいでしょう。初めは怖い顔で睨まれていましたが,ハグをしたところ,5人ほどいた女性が皆笑顔になり,「誰にプレゼントするの?」と言いながら近寄ってきてくれました。
 こちらは,ウィーンを訪れた際に宿泊したホテルで撮った写真です。カウンターの向こう側にいた人とハグをしました。2日間の宿泊でしたが,カウンターの前を通るたびにその彼女がいて,「どこへ行くの?私に何かお手伝いできない?」と話しかけてくるのです。そこで,レストランの場所を尋ねたところ,手書きで地図を描いてくれて,そこのレストランで一番おいしい料理が何かまで書いて教えてくれました。これが「コラボレーション」です。
 年に1回,JICAの研修生が弊社を訪れますが,以前,研修生が弊社を訪れた際には女優の藤原紀香さんが取材に来てくれて,インタビューを受けました。当然,藤原紀香さんともハグをしています。
 こちらは,南京政府から招待されて南京を訪問した際の写真です。レストランに行くと隣席がすごく盛り上がっていました。どんな人たちだろうと気になって話しかけてみると,たまたま京都大学に留学していた中国人で,彼らともすぐに友達になりました。帰り際,一緒に行った日本人同士で割り勘にしようと話をしていると,レストランの人から「隣の人たちが支払って帰られましたよ」と言われました。その日初めて会った南京の人たちがおごってくれていたのです。「コラボレーション」って本当にすごいなと思いました。誰とでも,どんな場所でも「コラボレーション」はできます。積極的に「行動」することが大事です。 
 


 

16.終わりに

 どんな場合でも一番大事なのは「人間力」と「行動力」です。企業でもそうです。「犬も歩けば棒に当たる」というように,社長が歩けば仕事に当たります。よほどの会社でない限り,社内でただ座っているだけの社長はダメだと思います。社長が動くところには情報が入ってきて,いろいろと手を打つことができます。
 私はよくパーティに行きます。パーティに行くと,にぎやかな明るい声が弾むグループ,自分一人で食べ回っているグループ,そして暗い話ばかりして沈んでいるグループと3つのグループがあります。皆さまはどのグループに入りますか。自分一人で食べるだけですか。それではダメです。にぎやかな明るい声が弾むグループに入ったら,ビジネスのヒントや生きるヒント,人間的なヒントなどたくさんのヒントと出会えます。「笑う門には福来たる」です。そこで出会ったヒントを持ち帰ることで,自分の人生が大きく変化していきます。
 私は,弊社がまだ社員が5人という小さな会社の時に,父親の跡を継いで会社に入りました。当時はまだ何もなかったのに,私は世界一のものを何か作りたいと思っていました。今では,弊社には世界一と呼べるものがいくつかあります。「念ずれば夢かなう」です。そういう会社になりました。現在,弊社の採用倍率は毎年30倍です。それ位多くの人から入社したいと思ってもらえるような会社になりました。
 皆さまには,自分自身の大きな夢を持ち,行動していただきたいということを私の最後の言葉にして,本日の講演を終わらせていただきます。ご清聴,ありがとうございました。
 



◆コーディネーター 太田 浩氏 からのコメント

 経済活動においても,人材輩出という観点からも,時代は今,アジアが中心です。世界の留学生の半数がアジア出身という中,日本は地理的に有利な場所に位置していながら,優秀な人材(留学生)を国外からうまく獲得できていない,受け入れてもうまく活用できていないというのが課題となっています。
 今回,畑野氏からは留学生採用の好事例をご紹介いただきましたが,日本の中小企業における留学生採用のモデル・ケースは,残念ながらまだ多くは出ていません。留学生の採用,活用については,アジアのどの国の出身者をターゲットにするかによっても違い,また,公私区別のない日本的な付き合い方が気に入られるケースもあれば,会社で自分に何ができるのかが重要になるケースもあります。日本での就職に対する留学生の多様な意識や考え方が,まだきちんと把握されていないと言えます。
 また,留学生側にも成功のロール・モデル(模範となる人物)になるケースが十分には出ていない中,今後,留学生の採用を進めていくには,最終的には留学生が退職してしまったケース,退職して,母国に帰国しても,その後日本と何らかのかかわりを持って仕事をしているケースなども含め,まずは私たちが多様な留学生のキャリア・パスを丹念に把握する必要があるのではないかと思います。