なごみの家 宮川さん
事業所の利用者と子どもたちで料理
介護が必要となった高齢者の方に「通い」「泊まり」「訪問」の3つのサービスを1か所で提供する小規模多機能ホーム「なごみの家しかた」や、地域の人々が気軽に集えるコミュニティスペース「しかたの茶の間」を運営する宮川さんに「地域や企業との共働」についてお話を伺いました。
(令和6年10月24日 インタビュー実施)
「住み慣れた地域で最後まで暮らせるように」という私たちの大きな目標を実現するためには、地域の皆さんの協力が欠かせません。小規模多機能サービスで24時間365日対応するのは難しい部分もありますが、地域の方々が支え合い、私たちが関わっていない時間帯に見守りや支援をしてくださることが、本当に心強いです。そのためにも、地域の皆さんとのつながりをとても大切にしています。
これまで事業所の利用者お一人お一人が築き上げてきた地域での関係性を途切れさせないように、私たちは地域との橋渡し役としても活動しています。利用者の皆さんが地域で困ったときに支えられる仕組みを作るため、「応援団」を増やしていきたいという思いで、地域活動に積極的に取り組んでいます。
「介護保険サービスを使うようになったから安心だ」と言って、これまで助け合ってこられた住民同士の関係が崩れ、ご本人(利用者さん)から離れてしまうケースがあります。しかし、これでは本末転倒。これまで長年築いてこられた人間関係が介護サービスを利用したことで崩壊してしまうことになります。またケアの観点からしても、地域住民との関わりが少なくなることで、社会参加の機会も減り、心身に大きな影響を与えると考えています。そのためにも「なごみの家」の活動を理解して頂き、応援してくださる地域の方々を増やしていきたいと考えています。
以前は、私たちだけで全てを抱え込もうとする傾向がありましたが、それでは限界がありました。みんなで協力すればもっと良いものができるはずと考え、地域や企業と手を取り合うようになりました。
令和5年の夏頃から、企業との共働にも力を入れています。地域活動をしているコミュニティスペース「しかたの茶の間」の運営には年間120万円ほどの運営費用が必要となっていますが、運営費用を地域にお願いするのではなく、企業と協力する道を探りました。その最も重要な企業と事業所を結びつける役割を、福岡市役所の認知症支援課が果たしてくださり、そのおかげで実証実験や商品のモニタリングなど新たな取り組みに参加することができました。
例えば、スマートウォッチを活用した認知症支援の実証実験では、多くの地域の方々や認知症当事者の方々から率直な意見をいただき、企業として更に良い商品へアップデートできる機会を得ることができたと思います。このような取り組みを通じて、地域や認知症の方に寄り添う商品が増え、結果的に私たちの目指す安心できる暮らしの実現に近づいていると感じます。
また、大学との連携で感情を測る脳波測定器を使ったり、ゲームを通じてストレスの軽減などの変化を測定したりする取り組みにも参加しています。これらは認知症の早期発見や重症化の防止に役立ち、介護の現場に新たな視点を与えてくれる貴重な機会となっています。
一番の大きな成果は、私たちの活動をより多くの方に知っていただけたことです。企業との共働によって事業への信頼感が高まり、地域の方々との協力体制も強くなりました。その結果、利用者の皆さんの生活への「安心」にも還元できる仕組みが整いつつあります。
また、災害時には私たちが支援を受ける側になることも考えられます。だからこそ、平時から地域の皆さんに貢献し、「お互いに支え合う」関係を築くことが重要だと感じています。
企業との共働において、認知症に関する知識がない方とのすれ違いが課題となることがありました。例えば、認知症の方への接し方が分からず、結果的に認知症当事者の不安を煽る行動を取ってしまうケースもありました。こうした経験を通じて、事前の説明や準備の重要性を改めて実感しました。
また、共働の増加により職員の負担が増えることを懸念する声もあります。そのため、職員が無理なく参加でき、利用者の方々とともに楽しめる企画を考えるよう心掛けています。
共働の相手には、自分たちの目的を明確に伝えることが大切です。私たちの場合、「認知症になっても安心して暮らせる街を作りたい」「利用者を元気にしたい」といった思いをきちんとお伝えしています。また、企業や協力団体もお互いのメリットを共有し、相互に支え合うことが重要と思います。
行政や企業に対しても、相手の立場を考えながら接することで、信頼関係を築くことができます。「してもらうことが当たり前」ではなく、お互いに思いを共有し、協力する姿勢を持つことが大切だと感じています。