100%能古島産のはちみつ「NOCOHACHI」<前編>

(2016年3月取材)

画像:能古島を海から撮影

養蜂から販売までを一気通貫で手がける6次化事業
博多湾にぽっかりと浮かぶ、福岡市のプチリゾート地「能古島」。姪浜の渡船場からフェリーで10分もゆけば、ゆったりとした島時間が漂い、心が和みます。東西2km、南北3.5kmと小さな島ですが、かつては万葉集にも詠われた、歴史ある場所。現在でも能古島アイランドパークや、ビーチ沿いのレクリエーションは人気があります。そんな能古島で、2年前よりユニークな取り組みが始まり、注目を集めています。それは、100%能古島産のハチミツ「NOCOHACHI」。島の特産品であるニューサマーオレンジや甘夏など柑橘類の花から採れる蜜を集めた商品で、爽やかな味わいがおいしいと評判です。能古島の恵みを生かしながら、経済活動を生み出し地域に貢献する、6次産業化の試みを取材してきました。


画像:株式会社ヴァンベールフーズ 上野 敬之さん
株式会社ヴァンベールフーズ 上野 敬之さん


能古島の自然を生かした事業で、島に貢献したい


まずは、NOCOHACHI誕生の経緯を教えてもらえますか。


もともとは、弊社の関連会社の保養所が能古島にあり、弊社の代表が島に通ううちに、能古島を大変気に入ったんです。市内中心部から近いのに、自然が溢れ、時間もどことなくゆったり流れていて。老後はここで暮らしたいと思い、生活を楽しむためにも「ここで何かできないか」と考え始めたことがきっかけです。だから最初は、あくまでも個人的な趣味の延長だったんですよ。ちなみに、「銀座のはちみつ」はご存知ですか?


ああ、銀座のビルの屋上などで養蜂をして、採れたはちみつを商品化しているプロジェクトですよね?


そうです。そのプロジェクトを知って興味を持ち、福岡で講演があった時にご挨拶をして、仕組みを習いました。能古島でそれを応用して生まれたのがNOCOHACHIなんです。自社で、小さな農地と果樹園を持ち、地元の農家さんにも力を貸してもらいながら、いまの生産体制をつくりました。最初は、設備もノウハウもなかったので大変でしたが、能古島は人がとても穏やかであたたかく、いろいろと面倒を見ていただいて、とても助かりましたね。いまでも地元の果樹園さんの花から蜜を採らせていただいていて、その協力がなければこの事業は成り立たなかったと思います。


画像:養蜂場の様子
養蜂用の巣箱。能古島内を自由に飛び回った蜜蜂たちが、箱の下にある「巣門」と呼ばれるすき間から中に入り、巣作りをしていきます。



なるほど。どうして養蜂を選んだんですか?


能古島は季節の花々が有名ですし、甘夏やニューサマーオレンジといった柑橘類が特産品ですから、養蜂が向いていると考えたんです。それに、蜜蜂は行動半径が2km程度で、島から離れないので、採集したはちみつも能古島産と明記することができ、商品の特徴になります。そして実際に採れるはちみつが、花の香りに柑橘のさっぱりさが加わって、とてもおいしいんですよ! だから、これを自信を持っておすすめできる商品として、広く伝えていきたいと考えました。


画像:「NOKOHACHI」の商品
 1 うまみが凝縮された、ツヤツヤのはちみつ。純国産のはちみつは、市場に出回っているはちみつのわずか7%しかなく、収穫量もわずかです。
 2 NOCOHACHIのラインナップ。左から、能古島内のさまざまな花々の蜜を集めた定番の味わい「ヴァリアスフラワー/レギュラー(1,000円)」。能古島の柑橘類の花々をミックスした、さっぱりとした甘さの「能古オレンジミックス(1,200円)」。ニューサマーオレンジの花から採った、貴重な純粋はちみつ「ニューサマーオレンジプレミアム(1,500円)」。各80g。


趣味ではなく事業化して取り組むのは、お金もかかりますし、覚悟がいりますよね?


確かにそうなんですが、ボランティア活動として小規模にやっても、結局は長続きしないんですよね。私たちは、事業を通じて能古島に貢献したかったんです。たとえば蜂が媒介となって受粉を促すことで、農作物の生産が安定し、農家の役に立ちますし、加工品を作れば生産のための雇用を生み出すこともできます。商品を売ること自体が、能古島のPRにもなります。そうやって、経済活動の中で試みを継続していくことで、島に貢献できると考えたんです。幸いにも、能古島は市内中心部からとても近いです。私たちの果樹園から福岡市内が一望できるんですが、150万都市が目と鼻の先なんですよ。これを生かさない手はないと思って。それで、2014年6月に農業生産法人化し、本格的な生産体制を作りました。


なるほど。そこから農水省6次産業化認定までの流れを詳しく教えてもらえますか。


まず、養蜂業とトマトやきゅうりなどを生産する株式会社ヴァンヴェールを、2014年6月に農業生産法人化し、7月に福岡市認定農業者となりました。そして、2015年1月には株式会社ヴァンヴェールフーズを設立し、ヴァンヴェールで生産したはちみつを商品化したり、はちみつ加工品を製造販売しています。NCB九州6次化応援ファンド(※)から2,000万円の出資を受けて設立し、2月に農水省の6次産業化認定を受けました。ヴァンヴェールフーズでは、百貨店や小売店での販売までを担います。1次を担うヴァンヴェール×2次・3次を担うヴァンヴェールフーズ=6次化産業となっています。

※NCB九州6次化応援ファンドとは、九州における1次産業者(農林漁業者)と2次・3次産業者(商工業者)との連携による新たな事業機会の創出などを目的として、A-FIVE(農林漁業成長産業化支援機構)と西日本シティ銀行が出資するファンドのこと


画像:トマトの写真
養蜂の他に、小規模ながら野菜も生産しています。太陽の光をいっぱい浴びたトマトは、みずみずしいと評判!


飲食店も経営しているんですよね?


そうです。それが、私たちの特徴かもしれませんね。株式会社ヴァンヴェールの吉塚支店の1階に「ハニーカレー」、南区の長丘に「能古の旬」という、NOCOHACHIを使ったメニューを提供する飲食店を出店しています。「能古の旬」では、能古島で採れた旬の野菜もお出ししていますし、レジ横にはNOCOHACHIも常時取り揃えていて、帰りがけに買ってくださるお客様もたくさんいます。こうして、生の食材から加工品までを、直接食べてもらえる場所を作ることで、宣伝にもなりますし、食材を余らせることなく効率的に使うこともできます。


島内ではなく、他所で営業しているのがユニークですよね。


それは意図的にしています。というのも、能古島は冬は来島者が激減してしまうんですよ。島内で島のことを売りにしても、そもそも島に来る人が少なければ、PRになりません。福岡の周辺地域に店を出し、能古島のよさを伝えることで、能古島を近くに感じてもらえるし、遊びに行くきっかけにもなります。店舗運営の経験がまったくない中で、PDCAのサイクルを回していくためには、ある程度集客が見込める場所でトライ&エラーをしていくしかないと思って。



画像:料理屋「能古の旬」の外観
古くからの屋敷を改築した南区長丘の料理屋「能古の旬」。新鮮な食材が、手頃な価格で食べられるとあって、人気急上昇中です。


<後編>



福岡市の農山漁村地域の魅力はこちら