(2018年3月取材)
HOTEL ZABaN
平成29年7月、都市計画法の「市街化調整区域」に指定されている志賀島で、平成28年6月に行われた土地利用の規制緩和により元の旅館の設えを残しながらリノベーションされ誕生したホテル「ZABaN」(ザバン)。その空間は、コンセプチュアルで視覚的にも魅力的です。SNS映えするデザインはもとより、ゆっくりと時間を忘れて滞在できる充実したサービスが評判を呼び、すでに海外旅行者のリピーターもいるほどです。
そんなZABaNのマネージャー兼シェフの境将希さんに、志賀島の出身でも縁があるわけでもないこの地を選んだ理由や企業としての考え方、移住して感じていることや今後の展望などをお聞きしました。
境将希 HOTEL ZABaN マネージャー/シェフ
前編ではZABaNが誕生した背景や利用者の実態、についてお聞きしました。ここからは、地域との関わり方や実際に事業展開してみた感想などに迫ります。
まず、志賀島で開業するにあたって、気になるのが地域住民との関わりについて。雇用者について尋ねたところ、「僕ともう一人のスタッフとでホテルをまわしていますが、その人は志賀島の人です。“誰か手伝ってもらいたいのだけど”と相談したら、すぐに見つかりました」
その相談先は、境さん自らが開拓したもの。この物件を作った人や近所の漁師、NAGOMI CAFÉなどに挨拶し、そこから少しずつコミュニケーションの輪が拡がっているようです。
「最初にきちんとご挨拶をして、守るべきルールなどは守ろうと。ただ、既存のコミュニティに入ってその中で活動するというより、ZABaN自体が活動の拠点になれたらと考えています」
ともすれば誤解を生みそうな表現ですが、それは自らが主体的に地域資源を活用した活動をしようという意思の表れであり、そうした発信や自主企画のイベントがピンポイントで興味層にヒットし、注目されている理由なのではないでしょうか。
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また、志賀島の印象について尋ねると、「いい意味で、外部からの開発の手が入っていない島だなと思います」と境さん。ホテル事業をやるだけなら、福岡市内の都心部で開業したほうが、昨今の宿薄な状況ですし順調に集客できたでしょう。しかし、境さんたちが選んだのは、「やりたいことがやれる場所」でした。廊下の板張りなど、DIYでは難しい場所だけを専門業者に依頼し、それ以外の8割以上を自分達でリノベーションしたのも、そうした理由からです。しかも、やりたいことをやりたいペースで行っていきたいとの想いから、事業は完全自己資金。「近場のホームセンターでは、完全に常連になりました。何百万円もの資材を買ってきましたからね」と境さんは笑います。
「実際、現状で構想の20~30%くらいしかできていません。もう少し手を入れてからのオープンをと考えていたのですが、知人たちが『泊まりたい!』と続いたので、最低限でオープンさせました。もともと、お客様の声を聞いて一緒に作っていきたいと考えていたので、それはそれでよかったと思っています。今ではシーズンごとに酒屋さんと相談してお酒を変えたりもしているんですよ」
取材で伺った際に最初に目に飛びこんできたウッドデッキも、スタッフの手作り。その様子がSNSで発信されたり、実際に利用される方との会話の中でその様子をダイレクトに伝えたり。ただそこにキレイなデッキがあるのではなく、スタッフが青い海を見ながら「ここにデッキがあって昼寝ができたらいいよね!」と発案し、汗を流しつつ作り上げたという息遣いが伺えることで、利用者も自分のもののように身近に大切に感じることができるのです。
また、そうした日々更新するスタイルが叶っている大きな理由があります。それは、境さん自身がZABaNの別棟で生活しているということ。そう、境さんは志賀島の完全なる移住者なのです。雨が降ったから今日はペンキが乾かないな、代わりに漁港に顔を出してみよう、といったフレキシブルな動きができる上、地域の人にも「よそ者がホテルの経営だけをしている」とは映らない。これは地域に溶け込むにあたって、非常に大きなポイントだったようです。「よそ者」への対応といっても、志賀島自体が福岡都心部と地続きの環境にあるので、あまり隔たりがないということもあるのかもしれません。境さん自身も、まったく縁もゆかりもない土地であったにも関わらず、とても快適に毎日を過ごせていると満足そうでした。
お風呂もスタッフ総出で手作りしたというから驚きです。家族利用が多いので、男女で分けてはいないとのことで、時間制での利用となっていますが、これに不満も出ないのがZABaNならでは。
最後に、地域に溶け込み、お客様の声や環境に即した更新を行いながら運営していく、そんなZABaNの今後の展望についてお聞きしました。
「よくお問い合わせをいただくのがランチタイムの営業です。宿泊の良さを味わっていただくために、オープン後すぐは始めなかったのですが、現時点では5月頃からのスタートを考えています。ランチタイムならではのコミュニティを形成したいと考えています。例えば、すぐ隣に保育園があるので、お子さんを預けたあとのママ友同士のお茶の場所や、地域の人が気軽に立ち寄れる場所にしたいと考えています。今でも気軽に見学に来て頂きたいのですが、やはり無料でただ休んで帰るというのは抵抗があるようなので、お金を落とせるメニューを作って気軽に利用してもらえるようにと考えています」
宿泊者が感じているZABaNの良さを地域の人たちにも味わってもらうための昼間の展開プラン。これも開業後に更新できるZABaNならではです。
「ZABaNは契約の半年前に廃業した旅館をリノベーションして誕生しました。新しいホテルとして、元の旅館の良さを残しながら新しい価値を創造していくというスタイルが実現したので、また別のエリアで同じように旅館のリノベーション事業ができたらと考えています。小田原の日乃出旅館もありますので、外国人旅行客向けのジャパニーズスタイルでもいいですし、ZABaNの旅館再生スタイルでもいい。九州は青春18きっぷで色々と見てまわりましたが、八女や別府なんかは趣があっていいなぁと考えています」
境さんは、なんとまだ26歳という若さ。たくさんの事例を志賀島で生み、2軒目、3軒目とZABaNスタイルを世界に増やしてくれる日が楽しみです。
入り口で出迎えてくれるアートも、スタッフが持ち込んだもの。裏面には風刺作家らしいイラストが。
(取材/後藤暢子)
住所:福岡県福岡市東区志賀島1736-2
電話番号:092-719-1190
http://zaban.jp/