海の中道エリアのコンセプトやルールに即しつつ、「街の価値を上げる」ために「THE LUIGANS Spa & Resort」が10年かけて築いてきた「モノ」と「コト」 <前編>

(2017年9月取材)

画像:魚留聡 ルームスディヴィジョンマネージャー

(株)プラン・ドゥ・シー
全国各地で婚礼プロデュースやホテル、レストラン事業を運営する「(株)プラン・ドゥ・シー」。福岡には「WITH THE STYLE」と「THE LUIGANS Spa & Resort」の2店舗のホテルがあり、「THE LUIGANS Spa & Resort」は昨年の夏に開業10周年を迎えました。この10年の変遷や西戸崎・志賀島エリアの地域の方々との関わりについて、「THE LUIGANS Spa &Resort」の魚留聡さんにお聞きしました。成長を続ける福岡市の未開拓エリアの新規事業事例として、農山漁村地域でのビジネス展開のポイントや地域資源を活かしたビジネスモデル構築のノウハウに迫ります。


画像:魚留聡 氏のインタビューの様子
魚留聡 (株)プラン・ドゥ・シー/THE LUIGANS Spa & Resort ルームスディヴィジョンマネージャー


創成期の(株)プラン・ドゥ・シーに舞い込んだ、海の中道ホテルの後継事業

画像:THE LUIGANS Spa & Resortの空から見た様子
対岸に福岡市内の営みが見える。ほどよい距離感で、現実を忘れすぎずにリラックスできるまさに「福岡市民のリゾート地」


昨年夏に10周年を迎えた「THE LUIGANS Spa & Resort(以下:ルイガンズ)」。前身は、「海の中道ホテル」として運営されていました。文字通り国営公園の中にある施設なので、環境に配慮した安全で安心なホテル運営が基本となります。


そんな国営公園にルイガンズが誕生した経緯は以下の通りです。海の中道ホテルが撤退となり、次の事業者を探しており、コンペティションに参加しないか? という話が、ルイガンズを運営する(株)プラン・ドゥ・シー(以下PDS)の元へ舞い込みます。当時、PDSはレストラン運営と、博多の「WITH THE STYLE(以下、WTS)」の16室のホテル運営実績しかありませんでした。コンペの誘いに正直、「分不相応だな」という思いもあったそうですが、野田社長の中には、福岡に対するあるビジョンがあったそうです。そのビジョンを軸にコンセプトを固め、PDSは見事にコンペに勝利しました。


野田社長の福岡に対する “ビジョン”とは、どのようなものだったのでしょうか。


既にこのとき福岡市博多区でWTSを運営していたPDSですが、実はWTSはPDSが唯一建物から建築して始めたホテルでした。野田社長が福岡に降り立ったときの「カリフォルニアみたいだ!」というファースト・インプレッションから設計されたホテルです。空港からの近さや都心部のコンパクトさ、海との距離感などが「カリフォルニアそっくりだ」という感想を最初に持ちます。カリフォルニアの中でも、パームストリングスという都市が福岡の印象に近いということで、WTSのコンセプトが固まったそう。そして、海の中道ホテルのコンペに参加するために、現地視察を繰り返す中で、海の中道エリアは「カリフォルニアから見たメキシコみたい!」という話に。建物は海の中道ホテルのまま今も使われていますが、この環境の中に直線的な建物がどーんと現れるイメージが、メキシコの建築家「ルイス・バラガン」のアートコンセプトに近い、という結論になり、直線を活かした建物に、ビビッドなカラーを配色した現在のルイガンズが誕生しました。


画像:メキシコの建築家「ルイス・バラガン」に着想を得たビビッドカラーの造作が随所に現れている様子
メキシコの建築家「ルイス・バラガン」に着想を得たビビッドカラーの造作が随所に。このピンクの柱をバックに写真を撮るなど、「SNS映え」するロケーションになっている


ホテルとしては、「福岡市民のリゾート地」というコンセプトで30年以上運営されてきていますが、10周年を迎えたルイガンズは、そのコンセプトを引き継ぎつつ、今もなお、成長を続けています。


ルイガンズ10周年。成長度合いと運営における苦労や努力

ここで、10年の成長推移について聞いてみました。


集客数は、年々増加傾向にあり、福岡県内からの宿泊者が30%を占め、確実にリゾートとして定着しつつあります。さらに、九州在住のお客様が50%と、近県からの宿泊者が多くなっています。「日常を忘れない程度に非日常を味わえる」ということが、同じ福岡県からお客様が来てくださる理由のひとつではないかと魚留さんは考えています。


さらに、2017年の7月〜8月末は稼働率100%、取材時の9月も90%に届きそうな勢いでした。年間の売り上げの実に1/4は夏季の2ヶ月ほどで担っているそうです。


もちろん関東からのリゾート需要もあります。関東からのお客様には、東京湾を房総半島から眺めるような贅沢な光景・雰囲気が喜ばれているようです。


インバウンド需要は、夏休みを例に挙げると、例年99%が国内のお客様だったのですが、昨年は海外からの宿泊客が10%にまで伸びたそう。2020年までは右肩上がりで10%代後半までいくと考えているようですが、インバウンドだけに注力するようなことはしないとのこと。全体的に、宿泊は前年の106%を推移してきているという順調な数字です。


画像:客室の様子
福岡都市圏から車で約40分。極上のリゾート空間で受けるスパメニューは年間を通して安定した利用率を誇る


順調な右肩上がりの要因のひとつは、40%を超えるリピート層の多さです。中には親・子・孫三世代で利用されるご家族も。海外旅行でのコストや手間、世代ごとのアクティビティが選びづらいといったハードルも、ルイガンズではおじいちゃんおばあちゃんとお孫さんが自転車でサイクリングにでかけている間に、パパとママはお部屋でのんびりスパを楽しめる、といった使い方が可能です。


画像:レンタサイクル
開業当時にはなかったレンタサイクルが現在ではホテル入り口にずらり。親子で海の中道をサイクリングしたり、ちょっと遠出して志賀島エリアまでおでかけする宿泊客も


気になるオフシーズンはどうでしょうか。このエリアは冬、海風が強いので寒いため客足がどうしても落ち込んでしまいますが、オフシーズンだからできる取り組みとして、近年スタートしたのが、ルイガンズ内で部署をまたいで編成している「イベントプロジェクト」です。婚礼、ダイニング、宿泊、キッチン、マーケティング&セールス、事務からスタッフが集まって計画&実施している取り組みです。社歴を問わず、立候補したメンバーが実現させたいアイデアを出し合います。いまではルイガンズの風物詩とも言えるほど定番企画となった、屋外で毎週末、スタッフがセレクトした映画を放映する「CINEMA NIGHT」というイベントも、この取り組みから生まれたものです。ほかにも、空いているプールを活用した「SUPヨガ」やグランピング設備など、オフシーズンも目的を持って来てもらえる仕掛けづくりに余念がないようです。


実際にイベントを実施する、しないの採算分岐についても伺ったところ、ある程度は計算するそうですが、基本は「まずはやってみよう」と、スタートさせるそうです。「PDSは『何か企画したい、お客様に喜んで頂きたい』という想いの強いスタッフが多いんです。やってみて改善する、どうすればお客様に喜んで頂けるのかなど、日々チャレンジすることを繰り返すことで、小さなイベントをたくさん積み重ねています」。


ポイントは、お客様が何を求めているのか、スイートスポットはどこなのか。気持ちよく楽しんでもらえるコンテンツは、時間がかかっても必ず定着する、という点です。


また、婚礼以外の広告宣伝費を持っていないこともイベントが育つ理由のひとつのようです。「広告経由で来られたお客様は、広告をやめると離れてしまいます。つねにコンテンツで勝負する覚悟を持って、取り組んでいます。お客様の反応をダイレクトに実感しているスタッフのアイデアから生まれるコンテンツはとても重要なんです」と、メンバーズアテンダントの酒井亜由美さんが語ってくれました。


画像:酒井亜由美さんのインタビューの様子
ホテル内を案内してくれたメンバーズアテンダントの酒井亜由美さん。ひらめいたアイデアが形になっていく過程を困難な課題を含めて楽しんでいることが会話の随所に感じられた


(取材/後藤暢子)


<後編へ>


THE LUIGANS Spa & Resort(ザ・ルイガンズ スパ&リゾート)

住所:福岡県福岡市東区西戸崎18-25
電話番号:092-603-2525
https://www.luigans.com/


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