新修 福岡市史

福岡市史について 新刊・既刊紹介 市史だより Fukuoka 市史研究ふくおか 福岡市史講演会 福岡歴史コラム

市史だよりFukuoka

「市史だより Fukuoka」創刊号 (HTML版)

0. 表紙・目次

「市史だより Fukuoka」創刊号 表紙画像
1. ご挨拶 福岡市史編さん委員会委員長 中元弘利
2. 編集委員長抱負 福岡市史編集委員会委員長 有馬学
3. 特集 市史編さんスタート
4. 第1回福岡市史講演会リポート 川添昭二『元寇防塁が語るもの―市史編さんに備えて』
5. 武野要子 「市史に期待する」
6. 福岡市史編さん委員会(名簿)
7. 市史編さんQ&A 市史はいつできるの?
8. 編さん室だより
9. 編集後記
写真:平成17年度福岡市史講演会 博物館講堂と壇上の様子 座席後方から平成17年度福岡市史講演会

写真:平成17年度第1回福岡市史編さん委員会の様子 会場のコの字テーブルに着いて事業の説明を受ける編さん委員 座席の後ろには他の自治体の市史などが参考に並べられている平成17年度第1回福岡市史編さん委員会

写真:近現代・民俗専門部会の合同会議の様子 会議室に20名以上の2部会の委員が集まっている近現代・民俗合同部会

写真:会議室で机に古文書を広げて調査・整理にあたる10数人の委員や調査補助員のアルバイトたち市内古文書調査

1. ご挨拶 福岡市史編さん委員会委員長 中元弘利

 『市史だより Fukuoka』創刊号の発刊にあたり、一言ごあいさつを申し上げます。
 本市における市史編さん事業は、昭和14年刊行の『福岡市市制施行五十年史』に始まり、その後、市制施行七十周年及び百周年記念事業として、明治22年の市制施行から平成元年までの100年間の本市行政の歩みを中心として編さん・刊行されてまいりました。
 ご承知のように、本市は古くから海外交流の拠点であり、多彩で豊かな歴史が絶えることなく展開されてきた全国でも稀な都市のひとつでありながら、学問的に裏づけされた原始以降の福岡の歴史を集大成した市史は刊行されておりません。
 今回の福岡市史編さん事業は、総合的で体系化された福岡市史を編さんし、21世紀における本市発展の指針とするとともに、郷土への誇りと愛着を醸成し、貴重な歴史資(史)料を市民の皆さんの財産として後世に伝えることを目的としています。そのため、現在の福岡市域を基本的な対象地域として、原始から現代(2000年)までの本市の歴史を、日本国内にとどまらず、国外、特にアジアとの関わりに重点を置いて明らかにし、なおかつ地域・市民の視点に立って編さんするものです。また、正確で、格調高い内容を保ちながら、わかりやすい文章表現などにより、広く市民の皆様に親しまれる市史を目指してまいりたいと考えております。
 この『市史だより Fukuoka』は、市史編さん事業の広報・啓発の一環として、市民の皆様に市史編さん事業とその活動状況をお知らせするとともに、皆様方からの資(史)料の情報提供などをお願いするため、年二回の発行を予定しておりますので、市民の皆様の温かいご支援とご協力をお願い申し上げまして、挨拶とさせていただきます。(なかもと・ひろとし 福岡市副市長)
福岡市史編さん委員会委員長 中元弘利 顔写真 福岡市史編さん委員会
委員長 中元弘利

2. 編集委員長抱負 福岡市史編集委員会委員長 有馬学

 福岡市史編集委員会は、現在のところ考古、古代、中世、近世、近現代、民俗の6部会で構成されています。各部会では主として大学の研究者からなる委員を中心に、広く市内外の専門家の協力を得ながら、市史の編さんに取り組んでいます。
 福岡・博多は、原始・古代以来、多様で豊かな歴史を持ち、全国的にも注目される対象ですが、本格的な自治体史の編さんという点では、残念ながらかなりの後発に位置しています。したがって、今回の市史編さん事業では、まず第一に学問的な批判に耐えうる内容の市史を目標とし、同時に市民の皆さんに最新の研究成果をわかりやすく紹介することをめざしていきたいと考えています。
 内容については、これから調査を進めながら固めていきますが、出発点で確認されているいくつかの大きな柱について説明しておきましょう。その第一は、東アジアの国際都市福岡・博多の歴史像を明らかにすることです。そのためには、世界にまたがった調査が必要です。東アジア全体から見た福岡市史を、ぜひ実現したいと思います。
 第二の柱として、大きな事件や出来事、あるいは有名な人物だけを追いかけるのではなく、ふつうの庶民が日常的な生活を営んできた場として、地域の歴史像を描くことを考えています。実際にはなかなか困難な課題ですが、文献資料だけではなく、聞き書き(オーラルヒストリー)や、絵画・写真・映像などのビジュアルな資料、あるいは景観や環境などの要素を採り入れながら、各部会が連繋し合ってこの課題に取り組んでみたいと思います。
 そのことと関連して、第三に編集・刊行の方法についても工夫を凝らしたいと考えています。DVDによる画像の提供をはじめ、ブック・スタイルの巻にも最新の技術を駆使したビジュアルな構成を導入するなど、いろいろな手法が考えられます。そんな意欲を感じ取っていただける、「福岡市史スタイル」の実現をめざしていくつもりです。
 最後に、市史の編さんにあたっては、幅広く情報や資料を収集し、整理、蓄積することになります。またこれまで知られていなかった資料の発掘にも鋭意取り組んでいきたいと思います。これらの情報や資料について利用の便をはかり、可能な限り公開につとめるのも、自治体史編さんの重要な役割です。そのための方法についても、これから検討を進めていきたいと思います。
 福岡市史編集委員会は、今後も機会をとらえて「市史編さんの現在」を発信していきたいと考えています。また、広く市民の皆さんからのご意見や情報の提供も受けていきたいと思います。『市史だより Fukuoka』がそうした役割の一端を担うことを期待しております。(ありま・まなぶ 福岡市史編さん委員会副委員長・九州大学大学院教授)
福岡市史編集委員会委員長 有馬学 顔写真 福岡市史編集委員会
委員長 有馬学

3. 特集 市史編さんスタート

 福岡市史編さん事業が、平成16年度より開始されました。今回の市史編さん事業は、対象とする時期は原始時代から現代まで、対象とする地域も現在の福岡市域にとどまらず、東アジアを視野に入れたものとなり、福岡市にとって初めて本格的な「市史」を刊行することになります。市史編さん事業をPRする『市史だより Fukuoka』創刊号では特集として、動き始めた市史編さん事業の中核となる方々から、市史編さんの意気込み、見通しなどを語っていただきました。

(1) 市史編さん体制図
・福岡市史編さん委員会
 市史編さん事業の基本計画、事業計画などの重要な事項について審議・決定します。

・福岡市史編集委員会
 市史編さん事業の事業計画等の策定および具体的な事業内容の決定等、事業推進の主体となります。
福岡市史編集委員会組織図 編集委員会には、考古・古代・中世・近世・近現代・民俗の6つの専門部会がもうけられており、編集委員は部会長を兼任しています。  福岡市史編集委員会に、時代別あるいは分野別にもうけられ、資(史)料の調査・収集と研究に基づく執筆等を行います。

・事務局 福岡市博物館市史編さん室

(2) 考古専門部会 部会長 宮本一夫
 大陸の窓口として栄えてきた福岡市は遺跡の宝庫でもある。弥生時代の到来を物語る板付遺跡、古墳時代の渡来人の痕跡を示す西新遺跡、古代の迎賓館である鴻臚館、中世都市の博多遺跡群、元寇防塁、近世の城跡である名島城や福岡城など数多くの重要な遺跡が存在している。これら各時代の遺跡は大陸との関係を示すとともに、日本の歴史を考える上でも重要な遺跡ばかりである。この度の市史編さん事業にあたって、考古専門部会では、このような遺跡を中心として、福岡の歴史を原始から近現代に至るまでビジュアルに叙述する予定である。しかも単なる一都市の歴史というのではなく、東アジア全体の歴史からみた位置付けができればと心がけている。また、このような遺跡は、福岡市の豊かな自然を反映し、あるいはその自然を人間が開発して作られている。福岡市の地形環境や自然環境の変化と人間の営みである遺跡や歴史との関係を、わかりやすくビジュアルに示した特別編を編集する予定である。さらに、資料編では貴重な遺跡や遺物資料を網羅的に示すとともに、埋もれた資料の集成や公開を目指したい。そこでは、遺跡から出土した動物の骨や炭化種実などの自然遺物を分析し、人々がどのようなものを食べて生活してきたのかといった、歴史記録には存在しない庶民の歴史を復元できればと願っている。(みやもと・かずお 九州大学大学院教授)
考古専門部会 部会長 宮本一夫 顔写真 考古専門部会
部会長 宮本一夫

(3) 古代専門部会 部会長 田中正日子
 古代の博多(那津)は、一貫して高度な先進文化をとりいれた「アジアの窓口」として位置づけられます。ところが、平安前期の大宰府の役人は、博多を海外からヒト・モノが集まる「隣国輻輳」の港で、「警護武衛」の要だとも述べています。古代の福岡市は、変動する東アジア世界とそれに対応する国内事情が常に交差していたところだったのです。市史の編さんにあたっては、人びとがどんな生き抜く智恵と力を発揮したかを探るのが大きな課題になると思います。資料編は、海外をふくめて一世紀から十二世紀中頃まで、広い分野で収集する計画です。具体的には木簡などの出土文字史料や、 『万葉集』などの文学作品、あるいは絵画、彫刻、工芸品なども調査の対象とします。また通史編では、主に五世紀から院政期におよぶ十一世紀までをとりあげます。特に鴻臚館跡や九州大学の移転先となった元岡・桑原遺跡など、貴重な古代遺跡については発掘調査の成果にかかわる史料を見直して、遺跡の価値を高められたらと願っています。
 そして専門部会は、多様な分野に取り組むために、広く県内外から実績のある方々に参加していただく対策をとりました。なお、現在の市域に所在・保管されている史資料は、この機会に是非関係機関および所有者の協力をえて、悉皆調査をしたいと考えていますので、特別編の古代の歴史地図作成とあわせて、皆様方のご協力をお願い致します。(たなか・まさひこ 第一経済大学教授)
古代専門部会 部会長 田中正日子 顔写真 古代専門部会
部会長 田中正日子

(4) 中世専門部会 部会長 森茂暁
 中世の福岡市は、「東アジアの国際都市」博多を中核として、筥崎・今津といった周辺の港町を包摂し、政治・経済・流通のみならず文化や貿易の拠点都市として、力強い歩みと展開を歴史のうえに刻してきました。  より具体的にいうと、たとえば十五世紀から十六世紀にかけての室町・戦国時代には、博多はそのような重要さゆえに、様々な地域権力(大名)たちの争奪の対象となり、戦いが繰り広げられました。そうした合戦を本業とする武士たちの活躍が目立つ一方で、他のいろいろな階層の人々(農民、商人、職人、僧侶、宣教師など)もきちんと日々の生活を営んでいます。そうした人々の生活文化を明らかにするための史料は決して多く残存していませんが、中世都市博多を支えた人々の生活の様子をうかがうのは大変大事なことです。
 そのためには、市内に所在する板碑(石造りの卒塔婆〈そとば〉)、寺社などに伝わる棟札(建物の由緒書き)、仏像の胎内銘(胎内に書かれた文字)、梵鐘銘(梵鐘に付された文字)などの金石・在銘資料、それに紀行文・和歌・連歌といった文芸資料、僧侶の語録・経典奥書・画像賛などの宗教関係資料など多種多様の資料に、往時の人々の生活の様子を丁寧にたどらねばなりません。
 中世資料編では、そうした福岡市に関係する文書・記録資料、金石・在銘資料、文芸資料、宗教関係資料などを収録し、また中世通史編では、諸資料をふまえて、福岡市の中世を、大きな歴史の流れのなかで、平易で親しみやすく、しかも学問的な批判に耐えうる形で叙述します。
 こうした遠大な世紀の文化事業を実りあるものにするためには、福岡市民をはじめとした皆様の暖かいご支援とご協力がどうしても必要です。もし、「うちにこんな資料があるよ」とか「どこそこにこういう資料があるよ」といったような情報があれば、是非、編さん室にお知らせ頂きたいと思います。すぐ調査させて頂きます。以上、よろしくお願いいたします。(もり・しげあき 福岡大学教授)
中世専門部会 部会長 森茂暁 顔写真 中世専門部会
部会長 森茂暁

(5) 近世専門部会 部会長 柴多一雄
 近世専門部会では、豊臣秀吉の九州平定にはじまる安土・桃山時代から江戸時代を中心に、資料編四巻、通史編二巻の刊行を計画しています。幕末・維新期については、近現代専門部会と協力して別途通史編一巻を刊行する予定です。また、福岡市域の変化を地図や絵図によって明らかにする地図・絵図編や福岡城の建設から現代の整備事業に至るまでの変遷を追う福岡城編などの特別編の刊行も計画しています。
 福岡市の近世は、豊臣秀吉による博多の再興に始まります。その後、黒田長政によって博多の隣に城下町福岡が建設され、全国的にも珍しい双子都市が形成されます。近世専門部会では、この福岡・博多に住んでいた武士や町人の仕事や生活、福岡・博多と周辺の農村や漁村との交流、さらには藩領外との関係などにも注目しながら、これまでにないユニークな市史を目指します。
 市史を編さんするには、非常に多くの資料を集めなければなりません。近世専門部会では、現在、市内の大学に所蔵されている資料の調査・収集を行っていますが、これからは図書館などの公共機関や個人所蔵の資料の調査・収集も行う予定です。また、これまでの県史や市町村史では古文書などの文献史料に比べて後回しにされがちであった、地図や肖像画などの絵図資料についても積極的に収集していきたいと考えています。(しばた・かずお 長崎大学教授)
近世専門部会 部会長 柴多一雄 顔写真 近世専門部会
部会長 柴多一雄

近世専門部会の調査風景 作業室で江戸時代の古文書を整理する調査補助員の学生たちと柴多部会長近世専門部会の調査風景

(6) 近現代専門部会 部会長 有馬学
 近現代専門部会は福岡市史の中で主に明治維新から現代までを担当します。現在の福岡市域を核としながら、福岡都市圏を構成する周辺市町村との関係にも留意し、あらゆる角度から地域の近代をとらえることをめざしています。
 政治・行政や経済が重要なのはもちろんですが、地域の近代はそれだけではありません。近現代専門部会は、政治史や経済史だけでなく、文学、美術(絵画・写真・映画)、地理学、建築・都市計画等のさまざまな分野を横断した編集体制をとるべく、今後も多くの専門家の協力を得ていくつもりです。
 もちろん近世専門部会や民俗専門部会など、関連の深い部会との共同作業も重要であり、これらの部会とは合同部会を開催しています。その中で、たとえば幕末維新期から明治十年頃までを通して叙述する通史編を、近世、近現代両専門部会が共同で編さんするといったプランも検討されています。
 近現代専門部会は従来にないユニークな自治体史の編集をめざしていますが、当面の活動は地道な史料調査です。市の行政史料はもとより、市長経験者、市職員OB、議員経験者等およびその遺族の個人文書の調査を行い、また民俗部会部会と緊密に協力しつつ、一般市民を含むさまざまな地域・職種の人々のインタビューを行うなど、様々な調査を計画し、その一部はすでに実施されています。今後の展開にご注目いただければ幸いです。(ありま・まなぶ 九州大学大学院教授)
近現代専門部会 部会長 有馬学 顔写真 近現代専門部会
部会長 有馬学

福岡市総合図書館における近現代専門部会の調査風景 同館の一室で近代文書を整理する調査補助員の学生たちと有馬部会長 福岡市総合図書館における調査風景

(7) 民俗専門部会 部会長 関一敏
 銭湯が減ってしまった。理由はかんたんで、家風呂がふえたから。この二年間で箱崎界隈の五軒のうち二軒が店を閉めた。うち一軒は筥崎宮参道うらてにあって、放生会のときには深夜営業サービスをしていた。汗を流しに来ていた香具師連中は今年はどうしたのか。故郷を離れてひとり暮らしをする学生たちも世間の窓をひとつなくしたのではないか。理由はかんたんでも、その影響は大きい。
 民俗専門部会が行うのは、われわれの暮らし方とその気風についてだ。これからの生き方を占うには、これまでの先人たちから学ぶことである。時代の変化のなかでしぶとく時代を超えるものを見分ける力が必要だ。そのために少し昔のこと、戦前から戦後、高度成長期をへてメディアが大きく変わった八十年代頃までの人生譚を中心に集めはじめている。世間の知恵は仕事がら、場所がら、人がらによってさまざまであり、おまけに当人にはあたりまえすぎて話すに価しないと思われるかもしれない。ところがどっこいさにあらず。都会と農村、本土と離島、サラリーマンから商人・職人・役人・遊び人たちの生き方の知恵を学ぶことは、時代が大きく変わりつつある今にしかできない大切なことなのだ。福岡はひとを魅了する町だが、その気風と誇りは市民ひとりひとりの底力に支えられている。この力の秘密をなんとか明らかにして、未来の福岡の糧にしたい。どうか、みなさんのご協力・ご支援をお願いいたします。(せき・かずとし 九州大学大学院教授)
民俗専門部会 部会長 関一敏 顔写真 民俗専門部会
部会長 関一敏

民俗部会・芦別健夏山笠(北海道)の調査記録 北海道芦別市で開催される芦別健夏山笠の風景で、博多祇園山笠と同様、締込みに水法被をまとい、地下足袋を履き、てのごいを頭に巻いた男たちが舁き山を舁いている。写真中央の舁き山には流の名前「四番山笠 北大国流」、人形表題「為道捨身難(みちのためにみをすてるはかたし)」の2枚の差し札がある 民俗部会・芦別健夏山笠(北海道)の調査記録

4. 第1回福岡市史講演会リポート 川添昭二『元寇防塁が語るもの―市史編さんに備えて』

 平成17年度の福岡市史講演会は、九州大学名誉教授(福岡市史編さん委員会相談役)川添昭二先生をお迎えし、10月2日(日)午後2時から福岡市博物館1階講堂で開催されました。
 会場の都合で、定員230名の先着順で受付と広報したところ、開場前に20~30名ほどの方が並んでおり、開場後も続々と聴講者が来場、開始時刻の頃には約200名の方が川添先生のご講演を待ちかねていました。
 先生は、『注解元寇防塁編年史料』、『蒙古襲来研究史論』の編著者であり、昭和43年以降の福岡市教育委員会による元寇防塁の発掘調査に立ち会われるなど、元寇防塁に関しての第一人者です。ところが、事前に話を伺ったところによると、元寇防塁をテーマとして講演をされたことはこれまでになかったということです。それだけに、先生ご自身としても思い入れが強く、今回の講演を承諾されたあと、一から史料を再整理して読み直し、丹念にお話の内容を詰めて、講演に備えられたということでした。
 いよいよ講演開始。講演の趣旨から始まり、「元寇防塁」という用語はいつ生まれたのか、という話があり、各地区の史跡指定の経過、福岡市以外にも所在する防塁の存在、そして元寇防塁に関する研究史と、話は続いていきます。時折、発掘調査に立ち会った際の思い出など、先生だからこそ語ることのできるエピソードなどが交じります。今でこそ考古学と文献史学の学際研究が必要だという話がよく挙がりますが、昭和40年代の当時、すでに元寇防塁の発掘調査に際しては、時代を先取りした試みが行われていたということです。築造に至る経緯、覆勘状(ふっかんじょう、御家人が勤務を終えたことを証明する文書)について、防塁の築造・修理・警備の年数について、話はあちこちふくらみ、尽きることはありません。各地区の防塁について逐一説明される。防塁が語る諸問題について、番役に赴く心情として二通の書状を読み下します。そこには遠く離れた博多まで参上し、しかも合戦が起きていつ死ぬか分からないという当時の武士の悲痛な思い、また日蓮宗の祖、日蓮がそうした現実をどのように捉えていたのかをうかがうことができました。次いで防塁の軍事的性格、防塁の文化的側面へ話が進みます。軍事的要塞という側面がある一方、都市景観の面から考えると護岸としての役割を持つという視点はなるほどと新鮮でした。また博多湾沿岸には防塁、内側に中国の文物を受け入れる禅寺という捉え方、また博多の都市化というのは、元寇防塁、広くは異国警固番役(いこくけいごばんやく)の体制の中で展開していったのだという捉え方は、重要な指摘であった。次いで防塁を基底で支えたのは農民・水夫たちであり、彼らまで巻き込んで長期間にわたる労苦を代償に守られてきた文化財が防塁であり、今後、不断の調査・保存が望ましいという期待を述べられました。そして何よりも元寇防塁は、蒙古襲来に対する応戦の形ではあるが、戦争と平和とは何かを考えさせてくれる史跡である、という防塁の存在意義についてまとめられた。最後に、志賀島の金印公園に存在する郭沫若の詩碑「永なえに室内戈をふたたび操らじ」(永久に日本と中国は戦わない、の意)という一節を紹介され、講演は終了しました。充実した内容にもかかわらず予定時間通りに収められて、しかも2時間の講演中、水も飲まれず立ったままでお話しを続けられ、年齢を感じさせない講演でした。
 講演終了後、聴講者の方々は長丁場に多少お疲れの様子でしたが、多くの方が充実した面持ちで帰途に就く様子が目に付いたのが印象的でした。(市史編さん室 三村)
写真:博物館講堂の壇上で講演される川添昭二先生 2時間にわたり熱弁を振るわれる川添先生

写真:開場前の博物館講堂入り口付近 数十人の聴講者が並んで開場を待っている 開場時刻には長蛇の列が出来た

写真:講演会に参加する聴講者の皆さんの後ろ姿 配布資料に熱心に目を通している 熱心に資料を読む姿が印象的

5. 武野要子 「市史に期待する」

市史編さん事業の必要性を早くから訴え、実現に向けてご尽力いただいた武野要子先生に、今回の市史編さん事業をどのように受け止められておられるのか、また今後どのように市史編さんに取り組んでいけばよいのか、おうかがいしました。
 福岡市民のための『福岡市史』の編さん事業が始まり、ほぼ半年が過ぎ去ろうとしております。ここにいたるまでの関係各位のご努力は大変だったことでしょう。「ふるさと〝福岡〟を知り、福岡以外の人々にも現在、未来の福岡市の実態を伝えることのできる『福岡市史』がどうしても欲しい」という関係各位の熱意に心から敬意を表します。
 わたくし自身博多の商業史を勉強しますのに、肝心の『福岡市史』がないことに、長い間不自由さをかこって参りました。そんな折、福岡市教育委員を拝命しましたので、早速当時の尾花教育長に『福岡市史』編さんの必要性を訴えました。『福岡市史』の編さんと一口にいいますが、膨大な予算を伴います。福岡市民の血税でまかなわれるわけです。編さんの必要度が時代の変化に即応して高まらねば、編さん事業に予算を付けることは出来なかったでしょう。恐らく、故桑原敬一市長もあの世で『福岡市史』編さんの開始を喜んでいらっしゃるでしょうね。
 時機到来。山崎広太郎市長の鶴の一声で、編さんのゴーサインが出ました。上海空港で出発までの小一時間、地下商店街を歩いていると、あの見慣れたお顔が、前方にみえました。ここは上海、まさか?やっぱり広太郎市長でした。ものの二、三分の立ち話でしたが、「市史の編さんはやっぱり大事ですよ」というバカの一つ覚えのわたくしのことばに対し、市長は「うん、ようわかった…」福岡市民の民意を認めて下さったのだと思います。
 ことほどさように、『福岡市史』の編さんを決めたのは、ほかならぬわたくしども福岡市民です。"編さんは学者先生がするもの" であったのは昔のこと。現在求められているのは、市民参加型の市史編さんです。福岡市史の編さんには、考古学の分野では歴史的遺構、古代史料、中世文書、近世史料、近現代資料が不可欠です。旧家に残っている看板や食器などの生活用具等は、わたくしども福岡市民の日常生活の伝統性を明らかにしてくれます。各地域や各家の聞き取り調査の必要度も大きいと思います。最近、ある博多の旧家を訪れて資料を拝見し、お話をうかがい、わたくしたち自身の不勉強ぶりに恥じ入りました。つくづく聞き取り調査の重要性を思いしったしだいです。
 福岡市関係史料は、いまだ各地・各家にねむっているものが相当多いと、わたくしは痛感しております。福岡市民は『福岡市史』編さんの主役です。福岡市民を『福岡市史』の主役たらしめるのは、編さん委員の皆様の腕にかかっています。編さん室から、市民への情報、反対に市民から編さん室への情報の交換が、すばらしい『福岡市史』をつくってくれることを期待しています。
 日本最古の国際貿易都市福岡は、今日オリンピック招致を目指すなど、アジアに開かれた日本有数の地域中核都市として気を吐いています。福岡市の地域の伝統・文化を内外に発信する必要性にせまられているのです。いまこそ、わたくしども福岡市民のアイデンティティの結晶である『福岡市史』の編さんを、力をあわせて進めていこうではありませんか。
たけの・ようこ
福岡大学名誉教授。福岡市史編さん委員会顧問。著書に、福岡・博多の歴史を古代から現代まで通して概観した『博多』(岩波新書)等がある。
福岡市史編さん委員会顧問 武野要子 顔写真 福岡市史編さん委員会
顧問 武野要子

6. 福岡市史編さん委員会(名簿)

相談役 川添昭二(九州大学名誉教授)
顧問 武野要子(福岡大学名誉教授)
顧問 西谷正(九州大学名誉教授)
委員長 中元弘利(福岡市副市長)
副委員長 有馬学(九州大学大学院教授)
委員 磯田伶子(福岡市七区男女共同参画協議会代表)
委員 植木とみ子(福岡市教育委員会教育長)
委員 宇田川宣人(福岡文化連盟副理事長)
委員 鹿野至(福岡市総務企画局長)
委員 多田昭重(株式会社 西日本新聞社代表取締役社長)
委員 平畑雅博(福岡市議会第一委員会委員長)
委員 森茂暁(福岡大学教授)
委員 森山靖章(福岡商工会議所副会頭)
委員 安武清蔵(博多区自治協議会長連絡協議会会長)
編集委員
 有馬学(九州大学大学院教授)
 柴多一雄(長崎大学教授)
 関一敏(九州大学大学院教授)
 田中正日子(第一経済大学教授)
 宮本一夫(九州大学大学院教授)
 森茂暁(福岡大学教授)

7. 市史編さんQ&A 市史はいつできるの?

 市史編さん事業のあらましについてはご理解いただけたでしょうか?このコーナーでは、さらに福岡市史の情報を問答形式で紹介します。

Q. いつ刊行されるのですか?
A. 市制百二十周年を迎える平成21年度に第1回目の刊行を行う計画を立てています。その後、年に2巻ずつ刊行し、平成35年度までに全35巻を刊行する予定です。

Q. どんな内容になるのですか?
A. 現段階では、通史編9巻、資料編16巻、民俗編3巻、特別編7巻になります。通史編は一般になじみ深いスタイルの「歴史の本」、資料編は福岡市の歴史を知るための手掛かりとなる史資料をまとめたもの、民俗編は福岡の都市生活等についてまとめたもの、特別編は独自の企画によって編集されたものです。これからの調査・研究によってさらに細かい内容が決められて、計画的に見直しがなされていきます。

Q. 原始時代から順番にできるのですか?
A. 必ずしも古い時代から順番に刊行されるわけではありません。各時代を手分けして編集する体制なので、編集の終わった時代・分野から出版されます。また資料編、特別編から編集され、それらの最新の研究成果をもとに通史編が刊行される予定です。また新発見があれば、刊行計画の見直しなども予想されます。

Q. 今ある『福岡市史』と何が違うのですか?
A. 先に刊行された『福岡市史』は、福岡市が誕生した明治時代以降の記録が主となっています。今回の市史は、原始時代からおよそ2000年までを取り上げる計画です。

8. 編さん室だより

 平成16年4月、福岡市史編さん事業を開始するため、福岡市博物館の中に市史編さん室が置かれました。この年の編さん室は、編さん委員会や編集委員会設立のための準備が主な仕事で、編集委員会設立の準備会および各専門部会の準備会に、編さん事業の基本方針案の内容を協議してもらいました。そして平成17年の1月27日に第1回の編さん委員会が開催され、基本計画が決定し、続いて2月には編集委員会が正式にスタートしました。平成17年度にはいり、各部会で今後20年にわたる事業計画の内容を討議していただき、編集委員会でまとめられて事業計画案が作成され、9月1日に開かれた編さん委員会で事業計画が審議され、決定しました。なおこの間、編さん室では、市史編さん事業を支えるため、パソコンや机イスなどの事務用品の整備から、福岡に関する基本図書の収集といった、準備もおこないました。さらに各部会の史料調査、整理が本格化し、各部会の専門委員と一緒に、市内や県外の資料保存機関への調査にでかける一方、編さん室の中では、各部会が立てた計画に従い、編さん室員と、延べ20人に近いアルバイトの学生さんたちが、てんてこ舞いで史資料のデータ整理等を行なっています。

9. 編集後記

 編さん室が発足して1年半、何とか「市史だより Fukuoka」第1号をおとどけでる運びとなりました。今後、市民の方々の声が集まるに連れ、貴重な史資料をご所蔵される方の所への調査、あるいは貴重な体験をお持ちの方の所への聞き取り調査、といった様々な場面が増えてきますが、どうかご協力とご支援をお願い致します。

「市史だより Fukuoka」一覧に戻る第2号へ▲上へ
福岡市生活情報文化・スポーツ・生涯学習>文化>文化財・歴史
Copyright(C) Fukuoka City All Rights Reserved.
福岡市博物館 市史編さん室
 住所 福岡市早良区百道浜3丁目1-1
 TEL: 092-845-5011/FAX: 092-845-5019
 E-mail: shishi.EPB@city.fukuoka.lg.jp