表現することで
誰かを救える
映画『今日も明日も負け犬。』
小田 実里(原作・脚本) 西山 夏実(監督)
PROFILE
左)原作・脚本 小田 実里 Misato Oda
福岡市在住。16歳で小説『今日も明日も負け犬。』を執筆し、映画では脚本を務めた。現在は脚本や作詞など、ことばを通じてあらゆる方面で活動を行う。
現役大学生。「変」な人間が大好き。
右)監督 西山 夏実 Natsumi Nishiyama
春日市在住。起立性調節障害と闘った自分の体験を描いた本を16歳の時に制作。
17歳で映画化に初挑戦し、監督を務める。18歳でeiga worldcup2021にて最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞。
自称ワクワク星人。
「起立性調節障害」と診断された監督自身の経験をもとに、女子高生28人で作った映画『今日も明日も負け犬。』は、2021年7月、福岡市内の映画館にて2日間で2,000人を動員。さらに、高校生のためのeiga world cup 2021で見事日本一に。8部門で10の賞に輝いた。病気と闘いながら映画制作をした監督の西山さんと、原作・脚本を手掛けた小田さんにインタビューしました。
※「起立性調節障害」とは血圧や脈拍に異常が生じる自律神経の病気で、思春期に多くみられる。立ちくらみや頭痛、朝起きられないなどの症状がある。そのため、「さぼり」「怠け」とみなされ、周囲の誤解を受けやすい。
映画を作ったきっかけは?
西山:高2の春、新型コロナの影響で、学校が休校になりました。「なんかやりたい!今だ!」って、思いつきで同じクラスだった小田に声をかけて、まずは本を作りました。小田がノートの切れ端に書いていた文章を読んで、小田の言葉はすごいと思っていたので、書くのはこの人しかいないと決めていました。トータルで80時間、これまでの人生を聞いてもらい、その後小田は私が憑依したように一気に書き上げました。
本の作り方なんてわからないから、ネットで本のサイズや安く製本してくれる印刷会社を調べました。親からお金を借りて、身内に読んでもらうために100冊作り、一部をサイトで販売したところ、同じ病気の人の目に触れ「もっと広めてほしい」と言われました。自己満足でやってたけど、それが誰かの役に立つと初めて気付き、次は映画を作ることにしました。
中1で病気を発症してから、大好きだった学校に急に行けなくなりました。明日しようと思ってたことができなくなるという経験をしたので、今やろうと決めました。元々50歳くらいで自分の人生を映画にできればと思っていたけど、だいぶ早まりました(笑)。
タイトルに込めた想いは?
小田:あえてネガティブなタイトルを付けました。ネガティブな状況は病気、環境、人間関係など誰でもいろいろあって、そういうのは明日すぐに変えられるものではありません。苦しんでいる人に無理に頑張れっていうのではなく、「私たちも苦しいし悩んでいるし、負け犬だけど、一緒にやっていこう」という想いを込めました。
励ましであっても「みんな頑張れ」という同調圧力はつらいですよね。
小田:学校は同調圧力の塊です。クラスで何かを決めるとき、少数派が何か言うと、多数派は距離を取り、少数派を変な人としてみなす風潮があります。その人は間違っている、変わっていると決めつけちゃう。みんなが同じじゃないといけない前提なんですよね。
西山:映画の中で教師から「頑張れ」って言われて追い詰められるシーンは、「教師から頑張れって言われるのが一番きつかった」という、原作を読んだ方からの体験談を取り入れました。「頑張れ」と励ますのではなく、「寄り添う」映画にしたいと思いました。
制作する上で大変だったことはありましたか?
西山:「映画の作り方」とネットで検索することから始めました。映画制作を手伝ってくれる仲間をインスタグラムで募り、上映資金はクラウドファンディングで集めました。
おっきいジンバル(カメラの回転台)を買うときには、男性の店員さんに「重いから女の子は持てないよ」って言われました。心の中で「持てるわっ!!」と思っていました(笑)。「女は監督になれない」とかも言われましたね。
小田:なめられたり、馬鹿にされたりすることは、よくありました。いろんな所に協力のお願いに行くと、「私たちは企業が相手だから、高校生は相手にできない」と言われ、ロケ場所の許可を取りに行ったときも、鼻で笑われました。みんな作業服を着た男の人ばかりで、制服を着た女子高生が来るのは初めてだったみたいです。映画館を借りるときも、お金を払えるのかって疑われましたね。でも結果的には、私たちの活動を認めてもらえたと思います。
そういうつらさを乗り越えられたのは?
西山:お金も人も集めたので、後には引けない状況でした。毎日インスタグラムに多くの方から応援メッセージが届き、それも励みになりました。
あとは、メンバー全員が「変わりたい」という思いで、このチームに入ったということです。それぞれ抱えているものがあったから、ここで負けちゃダメ、ここで逃げたらダメになるという強い思いがあって、一人も辞めることなく続けることができました。誰かのためでもあったけど、自分たちのためでもあったと思います。
この作品のおかげで救われた人が多いのでは?
西山:映画の感想は1つ1つが長文です。「この映画に出会って、自分の生活が変わりました」というメッセージが何百件も届いています。なので、少しは生きやすくなったのかなと思えますが、一方で、まだまだだなと思うときもあります。ここまでやっても伝わらない人がいるし、逆に同じ病気の人に「自分はそこまでできない」と思わせて、傷つけてしまうこともありました。それでも、伝わってほしい誰かに向かって、これからも声をあげ続けていこうと思っています。
今でも女子高生や女子中学生からメッセージがたくさん来ます!「私たちでも映画が作れるという発想がなかった。教えてくれてありがとう」って。やってみたい人がこんなにいたんだってびっくりしました。実際に映画を撮り始めた人もいます。
生きづらさを抱えている人、何かに挑戦したい人にメッセージを。
西山:思いつきを消さないで!振り返れば、私たちは全て思いつきで行動してきました(笑)。
小田:考えるより、行動してみる。どこかに行き、誰かに会ってみる。すぐ結果には結びつかないかもしれないけど、そこからいいヒントがもらえます。
映像で表現したい人へ
1.スマホを持って、外に出る
カメラは買わなくていい。スマホで空を2秒、歩いている人を5秒、信号機を3秒撮る。それを好きな音楽のサビだけ切り取ってつなげるだけで、それっぽくなる。
2.パロディーを作る
好きなアニメなどのパロディーを作ってみる。脚本を書く手間なしに、映像の勉強だけができる。
3.YouTubeを見て勉強する
動画の作り方から編集の仕方まで、全部教えてくれる。
文章で表現したい人へ
1.本を手書きで書き写す
読む側から書く側にまわる。その作家の
句読点の打ち方や言葉の使い方がわかる。
2.「恥ずかしいこと」をつぶやく
「恥ずかしいこと」が一番おもしろい。そこに人間味がある。恥ずかしいときこそTwitterでつぶやく。
3.人の話を聞く
聞き上手じゃないと、アウトプットはうまくならない。人の話は聞こう!
※著作権にはご注意ください。
お悩み:
30代女性、独身です。自分には何もなく、無力で惨めだと感じます。友人たちは結婚し、子どももいるのに、自分は独身のまま。仕事も契約社員で、雇用が不安定です。世の中には、夫も子どももいながら、仕事もフルタイムでやる人がいるのに、自分は何ひとつ持っていません。
このまま一生幸せになれないのではないかと感じます。
お答え:
30代になると結婚や仕事などいろいろな悩みが出てきますよね。あなたは無力で惨めだと感じていますが、それはあなたが「幸せとは結婚して子どもを持ち、正社員で働くことだ」と思っているからではないでしょうか?あなたは本当に「何一つ持ってない」のでしょうか?
少なくともあなたは結婚した友人が夫や子どものために費やす時間を自分のために使うことができます。夫や子どもからのストレスもありません。恋愛も自由にでき、別れる時も離婚に伴う面倒な手続きも要りません。不安定な雇用から抜け出すためのスキルアップも、時間やお金の融通がききそうです。やりたい事が見つからない時はこれまでやって楽しかったことを書き出してみましょう。向き・不向きや得意・不得意なことが見えてくるかもしれません。もちろんあなたに独身でいる事を推奨しているのではありません。独身、結婚、離婚、再婚…。生き方は人それぞれです。
あなたにとって楽しく、心地よい生き方は何なのかを見つめ直してみませんか?世間の声に惑わされず、自分が幸せだと思う選択をすれば充実した人生になるのではないでしょうか。
相談員
須藤 美香
コラムニスト、コーディネーター
PROFILE
米国発のポジティブ心理学を学び、独立。
「自分らしく生きる」をテーマに、執筆やイベントのコーディネートを行う。
須藤美香ブログ
Podcast「須藤美香の今日も待ってたよ」
先日、あるクライアントさんと面談したときのことです。彼女は個人で仕事をされていて、大きなプロジェクトの面接を控えていました。努力家で、実力も情熱もある彼女の面接自体は心配していなかったのですが、少し気になる点があったので、このようにお伝えしました。
自分のことをねぎらっていますか?
「フリーで仕事をしていると、節目に成果を祝ったり、がんばりをねぎらったりする機会がなかなかありません。だから、面接の結果がどうであれ、いままでご自分のしてきたこと、がんばったことをしっかり認めて、お祝いする機会をつくってください」
彼女は結婚を機にそれまで住んでいたところから遠く離れた場所に移り住んでいました。はたから見れば、慣れない環境の中チャレンジを続けて仕事を確立し、なおかつ大きなプロジェクトの選考プロセスを進んでいるなんて、たたえられてしかるべき!けれど、本人にとってはそのすべてが「当たり前」になっていて、自分をねぎらう機会がないのです。
これはなにも彼女に限った話、仕事に限った話ではありません。プライベートの人間関係、家事・育児、趣味… 。あなたは、自分のしていることやしてきたことをしっかり認めてご自身をねぎらっていますか?
「当たり前」とスルーせず、お祝いしよう
自分がしていることそのものが楽しければ、わざわざねぎらったり祝ったりする必要を感じないかもしれません。けれど、これがもし大切な人だったら?「お疲れさま!本当にがんばったね」と声をかけたり、おいしい食事に連れ出してお祝いしたりするのではないでしょうか?
あなたはあなたのいちばん近くにいる大切な人です。自分のしていることを「当たり前」とスルーせず、「よくやってるよ」「がんばったね」と認め、お祝いする機会をぜひつくってみてくださいね。