高校生アルバイトから社長へ
22歳でココイチフランチャイズ企業のトップに
PROFILE
左)諸沢 莉乃 Rino Morosawa
株式会社スカイスクレイパー代表取締役社長
2001年生まれ。高校1年生の時にアルバイトとして同社に入社。翌年には「全国接客コンテスト」で決勝進出を果たす。2021年に全国のココイチで当時15人しかいなかった接客のスペシャリストに認定。2024年5月より現職。
右)西牧 大輔 Daisuke Nishimaki
株式会社スカイスクレイパー代表取締役会長
1970年生まれ。東洋大学卒業後「50歳で3億円持って引退する」と決め、カレーハウスCoCo壱番屋を運営する株式会社壱番屋に入社。独立制度を活用して1996年に26歳で独立し、株式会社スカイスクレイパーを設立。
2025年3月8日、国際女性デーに合わせて「女性のエンパワーメント講座」をアミカスで開催しました。関東でカレーハウスCoCo壱番屋(以下、ココイチ)など飲食店27店舗を展開している株式会社スカイスクレイパー(年商約20億円・従業員413人)の代表取締役社長に22歳で就任した諸沢さんと、彼女を抜擢した前社長で会長の西牧さんをお招きし、お話を聞きました。(聞き手:フリーアナウンサーの鎮守恵子さん)
スカイスクレイパーで働くようになったきっかけは?
諸沢:高校1年生の時に、家のポストにココイチの求人チラシが入っていたんです。そこからアルバイトを始めました。
アルバイト時代に大事にしてきたことは?
諸沢:私は要領が悪いし、勉強も苦手なので、まずは誰よりも元気に大きな声で挨拶するようにしました。そして、会社のモットー「ニコニコ・キビキビ・ハキハキ(ニコキビハキ)」を意識して「ニコキビハキと言えば諸沢さん」と言ってもらえるよう努力しました。
会長が諸沢さんを社長に抜擢した理由は?
西牧:スキルや経験ではなく「素直で、へこまない、そしてうちの会社が好きな人」に社長を任せたかったんです。そういう条件を紙に書き出して浮かんだのが諸沢でした。年齢、性別、役職は、一切関係なかった。スキルは後からいくらでも教えられるので、スキルのある人を信用するよりも、信用できる人にスキルを教えた方が早いと考えたんです。
二人で店舗にお客として食事に行った際も、忙しい時間帯だと諸沢はサッと着替えて、店内に飛び込むんですよね。新人さんを教育したり、お客さんに挨拶して回ったり、調理の補助に入ったりできるんです。現場の気持ちが分かる社長で、みんな喜んでいます。
社長を引き受けることに不安はありませんでしたか?
諸沢:全くなかったです。これまでも会長からいただいたチャンスに「ノー」と言ったことはないんです。「やってみたら成長できるかも」とワクワクしかなかったです。今も毎日ワクワクしています。
会長の「人を育てるコツ」は?
西牧:「育てる」というより、彼らの人生を「応援する」ことですね。アルバイトで入った高校生に、まず「将来どうなりたい?」と聞いて、そのために必要な力を一緒に考えます。そんなふうに応援してくれる大人を、彼らはうれしく思うし、素直に耳を貸してくれるんです。
夢がない子には、「どの道に進んでも通用するように、うちで人間性と社会性を磨こう。何かやりたいことが見つかったら、背中を押すから正々堂々と僕に言ってこい」と伝えています。
社長になって失敗はありますか?どう乗り越えてきましたか?
諸沢:今も毎日失敗してます。「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2024」で個人部門賞をいただいたんですが、授賞式のスピーチで、途中言いたいことを全部忘れてしまって、大失敗しました。その夜は1人で飲み屋さんに行って、ビールをがぶ飲みしました。一晩寝て、翌日の朝には元気に出社しました。引きずらないタイプなんです。
西牧:「今日からの私は違います!」ってね(笑)。その切り替えの速さが素晴らしいんですよね。へこまない人っていないと思うんです。彼女もよく泣くけど、翌日には笑顔で戻ってくる。この回復力が、まさに「へこまない」という資質なんです。
モチベーションアップ、ストレス解消法を教えてください。
諸沢:現場に行くことです。アルバイトの子とまかないを食べながら、プライベートの話を聞いて盛り上がったり「また午後も頑張ろう」って言って働いたりすると、イヤなことは全部忘れますね。運動するのと一緒で、気持ちが晴れます。
私の強みは、全力で自分が現場に立って、自分が楽しんでいる姿を見せること、それで、スタッフみんなを巻き込んで一緒にお店を作ることです。これが私の得意なやり方なんだと思います。クレーム対応もへっちゃらです。
お二人の座右の銘は?
諸沢:「高め愛」です。私も在職期間が長くなって、教えることが多くなっていますが、新人さんから学ぶことも多いです。わからないことは年齢、性別関係なく、先輩にも新人さんにも素直に聞くようにしています。いろんな人から学んで、お互いに成長していければいいなと思っています。
西牧:「素直最強、頑固最悪」。いい言葉だと思わないですか?僕が作ったんです(笑)。
素直な人は人の話を聞き、調べ、真似し、成長します。頑固な人は人の意見を受け入れず、学びを止めてしまう。それではもったいないですよね。
結婚や出産など、キャリアプランはどう考えていますか?
諸沢:正直に言うと、今は結婚や出産は考えたことがなくて、まずは社長として一人前になりたいです。
西牧:今後、もし社長が休ませてほしいとなった時、経営チームを作るとか、副社長を置くとか、諸沢が数年抜けてもまわる会社にすればいいだけです。22歳の諸沢が社長をやってるくらいですから、どんなことでも打つ手は無限ですよ。
最後にメッセージを。
西牧:僕は「どんな人でありたいか、どんな人生を送りたいか」それが大事だと思うんですよね。なかなか答えが見つからないという人は、まず相手の顔を見て、笑顔で元気に挨拶する。これだけで全然違うと思います。ニコキビハキですね。
諸沢:チャンスに巡り合う秘訣は、迷わず、すぐつかむことです!「はい、やります!」と即答です。そうすると、「この人は断らない人だ」と思われ、次々チャンスが来るようになります。できるかできないかはやってみないとわかりません(笑)。
私は、高校生のときからこの会社が大好きで、同じ思いで働く仲間をもっと増やして、お店も増やしていきたいです。そのためにも、今は「素直最強」で学び続けています。
諸沢さんが大事にしていること 「スカイスクレイパー 行動指針」より抜粋
お悩み:
30代女性。職場でのお茶出しや掃除、お土産配りなど、ちょっとした雑用を女性ばかりがやらされ、サッとやらないと「気が利かない」と言われます。同年代の男性社員もいるのに、彼らには頼みません。しかも、能力がある女性はいるのに、プロジェクトのリーダーにはいつも男性が任命されます。なんだかモヤモヤします。
お答え:
職場の環境に対してモヤモヤしていらっしゃるのですね。あなたのその感覚、とても大切だと思います。自分に何が起こっているのか気付くチャンスです。あなたがどうしてそう感じるのか、その原因を探ってみましょう。
お茶出し、掃除、雑用などは女性がする。一方でリーダーには男性が任命される。とても不平等で型にはめられた嫌な感じが残りますよね。男性が上に立ち、女性がそれに従う。この慣習を守らなければ「気が利かない」「女(男)らしくない」などと否定されることも少なくありません。こういったことはあなたの会社だけではなく、家庭や地域などさまざまなところで起こっているのではないでしょうか。
これは、個人の能力や適性に関わらず、性別によって役割を固定的に分ける「性別役割分担」という考え方です。あなたの会社には、いまだに色濃く残っているのかもしれません。
今は令和です。時代は進んでおり、家庭でも社会でも性別にかかわらず、ジェンダー平等の社会が推し進められています。あなたのモヤモヤのアンテナは、そのギャップに反応したのかもしれません。
アミカス相談室では、ジェンダー平等の視点を持ちながら、あなたの状況に合わせて一緒に考えていきます。なんだか分からないモヤモヤも、まずは相談してみてください。
相談員
福岡市と九州大学芸術工学研究院 社会包摂デザイン・イニシアティブが連携し、ジェンダー平等について考えるきっかけをつくるポスターを募集。福岡県内から143点が寄せられた。
2023年 優秀作品
宮田 翼
ある夏の日、友達に「日傘差したいな」と言い、「日傘男子?」と鼻で笑われたとき、ジェンダー差別になっていると気付き、この作品を作ろうと思った。その上自分も日傘を差したいと思いつつ、何か恥ずかしさがあって差さなかったことも無意識に差別的なことをしていたのだなと気付かされた。
この作品はまだ日傘をするには肩身が狭いと言える男性を表した作品です。男性だって日焼けしたくない人もいるし、暑いしで、日傘を差したいと思っている人は多いと思う。この作品を「細かいことだな」とか「そんなことどうでもいいよ」と思う人もいるかもしれない。確かにジェンダー全体を取り巻くような広くて深い差別的な問題を取り上げているわけではないが、このような細かいところから何事も始まっていくと思う。いきなり大きな問題は解決しない。このような小さなところに視点を向けて、大きな問題の解決につながっていってほしいと思い、この写真と内容にした。