福岡アジア美術館Fukuoka Asian Art Museum

電話 092-263-1100

FAX 092-263-1105

【連載】アジアのトップアーティストたち
 
4月9日(火曜日)まで開催の「福岡アジア美術館ベストコレクション展」に展示されるアーティスト10人の作品を紹介します。

第8回 ジャン・シャオガン
 ジャン・シャオガン氏の作品
 かっと目を見開く真っ黄色の顔の男性と、はかなげにたたずむセピア調の人民服の女性。謎めいたこの二人、実は作者とその母です。ただし、母は古い写真を基に娘時代の姿のまま描かれ、家族として隣り合いながら、両者の間には隔たりを感じます。さらに周囲には、天安門が映ったテレビや悲しげなバラ、閉ざされた木箱など、暗喩的な図像が散りばめられ、互いに赤い糸でつながれています。
 1958年生まれの作者が青春時代を過ごしたのは、中国全土に文化大革命が吹き荒れた時代。その混乱のさなか、両親が突然逮捕され、作者も地方へ追放されるなど家族は波乱の人生をたどり、ついには作者の母は精神を病んでしまったといいます。
 描かれた赤い糸は、親子の血縁関係だけでなく、歴史の中でいや応なく絡み合う国家と個人の関係をも示唆しています。作者と母もまた、そのような歴史の荒波に翻弄(ほんろう)された家族の一つであり、だからこそ二人の肖像には、傷や喪失の跡が深く刻まれているのです。
 作者は、「血縁」シリーズと名付けられたこのテーマを追求し続け、国際的に高く評価されます。本作はその初期の代表作の一つです。
(学芸員 桑原ふみ)



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