フレイル予防で健康長寿
福岡100

 コロナ禍で、この1年、多くの活動が自粛を余儀なくされました。体を動かしたり仲間と語り合ったりする機会が減り、特に高齢者の体力の衰えや認知機能の低下が懸念されます。最期まで自分らしく生きるために、必要なことは何なのでしょうか。これからの過ごし方を考えます。
 「フレイル」とは、加齢に伴う身体機能の低下によって健康障害を起こしやすくなった状態のことです。いわゆる虚弱状態で、要介護の前段階ともいえます。
 人生を楽しみながら、はつらつと生きていくために大切なことを、久山町研究※1に長年関わってきた医師の二宮利治氏(52)と保健師の吉田大悟氏(46)に聞きました。
保健師吉田さんと医師二宮さんの写真
 *取材は感染症対策を講じて実施しました。
―コロナ禍で高齢者の生活はどう変わりましたか
 二宮 感染して誰かにうつしてはいけない、家族に迷惑を掛けてはいけないと、周りに気を使って外出を控えている高齢者が多いようです。持病を持つ人は特にその傾向が強く、筋力の低下「サルコペニア※2」や「ロコモティブシンドローム(ロコモ)※3」が心配されます。
 吉田 郊外に住んでいる人は散歩に出たり買い物に出たりして、さほど影響はなかったかもしれませんが、都心部の高齢者の皆さんは、外出する機会を失い活動量が減ったようです。外出を控えることは感染予防には効果的ですが、一方でこのようなマイナス面もあります。過度に恐れず、できる範囲で自分なりに「動く」ことが大切です。
 二宮 高齢になるといったん落ちてしまった筋力は、なかなか元に戻りません。今の状況をキープすることが大切です。そのためには、若いうちから「貯筋」をしっかりしておく必要があります。栄養バランスに気を付けながら、家でできる筋トレを少しずつ行いましょう。
―高齢者と関わる家族や周囲が気を付けることはありますか
医師二宮さんの写真
 二宮 家でじっとしていれば感染しにくいかもしれませんが、その代わり足腰が立たなくなり、寝たきりになるリスクが上がります。人と会って話をしなくなれば、認知機能も低下します。
 吉田 5年後、10年後の姿を想像してみてください。自分はどうなっていたいか、親は、家族はどうあってほしいか、考えるきっかけにしてほしいと思います。この機会に、親を誘ってウオーキングを始めてみるのもいいかもしれません。
―健康長寿のために、どのような対策が必要ですか
保健師吉田さんの写真
 吉田 私たちは、ICT技術を活用したウオーキングイベントを開催しました。歩数ランキングを見ると、会社員のお父さんよりも畑仕事をしているおじいちゃんの方が歩数が多いなど、興味深い結果が出ました。数字で結果が分かるとやる気も出ます。
 二宮 スマートフォンやパソコンを上手に利用している高齢者も増えてきました。インターネットを活用して、積極的に交流もしてほしいですね。
 吉田 人とのつながりの大切さを改めて考えさせられました。1人暮らしでも、積極的に交流している人もいますし、家族と同居していてもあまり会話をしていないという人もいます。孤立させないことが重要です。
―フレイル予防について市民に伝えたいことは何ですか
 二宮 食事と運動の両方が大切です。食べるためには歯の健康に、活動するためには心の状態にも気を配る必要があります。全てつながっているのです。
 吉田 とにかく積極的に動くこと。無理のない範囲で、たくさん歩いてください。フレイル予防は、早ければ早いほど効果がありますし、人生の終盤の過ごし方が大きく変わります。
 二宮 人は、それぞれ環境も性格も考え方も違い、体の状態もさまざまです。普段から動くことで、生活の質を保ったまま充実したシニアライフを送っている人もいます。自分に合ったやり方で、できることから始めましょう。

保健師 吉田 大悟
 九州大学大学院医学研究院で、二宮医師と共に久山町研究に携わり、地域予防医療に関わる人材育成に尽力。この春から、福岡看護大学准教授。医学博士。
医師 二宮 利治
 九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野教授。医学博士。久山町研究に関わり、主に生活習慣病や認知症の予防・治療法の開発など疫学研究を進める。

用語解説
※1久山町研究=九州大学が60年以上にわたって久山町の住民を対象に行っている、脳卒中や心血管疾患などの疫学調査。研究テーマを生活習慣病全体に広げ続けられている。※2サルコペニア=ギリシャ語で筋肉(サルコ)と喪失(ぺニア)を組み合わせた言葉。加齢などにより筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態のこと。※3ロコモ=骨、関節、筋肉などの運動器に障害が起き、「立つ」「歩く」といった移動機能が低下している状態のこと。

楽しみながら生活習慣改善

◆ロコモ予防動画「ロコモティブシンドロームに負けない体」
 市は、市民の皆さんに気軽にロコモ予防に取り組んでもらうための動画を制作しました。ロコモチェック、食事や運動での対策などを、動画で分かりやすく説明しています。みんなで生活習慣を見直しましょう。問い合わせは、健康増進課(電話 092-711-4374  FAX 092-733-5535 )へ。
動画に出演しているタレントえもとりえさんの写真
◆オンラインで健康管理
 国立長寿医療研究センターの調査で、高齢者の活動量が新型コロナウイルスの感染拡大前後で約3割減ったことが分かっています。同センターは、高齢者に感染を予防しながら活動的に生活してもらうためのアプリを提供しています。散歩ルートを表示する機能や、自宅でできる体操、健康チェックなどがあります。詳しくはホームページ(「オンライン通いの場」で検索)をご覧ください。問い合わせは、地域包括ケア推進課(電話 092-711-4373  FAX 092-733-5587 )へ。

外に出よう・交流しよう
「通いの場」で健康生活
 ●健康体操「よかトレ」
 市は、高齢者の皆さんの健康維持に役立つ、足元気体操、祝いめでた体操、黒田節体操など六つの体操「よかトレ」を推奨しています。また「よかトレ」を実践している団体を「よかトレ実践ステーション」として認定し、活動を支援しています。
写真:健康体操「よかトレ」を実施している様子
 ●よかトレ実践ステーション「スマイル」(城南区)
 平成31年に発足した自主グループ「スマイル」は、当初、月に2回、地域の介護施設で体操を行っていました。コロナ禍で活動できない期間が続く中、市が出前形式で行う「生き活(い)き講座」を利用して、久しぶりにメンバーが集まりました。
 代表の藤村和江さん(74)は「メンバー9人とても仲が良く、いつも笑い合って過ごしていたので、突然活動ができなくなり、張り合いを失っていました。自粛が長引き体力も落ちていたので、少しずつ活動できるようになってきてほっとしています。体操以外にも、みんなで出掛けたり集まって話をしたりして活動的に過ごしたいと思います」と話していました。
写真:「よかトレ」を実施している様子
 市には、「よかトレ実践ステーション」の他に、共通の趣味やレクリエーションを楽しむ「ふれあいサロン」など、高齢者の皆さんが集う「通いの場」があります。地域の情報は、ホームページ(「福岡市 通いの場」で検索)に掲載しています。
 記事に関する問い合わせは、地域包括ケア推進課(電話 092-711-4373  FAX 092-733-5587)へ。

講師を担当した健康運動指導士の筑地公成さん(52)の話
軽妙な語り口で参加者の心をつかむ筑地さんの写真
 参加者の皆さんの元気な姿を見るのが私の喜びです。家族が心配しているからと外出を控える人もいるようですが、動かないと体は確実に衰えます。認知症予防教室などの講座も各区で開催しています。一緒に楽しく体操しましょう。

老人福祉センター  仲間と趣味を楽しむ
 仕事をリタイヤした後、老人福祉センター東香園(東区)で将棋を楽しんでいる樋口堯宣(たかのぶ)さん(80)に、セカンドライフの過ごし方について聞きました。
老人福祉センター東香園のパソコン教室にも通い始めたという樋口さんの写真
 定年退職後、市の駐輪場で働いていた65歳の時、将棋好きの同僚が東香園に誘ってくれました。それからもう10年以上、週に3回は訪れて、午後の3時間、将棋を指しています。将棋は、相手の一手先を読むことで想像力、記憶力などを鍛えられますし、集中力や決断力も身に付きます。心も元気になり、笑顔も増えて明るくなりますよ。
 うまくなりたいという気持ちは、ますます強くなっています。今では、公民館の講座等で講師を任されるようになりました。将棋のほかに、毎朝ウオーキングをしたり野菜を育てたりして健康面にも気を使うようになりました。老人福祉センターでは、感染症対策を実施して活動が行われています。皆さんも、ぜひ参加してみてください。
写真:舞踊の教室の様子
【問い合わせ先】各区老人福祉センター

区 園名 電話 ファクス
東 東香園 092-671-2213 092-671-2214
博多 長生園 092-641-0903 092-641-0907
中央 舞鶴園 092-771-7677 092-716-0046
南 若久園 092-511-7255 092-511-7558
城南 寿楽園 092-861-1123 092-861-1123
早良 早寿園 092-804-7750 092-804-7751
西 福寿園 092-891-2727 092-891-2727

高齢者が活躍しています
介護支援ボランティア

 市は、65歳以上の元気な高齢者に、積極的に社会と関わり、生きがいを持って日々を過ごしてもらおうと、市内の介護施設で活動するボランティアを募集しています。
 活動内容は、▽レクリエーション指導や囲碁・将棋など趣味の相手▽入所者の話し相手▽行事の手伝い▽食事介助の補助―などです。
 希望者は、ボランティアセンターに登録し、紹介された施設で活動します。市内の介護施設等でボランティア活動を1日1時間以上行うと1スタンプ(200円相当)がもらえ、換金または寄付できます。
高齢者施設で洗濯物を畳むボランティアの写真
 ●まずは動画をご覧ください
 これまで定期的に開催していたボランティア登録説明会が、オンラインで受けられるようになりました。都合の良い時に、自宅で動画を見て気軽に始められます。
 問い合わせは、市社会福祉協議会ボランティアセンター(中央区荒戸三丁目  電話 092-713-0777  FAX 092-713-0778)か下記の各区センターへ。

【問い合わせ先】各区社会福祉協議会ボランティアセンター

区 電話 ファクス
東 092-643-8922 092-643-8923
博多 092-436-3651 092-436-3652
中央 092-737-6280 092-737-6285
南 092-554-1039 092-557-4068
城南 092-832-6427 092-832-6428
早良 092-832-7383 092-832-7382
西 092-895-3110 092-895-3109

ICTで離島とつながる
 市内の離島でも、住み慣れた地域で一日でも長く暮らせるよう、島民が定期的に集える場「介護予防サロン」が運営されています。
 市はその活動を支援するため、ICT(情報通信技術)を活用して離島と区役所をオンラインでつなぎ、介護予防のためのレクリエーションや体操、健康チェック等を行っています。また、運営に従事する島民の人材育成も行っています。
画面を見ながら運動する西区小呂島の皆さんの写真

■問い合わせ先/地域包括ケア推進課  電話 092-711-4373  FAX 092-733-5587





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