INTERVIEWインタビュー

2021.9.10 (Fri)
アートでアジアがみえてくる!ディープなアジア美術トリップ

世界的にも珍しい近現代のアジア美術のみを所蔵・展示する福岡アジア美術館。日本も同じアジアといえど海を超えれば言語も文化もまるで違う。服装だったり価値観だったり宗教だったり。身近なようで意外と知らないアジアを垣間みることのできる美術館です。日本以外のアジアをみることで新しい感性が揺さぶられる感覚を得られる場所でもあります。訪れたことのある国の作品を探してみるのも楽しい!知れば知るほどアジアっておもしろい!美術っておもしろい! そんな魅惑のアジア美術の世界をインタビューとともにご紹介します。

福岡アジア美術館について

「あじび」の愛称で親しまれている福岡アジア美術館。周辺には、博多座、アンパンマンミュージアム、川端通商店街などがあり、福岡の文化やカルチャー、幅広い世代が集まる都市型ミュージアムです。アジアの近現代美術に特化した展覧会を開催し、歴史や文化の影響を色濃く残す美術をとおして、各国の時代の流れや想いを今に伝えています。その時代を生きる作家が残した芸術というカタチを展望することで、変化し続けるアジアを知ることができる世界に唯一の美術館です。

—福岡アジア美術館が他の美術館と違う点は?

美術館というと、西洋美術や古美術といったものがイメージされやすいかと思いますが、福岡アジア美術館は近現代美術を専門としているところです。近現代に焦点を当てることで、現在活動されているアーティストの作品、我々が対峙する「いま」を反映した作品をみることができます。

—福岡とアジア美術のつながりは?

福岡の観光都市という面とアジアの玄関口というところで、アジアとの文化や美術の交流拠点として福岡アジア美術館はあります。アジア各国からアーティストを招いて、滞在制作やワークショップを開催するなどしてアーティストや文化との“交流“の場を多く設けています。これまで100名以上を招へいしていて、アジアとのつながりも濃くなってきていますね。いまとこれからのアジア美術の発展をここでみることができます。

巨大パブリックアートにも注目!

ブー・ホァ(卜樺)《最良のものはすでにある》2018年

福岡アジア美術館の顔ともいえるエントランスホールに描かれている巨大壁画は、2018年に中国のアーティスト・ブー・ホァ(卜樺)の原画を基に、福岡在住のアーティストや学生によって描かれました。

じっくりみてみるとラーメンや明太子、福岡タワーなど “福岡らしい”モチーフを発見!ここでしかみられない都市との融合アート作品です!

パンヤー・ウィチンタナサーン《魂の旅》2001年

7階のアートカフェ前に展示されている迫力ある作品は、第2回福岡トリエンナーレの出品に伴い、壁のサイズに合わせて制作していただいた壁画です。中央には極楽浄土、左にはいま生きる私たちの現世が地獄として描かれています。仏教思想が反映された考えさせられる作品ですね。

このように展示室に入る前から目をひく作品たちが出迎えてくれます!ここに展示されるまでの経緯や表現の真意を考えてみることで見方が変わってくるのも美術の魅力ですよね。

時代とともに変化するアジアを旅する「あじびコレクション」

館内展示は年6回程度展示替えが行われます。季節や今の時代に沿ったテーマに基づき、各学芸員が工夫を凝らした展示を展開しています。
現在アジアギャラリーで開催しているコレクション展では、黎明期からアジア美術におけるモダニズムの展開、多様な表現へと発展していった現代美術までの時代の流れをたどる展示となっています。植民地支配からの独立と急速な近代化が美術をとおしてうかがえるだけでなく、当時の風潮や教育までも見えてきます。西洋の影響を受けながらも独自に発展していったアジア美術の流れを展望できる内容です。

スダルシャン・シェッティ(インド)《家庭》1998年

展示会場に入ってまず目に飛び込んでくるのが「牛」!今年が丑年ということもありウェルカム・オブジェとしてここに展示されているそうです。インパクトのあるスタートです!

アジアギャラリーはなんと全作品撮影OK!これもアジア美術を広く知ってもらいたいという気持ちからなんだそう。記憶と記録に残しておきたい作品は写真を撮っておきましょう。

ダダン・クリスタント《官僚主義》1991-1992年

2点の作品を比較し、共通するテーマについて深堀りする「あじびコレクションX」。今回のテーマは「怪物」。作品の中で表現される不気味でユーモラスな怪物たちは、何を訴え、どのような経緯で描かれたのか。国家体制の揺らぎという時代背景を理解することで、アーティストたちの抱える想いや、葛藤がうかがえます。また、揶揄のような表現の巧妙さもみどころです。知れば知るほど引き込まれる作品です。

お気に入りの虫をみつけよう!「虫・ムシ・むし―アジア美術で虫あつめ!」

夏にぴったりなコレクション展「虫・ムシ・むし―アジア美術で虫あつめ!」も開催中!作品の中で表現される虫を種類ごとに展示。人にとって虫とはどういうものなのか、生活の中でともに住まう虫やリアルとはかけ離れた表現にも注目!美術館で虫探しをしてみましょう!

ピンクの鮮やかな「カマキリ」をみっけ!

角孝政《装甲可変生命体 マンティス、ハナカマキリ》2002-2003年

福岡出身の日本人作家・角孝政によって制作された「カマキリ」は、ただのカマキリではなく花に擬態する「ハナカマキリ」という種類。本物ではありえない大きな目と人間のように生えた腕、そして背中には花びらのような装飾があります。迫力がありながらも細部まで凝ったつくりに見惚れてしまいます。

腕が人間のように生えているのは、作者がゲームのキャラクターから影響を受けているからなのです。そういわれてみると特撮ヒーローに見えてきますよね。

会場内に設置されている子どもたちが書き込むワークシート「むし観察シート」でもハナカマキリが大人気!こんなキレイな虫、なかなかみつけられないですよね!ステキな絵も描かれています。

「クモ」はどこに?

アノリ・ペレラ《もつれた蜘蛛の巣の中でⅡ》2001年

クモのカテゴリーにある作品ですが、ここにクモの姿はありません。スリランカではレースや刺繍は女性のものとされており、女性が編むレースをクモの糸に、編む女性自らをクモにたとえた作品なのです。照明によってできたクモの巣のようなレースの美しい影に注目するのもこの作品の見方の一つです。

美しくお祝いの意味で使われる蝶、現実では嫌われるゴキブリなど、同じ虫でも捉え方が全く変わってくるのがおもしろいですね!作品にメッセージを添えるのには効果的なアイテムなのかもしれません。虫への興味が湧かずにはいられない展示でした!

展示を締めくくるのは「あじびレジデンスの部屋」。福岡アジア美術館では1999年の開館から毎年アジアの美術作家や研究者を招へい、滞在制作やワークショップなどの交流の場が開かれてきました。これまでの22年間で開催された300もの多彩なワークショップから、3つをピックアップ。今年はコロナ禍ということもあり、オンラインでのワークショップも開催しているそうです。異文化や芸術に手を動かして触れる体験は子どもたちにとっても貴重な時間ですよね!

ベトナム人作家のレ・ヒエン・ミンによるワークショップ「ベトナムのお面を作ろう!」(2019年)で制作されたお面。お祭りなどお祝いのためにかぶるお面に色をぬり、思い思いの作品ができあがりました。手前のお面にはお寿司が描かれています。日本とベトナムのお祝いのカタチが融合した作品ですね!

レ・ヒエン・ミン《五つの問い》2019年

博多旧市街で行われた屋外型展示「まるごとミュージアム」で展示されたインスタレーション作品。“女性とは”の問いに対する思いを、ベトナムの手漉き紙「ゾー」に書いて貼り付ける参加型の作品です。自分が書くこと、書いてあるものを読むことで、改めて女性の在り方について考えさせられます。

バングラデシュ独立50周年記念「わが黄金のベンガルよ」

次回9月23日から開催されるコレクション展は、1971年、西パキスタンからの独立を果たしたバングラデシュ独立50周年を記念した展示です。古来より多用な文化が入り交じり豊かに表現されてきたバングラデシュ美術にスポットをあて、生きることへの苦難と喜びが交錯する独立戦争後の50年をたどります。

—バングラデシュとはどういう国ですか?

独立して50年ということで、比較的新しい国になります。しかしその文化は古く、芸術が発展し続けている豊かな国でもあるのです。イスラム教を信仰している国の美術は、幾何学模様などの抽象的な表現が多いのですが、インドや伝統文化の影響を受けているバングラデシュの美術には具象的な表現が多くみられるのも特徴ですね。刺繍などの手工業も盛んで、作品にもそういった技術が使われています。

—「わが黄金のベンガルよ」のタイトルの意味は?

これはバングラデシュの国歌のタイトルになります。ベンガルとは地域名で、現在はインドとバングラデシュで分断されていますが、歴史的にも古く、豊かな文化が育まれた土地でもあります。今回の展覧会のメインビジュアル《女性》を描いた画家は、バングラデシュの国旗もデザインしていて、バングラデシュ近代美術の基礎を築きました。

—この展覧会のみどころを教えてください。

前半は独立戦争や政治についての作品、後半には自然や町にみられる人々の楽しげな様子が描かれた作品を展示予定です。絵画や版画、刺繍作品など多彩な作品がお目見えするのもみどころですね。バングラデシュは貧しい国と思われがちですが、自然も豊かで多様な文化を生み出してきた国であることを感じてもらいたいと思っています。

アジアの美術ってこんなにおもしろい!

歴史的背景や多文化との共存という時代の流れがアジア美術をみる上での重要なポイントになってきそうですね。色彩や表現、宗教といったところも西洋美術や日本美術と異なり、独特の魅力があります!最後にアジア美術の楽しみ方についてお聞きしました!

—最後に、アジア美術館が考えるアジア美術とは

アジアの国々は、歴史、宗教、気候、文化とそれぞれ異なります。似ているようでも似ていない。一緒くたにできないところが魅力ですね。共通点と差異を比較しながらみていくのもおもしろいですね。同じ国の中でも作家の捉え方で表現が異なり、作品一つ一つにそれぞれの物語があります。作家の気持ちや経緯などを考えながらその物語をみつけていくのもアジア美術の楽しみ方の一つですね。

なるほど!アジア美術って奥深いですね。会場を訪れた際には、作品横にあるキャプションをじっくり読んでから視点を変えて見直してみようと思います。ここでしか体感できないディープなアジアの美術をぜひ旅行気分で堪能してください。

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