○福岡市子育て家庭を社会全体で支え、子どもを虐待から守る条例

令和5年3月20日

条例第36号

目次

前文

第1章 総則(第1条―第8条)

第2章 子どもを虐待から守るための施策

第1節 未然防止(第9条・第10条)

第2節 早期発見及び早期対応(第11条―第13条)

第3節 虐待を受けた子ども及びその保護者への支援等(第14条・第15条)

第3章 雑則(第16条・第17条)

附則

子どもは、その一人ひとりが、未来を創っていくかけがえのない存在であり、子どもが自分らしくいきいきと輝き、将来に夢を描きながら、心身ともに健やかに成長していける社会をつくることは、全ての人々の願いである。

福岡市においては、これまでも全国に先駆けて児童相談所に弁護士資格を有する職員を配置するなど、迅速かつ的確に虐待の事案に対応することができるよう取組を進めてきた。

しかるに、家庭環境の多様化、地域社会における人間関係の希薄化等を背景に、家庭や地域社会における養育力が低下し、子育て家庭の孤立化や子育てへの不安が増加しており、これらを一因として虐待行為に至ることがある事実も受け止めなければならない。

子どもに対する虐待は、重大な人権侵害であり、いかなる理由があろうとも決して許されるものではない。

このような状況に鑑み、子どもが心身ともに健やかに成長することができる「子どもに優しい都市福岡」の実現を目指し、市、関係機関等及び地域住民等が一丸となって子育て家庭を社会全体で支えるなど、子どもを虐待から守るための施策に全力を挙げて取り組んでいくことが重要であると確信する。

ここに、全ての子どもを虐待から守ることを改めて決意し、子どもを虐待から守るための施策を一層進めていくとともに、これを総合的に推進するため、この条例を制定する。

第1章 総則

(目的)

第1条 この条例は、子どもを虐待から守ることに関し、基本理念を定め、市及び保護者の責務並びに関係機関等及び地域住民等の役割を明らかにするとともに、子どもを虐待から守るための施策の基本となる事項を定めることにより、子どもを虐待から守るための施策を総合的に推進し、もって子どもの心身の健やかな成長に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1) 子ども 18歳に満たない者をいう。

(2) 保護者 親権を行う者、未成年後見人その他の者で、子どもを現に監護するものをいう。

(3) 虐待 児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「法」という。)第2条に規定する児童虐待をいう。

(4) 関係機関等 学校、児童福祉施設、病院その他子どもの福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、弁護士その他子どもの福祉に職務上関係のある者をいう。

(5) 地域住民等 地域の住民及び団体をいう。

(基本理念)

第3条 子どもを虐待から守るための施策は、次に掲げる基本理念に基づき行うものとする。

(1) 子どもの生命を守ることを最も優先するとともに、子どもを権利の主体として尊重し、子どもの最善の利益を考慮しなければならないこと。

(2) 虐待が子どもの人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与える行為であることに鑑み、その被害の未然防止が十分に図られることを旨として行われなければならないこと。

(3) 子育て家庭が地域社会から孤立することなく、安心して子育てができる環境づくりが重要であるとの認識の下に、市、関係機関等及び地域住民等が一丸となって子育て家庭を社会全体で支えることを旨として行われなければならないこと。

(市の責務)

第4条 市は、前条に定める基本理念にのっとり、子どもを虐待から守るための総合的な施策を策定し、これを実施するものとする。

2 市は、前項の施策の実施に当たっては、市内部の組織間並びに関係機関等及び地域住民等と連携して取り組むものとする。

3 市は、関係機関等及び地域住民等が実施する子どもを虐待から守ることに関する取組について必要な支援を行うものとする。

(保護者の責務)

第5条 保護者は、子どもの養育に係る第一義的な責任を負っていることを踏まえ、虐待が子どもに与える重大な影響を認識し、子どもの健全な成長を図らなければならない。

2 保護者は、体罰その他の子どもの尊厳を傷つける全ての行為を行ってはならない。

3 保護者及びその同居人は、通告受理機関が行う子どもの安全の確認を行うための措置(以下「安全確認措置」という。)に協力しなければならない。

(関係機関等の役割)

第6条 関係機関等は、虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、虐待の早期発見に努めなければならない。

2 関係機関等は、それぞれの専門性及び特性を生かし、市及び他の関係機関等と相互に連携して子ども及び保護者に対する支援を自ら行うなど、子どもを虐待から守るための取組を主体的に行うよう努めなければならない。

3 関係機関等は、市が実施する子どもを虐待から守るための施策に協力するよう努めなければならない。

(地域住民等の役割)

第7条 地域住民等は、市及び関係機関等とともに子育て家庭を支える主体として、子どもを虐待から守ることに関する関心と理解を深めるよう努めるものとする。

2 地域住民等は、地域において子ども及び保護者を見守るとともに、これらの者との関わりを深めることにより、子育て家庭が地域社会から孤立することのないよう努めるものとする。

3 地域住民等は、市が実施する子どもを虐待から守るための施策に協力するよう努めるものとする。

(虐待防止推進の日及び虐待防止推進月間)

第8条 地域住民等の間に広く子どもを虐待から守ることについての関心と理解を深めるため、虐待防止推進の日及び虐待防止推進月間を設ける。

2 虐待防止推進の日は毎月5日とし、虐待防止推進月間は毎年11月とする。

3 市は、虐待防止推進の日をはじめ虐待防止推進月間において、その趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めるものとする。

第2章 子どもを虐待から守るための施策

第1節 未然防止

(妊婦及び子育て家庭に対する支援)

第9条 市は、虐待の未然防止のためには、子育てに関する支援を充実させ、養育環境の向上を図ることが重要であることに鑑み、妊婦及び子育て家庭に必要な支援が確実に行われるよう、妊娠、出産、育児の各段階に応じた多様で切れ目のない支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

(地域において安心して子育てができるための相談体制の整備等)

第10条 市は、虐待の未然防止のためには、子育て家庭を社会全体で支えることが重要であることに鑑み、子育て家庭が地域において安心して子育てができるよう、関係機関等及び地域住民等と連携し、身近な地域における相談体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

第2節 早期発見及び早期対応

(支援を必要とする子育て家庭の早期発見及び早期支援)

第11条 市は、関係機関等と連携し、支援を必要とする子育て家庭の早期発見に努めるとともに、当該子育て家庭を支援するため、在宅支援サービスの提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

(早期発見のための環境整備)

第12条 虐待を受けたと思われる子どもを発見した者は、速やかに、通告受理機関に通告(法第6条第1項に規定する通告をいう。以下同じ。)しなければならない。

2 市は、関係機関等及び地域住民等に対し、通告を行わなければならないことを周知するとともに、虐待を受けたと思われる子どもを発見した者が通告しやすく、かつ、虐待を受けた子どもが自ら相談しやすい環境を整備するものとする。

(通告及び相談に係る対応等)

第13条 通告受理機関は、通告があった場合は、直ちに調査を行い、必要があると認めるときは、当該通告に係る子どもを直接目視することを基本として、面会その他の方法により、子どもの安全確認措置を講じなければならない。虐待に係る相談があった場合又は他の地方公共団体から虐待に係る引継ぎを受けた場合も、同様とする。

2 通告受理機関は、子どもの安全確認措置を行う場合は、必要に応じ迅速かつ適切に警察の援助を求めなければならない。

3 市は、通告をした者が特定されないよう必要な措置を講ずるものとする。

第3節 虐待を受けた子ども及びその保護者への支援等

(虐待を受けた子どもへの支援)

第14条 市は、関係機関等と連携し、虐待を受けた子どもが、再び虐待を受けることなく、家庭(家庭における養育環境と同様の養育環境又は良好な家庭的環境を含む。)において養育されるよう、必要な措置を講ずるものとする。

2 市は、虐待を受けた子どもが将来保護者となったときに、良好な家庭環境を形成するよう、当該子どもに対し、その成長の過程において必要な支援を行うものとする。

3 市は、子どもの保護及び支援を行うに当たって、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べる機会の確保その他子どもの権利を尊重するための取組を行うものとする。

(虐待を受けた子どもの保護者への指導及び支援)

第15条 市は、関係機関等と連携し、虐待を受けた子どもの保護者に対し、良好な関係の再構築及び虐待の再発防止のための指導及び支援を行うものとする。

2 保護者は、前項の指導及び支援を受けた場合は、これらに従って必要な改善等を行わなければならない。

第3章 雑則

(財政上の措置)

第16条 市は、子どもを虐待から守るための施策を総合的に推進するために必要な財政上の措置を講ずるものとする。

(議会への報告及び公表)

第17条 市長は、毎年度、虐待の発生状況、通告の状況及び虐待に係る市の施策の実施状況について報告書を作成し、議会に報告するとともに、これを公表するものとする。

この条例は、令和5年4月1日から施行する。

福岡市子育て家庭を社会全体で支え、子どもを虐待から守る条例

令和5年3月20日 条例第36号

(令和5年4月1日施行)